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01:トラペッタ編

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マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
夢主様
夢主様あだ名

「うわ......案外暗いんだな」

エイトの一声で、アンジェリカは足元に落ちていた、太い木を手に取った。メラをとなえると、それが松明の代わりの様に辺りを照らした。

「どうぞ」

「ありがとう」

エイトは少しはにかみながら受け取り、自ら先頭を進んだ。彼は結構肝が据わっているらしい。流石近衛兵だ。

アンジェリカも、この洞窟には何度か足を運んだ事があった。ライラスの所持していた錬金釜に入れる、素材探しのためだ。しかし、最深部がどうなっているのかは、知らない。

少しだけ、恐怖を感じていた。その矢先!

「危ない!!」

アンジェリカは咄嗟にスクルトを唱えた。ドラキーが背後からヤンガスにぶつかって来たのだ。

「うわぁ!」

ヤンガスは大慌てで斧を取り、思い切り振り下ろした。しかし、いかんせん数が多過ぎる。

「離れて!!」

アンジェリカは男二人を背後に押しやり、真っ直ぐ手を突き出した。

「イオ!」

爆発が起こり、複数体いた魔物は骨まで焼かれて消え失せた。

「ひょえ~!」

ヤンガスは感嘆の声を上げて口笛を吹いた。

「流石でがす!」

「先を急ぎましょう」

アンジェリカはトヘロスを唱えた。

「今のは、何?」

エイトの問いに、アンジェリカは教師らしく答える。

「気配を消す呪文です。弱い魔物なら、此方から不用意に近付かない限り、気付かれなくなります」

「色んな呪文があるんだね。僕も練習しているんだけど、まだホイミしか使えなくって」

「ホイミが使えるなら、次はスカラを練習すると良いわ。人に掛ける呪文が使えるって事は、貴方、才能があるのよ!」

アンジェリカはついつい興奮して、口調が砕けた。エイトはそれを咎める様子もなく、笑い返した。

「そうだと良いんだけど。君が一緒に旅をしてくれたら、心強いなあ......」

「私、一緒にドルマゲスを追っても良いかしら?」

アンジェリカは、ダメ元でそんな事を口にした。彼らが駄目だと言っても、ドルマゲスの居場所が分かれば、一人で追い掛けるつもりだった。

何故、ライラスは殺されなければならなかったのか。何故、気弱な青年が、師匠を殺す程に追い詰められたのか。何故、これまで一度も足を運んだ事の無いトロデーン城を滅ぼしたのか。

「君がそう言ってくれるなら......勿論さ!」

「アッシは、兄貴の判断に従うでげすよ」

二人の男達は、二つ返事で了承した。アンジェリカは思わず胸を撫で下ろした。

「ありがとう。嬉しいわ!」

不安だったのだ。強大な力を秘めた杖を持つドルマゲスに、たった一人で立ち向えるのか。それに、アンジェリカにとって、同年代の友人は、ユリマしかいない。エイトは彼女と近い年齢だろう。

「ねえ、エイトさんは、お幾つなの?」

「十八だよ。君は?」

「十七。でも、あと二月もすれば、貴方と同い年だわ」

「じゃあ、エイトって呼んで。君の事は......アンジェで良いかな?」

「勿論よ!」

アンジェ......彼女をそう呼んでくれたのは、両親と、マイエラ修道院のオディロ院長、聖堂騎士団の皆、それからマスター・ライラス。皆、彼女にとって心を許せる、大切な存在だった。

「アッシの事も、忘れないで欲しいでげすよ! と、言っても、兄貴やアンジェとは大分歳が離れているでげすが。ヤンガスでも、アニマルヤンちゃんでも、どっちでも構わないでげす!」

