マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
06:大聖堂へ至る陰謀編〜1〜
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手元の字が読みにくくなった事に気が付き、アンジェリカは大きく伸びをした。かれこれ5時間近く、写本の作業をしていた。丁度写し終えた物は、食べられる雑草の種類と、調理の仕方を纏めた本だった。
立ち上がり、インク壺に注意深く蓋をして、衝立の向こうへと向かった。
マルチェロは、アンジェリカが側で本を読んでいると、あっという間に眠りに落ち、それから一度も目覚めていない。
「マルチェロ様」
アンジェリカは、やや呆れた声色で呼び掛けた。彼女自身、ほんの2時間程度の睡眠しか摂っておらず、骨の髄まで草臥れていた。
「マルチェロ様、もうじき陽が沈みます」
返事がない。ただの屍の様だ。
「マルチェロ様! 起きてください!!」
大声を出すと、彼は目を見開き、勢い良く体を起こした。
「アンジェリカ⋯⋯今は」
「夕暮れです。そろそろ食事の時間ですので、準備をされた方が宜しいかと」
「お前は⋯⋯まさかずっと起きていたのか?!」
「当たり前です」
アンジェリカは、ため息まじりに答えた。
「私は、"静かな環境で写本をするため"に、此処にいたのですよ?」
「⋯⋯迷惑を掛けた」
マルチェロは急いで起き上がり、身なりを整えた。アンジェリカがいるからと、久方ぶりに体から離し、壁に立て掛けていたレイピアを装備した。
すると、丁度その時、誰かが扉をノックした。
「誰だ」
マルチェロが緊迫した声で尋ねると、入室の許可も得ずに扉が開いた。
背が低く、小太りの、如何にも身分の高そうな中年の男が、4人の衛兵を引き連れて姿を現した。
「ニノ大司教!」
マルチェロは、不意の訪問に驚き、客人を迎え入れた。
「これはこれは⋯⋯こんな辺境の地にご足労頂き、感謝申し上げます」
「うむ」
大司教は、横柄に頷き、当然ながらアンジェリカに興味を示した。
「して、このご令嬢は?」
「用心棒です」
マルチェロより早く、アンジェリカが答えた。衛兵たちは顔を見合わせ、大司教は不審そうな表情を浮かべた。アンジェリカは、石像よろしく冷ややかな声色で、淡々と説明を加える。
「昨晩、この修道院で事件が起こりました。マルチェロ様を害そうとする者が現れたのです」
「その話なら聞いた。六人の騎士を殺し、三人の騎士が煉獄島へ送られた、と」
「ええ。私はマルチェロ様に、恩がありましたから、それを昨晩お返しした次第です」
「到底信じられぬ話じゃ」
ニノ大司教が、そう一蹴したのも無理ない。美しい黒髪と瞳、細い手足、整った顔立ちの清廉な少女は、どう見ても武器を握れなさそうだ。
「名はなんと申す?」
「アンジェリカ」
彼女は、出来るだけぶっきらぼうに、かつ粗暴に答えた。ニノは少し考えた後、こう言った。
「では、アンジェリカよ。速やかに退室するのじゃ」
瞬間、アンジェリカの顔色が変わった。ニノの後ろの衛兵に目を向け、唇を強く噛んだ。ほんの数秒の間に、少女の中に策略が渦巻いているのを、大司教は確かに感じた。
「貴方は誰なのですか?」
アンジェリカは、すっかり素の礼儀正しい口調に戻っていた。
「いえ、そんな事はどうでも良いのです。貴方の兵が、今から外で私と手合わせしてくださるのでしたら、この部屋から出て行きます」
「おお、それは丁度良い!」
大司教は、満面の笑みで頷いた。
「しばし、重要な話をするのでな」
アンジェリカは、舌打ちしたい気持ちになったが、余りに品のない行為だと思い、堪えた。
どうやら、ニノ大司教に着いて来た衛兵も、不服があるらしい。言葉にはしなかったが、目配せあっていた。
「アンジェリカ、外へ出ていろ」
マルチェロは、仕方なく命令口調で言った。
「ただし、騒ぎは起こすな。マイエラ修道院に、これ以上の流血は不要だ」
「畏まりました」
アンジェリカは、"依頼主"の命令に素直に従い、ニノに一礼すると踵を返した。しかし、思い留まり振り返って、マルチェロにスクルトとマホカンタを掛けた。
「有意義なお話が出来ますよう、お祈りいたします」
彼女が部屋を横切ると、衛兵たちも其れに倣った。
アンジェリカは、客人が部屋の外へ出たのを確認してから、扉を閉めた。
細い隙間から、最後に見えたニノ大司教の姿に、彼女は嫌悪感を抱いた。立派な法衣を纏い、ゴテゴテとした宝石の指輪を幾つも嵌めている。清貧とは程遠い様相だ。
