マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
04:マイエラ修道院編
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ククールは、微睡みの中で懐かしい声を聞いていた。子供達の笑い声。昔修道院には、多くの孤児達が集まり、無邪気な明るい声が響いていた。
徐々に思考がハッキリとしだし、目を開けると、見慣れない天井が映った。
全てを思い出した彼は、バサリと起き上がり、隣のベッドに目を移す。アンジェリカの姿が無い。
彼は急いで髪を纏め、部屋を飛び出した。何時もは受付にいる主人も、今日は見当たらない。
外へ出ると、見慣れた街の広場で子供達が歓声をあげていた。その中心には、アンジェリカ。
「良い、ロニー? よ~く集中してね? 人に向けない様に」
一人の少年が、アンジェリカの言葉に頷き、人差し指を立てた。そして大きく息を吸い込み、勢いよく叫ぶ。
「メラ!」
瞬間、小さいながらも火の玉が現れ、空へと飛んで弾けた。子供達は夢中で手を叩き、歓声を上げた。
「すごいや、お姉ちゃん!! 僕、何回一人で練習しても出来なかったんだよ?!」
ロニーと呼ばれた少年は、アンジェリカの手を取り、ぶんぶんと振り回した。彼の頭を、アンジェリカは優しく撫でた。
「コレさえ出来れば大丈夫。貴方にはちゃんと、魔法の力があるわ。勉強すれば、もっと強い呪文も覚えられる」
「僕、頑張るよ!」
子供達と戯れるアンジェリカの姿は、余りにも眩し過ぎて、ククールは近寄る事が出来なかった。
そのうち、子供達の親が、ぞろぞろと家の中から出てきた。
「あ、お母さん!」
金髪の少女が、素朴な風体の女性に駆け寄った。
「ねえ、手を出して?」
「え?」
「良いから、良いから!」
少女は母親の両手を広げさせ、そこに小さな手を翳した。十分に集中し、呪文を唱える。
「ホイミ!」
光が弾け、母親は驚いた様子で両手を見詰めた。水仕事で荒れた手が、若い頃の様に滑らかになっていた。
「あのお姉ちゃんに教えて貰ったの!!」
少女が指差す先には、子供達に囲まれ、流行の歌を歌うアンジェリカの姿があった。
「ああ言う人が、聖女様って言うんだろうねえ」
宿屋の女将が、感激した様子で零した。
「美人で歌も上手くって、その上子供にも好かれて、頭も良い。私とは......全然違うな」
酒場の踊り子が、羨望の眼差しを送る。
多くの者達がアンジェリカに惹きつけられている中で、彼女ははたと顔を上げ、たった一人の姿に気が付いた。
「おはよう!」
声の先には、赤い修道服を身に付けた、この街の問題児。周りの者は皆仰天した。
アンジェリカは風のようにククールの元に駆け寄り、邪気の無い笑顔を見せた。
「昨日は遅くまで、ごめんなさい。疲れていない?」
「バカ! お前、そんな聞き方......」
周りを見回すと、街中の人間がククールに白い目を向けていた。
不意に、先ほどホイミを掛けられた女性が、アンジェリカの元に駆け寄った。
「聖女様、貴女のお名前を、お聞かせ願えませんか?」
「アンジェリカと申します。それに、私は聖女だなんて、大層な者ではありません。魔法使いです」
「どちらでも構いませんわ! その......ククール坊ちゃんは、確かに根は優しい子ですし......美しい方ですが......」
「安心してくれ」
ククールは面倒くさそうに、みんなに聞こえるよう、説明した。
「昨日は別々のベッドで寝た。ただ、遅くまで話をしてただけだ。それに俺は、その後飲みに行ったしな」
街中の人間が、ホッと胸を撫で下ろした。アンジェリカは、事の真相が全く理解出来ていない様だ。
そのうち、ロニーの母親が、息子を連れて(夢主)の元へやって来た。