瞬間、エイトが盛大に吹き出した。

「なんだよ、そのあだ名は!」

「アッシはこう見えても、無類の動物好きで、故郷の街ではそう呼ばれてたんでがす」

「じゃあ、間をとって、ヤンちゃんは如何かしら?」

アンジェリカの提案に、ヤンガスは恥ずかしそうに額を掻いた。

「改めて呼ばれると......その、少しこそばがゆいでがす」

「何照れてるんだよ」

エイトがヤンガスを小突いた。二人の楽しそうな様子を見て、アンジェリカも微笑んだ。ライラスが亡くなってから、初めて心から笑う事が出来た。

そんな楽しい会話をしながらも、アンジェリカは周りの事に敏感だった。

「待って!」

先を行くエイトとヤンガスの服を掴み、引き止める。

「あれを見て」

アンジェリカの指差す方向に、栗の様な魔物が、木槌を持って突っ立っている。

「倒さないと、通れないね」

エイトがそう言った瞬間、アンジェリカの頭上に巨大な火の玉が現れた。暗い洞窟が一気に照らされた事で、例のモンスターも三人の姿に気が付いた。

「あーーーっ!!! 待て待て待て!!!!」

「「「喋ったーーーーっ!!!」」」

エイト達は仰天し、大声を上げてしまった。アンジェリカは一先ず火球を壁に叩きつけた。岩肌が大きく抉れ、煙が立ち上る。

三人がゆっくりと魔物に近寄ると、彼はヒイと声を漏らして後ずさった。

「ほほう、ここまで辿り着くとは、お前達、ちょっとは度胸があるようだな!」

「何だか面倒くせえでげす」

ヤンガスは斧を手に取り大きく振り上げた。

「あーーーっ!! 止めろ!! 分かった!!! お前達の度胸に免じて、今回は通してやろう!!」

「つまり、帰りは通してくれないって事かしら?」

アンジェリカが訊ねると、おおきづちは武器を投げ出して尻餅をついた。

「帰りも通れ!! 通ってください!! もう、サッサと行けよっ!!」

「ありがとう」

エイトは律儀にそう言って、魔物の横を通り過ぎた。アンジェリカは念のため、スクルトを唱えた。

「これで、後ろから殴り掛かられても、痛くも痒くもないわよ」

アンジェの姐さんが敵に回ったら、ひとたまりも無いでがすな」

ヤンガスが、尊敬と畏怖の入り混じった感想を述べた。

三人は暫く黙々と歩き、やがて大きな滝の前に辿り着いた。その滝の前に、光り輝く水晶玉が浮かんでいた。

しかし、その手前に変な立看板がある。下手くそな字で"この先滝壺。ゴミを投げ込むべからず"と。

「何かしら、少し嫌な予感がするわ」

アンジェリカの懸念に、エイトは少し躊躇いながらも、水晶玉の前へ進んだ。彼の手が光を放つそれに触れた瞬間ーー

ザバンと、音を立てて、滝の奥からおどろおどろしい魔物が飛び出してきた。

「わしは長い間待っておった。今度こそ今度こそと思いながらかれこれ10数年…………。いいか、正直に答えるのだぞ。お前が、この水晶の持ち主か?」

「いや、違うけど」

エイトが答えると、魔物はガクッと肩を落とした。

「なんと、また違ったかっ!? ならば、ゆくがいい。この水晶の持ち主を、わしはまた待つことにしよう」

そう言って、滝の奥へと帰って行ってしまった。

三人は顔を見合わせ、頷き合った。如何やらあの魔物をどうにかしない限り、水晶玉を持ち帰れそうに無い。

再びエイトが手を伸ばすと、性懲りも無く、また魔物が現れた。

「なんじゃ、またお前か?! まさかお前が、水晶玉の持ち主だと申すのか?!」

「......はい」

棒読みの返答。しかし滝の魔物は怒り狂って頭を抱えた。

「この、うつけ者が!! その水晶玉が頭に当たったせいで、何年痛みに堪えたことか!!! この滝の主ザバン!! 今、積年の恨みを晴らしてくれるわ!!!」

「勘弁してよ!!」

エイトは剣を抜き、戦いの姿勢に移った。アンジェリカは一歩後ろに下がり、杖を構える。

「フバーハ! スクルト!!」

光の衣が三人を包み込んだ。直後にザバンの放ったギラの炎が全員を飲み込んだ。しかし、誰一人として致命的なダメージを負わされずに済んだ。

エイトが剣を斜めに振り上げ、攻撃。しかし、ザバンの鱗は固く、浅い傷が付いただけだ。

「ルカニ」

後陣からのアンジェリカの呪文が効いたのか、次のヤンガスの一撃は、ザバンの体を大きく斬り裂いた。

「くそぉぉぉぉ!!! おのれ!!!」

怒り狂った滝の主は、紫色の霧を巻き上げる。何故かエイトは全く影響を受けず、ヤンガスは素早く振り払って無事だった。

しかし、アンジェリカは呪いの影響を真っ向から受けてしまった。胸を抑えて動けなくなった彼女を、ザバンの鋭い爪が襲う。寸手の所でエイトが割って入り、盾で彼女を守った。

アンジェ?!」

「気にしないで!!」

アンジェリカは掠れた声で叫び、片腕を伸ばした。

「ホイミ」

攻撃を防いだ事による、エイトの腕の痛みがスッと引いて行く。

「兄貴!!」

ヤンガスが、戦いに集中する様促し、斧を振り下ろした。

「ギャァァァァ!!!!」

ザバンは地をも震わす悲鳴を上げた。もう一息で倒せる。

「バイキルト!」

アンジェリカの呪文を載せた、エイトの強力な一打が、ザバンに大きな傷を刻んだ。

三人はそれぞれ、肩で息をしながら、次の攻撃に備えた。しかし、ザバンは頭を抱え痛みを堪えながら片目を開いた。

「わたしの偉大なる呪いを受け付けぬその体質......お前は水晶使いの占い師ではなかろう? いや......もう良い。必要ならば、この水晶球を持っていくが良い!」

「ありがとーー」

「しかーし!!!」

エイトの礼を遮り、ザバンはカンカンになって叫んだ。

「もしお前達が、水晶の本当の持ち主に会うことがあったら、伝えてくれい! むやみやたらと滝壺に物を投げ捨てるでないとな。あー......古傷が痛むわい!」

そう言って滝の主は姿を消してしまった。

エイトは水晶玉を手に入れ、漸く一息ついてアンジェリカに駆け寄った。

「......大丈夫?」

「全然平気よ。足を引っ張ってしまって、ごめんなさい」

彼女は服をパンパンと払って、困った様に微笑んだ。

実際には、足を引っ張るどころでは無い。流石マスター・ライラスの弟子だけあって、その魔法はエイト達にとって、おおいに役立った。

アンジェがいなかったら、最初の一撃で丸焦げになってたでげすよ」

ヤンガスも、彼女を労い、何度も頷いた。

「さあ、それじゃあここから出よう」

エイトは両手を、其々仲間に差し出した。

「しっかり掴まって」

二人が彼の手を取ると、眩い光が世界を白く染め、一瞬の間に洞窟の入り口に出ていた。
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