マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
01:トラペッタ編
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翌朝、アンジェリカが目を覚ますと、エイトとヤンガスはまだ寝ていた。よほど疲れていたのだろう。
一人身支度を整え、そっと部屋を出た。
階段を降りると、ルイネロが仏頂面で水晶玉の前に座っていた。酒は完全に抜け切っている様だ。
「ルイネロさん、おはようございます!」
「......ああ、おはよう」
彼は、まだ何か一物抱えた様子で下を向いている。それが一体何なのか、アンジェリカにも分かち合える何かなのか......。
彼女は階段を駆け下り、水晶玉に近付いた。
「うーん。私にはやっぱり、何も見えません。きっと特別な才能なんですね......」
「......アンジェリカ。その......これまで娘の面倒を見てくれて、ありがとう」
「あら、面倒なんて見ていませんよ? だって、私たちは親友だもの」
アンジェリカは、穏やかに微笑み、窓辺に駆け寄った。日差しが暖かく、眩しい。それだけで幸せになれた。
ルイネロは、そんな彼女の背中を見詰め、それから水晶玉に目を落とす。其処には、旅立つ勇敢な魔法使いの姿が映し出されていた。
アンジェリカは、街を出てしまう。その前にどうしても伝えなければならない事が、ルイネロにはあった。
「すまなかった。......わしが先を見ておれば、マスター・ライラスにその身の危険を......知らせられたのだろうな......」
「例え警告されても、父は逃げ出したりはしなかったと思います」
アンジェリカは、相変わらず邪気のない表情で振り返った。
「ドルマゲスは、トロデーン城に保管された、大きな力を持つ杖を盗んだのです。その杖が一体何なのか、私は詳しく知りませんが、父には分かっていたのだと思います。ドルマゲスには、持て余すほどの力が込められていた事を。......それに、自分の弟子が盗っ人だなんて分かったら、父は本の角で一回殴るまで、絶対に許しませんから。あ、もしかしたら、家に火を付けたのも、怒り狂った父かも知れませんよ?」
アンジェリカはクスクスと笑い、肩を揺らした。悲しみを忘れたわけでは無い。しかし、彼女は、まだ生きていたいと思った。
ユリマとのんびりお買い物にも行きたかったし、もう一度だけでも、故郷のマイエラに足を運びたかった。
だから、笑わなければいけない。この世界は、不平等で、悲しくて、けれど美しい。
生きて行くのなら、歩き続けなければならないのだ。前を向いて。
「おはようございます。」
エイトが、まだ眠そうな顔で降りてきた。ルイネロは、彼に目を向け、気まずそうに頭を掻いた。
「随分と疲れていた様だな。......お前達には世話を掛けた。」
「いいえ。それよりもーー」
「分かっておる。」
ルイネロは意識を集中し、水晶を睨め付けた。彼にだけ見える、不思議な世界。そこに映し出されたものは......
「道化師......この者がマスター・ライラスを殺めた張本人! そして......うむ、どうやら南の関所を破って行きおった!!」
「な......何だってー!!!!!」
突然の大声に、窓が揺れ、アンジェリカとエイトは跳び上がり、ルイネロは危うく水晶を床に落とす所だった。
声の主は、イガグリ兜を揺らしながら、バタバタと占い師の元へ駆け寄った。
「南といったら、確かリーザス村とかいう、小さな村がある方角でがす!! ......おっさん!! もっと詳しく分からねえのか?!」
「う......うむ。ちょっと待て」
ルイネロは、水晶に顔を近づけた。
「ん?」
彼は嘗ての仕事道具に、記憶にない傷を発見した。
「なんじゃ? こんな所にキズが......いや、ん? 落書きが......なになに。......あほう、じゃと?!」
アンジェリカ、エイト、ヤンガスは同時に吹き出した。犯人はアイツだろう。
ルイネロは怒り心頭で、鼻の穴を膨らませた。
「誰があほうじゃ!! 一体どこの馬鹿がこんな事を!!!」
ザバンだ。滝の主は、余程腹が立っていたのだろう。
アンジェリカは、笑いを噛み殺してザバンの言葉を伝える。
「滝の主が、その水晶玉が頭の上に落ちて来て、大怪我をしたそうです。滝壺にむやみに物を投げ込むな!! って、怒っていましたよ?」
「なんと......。それでお前達......良く無事に帰って来れたものだ」
ルイネロは、改めて自分の仕出かした事を振り返り、うな垂れた。
「残念ながら、わしに見えるのは此処までじゃ」
「ありがとう御座います。......それじゃあ、南へ向かおう」
エイトの提案に、アンジェリカとヤンガスは、当たり前の様に頷いた。それを見て、ルイネロは眉間に皺を寄せる。
「アンジェリカ......お前も行くのか?」
「はい」