「アンジェリカさん。もし宜しければ、この村の為に祈っては頂けませんか? 最近は外の魔物も強くなっていて、怪我を負った者もおります。私の旦那も、夜間に魔物に襲われ、長い事床に伏せっています。皆の不安が、少しでも和らげば......」
「分かりました」
アンジェリカは頷き、祈りの姿勢ではなく杖を構えた。
彼女が呪文を囁くと、街人の体が淡い光に包まれた。キアリクと、ベホマラー。強力な癒しの魔法が、其々の傷を塞いで行く。
「おお、腰の痛みが消えた!!」
「たんこぶが無くなったぞ!!」
「見てくれ! この前魔物に斬られた所が、塞がっている!!!」
歓声が響き渡る中、宿屋のすぐ隣の建物の扉が開いた。
「......あなたっ!」
「お父さん!!」
ロニー達は、姿を現した父親に駆け寄った。父親はワケがわからないといった様子で、頭を掻いた。
「何だか知らんが、急に体が動く様になったぞ!!」
「貴方を襲ったのは、マイエラ修道院の裏の辺りに現れる、ゾンビの様な魔物ではありませんか?」
アンジェリカの問いに、父親は目を丸くした。
「その通りだよ、お嬢さん」
「あの魔物の爪には、毒があります。傷が長らく塞がらなかったのは、そのせいでしょう」
「本当に......ありがとう!!」
母親は涙声で頭を下げた。
「何度も何度も、騎士団の方にお祈りをして頂きました。でも、一向に良くならなくて......」
「そりゃそうだ」
ククールが、すこぶる不愉快そうに鼻を鳴らす。
「坊さんの仕事は祈る事で、傷を治す事じゃない」
元修道僧とは思えない発言に、民衆は顔を見合わせあった。バチあたりな言葉に不幸にされるのではないかと、長年の信仰がそう思わせたのだ。
「神様は、いらっしゃると思います」
アンジェリカがそう発すると、全員が耳を傾けた。彼女は緊張で少し赤くなりながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「けれど、私たちはその存在に、寄り掛かるだけでは駄目なのだと思います。私たち人間にできる事は、私たち人間がやるべきなのです。良く学び、良く考え、努力して、それでも報われない時、きっと神様は手を差し伸べてくださいます」
少しの沈黙。その後に、割れる様な拍手が巻き起こった。
ククールは、目の前の少女に触れる事さえ躊躇われた。純粋で、余りにも尊くて......。しかし、もうそろそろ旅立たなくてはならない。
彼はそっと、アンジェリカの肩に手を置いた。
「行こう。あいつらを追うんだろう?」
「ええ」
アンジェリカは杖を収め、民衆に頭を下げると、歩き出した。
「お待ちください!」
ロニーの母親が、去りゆく少女を引き止めた。彼女が足を止め振り返ると、母親は麻袋を押し付けた。
「これを、どうか受け取って下さい」
「そんな!」
アンジェリカは仰天して、固辞した。ゴールドだ。だが、母親は引き下がらなかった。
「今月、騎士団の方に献金としてお渡しするものでした。けれど、もう必要ありません。私たち全員の傷を癒し、学ぶ事の意義を教えてくださった貴女への、せめてもの御礼です。どうか、受け取って下さい!!」
アンジェリカは、ククールを振り返った。彼は苦笑し、一つ頷く。
「......ありがとうございます」
アンジェリカは、麻袋を受け取り深く頭を下げた。
「いつか必ず、また皆さんのお役に立ちます」
そう言って、街の門を潜ろうとした時だ。今度は、背丈の小さな女の子が駆け寄って来た。確か、どうしてもメラを成功できなかった子だ。
「お姉ちゃん!!」
涙を浮かべて訴えた。
「私には魔法の力が無いの?! 私、魔法使いになって、お城で働くのが夢なの!!」
「大丈夫」
アンジェリカは、膝を折り、少女と目線を合わせた。
「貴女には、確かに魔法の力がある。練習すれば、ちゃんと出来るようになるわ。......そしてパパとママのお手伝いをいっぱいして、お小遣いを貯めたら、杖を買ってごらん? 魔法の籠った道具に助けて貰えば、一番強い呪文だって、出来るようになるから」