今更ながら、教会の上層部に、その様な人物がいる事に衝撃を受け、同時にマルチェロとどんな会話が交わされるのか、ひたすらに不安だった。
手元の字が読みにくくなった事に気が付き、アンジェリカは大きく伸びをした。かれこれ5時間近く、写本の作業をしていた。丁度写し終えた物は、食べられる雑草の種類と、調理の仕方を纏めた本だった。
立ち上がり、インク壺に注意深く蓋をして、衝立の向こうへと向かった。
マルチェロは、アンジェリカが側で本を読んでいると、あっという間に眠りに落ち、それから一度も目覚めていない。
「マルチェロ様」
アンジェリカは、やや呆れた声色で呼び掛けた。彼女自身、ほんの2時間程度の睡眠しか摂っておらず、骨の髄まで草臥れていた。
「マルチェロ様、もうじき陽が沈みます」
返事がない。ただの屍の様だ。
「マルチェロ様! 起きてください!!」
大声を出すと、彼は目を見開き、勢い良く体を起こした。
「アンジェリカ⋯⋯今は」
「夕暮れです。そろそろ食事の時間ですので、準備をされた方が宜しいかと」
「お前は⋯⋯まさかずっと起きていたのか?!」
「当たり前です」
アンジェリカは、ため息まじりに答えた。
「私は、"静かな環境で写本をするため"に、此処にいたのですよ?」
「⋯⋯迷惑を掛けた」
マルチェロは急いで起き上がり、身なりを整えた。アンジェリカがいるからと、久方ぶりに体から離し、壁に立て掛けていたレイピアを装備した。
すると、丁度その時、誰かが扉をノックした。
「誰だ」
マルチェロが緊迫した声で尋ねると、入室の許可も得ずに扉が開いた。
背が低く、小太りの、如何にも身分の高そうな中年の男が、4人の衛兵を引き連れて姿を現した。
「ニノ大司教!」
マルチェロは、不意の訪問に驚き、客人を迎え入れた。
「これはこれは⋯⋯こんな辺境の地にご足労頂き、感謝申し上げます」
「うむ」
大司教は、横柄に頷き、当然ながらアンジェリカに興味を示した。
「して、このご令嬢は?」
「用心棒です」
マルチェロより早く、アンジェリカが答えた。衛兵たちは顔を見合わせ、大司教は不審そうな表情を浮かべた。アンジェリカは、石像よろしく冷ややかな声色で、淡々と説明を加える。
「昨晩、この修道院で事件が起こりました。マルチェロ様を害そうとする者が現れたのです」
「その話なら聞いた。六人の騎士を殺し、三人の騎士が煉獄島へ送られた、と」
「ええ。私はマルチェロ様に、恩がありましたから、それを昨晩お返しした次第です」
「到底信じられぬ話じゃ」
ニノ大司教が、そう一蹴したのも無理ない。美しい黒髪と瞳、細い手足、整った顔立ちの清廉な少女は、どう見ても武器を握れなさそうだ。
「名はなんと申す?」
「アンジェリカ」
彼女は、出来るだけぶっきらぼうに、かつ粗暴に答えた。ニノは少し考えた後、こう言った。
「では、アンジェリカよ。速やかに退室するのじゃ」
瞬間、アンジェリカの顔色が変わった。ニノの後ろの衛兵に目を向け、唇を強く噛んだ。ほんの数秒の間に、少女の中に策略が渦巻いているのを、大司教は確かに感じた。
「貴方は誰なのですか?」
アンジェリカは、すっかり素の礼儀正しい口調に戻っていた。
「いえ、そんな事はどうでも良いのです。貴方の兵が、今から外で私と手合わせしてくださるのでしたら、この部屋から出て行きます」
「おお、それは丁度良い!」
大司教は、満面の笑みで頷いた。
「しばし、重要な話をするのでな」
アンジェリカは、舌打ちしたい気持ちになったが、余りに品のない行為だと思い、堪えた。
どうやら、ニノ大司教に着いて来た衛兵も、不服があるらしい。言葉にはしなかったが、目配せあっていた。
「アンジェリカ、外へ出ていろ」
マルチェロは、仕方なく命令口調で言った。
「ただし、騒ぎは起こすな。マイエラ修道院に、これ以上の流血は不要だ」
「畏まりました」
アンジェリカは、"依頼主"の命令に素直に従い、ニノに一礼すると踵を返した。しかし、思い留まり振り返って、マルチェロにスクルトとマホカンタを掛けた。
「有意義なお話が出来ますよう、お祈りいたします」
彼女が部屋を横切ると、衛兵たちも其れに倣った。
アンジェリカは、客人が部屋の外へ出たのを確認してから、扉を閉めた。
細い隙間から、最後に見えたニノ大司教の姿に、彼女は嫌悪感を抱いた。立派な法衣を纏い、ゴテゴテとした宝石の指輪を幾つも嵌めている。清貧とは程遠い様相だ。
今更ながら、教会の上層部に、その様な人物がいる事に衝撃を受け、同時にマルチェロとどんな会話が交わされるのか、ひたすらに不安だった。