マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
06:大聖堂へ至る陰謀編〜1〜
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ジーノは、これまでの人生で、一番気の進まない仕事に取り組んだ。
同僚の半数程度を、一人ずつ順番に叩き起こして地下牢に閉じ込める。大抵の者は訳が分からない様子で、ひたすら首を傾げており、一部の者は不服を大声で叫び続けた。
お陰でマイエラ修道院の宿舎は、地下から怨嗟の声が響き渡る、地獄の様な空間になった。
無関係の者も、とうとう起き出し、騎士団長の部屋から漂う血の匂いに、震えた。
当然といえば当然なのだが、マルチェロの尋問は熾烈の極みで、何度か拷問の光景を見て来たジーノですら、戦慄を覚えた程だ。
朝日が昇るまで続けられた、個別の聞き取り聴取に寄って、騎士団員13名が修道院を追放、修道士6名が自主的に去る道を選び、3名が屍になる事が決まり、残りは放免となった。
マルチェロ自身も、彼と一緒に尋問を行なっていた騎士団員たちも、ボロ布の様に草臥れていたが、誰も眠る気にはなれなかった。
ジーノも、一度はベッドに横になったものの、目が冴えてしまい、起き上がった。
最初にサージュの様子を見に行くと、彼は涙に濡れながら眠っていた。同室の修道士見習い達は、一つのベッドに集まり、怯えた様子でひそひそ話をしている。
彼らの気が休まる様に、ジーノは部屋を後にした。
次に気になったのは、アンジェリカだ。マイエラ修道院の覇権争いに関係ない彼女こそ、1番の犠牲者と言えよう。
オディロ院長の寝室へ行くまでにすれ違った者は、皆一様に、葬式に臨むような暗い顔をしていた。
小島の、小さな建物に入ると、話し声が聞こえて来た。アンジェリカが目を覚まし⋯⋯マルチェロと会話をしている。
ジーノは、後ろめたさを感じながらも、静かに階段を上り、聞き耳を立てた。
「⋯⋯私の責任だ」
マルチェロの、苦渋に満ちた声が聞こえた。
「自分の力を過信していた」
「無理もありません」
アンジェリカは、疲れ果てた、無機質な声で答えた。
「貴方は⋯⋯強い人ですから」
「もっと力があれば⋯⋯お前にあんな事をさせなかった!! ⋯⋯許してくれ」
マルチェロは、ジーノが聞いたこともない弱々しい声で詫びた。そして、口調を強め、アンジェリカに訴える。
「二度とあんな真似はするな。我々の事に関わるな! 命を危険に晒すな!!」
「無理ですよ」
アンジェリカは、乾いた声で笑った。
「私はドルマゲスを追い掛けているんです。何れ彼と戦い⋯⋯そして、殺さなければいけない。⋯⋯マルチェロ様。今回の事は、私にとって良い経験だったのです。ドルマゲスと合間見えた時、私は誰よりも早く、躊躇わずに剣を抜けます。仲間を守るために」
「私は、お前を殺せと命じた」
「仕方の無い事です」
「何故そんな風に──」
「そう思わなければ、辛いからです!!」
血を吐くようなアンジェリカの叫びを聞き、ジーノはゆっくりと踵を返した。
これ以上、聞いていられなかった。マルチェロの仕打ちは、余りに酷過ぎた。ジーノも、ここでの会話を聞いていなければ、彼に反旗を翻していただろう。
せめてもの救いは、マルチェロに隠された良心と、後ろめたさがあった事だ。
ジーノは、オディロ院長の部屋を出て、空を見上げた。腹が立つほど澄み渡り、太陽の輝きが眩しく、生命を感じさせる。
彼が初めてマイエラ修道院に来た時も、そうだった。両親を病気で亡くし、生きるには此処へ来るより他に無かった。
周りの子供達と同じ様に、学び、鍛え、気付いた時には騎士団員になり、遂には人を殺すようになった。あれほど、死を憎んでいたというのに。