「しかし、お前は、その......女の子なのだぞ?」
「それでも私は、戦えます。」
アンジェリカには、力がある。魔法も勿論の事だが、それ以外にも武器があった。この辺りではまず見かけないが、扇の扱いにも長けている。
勿論、師を殺めたドルマゲスに勝てるかと聞かれれば、不安だ。しかし、並の衛兵よりは余程実戦で使い物になると、自負している。
それに、彼女はマスター・ライラスと、よく将来についての話をしていた。彼はアンジェリカが、何れ偉大な魔法使いになり、トロデーン城で仕事を貰う事も、夢では無いと口にしていた。
未来の職場が、養父の仇のせいで危機に瀕しているのだから、戦わない理由が無い。
「彼らと一緒に行きます。ドルマゲスを捕まえて、煉獄島に放り込むまでは、帰りません」
煉獄島とは、その名の通り、孤島にある牢獄だ。一度投獄された者は、二度と生きては戻れないと言われている。いや、死んだ者が出て来た試しも無いのだが。
ルイネロは、暫く思案した後、一つ頷いた。
「まあ、良い。お前の生き方は、お前が決める事だ。だが、時々で良い。娘に顔を見せてやってくれ」
「アンジェリカ」
奥の部屋から、バスケットを抱えたユリマが駆け寄って来た。
「これ、お弁当よ。カゴは何時でも良いから、返しに来てね」
ユリマは、案外落ち着いた様子で笑い掛けた。
「気を付けて行って来て。貴女の為に祈っているわ」
「ありがとう」
アンジェリカは、ズッシリと中身の詰まったバスケットを受け取り、微笑み返す。きっと長い旅になるだろう。何となく、そんな予感がした。
マイエラの地を離れ、トラペッタに辿り着き、そうして、また、見知らぬ土地へ行くのだ。世界には、一体幾つの街があり、城があるのだろうか? そう考えると、アンジェリカは胸の高鳴りを抑える事が出来なかった。
知らないよりは、知っていた方が良い。アンジェリカがそう思えるのは、長年魔法使いの見習いとして、貪欲に学び続けたからだろう。何も出来ない弱い自分よりも、一歩踏み出せる自分の方が、百倍好きだ。
「行って来ます」
アンジェリカは頭を下げ、仲間達に目配せをし、外の世界へと羽ばたいて行った。
そんな彼女の背中に、ユリマの「寂しいな......」という声は、届いていなかった。
一人身支度を整え、そっと部屋を出た。
階段を降りると、ルイネロが仏頂面で水晶玉の前に座っていた。酒は完全に抜け切っている様だ。
「ルイネロさん、おはようございます!」
「......ああ、おはよう」
彼は、まだ何か一物抱えた様子で下を向いている。それが一体何なのか、アンジェリカにも分かち合える何かなのか......。
彼女は階段を駆け下り、水晶玉に近付いた。
「うーん。私にはやっぱり、何も見えません。きっと特別な才能なんですね......」
「......アンジェリカ。その......これまで娘の面倒を見てくれて、ありがとう」
「あら、面倒なんて見ていませんよ? だって、私たちは親友だもの」
アンジェリカは、穏やかに微笑み、窓辺に駆け寄った。日差しが暖かく、眩しい。それだけで幸せになれた。
ルイネロは、そんな彼女の背中を見詰め、それから水晶玉に目を落とす。其処には、旅立つ勇敢な魔法使いの姿が映し出されていた。
アンジェリカは、街を出てしまう。その前にどうしても伝えなければならない事が、ルイネロにはあった。
「すまなかった。......わしが先を見ておれば、マスター・ライラスにその身の危険を......知らせられたのだろうな......」
「例え警告されても、父は逃げ出したりはしなかったと思います」
アンジェリカは、相変わらず邪気のない表情で振り返った。
「ドルマゲスは、トロデーン城に保管された、大きな力を持つ杖を盗んだのです。その杖が一体何なのか、私は詳しく知りませんが、父には分かっていたのだと思います。ドルマゲスには、持て余すほどの力が込められていた事を。......それに、自分の弟子が盗っ人だなんて分かったら、父は本の角で一回殴るまで、絶対に許しませんから。あ、もしかしたら、家に火を付けたのも、怒り狂った父かも知れませんよ?」
アンジェリカはクスクスと笑い、肩を揺らした。悲しみを忘れたわけでは無い。しかし、彼女は、まだ生きていたいと思った。
ユリマとのんびりお買い物にも行きたかったし、もう一度だけでも、故郷のマイエラに足を運びたかった。
だから、笑わなければいけない。この世界は、不平等で、悲しくて、けれど美しい。
生きて行くのなら、歩き続けなければならないのだ。前を向いて。
「おはようございます。」
エイトが、まだ眠そうな顔で降りてきた。ルイネロは、彼に目を向け、気まずそうに頭を掻いた。
「随分と疲れていた様だな。......お前達には世話を掛けた。」
「いいえ。それよりもーー」
「分かっておる。」
ルイネロは意識を集中し、水晶を睨め付けた。彼にだけ見える、不思議な世界。そこに映し出されたものは......
