マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
05:アスカンタ編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
────
(夢主)が民家の入り口をノックし、扉を開けた所で、中の住人はピタリと動きを止めた。各々の顔に、静かな衝撃の色が奔る。
「⋯⋯アンジェ?!」
ゼシカが、真っ先にアンジェリカの元へ駆け寄った。頭のてっぺんから爪先まで眺め回し、口元を覆った。
「怪我は治ったの? 本当に? ⋯⋯あいつ......あの嫌味な男が、もう、旅をするのは無理だって言うから⋯⋯」
「どこも悪くないわ。みんな治してもらったもの。⋯⋯マルチェロ様は、どうしてそんな風に言ったのかしら」
「呪いだって、言ってたよ」
エイトが衝撃から立ち直り、アンジェリカの元へ歩み寄った。
「あの人の頭の傷も、そうだって言ってた。魔法が効かなくって、僕たち......いや、ゼシカが思い──」
「思いついたのよ。ええ、私が」
ゼシカは、早口に言葉を引き取った。
「貴女の荷物袋に、特薬草があった事を思い出したの。私たちに作りかたは分からなかったけれど、兎に角、その一個を、あの男に渡して置いたわ」
「それじゃあ⋯⋯」
アンジェリカは、静かな衝撃に息を詰まらせた。マルチェロは、自分よりもアンジェリカの治療を優先させたのだ。
傷が呪いによるものなら、薬草でダメージの治療をしつつ、聖職者にのみ伝授される呪文を唱える必要がある。
「エイト、お願い! 練金釜を貸して!」
「勿論。でも、今度はレシピを教えてくれると嬉しいな。何かあった時に、使えるように」
「じゃあ、着いて来て!」
そう言うと、アンジェリカは周囲をかえり見る事なく、踵を返してしまった。エイトは慌てて彼女の背を追った。
ゼシカは、怒涛の羊のようなアンジェリカの行動に戸惑ったが、それよりも扉口にたたずむ男の事が気になった。
彼女は腕を組み、眉を吊り上げた。
「で? なんで、あんたが此処に居るのよ?!」
「新しい修道院長様に、ドルマゲスを追う様、命じられたのさ。⋯⋯いや、違うな」
ククールは苦笑し、肩を竦める。
「アンジェリカがあんたらに、生きて合流できる様に、修道院を追い出された」
「ねえ、まさかと思うんだけれど⋯⋯」
ゼシカは声を落とした。彼女には、吐きたい悪態が沢山あった。しかし、それよりも、気になる事があったのだ。
「あの二人って、何かあるの?」
「⋯⋯ありまくりだ」
そう答えた瞬間、ククールの脳裏に昨晩の出来事が浮かび上がった。なんと形容するべきか悩んでいると、ゼシカは楽しそうに身を乗り出した。
「別に、細かい事は良いのよ」
「⋯⋯キスしてた」
「冗談──」
『冗談じゃないわ!!』
ゼシカの叫びとかぶる様に、窓の外から悲鳴と爆発音が聞こえた。しきりにエイトが謝っている。
ゼシカは、アンジェリカの、こんなにヒステリックな声を初めて聞いたので、何が起こったのかと耳を澄ませた。
『一体全体、どう考えたらこんな組み合わせになるの?!』
『使わないものから、何か作れないかと──』
『使わない物から、使えない物が出来たわ!』
一体何が出来たのかと、ゼシカが扉の向こうを覗き込むと、エイトがピンク色の小瓶を手にして頭を掻いていた。
「ありゃ、おかしな薬だ」
ククールは、思わずニヤリと笑ってしまった。
「おかしな薬って?」
ゼシカが首をかしげる。ククールは返答に窮した。真面目に答えるべきか否か迷っていると、アンジェリカがクソ真面目な表情で、坊さんの説法よりも色のない講義を始めた。
「この薬は、特殊な防具を作るのに役立つわ。一風変わった性質を、物に与えるの。でも、一般的には人間が人間に対して使うわ 」
「どんな効果があるの?」
「⋯⋯それは」
流石のアンジェリカも、言葉を濁した。しかし、エイトは興味津々で、話を逸らそうにも逸らせない。
困り果てたアンジェリカは、ハッと気が付いた様子でククールの姿を捉えた。
彼は仕方なくアンジェリカの側に歩み寄り、肩に手を置いた。
「言っておくが、俺は使った事なんか無い。使う必要が無かったからな」
ひょいっと薬瓶を手に取り、振ってみせる。
「例えばエイト。お前さんが、この薬を気になる人間のスープに混ぜたとする」
「君とか?」
