このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

01:トラペッタ編

夢小説設定

この小説の夢小説設定
マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
夢主様
夢主様あだ名

翌朝、アンジェリカが目を覚ますと、エイトとヤンガスはまだ寝ていた。よほど疲れていたのだろう。

一人身支度を整え、そっと部屋を出た。

階段を降りると、ルイネロが仏頂面で水晶玉の前に座っていた。酒は完全に抜け切っている様だ。

「ルイネロさん、おはようございます!」

「......ああ、おはよう」

彼は、まだ何か一物抱えた様子で下を向いている。それが一体何なのか、アンジェリカにも分かち合える何かなのか......。

彼女は階段を駆け下り、水晶玉に近付いた。

「うーん。私にはやっぱり、何も見えません。きっと特別な才能なんですね......」

「......アンジェリカ。その......これまで娘の面倒を見てくれて、ありがとう」

「あら、面倒なんて見ていませんよ? だって、私たちは親友だもの」

アンジェリカは、穏やかに微笑み、窓辺に駆け寄った。日差しが暖かく、眩しい。それだけで幸せになれた。

ルイネロは、そんな彼女の背中を見詰め、それから水晶玉に目を落とす。其処には、旅立つ勇敢な魔法使いの姿が映し出されていた。

アンジェリカは、街を出てしまう。その前にどうしても伝えなければならない事が、ルイネロにはあった。

「すまなかった。......わしが先を見ておれば、マスター・ライラスにその身の危険を......知らせられたのだろうな......」

「例え警告されても、父は逃げ出したりはしなかったと思います」

アンジェリカは、相変わらず邪気のない表情で振り返った。

「ドルマゲスは、トロデーン城に保管された、大きな力を持つ杖を盗んだのです。その杖が一体何なのか、私は詳しく知りませんが、父には分かっていたのだと思います。ドルマゲスには、持て余すほどの力が込められていた事を。......それに、自分の弟子が盗っ人だなんて分かったら、父は本の角で一回殴るまで、絶対に許しませんから。あ、もしかしたら、家に火を付けたのも、怒り狂った父かも知れませんよ?」

アンジェリカはクスクスと笑い、肩を揺らした。悲しみを忘れたわけでは無い。しかし、彼女は、まだ生きていたいと思った。
ユリマとのんびりお買い物にも行きたかったし、もう一度だけでも、故郷のマイエラに足を運びたかった。

だから、笑わなければいけない。この世界は、不平等で、悲しくて、けれど美しい。

生きて行くのなら、歩き続けなければならないのだ。前を向いて。

「おはようございます。」

エイトが、まだ眠そうな顔で降りてきた。ルイネロは、彼に目を向け、気まずそうに頭を掻いた。

「随分と疲れていた様だな。......お前達には世話を掛けた。」

「いいえ。それよりもーー」

「分かっておる。」

ルイネロは意識を集中し、水晶を睨め付けた。彼にだけ見える、不思議な世界。そこに映し出されたものは......

「道化師......この者がマスター・ライラスを殺めた張本人! そして......うむ、どうやら南の関所を破って行きおった!!」

「な......何だってー!!!!!」

突然の大声に、窓が揺れ、アンジェリカとエイトは跳び上がり、ルイネロは危うく水晶を床に落とす所だった。

声の主は、イガグリ兜を揺らしながら、バタバタと占い師の元へ駆け寄った。

「南といったら、確かリーザス村とかいう、小さな村がある方角でがす!! ......おっさん!! もっと詳しく分からねえのか?!」

「う......うむ。ちょっと待て」

ルイネロは、水晶に顔を近づけた。

「ん?」

彼は嘗ての仕事道具に、記憶にない傷を発見した。

「なんじゃ? こんな所にキズが......いや、ん? 落書きが......なになに。......あほう、じゃと?!」

アンジェリカ、エイト、ヤンガスは同時に吹き出した。犯人はアイツだろう。

ルイネロは怒り心頭で、鼻の穴を膨らませた。

「誰があほうじゃ!! 一体どこの馬鹿がこんな事を!!!」

ザバンだ。滝の主は、余程腹が立っていたのだろう。

アンジェリカは、笑いを噛み殺してザバンの言葉を伝える。

「滝の主が、その水晶玉が頭の上に落ちて来て、大怪我をしたそうです。滝壺にむやみに物を投げ込むな!! って、怒っていましたよ?」

「なんと......。それでお前達......良く無事に帰って来れたものだ」

ルイネロは、改めて自分の仕出かした事を振り返り、うな垂れた。

「残念ながら、わしに見えるのは此処までじゃ」

「ありがとう御座います。......それじゃあ、南へ向かおう」

エイトの提案に、アンジェリカとヤンガスは、当たり前の様に頷いた。それを見て、ルイネロは眉間に皺を寄せる。

アンジェリカ......お前も行くのか?」

「はい」

「しかし、お前は、その......女の子なのだぞ?」

「それでも私は、戦えます。」

アンジェリカには、力がある。魔法も勿論の事だが、それ以外にも武器があった。この辺りではまず見かけないが、扇の扱いにも長けている。

勿論、師を殺めたドルマゲスに勝てるかと聞かれれば、不安だ。しかし、並の衛兵よりは余程実戦で使い物になると、自負している。

それに、彼女はマスター・ライラスと、よく将来についての話をしていた。彼はアンジェリカが、何れ偉大な魔法使いになり、トロデーン城で仕事を貰う事も、夢では無いと口にしていた。

未来の職場が、養父の仇のせいで危機に瀕しているのだから、戦わない理由が無い。

「彼らと一緒に行きます。ドルマゲスを捕まえて、煉獄島に放り込むまでは、帰りません」

煉獄島とは、その名の通り、孤島にある牢獄だ。一度投獄された者は、二度と生きては戻れないと言われている。いや、死んだ者が出て来た試しも無いのだが。

ルイネロは、暫く思案した後、一つ頷いた。

「まあ、良い。お前の生き方は、お前が決める事だ。だが、時々で良い。娘に顔を見せてやってくれ」

アンジェリカ

奥の部屋から、バスケットを抱えたユリマが駆け寄って来た。

「これ、お弁当よ。カゴは何時でも良いから、返しに来てね」

ユリマは、案外落ち着いた様子で笑い掛けた。

「気を付けて行って来て。貴女の為に祈っているわ」

「ありがとう」

アンジェリカは、ズッシリと中身の詰まったバスケットを受け取り、微笑み返す。きっと長い旅になるだろう。何となく、そんな予感がした。

マイエラの地を離れ、トラペッタに辿り着き、そうして、また、見知らぬ土地へ行くのだ。世界には、一体幾つの街があり、城があるのだろうか? そう考えると、アンジェリカは胸の高鳴りを抑える事が出来なかった。

知らないよりは、知っていた方が良い。アンジェリカがそう思えるのは、長年魔法使いの見習いとして、貪欲に学び続けたからだろう。何も出来ない弱い自分よりも、一歩踏み出せる自分の方が、百倍好きだ。

「行って来ます」

アンジェリカは頭を下げ、仲間達に目配せをし、外の世界へと羽ばたいて行った。
そんな彼女の背中に、ユリマの「寂しいな......」という声は、届いていなかった。
6/6ページ
スキ