時の流れはあっという間だった。何も分からない儘、何も気付けない儘、今此処に立っている。そして、此れからも同じ様に、死ぬまで生きて行くのだろう。
その生き方に、一抹の虚しさを覚えながら、ジーノは宿舎へ戻って行った。
同僚の半数程度を、一人ずつ順番に叩き起こして地下牢に閉じ込める。大抵の者は訳が分からない様子で、ひたすら首を傾げており、一部の者は不服を大声で叫び続けた。
お陰でマイエラ修道院の宿舎は、地下から怨嗟の声が響き渡る、地獄の様な空間になった。
無関係の者も、とうとう起き出し、騎士団長の部屋から漂う血の匂いに、震えた。
当然といえば当然なのだが、マルチェロの尋問は熾烈の極みで、何度か拷問の光景を見て来たジーノですら、戦慄を覚えた程だ。
朝日が昇るまで続けられた、個別の聞き取り聴取に寄って、騎士団員13名が修道院を追放、修道士6名が自主的に去る道を選び、3名が屍になる事が決まり、残りは放免となった。
マルチェロ自身も、彼と一緒に尋問を行なっていた騎士団員たちも、ボロ布の様に草臥れていたが、誰も眠る気にはなれなかった。
ジーノも、一度はベッドに横になったものの、目が冴えてしまい、起き上がった。
最初にサージュの様子を見に行くと、彼は涙に濡れながら眠っていた。同室の修道士見習い達は、一つのベッドに集まり、怯えた様子でひそひそ話をしている。
彼らの気が休まる様に、ジーノは部屋を後にした。
次に気になったのは、アンジェリカだ。マイエラ修道院の覇権争いに関係ない彼女こそ、1番の犠牲者と言えよう。
オディロ院長の寝室へ行くまでにすれ違った者は、皆一様に、葬式に臨むような暗い顔をしていた。
小島の、小さな建物に入ると、話し声が聞こえて来た。アンジェリカが目を覚まし⋯⋯マルチェロと会話をしている。
ジーノは、後ろめたさを感じながらも、静かに階段を上り、聞き耳を立てた。
「⋯⋯私の責任だ」
マルチェロの、苦渋に満ちた声が聞こえた。
「自分の力を過信していた」
「無理もありません」
アンジェリカは、疲れ果てた、無機質な声で答えた。
「貴方は⋯⋯強い人ですから」
「もっと力があれば⋯⋯お前にあんな事をさせなかった!! ⋯⋯許してくれ」
マルチェロは、ジーノが聞いたこともない弱々しい声で詫びた。そして、口調を強め、アンジェリカに訴える。
「二度とあんな真似はするな。我々の事に関わるな! 命を危険に晒すな!!」
「無理ですよ」
アンジェリカは、乾いた声で笑った。
「私はドルマゲスを追い掛けているんです。何れ彼と戦い⋯⋯そして、殺さなければいけない。⋯⋯マルチェロ様。今回の事は、私にとって良い経験だったのです。ドルマゲスと合間見えた時、私は誰よりも早く、躊躇わずに剣を抜けます。仲間を守るために」
「私は、お前を殺せと命じた」
「仕方の無い事です」
「何故そんな風に──」
「そう思わなければ、辛いからです!!」
血を吐くようなアンジェリカの叫びを聞き、ジーノはゆっくりと踵を返した。
これ以上、聞いていられなかった。マルチェロの仕打ちは、余りに酷過ぎた。ジーノも、ここでの会話を聞いていなければ、彼に反旗を翻していただろう。
せめてもの救いは、マルチェロに隠された良心と、後ろめたさがあった事だ。
ジーノは、オディロ院長の部屋を出て、空を見上げた。腹が立つほど澄み渡り、太陽の輝きが眩しく、生命を感じさせる。
彼が初めてマイエラ修道院に来た時も、そうだった。両親を病気で亡くし、生きるには此処へ来るより他に無かった。
周りの子供達と同じ様に、学び、鍛え、気付いた時には騎士団員になり、遂には人を殺すようになった。あれほど、死を憎んでいたというのに。
時の流れはあっという間だった。何も分からない儘、何も気付けない儘、今此処に立っている。そして、此れからも同じ様に、死ぬまで生きて行くのだろう。
その生き方に、一抹の虚しさを覚えながら、ジーノは宿舎へ戻って行った。