「冗談じゃない!」
ククールは、先ほどのアンジェリカと、同じ叫びを漏らした。彼は確信した。エイトが、とてつもなく鈍感で、直感の優れていない事を。
「気になるってのは、レディーの事だよ! 一人ぐらいいるだろう?! ⋯⋯ともかく!」
ククールは、これ以上エイトが頓珍漢な発言をしない様、遮った。
「この薬を使うと、お前に全く興味の無い女の子も、一晩付き合っても良いって気分になるんだ」
『冗談じゃないでがす!!』
今度は家の中から、濁声が響いた。全員が飛び上がって屋内を覗くと、なんとヤンガスが糸を紡いでいた。⋯⋯いや、絡めていた。家の主人である、婆さんが、その横でカラカラと笑っている。
『おんや、まあ。繊細なんじゃなかったのかい?』
『繊細じゃなくて、ナイーブでがすよ!』
人には向き不向きというものがある。ヤンガスには、糸紡ぎよりも、一冬分の薪の生産を頼んだ方が良い。
同じように、エイトにはエイトの得意な事があるのだ。アンジェリカは深呼吸し、態度を改めるよう努めた。
「私は万能薬を作りたいのだけれど、その為には特薬草が二つ必要。特薬草を作るには、上薬草が二つ必要で、上薬草を作るには、薬草が二つ要るの」
彼女は早口に言い切り、てきぱきと材料を釜に放り込んだ。
「上薬草は、三十分も掛からずに出来上がるわ」
「流石じゃ!」
突然、背後からしわがれた声が響き、アンジェリカは飛び上がった。
「トロデ王!」
練金釜の持ち主が、顎を撫でながら、にんまり笑っていた。アンジェリカは、今更ながら存在を思い出し、大慌てで膝を折った。
「勝手をして、申し訳ございません」
「いや、構わんよ! お主が無事で何よりじゃ。マルチェロの奴め、傷は治らんなどとぬかしおって!」
「治らなかった傷を、治して頂いたのですよ」
アンジェリカは、やんわりと訂正し、漸く落ち着いて身の回りの事に目を向けた。
「えっと⋯⋯ゼシカ、服をありがとう」
「いいえー。そういう上品な服は、私に似合わないのよ」
彼女は、相変わらず胸元の大胆に開いた服を纏い、にっこり笑った。
次に、アンジェリカはエイトに目を向けた。
「それで、ドルマゲスについて、何か分かったの?」
「⋯⋯ちょっと長くなるから、中で話そうか」
エイトはアンジェリカの背を押し、勝手知ったる他人の家の中へ向かった。
(夢主)が民家の入り口をノックし、扉を開けた所で、中の住人はピタリと動きを止めた。各々の顔に、静かな衝撃の色が奔る。
「⋯⋯アンジェ?!」
ゼシカが、真っ先にアンジェリカの元へ駆け寄った。頭のてっぺんから爪先まで眺め回し、口元を覆った。
「怪我は治ったの? 本当に? ⋯⋯あいつ......あの嫌味な男が、もう、旅をするのは無理だって言うから⋯⋯」
「どこも悪くないわ。みんな治してもらったもの。⋯⋯マルチェロ様は、どうしてそんな風に言ったのかしら」
「呪いだって、言ってたよ」
エイトが衝撃から立ち直り、アンジェリカの元へ歩み寄った。
「あの人の頭の傷も、そうだって言ってた。魔法が効かなくって、僕たち......いや、ゼシカが思い──」
「思いついたのよ。ええ、私が」
ゼシカは、早口に言葉を引き取った。
「貴女の荷物袋に、特薬草があった事を思い出したの。私たちに作りかたは分からなかったけれど、兎に角、その一個を、あの男に渡して置いたわ」
「それじゃあ⋯⋯」
アンジェリカは、静かな衝撃に息を詰まらせた。マルチェロは、自分よりもアンジェリカの治療を優先させたのだ。
傷が呪いによるものなら、薬草でダメージの治療をしつつ、聖職者にのみ伝授される呪文を唱える必要がある。
「エイト、お願い! 練金釜を貸して!」
「勿論。でも、今度はレシピを教えてくれると嬉しいな。何かあった時に、使えるように」
「じゃあ、着いて来て!」
そう言うと、アンジェリカは周囲をかえり見る事なく、踵を返してしまった。エイトは慌てて彼女の背を追った。
ゼシカは、怒涛の羊のようなアンジェリカの行動に戸惑ったが、それよりも扉口にたたずむ男の事が気になった。
彼女は腕を組み、眉を吊り上げた。
「で? なんで、あんたが此処に居るのよ?!」
「新しい修道院長様に、ドルマゲスを追う様、命じられたのさ。⋯⋯いや、違うな」
ククールは苦笑し、肩を竦める。
「アンジェリカがあんたらに、生きて合流できる様に、修道院を追い出された」
