マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
04:マイエラ修道院編
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マルチェロは、アンジェリカの背を押して、一番狭い牢に追い込んだ。
「何故、ククールを庇った」
「......え?」
「同じ様に嘘を吐けば良かっただろう。ククールに脅されて、院長の部屋へ向かった、と」
マルチェロは、丸椅子に掛けて足を組んだ。眉間に皺を寄せて、ため息混じりに続ける。
「最悪だ。お前たちの無罪を証明するには、道化師が、もう一度院長の部屋を襲撃しなければならない」
「それでは......私の言葉を信じて下さるのですか?!」
アンジェリカは、思いもよらない展開に、目を白黒させた。マルチェロは、肩を竦め苦笑。
「あの旅人がどうかは知らんが、お前がオディロ院長を殺すなど、ありえん。しかし、団員からすれば、お前も余所者だ。不審な動きをしてくれた以上、即刻放免とはいかない。......全く、どうしたものか」
「......私......私は......思い違いをしていました」
アンジェリカは、後悔と罪悪感に苛まれ、目を伏せた。結局、彼女の機転は裏目に出てしまったのだ。
しかし、だからと言って、ククールが身代わりに投獄されるのも、看過出来なかった。彼は、凡そ品行方正とは言い難い人物だが、オディロ院長を案ずる気持ちだけは、本物だったのだから。
マルチェロは、異母弟に並々ならぬ憎悪を抱いている。もし、ククールが投獄されていたら、それを口実に容赦なく拷問をしていただろう。
「......囚われたのが私で良かったです」
アンジェリカの言葉に、マルチェロは目を細めた。
「何故だ?」
「貴方が、新しい罪を抱えずに済んだからです」
「そうだろうか」
マルチェロは、返事をすると同時に立ち上がり、アンジェリカの腹部を蹴飛ばした。鳩尾から少し外れていたものの、彼女は十分衝撃を受けて床に倒れた。
次の瞬間、牢の前に騎士団員が二人現れた。
「マルチェロ様。罪人を幽閉致しました。......その女を締め上げる様でしたら、私共がーー」
「いや」
マルチェロは、仏頂面のまま間髪入れずに返し、アンジェリカの髪を掴み、顔を持ち上げた。
「この女は、おぞましい魔法の力と、反抗的な目を持っている」
実際、アンジェリカは、痛みを堪える為に歯を食いしばり、額に汗を掻き、非友好的な表情を湛えていた。今にも人に噛みつきそうな気迫に、聖堂騎士団員達も気圧された。
「それでは、マルチェロ様にお任せ致します」
二人の騎士は、何の疑問も抱かずに、一礼して去った。
その足音が完全に消えてから、マルチェロはアンジェリカを抱き起こし、顔を覗き込んだ。
「すまない」
「だい......じょうぶです」
アンジェリカは、癒しの魔法の力を感じて、体の力を抜いた。
痛みは引くものの、怠さが残った。無理も無い。朝から散々暴力を受け、魔物と戦い、体力を消耗していたのだから。
魔法は、傷を癒す事は出来ても、体力を回復させる事は出来ないのだ。
指一本動かせないアンジェリカは、それでも淡く微笑んだ。
「ありがとう......ございます」
「黙っていろ」
マルチェロは、彼女の額に浮かんだ汗を拭いながら、自分の魔法の力を移した。
ふと、アンジェリカの頬を、汗以外の雫が伝った。
「......アンジェリカ?」
「ごめんなさい......」
やや生気を取り戻したアンジェリカは、目頭を押さえた。しかし、溢れる雫は止まること無く、次から次へと床に染みを描いて行く。
とうとう感情に蓋が出来なくなったアンジェリカは、昔そうしていた様に、マルチェロの胸に顔を埋めた。
マルチェロは、美しく成長し、また孤独を抱えて帰って来た、少女の小さな体を抱き締めた。しかし、昔と違う違和感を覚え、目を閉じた。
アンジェリカは、同じ年頃の娘と比べて、美し過ぎるのだ。
マルチェロは此れ迄、献金を得る為に望まぬ相手と一晩過ごした事が何度かあった。されど、決して愛情を抱いた事など無かった。