「うん......うん、分かったよ。また、この街に来てね! 絶対だよ!」
「約束するわ」
アンジェリカは立ち上がり、ククールに寄り添って街を後にした。
徐々に思考がハッキリとしだし、目を開けると、見慣れない天井が映った。
全てを思い出した彼は、バサリと起き上がり、隣のベッドに目を移す。アンジェリカの姿が無い。
彼は急いで髪を纏め、部屋を飛び出した。何時もは受付にいる主人も、今日は見当たらない。
外へ出ると、見慣れた街の広場で子供達が歓声をあげていた。その中心には、アンジェリカ。
「良い、ロニー? よ~く集中してね? 人に向けない様に」
一人の少年が、アンジェリカの言葉に頷き、人差し指を立てた。そして大きく息を吸い込み、勢いよく叫ぶ。
「メラ!」
瞬間、小さいながらも火の玉が現れ、空へと飛んで弾けた。子供達は夢中で手を叩き、歓声を上げた。
「すごいや、お姉ちゃん!! 僕、何回一人で練習しても出来なかったんだよ?!」
ロニーと呼ばれた少年は、アンジェリカの手を取り、ぶんぶんと振り回した。彼の頭を、アンジェリカは優しく撫でた。
「コレさえ出来れば大丈夫。貴方にはちゃんと、魔法の力があるわ。勉強すれば、もっと強い呪文も覚えられる」
「僕、頑張るよ!」
子供達と戯れるアンジェリカの姿は、余りにも眩し過ぎて、ククールは近寄る事が出来なかった。
そのうち、子供達の親が、ぞろぞろと家の中から出てきた。
「あ、お母さん!」
金髪の少女が、素朴な風体の女性に駆け寄った。
「ねえ、手を出して?」
「え?」
「良いから、良いから!」
少女は母親の両手を広げさせ、そこに小さな手を翳した。十分に集中し、呪文を唱える。
「ホイミ!」
光が弾け、母親は驚いた様子で両手を見詰めた。水仕事で荒れた手が、若い頃の様に滑らかになっていた。
「あのお姉ちゃんに教えて貰ったの!!」
少女が指差す先には、子供達に囲まれ、流行の歌を歌うアンジェリカの姿があった。
「ああ言う人が、聖女様って言うんだろうねえ」
宿屋の女将が、感激した様子で零した。
「美人で歌も上手くって、その上子供にも好かれて、頭も良い。私とは......全然違うな」
酒場の踊り子が、羨望の眼差しを送る。
多くの者達がアンジェリカに惹きつけられている中で、彼女ははたと顔を上げ、たった一人の姿に気が付いた。
「おはよう!」
声の先には、赤い修道服を身に付けた、この街の問題児。周りの者は皆仰天した。
アンジェリカは風のようにククールの元に駆け寄り、邪気の無い笑顔を見せた。
「昨日は遅くまで、ごめんなさい。疲れていない?」
「バカ! お前、そんな聞き方......」
周りを見回すと、街中の人間がククールに白い目を向けていた。
不意に、先ほどホイミを掛けられた女性が、アンジェリカの元に駆け寄った。
「聖女様、貴女のお名前を、お聞かせ願えませんか?」
「アンジェリカと申します。それに、私は聖女だなんて、大層な者ではありません。魔法使いです」
「どちらでも構いませんわ! その......ククール坊ちゃんは、確かに根は優しい子ですし......美しい方ですが......」
「安心してくれ」
ククールは面倒くさそうに、みんなに聞こえるよう、説明した。
「昨日は別々のベッドで寝た。ただ、遅くまで話をしてただけだ。それに俺は、その後飲みに行ったしな」
街中の人間が、ホッと胸を撫で下ろした。アンジェリカは、事の真相が全く理解出来ていない様だ。
そのうち、ロニーの母親が、息子を連れて(夢主)の元へやって来た。
「アンジェリカさん。もし宜しければ、この村の為に祈っては頂けませんか? 最近は外の魔物も強くなっていて、怪我を負った者もおります。私の旦那も、夜間に魔物に襲われ、長い事床に伏せっています。皆の不安が、少しでも和らげば......」
「分かりました」