「道化師......この者がマスター・ライラスを殺めた張本人! そして......うむ、どうやら南の関所を破って行きおった!!」
「な......何だってー!!!!!」
突然の大声に、窓が揺れ、アンジェリカとエイトは跳び上がり、ルイネロは危うく水晶を床に落とす所だった。
声の主は、イガグリ兜を揺らしながら、バタバタと占い師の元へ駆け寄った。
「南といったら、確かリーザス村とかいう、小さな村がある方角でがす!! ......おっさん!! もっと詳しく分からねえのか?!」
「う......うむ。ちょっと待て」
ルイネロは、水晶に顔を近づけた。
「ん?」
彼は嘗ての仕事道具に、記憶にない傷を発見した。
「なんじゃ? こんな所にキズが......いや、ん? 落書きが......なになに。......あほう、じゃと?!」
アンジェリカ、エイト、ヤンガスは同時に吹き出した。犯人はアイツだろう。
ルイネロは怒り心頭で、鼻の穴を膨らませた。
「誰があほうじゃ!! 一体どこの馬鹿がこんな事を!!!」
ザバンだ。滝の主は、余程腹が立っていたのだろう。
アンジェリカは、笑いを噛み殺してザバンの言葉を伝える。
「滝の主が、その水晶玉が頭の上に落ちて来て、大怪我をしたそうです。滝壺にむやみに物を投げ込むな!! って、怒っていましたよ?」
「なんと......。それでお前達......良く無事に帰って来れたものだ」
ルイネロは、改めて自分の仕出かした事を振り返り、うな垂れた。
「残念ながら、わしに見えるのは此処までじゃ」
「ありがとう御座います。......それじゃあ、南へ向かおう」
エイトの提案に、アンジェリカとヤンガスは、当たり前の様に頷いた。それを見て、ルイネロは眉間に皺を寄せる。
「アンジェリカ......お前も行くのか?」
「はい」
「しかし、お前は、その......女の子なのだぞ?」
「それでも私は、戦えます。」
アンジェリカには、力がある。魔法も勿論の事だが、それ以外にも武器があった。この辺りではまず見かけないが、扇の扱いにも長けている。
勿論、師を殺めたドルマゲスに勝てるかと聞かれれば、不安だ。しかし、並の衛兵よりは余程実戦で使い物になると、自負している。
それに、彼女はマスター・ライラスと、よく将来についての話をしていた。彼はアンジェリカが、何れ偉大な魔法使いになり、トロデーン城で仕事を貰う事も、夢では無いと口にしていた。
未来の職場が、養父の仇のせいで危機に瀕しているのだから、戦わない理由が無い。
「彼らと一緒に行きます。ドルマゲスを捕まえて、煉獄島に放り込むまでは、帰りません」
煉獄島とは、その名の通り、孤島にある牢獄だ。一度投獄された者は、二度と生きては戻れないと言われている。いや、死んだ者が出て来た試しも無いのだが。
ルイネロは、暫く思案した後、一つ頷いた。
「まあ、良い。お前の生き方は、お前が決める事だ。だが、時々で良い。娘に顔を見せてやってくれ」
「アンジェリカ」
奥の部屋から、バスケットを抱えたユリマが駆け寄って来た。
「これ、お弁当よ。カゴは何時でも良いから、返しに来てね」
ユリマは、案外落ち着いた様子で笑い掛けた。
「気を付けて行って来て。貴女の為に祈っているわ」
「ありがとう」
アンジェリカは、ズッシリと中身の詰まったバスケットを受け取り、微笑み返す。きっと長い旅になるだろう。何となく、そんな予感がした。
マイエラの地を離れ、トラペッタに辿り着き、そうして、また、見知らぬ土地へ行くのだ。世界には、一体幾つの街があり、城があるのだろうか? そう考えると、アンジェリカは胸の高鳴りを抑える事が出来なかった。
知らないよりは、知っていた方が良い。アンジェリカがそう思えるのは、長年魔法使いの見習いとして、貪欲に学び続けたからだろう。何も出来ない弱い自分よりも、一歩踏み出せる自分の方が、百倍好きだ。
「行って来ます」
アンジェリカは頭を下げ、仲間達に目配せをし、外の世界へと羽ばたいて行った。
そんな彼女の背中に、ユリマの「寂しいな......」という声は、届いていなかった。