ふと、彼の思考を邪な思いが支配した。自分の望む相手とは、一体どんな人間なのか。見目麗しく、強く、そして世界中のどんな女よりも、自分の事を知っている。......そんな人間は、アンジェリカしかいない。
「申し訳ございません......」
アンジェリカは、再度謝罪し、やんわりとマルチェロの胸を押した。濡れそぼった瞳が、彼の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「不安なのです。......体を二つに引き裂いてしまいたい......。オディロ院長とマルチェロ様を、お側でお護りしたいのです。私には、もう此処しか、帰る場所が無いんです! もう......もう二度と、家族を失いたくーー」
アンジェリカの瞳が、驚愕に見開かれた。
マルチェロは、悲痛な叫びに耐え切れず、彼女の唇を塞いでいた。逃れようと僅かに抵抗する体を押さえ付け、頬をなぞる。
すると、アンジェリカの体が、痙攣する様に震えた。
「んっ......っ......」
鼻に掛かった声を耳にして、マルチェロは許されざる罪を犯しているのだと実感した。
しかし、彼女を解放しようと思った瞬間に、別の考えが心を過ぎった。
それは、何度か女を抱いた事があるからこそ、浮かんだ映像だ。
甘ったるい言葉も、アンジェリカの口から零れ落ちれば、それほど不快に思えないのでは無いか、と。聞いてみたいと思った。聖職者とも思えぬ、とんでもない欲求が、彼を支配していた。
息苦しくなったのか、アンジェリカが口を開いた。その隙を逃さず、マルチェロは舌を捩じ込んだ。
小さな体の全てを喰らい尽くす様に、追い立てる。すると、アンジェリカは、恐怖から逃れる様に、マルチェロの肩を強く掴んだ。
ものの数秒も経つと、彼女の体は糸が切れた様に、カクンと力なく弛緩した。
マルチェロは、アンジェリカを床に横たえ、覆い被さる様に、その首筋に顔を埋めた。
「嫌! やめて......やめて下さい!!」
アンジェリカは、渾身の力で体を起こそうとした。しかし、首筋に感じる奇妙な痛みと、そこから広がるもどかしさに、力が入らなかった。
「聖堂騎士団長様!」
彼女が役職を叫んだ事で、マルチェロはようやく理性を取り戻した。深すぎる黒い瞳を閉じ見詰めながら、混乱を残した言葉を発する。
「......私がおかしいのか......それとも、お前が、人を惑わす魔女の類なのか?」
「私は、魔女です」
アンジェリカは、何の弁明にもならない答えを、反射的に口にしていた。
「マスター・ライラスの技を受け継いだ、魔女です」
「そうか。それなら、悪いのはお前だ」
マルチェロは、妙に平坦な声色で結論付け、立ち上がった。去りかけて、ふと思い出した様に、アンジェリカを振り返る。
「その道化師とやらに、お前は敵うのか。」
「......一人では......とても敵いません。」
アンジェリカは、苦渋の思いで、正確な事実を伝えた。
まだ人だった頃のドルマゲスは、羽虫も殺さぬ柔な男であったが、あの奇妙な杖を手にしてから、文字通り人が変わってしまった。
周囲に迸る邪気は、並々ならぬ威力を示しており、長年鍛錬を重ねて来たアンジェリカも、背筋が粟立つほどだ。
「騒ぎが起きたら」
マルチェロは、檻の外へ出て入り口を閉めると、鉄の柵ごしに語り掛ける。
「ここを出ろ。鍵は半分開けておく。その後どう動こうと、お前の勝手だ」
「でもーー」
「但し」
マルチェロは、厳しい口調で遮り、アンジェリカの瞳を覗き込んだ。
「騒ぎが起こるまでは、ここにいろ。それさえ守れぬ様なら、此方も打つ手は無い」
彼の言葉に、アンジェリカは何とか反論しようともがいた。
そんな苦悶に満ちた表情を目に、マルチェロは溜息を零す。
「私は、出来る限りの事をやったつもりだが」
「......っ」
アンジェリカは、息を呑み、うな垂れた。
人には、人の中で生きて行く限り、其々に立場がある。
根無し草のアンジェリカと違い、マルチェロには所属する組織があり、それを守る暗黙の義務が課せられているのだ。彼は、その小さな箱庭を、決して手放しはしないだろう。彼を救った、オディロ院長が生きている限り。
「心配は無用だ」
マルチェロは、思いつめた様子の少女に、幾分柔らかい口調で声掛けた。
「まだ使える剣は沢山ある。たった6本、折られただけだ」