アンジェリカは頷き、祈りの姿勢ではなく杖を構えた。
彼女が呪文を囁くと、街人の体が淡い光に包まれた。キアリクと、ベホマラー。強力な癒しの魔法が、其々の傷を塞いで行く。
「おお、腰の痛みが消えた!!」
「たんこぶが無くなったぞ!!」
「見てくれ! この前魔物に斬られた所が、塞がっている!!!」
歓声が響き渡る中、宿屋のすぐ隣の建物の扉が開いた。
「......あなたっ!」
「お父さん!!」
ロニー達は、姿を現した父親に駆け寄った。父親はワケがわからないといった様子で、頭を掻いた。
「何だか知らんが、急に体が動く様になったぞ!!」
「貴方を襲ったのは、マイエラ修道院の裏の辺りに現れる、ゾンビの様な魔物ではありませんか?」
アンジェリカの問いに、父親は目を丸くした。
「その通りだよ、お嬢さん」
「あの魔物の爪には、毒があります。傷が長らく塞がらなかったのは、そのせいでしょう」
「本当に......ありがとう!!」
母親は涙声で頭を下げた。
「何度も何度も、騎士団の方にお祈りをして頂きました。でも、一向に良くならなくて......」
「そりゃそうだ」
ククールが、すこぶる不愉快そうに鼻を鳴らす。
「坊さんの仕事は祈る事で、傷を治す事じゃない」
元修道僧とは思えない発言に、民衆は顔を見合わせあった。バチあたりな言葉に不幸にされるのではないかと、長年の信仰がそう思わせたのだ。
「神様は、いらっしゃると思います」
アンジェリカがそう発すると、全員が耳を傾けた。彼女は緊張で少し赤くなりながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「けれど、私たちはその存在に、寄り掛かるだけでは駄目なのだと思います。私たち人間にできる事は、私たち人間がやるべきなのです。良く学び、良く考え、努力して、それでも報われない時、きっと神様は手を差し伸べてくださいます」
少しの沈黙。その後に、割れる様な拍手が巻き起こった。
ククールは、目の前の少女に触れる事さえ躊躇われた。純粋で、余りにも尊くて......。しかし、もうそろそろ旅立たなくてはならない。
彼はそっと、アンジェリカの肩に手を置いた。
「行こう。あいつらを追うんだろう?」
「ええ」
アンジェリカは杖を収め、民衆に頭を下げると、歩き出した。
「お待ちください!」
ロニーの母親が、去りゆく少女を引き止めた。彼女が足を止め振り返ると、母親は麻袋を押し付けた。
「これを、どうか受け取って下さい」
「そんな!」
アンジェリカは仰天して、固辞した。ゴールドだ。だが、母親は引き下がらなかった。
「今月、騎士団の方に献金としてお渡しするものでした。けれど、もう必要ありません。私たち全員の傷を癒し、学ぶ事の意義を教えてくださった貴女への、せめてもの御礼です。どうか、受け取って下さい!!」
アンジェリカは、ククールを振り返った。彼は苦笑し、一つ頷く。
「......ありがとうございます」
アンジェリカは、麻袋を受け取り深く頭を下げた。
「いつか必ず、また皆さんのお役に立ちます」
そう言って、街の門を潜ろうとした時だ。今度は、背丈の小さな女の子が駆け寄って来た。確か、どうしてもメラを成功できなかった子だ。
「お姉ちゃん!!」
涙を浮かべて訴えた。
「私には魔法の力が無いの?! 私、魔法使いになって、お城で働くのが夢なの!!」
「大丈夫」
アンジェリカは、膝を折り、少女と目線を合わせた。
「貴女には、確かに魔法の力がある。練習すれば、ちゃんと出来るようになるわ。......そしてパパとママのお手伝いをいっぱいして、お小遣いを貯めたら、杖を買ってごらん? 魔法の籠った道具に助けて貰えば、一番強い呪文だって、出来るようになるから」
「うん......うん、分かったよ。また、この街に来てね! 絶対だよ!」
「約束するわ」
アンジェリカは立ち上がり、ククールに寄り添って街を後にした。