「ねえ、まさかと思うんだけれど⋯⋯」
ゼシカは声を落とした。彼女には、吐きたい悪態が沢山あった。しかし、それよりも、気になる事があったのだ。
「あの二人って、何かあるの?」
「⋯⋯ありまくりだ」
そう答えた瞬間、ククールの脳裏に昨晩の出来事が浮かび上がった。なんと形容するべきか悩んでいると、ゼシカは楽しそうに身を乗り出した。
「別に、細かい事は良いのよ」
「⋯⋯キスしてた」
「冗談──」
『冗談じゃないわ!!』
ゼシカの叫びとかぶる様に、窓の外から悲鳴と爆発音が聞こえた。しきりにエイトが謝っている。
ゼシカは、アンジェリカの、こんなにヒステリックな声を初めて聞いたので、何が起こったのかと耳を澄ませた。
『一体全体、どう考えたらこんな組み合わせになるの?!』
『使わないものから、何か作れないかと──』
『使わない物から、使えない物が出来たわ!』
一体何が出来たのかと、ゼシカが扉の向こうを覗き込むと、エイトがピンク色の小瓶を手にして頭を掻いていた。
「ありゃ、おかしな薬だ」
ククールは、思わずニヤリと笑ってしまった。
「おかしな薬って?」
ゼシカが首をかしげる。ククールは返答に窮した。真面目に答えるべきか否か迷っていると、アンジェリカがクソ真面目な表情で、坊さんの説法よりも色のない講義を始めた。
「この薬は、特殊な防具を作るのに役立つわ。一風変わった性質を、物に与えるの。でも、一般的には人間が人間に対して使うわ 」
「どんな効果があるの?」
「⋯⋯それは」
流石のアンジェリカも、言葉を濁した。しかし、エイトは興味津々で、話を逸らそうにも逸らせない。
困り果てたアンジェリカは、ハッと気が付いた様子でククールの姿を捉えた。
彼は仕方なくアンジェリカの側に歩み寄り、肩に手を置いた。
「言っておくが、俺は使った事なんか無い。使う必要が無かったからな」
ひょいっと薬瓶を手に取り、振ってみせる。
「例えばエイト。お前さんが、この薬を気になる人間のスープに混ぜたとする」
「君とか?」
「冗談じゃない!」
ククールは、先ほどのアンジェリカと、同じ叫びを漏らした。彼は確信した。エイトが、とてつもなく鈍感で、直感の優れていない事を。
「気になるってのは、レディーの事だよ! 一人ぐらいいるだろう?! ⋯⋯ともかく!」
ククールは、これ以上エイトが頓珍漢な発言をしない様、遮った。
「この薬を使うと、お前に全く興味の無い女の子も、一晩付き合っても良いって気分になるんだ」
『冗談じゃないでがす!!』
今度は家の中から、濁声が響いた。全員が飛び上がって屋内を覗くと、なんとヤンガスが糸を紡いでいた。⋯⋯いや、絡めていた。家の主人である、婆さんが、その横でカラカラと笑っている。
『おんや、まあ。繊細なんじゃなかったのかい?』
『繊細じゃなくて、ナイーブでがすよ!』
人には向き不向きというものがある。ヤンガスには、糸紡ぎよりも、一冬分の薪の生産を頼んだ方が良い。
同じように、エイトにはエイトの得意な事があるのだ。アンジェリカは深呼吸し、態度を改めるよう努めた。
「私は万能薬を作りたいのだけれど、その為には特薬草が二つ必要。特薬草を作るには、上薬草が二つ必要で、上薬草を作るには、薬草が二つ要るの」
彼女は早口に言い切り、てきぱきと材料を釜に放り込んだ。
「上薬草は、三十分も掛からずに出来上がるわ」
「流石じゃ!」
突然、背後からしわがれた声が響き、アンジェリカは飛び上がった。
「トロデ王!」
練金釜の持ち主が、顎を撫でながら、にんまり笑っていた。アンジェリカは、今更ながら存在を思い出し、大慌てで膝を折った。
「勝手をして、申し訳ございません」
「いや、構わんよ! お主が無事で何よりじゃ。マルチェロの奴め、傷は治らんなどとぬかしおって!」
「治らなかった傷を、治して頂いたのですよ」
アンジェリカは、やんわりと訂正し、漸く落ち着いて身の回りの事に目を向けた。
「えっと⋯⋯ゼシカ、服をありがとう」
「いいえー。そういう上品な服は、私に似合わないのよ」
彼女は、相変わらず胸元の大胆に開いた服を纏い、にっこり笑った。
次に、アンジェリカはエイトに目を向けた。
「それで、ドルマゲスについて、何か分かったの?」
「⋯⋯ちょっと長くなるから、中で話そうか」
エイトはアンジェリカの背を押し、勝手知ったる他人の家の中へ向かった。