「......ご武運を」
アンジェリカは、渋々そう答え、その場に座り込んでしまった。
マルチェロは、踵を返して地下牢を後にした。
「何故、ククールを庇った」
「......え?」
「同じ様に嘘を吐けば良かっただろう。ククールに脅されて、院長の部屋へ向かった、と」
マルチェロは、丸椅子に掛けて足を組んだ。眉間に皺を寄せて、ため息混じりに続ける。
「最悪だ。お前たちの無罪を証明するには、道化師が、もう一度院長の部屋を襲撃しなければならない」
「それでは......私の言葉を信じて下さるのですか?!」
アンジェリカは、思いもよらない展開に、目を白黒させた。マルチェロは、肩を竦め苦笑。
「あの旅人がどうかは知らんが、お前がオディロ院長を殺すなど、ありえん。しかし、団員からすれば、お前も余所者だ。不審な動きをしてくれた以上、即刻放免とはいかない。......全く、どうしたものか」
「......私......私は......思い違いをしていました」
アンジェリカは、後悔と罪悪感に苛まれ、目を伏せた。結局、彼女の機転は裏目に出てしまったのだ。
しかし、だからと言って、ククールが身代わりに投獄されるのも、看過出来なかった。彼は、凡そ品行方正とは言い難い人物だが、オディロ院長を案ずる気持ちだけは、本物だったのだから。
マルチェロは、異母弟に並々ならぬ憎悪を抱いている。もし、ククールが投獄されていたら、それを口実に容赦なく拷問をしていただろう。
「......囚われたのが私で良かったです」
アンジェリカの言葉に、マルチェロは目を細めた。
「何故だ?」
「貴方が、新しい罪を抱えずに済んだからです」
「そうだろうか」
マルチェロは、返事をすると同時に立ち上がり、アンジェリカの腹部を蹴飛ばした。鳩尾から少し外れていたものの、彼女は十分衝撃を受けて床に倒れた。
次の瞬間、牢の前に騎士団員が二人現れた。
「マルチェロ様。罪人を幽閉致しました。......その女を締め上げる様でしたら、私共がーー」
「いや」
マルチェロは、仏頂面のまま間髪入れずに返し、アンジェリカの髪を掴み、顔を持ち上げた。
「この女は、おぞましい魔法の力と、反抗的な目を持っている」
実際、アンジェリカは、痛みを堪える為に歯を食いしばり、額に汗を掻き、非友好的な表情を湛えていた。今にも人に噛みつきそうな気迫に、聖堂騎士団員達も気圧された。
「それでは、マルチェロ様にお任せ致します」
二人の騎士は、何の疑問も抱かずに、一礼して去った。
その足音が完全に消えてから、マルチェロはアンジェリカを抱き起こし、顔を覗き込んだ。
「すまない」
「だい......じょうぶです」
アンジェリカは、癒しの魔法の力を感じて、体の力を抜いた。
痛みは引くものの、怠さが残った。無理も無い。朝から散々暴力を受け、魔物と戦い、体力を消耗していたのだから。
魔法は、傷を癒す事は出来ても、体力を回復させる事は出来ないのだ。
指一本動かせないアンジェリカは、それでも淡く微笑んだ。
「ありがとう......ございます」
「黙っていろ」
マルチェロは、彼女の額に浮かんだ汗を拭いながら、自分の魔法の力を移した。
ふと、アンジェリカの頬を、汗以外の雫が伝った。
「......アンジェリカ?」
「ごめんなさい......」
やや生気を取り戻したアンジェリカは、目頭を押さえた。しかし、溢れる雫は止まること無く、次から次へと床に染みを描いて行く。
とうとう感情に蓋が出来なくなったアンジェリカは、昔そうしていた様に、マルチェロの胸に顔を埋めた。
マルチェロは、美しく成長し、また孤独を抱えて帰って来た、少女の小さな体を抱き締めた。しかし、昔と違う違和感を覚え、目を閉じた。
アンジェリカは、同じ年頃の娘と比べて、美し過ぎるのだ。
マルチェロは此れ迄、献金を得る為に望まぬ相手と一晩過ごした事が何度かあった。されど、決して愛情を抱いた事など無かった。
ふと、彼の思考を邪な思いが支配した。自分の望む相手とは、一体どんな人間なのか。見目麗しく、強く、そして世界中のどんな女よりも、自分の事を知っている。......そんな人間は、アンジェリカしかいない。
「申し訳ございません......」
アンジェリカは、再度謝罪し、やんわりとマルチェロの胸を押した。濡れそぼった瞳が、彼の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「不安なのです。......体を二つに引き裂いてしまいたい......。オディロ院長とマルチェロ様を、お側でお護りしたいのです。私には、もう此処しか、帰る場所が無いんです! もう......もう二度と、家族を失いたくーー」
アンジェリカの瞳が、驚愕に見開かれた。
マルチェロは、悲痛な叫びに耐え切れず、彼女の唇を塞いでいた。逃れようと僅かに抵抗する体を押さえ付け、頬をなぞる。
すると、アンジェリカの体が、痙攣する様に震えた。
「んっ......っ......」
鼻に掛かった声を耳にして、マルチェロは許されざる罪を犯しているのだと実感した。
しかし、彼女を解放しようと思った瞬間に、別の考えが心を過ぎった。
それは、何度か女を抱いた事があるからこそ、浮かんだ映像だ。
甘ったるい言葉も、アンジェリカの口から零れ落ちれば、それほど不快に思えないのでは無いか、と。聞いてみたいと思った。聖職者とも思えぬ、とんでもない欲求が、彼を支配していた。
息苦しくなったのか、アンジェリカが口を開いた。その隙を逃さず、マルチェロは舌を捩じ込んだ。
小さな体の全てを喰らい尽くす様に、追い立てる。すると、アンジェリカは、恐怖から逃れる様に、マルチェロの肩を強く掴んだ。
ものの数秒も経つと、彼女の体は糸が切れた様に、カクンと力なく弛緩した。
マルチェロは、アンジェリカを床に横たえ、覆い被さる様に、その首筋に顔を埋めた。
「嫌! やめて......やめて下さい!!」
アンジェリカは、渾身の力で体を起こそうとした。しかし、首筋に感じる奇妙な痛みと、そこから広がるもどかしさに、力が入らなかった。
「聖堂騎士団長様!」
彼女が役職を叫んだ事で、マルチェロはようやく理性を取り戻した。深すぎる黒い瞳を閉じ見詰めながら、混乱を残した言葉を発する。
「......私がおかしいのか......それとも、お前が、人を惑わす魔女の類なのか?」
「私は、魔女です」
アンジェリカは、何の弁明にもならない答えを、反射的に口にしていた。
「マスター・ライラスの技を受け継いだ、魔女です」
「そうか。それなら、悪いのはお前だ」
マルチェロは、妙に平坦な声色で結論付け、立ち上がった。去りかけて、ふと思い出した様に、アンジェリカを振り返る。
「その道化師とやらに、お前は敵うのか。」
「......一人では......とても敵いません。」
アンジェリカは、苦渋の思いで、正確な事実を伝えた。
まだ人だった頃のドルマゲスは、羽虫も殺さぬ柔な男であったが、あの奇妙な杖を手にしてから、文字通り人が変わってしまった。
周囲に迸る邪気は、並々ならぬ威力を示しており、長年鍛錬を重ねて来たアンジェリカも、背筋が粟立つほどだ。
「騒ぎが起きたら」
マルチェロは、檻の外へ出て入り口を閉めると、鉄の柵ごしに語り掛ける。
「ここを出ろ。鍵は半分開けておく。その後どう動こうと、お前の勝手だ」
「でもーー」
「但し」
マルチェロは、厳しい口調で遮り、アンジェリカの瞳を覗き込んだ。
「騒ぎが起こるまでは、ここにいろ。それさえ守れぬ様なら、此方も打つ手は無い」
彼の言葉に、アンジェリカは何とか反論しようともがいた。
そんな苦悶に満ちた表情を目に、マルチェロは溜息を零す。
「私は、出来る限りの事をやったつもりだが」
「......っ」
アンジェリカは、息を呑み、うな垂れた。
人には、人の中で生きて行く限り、其々に立場がある。
根無し草のアンジェリカと違い、マルチェロには所属する組織があり、それを守る暗黙の義務が課せられているのだ。彼は、その小さな箱庭を、決して手放しはしないだろう。彼を救った、オディロ院長が生きている限り。
「心配は無用だ」
マルチェロは、思いつめた様子の少女に、幾分柔らかい口調で声掛けた。
「まだ使える剣は沢山ある。たった6本、折られただけだ」
「......ご武運を」
アンジェリカは、渋々そう答え、その場に座り込んでしまった。
マルチェロは、踵を返して地下牢を後にした。