マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
04:マイエラ修道院編
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「いいかげんにしやがれ! 濡れ衣だって言ってんだろ!? 」
ヤンガスは、カンカンになって尋問室の机を殴りつけた。ゼシカも深く頷き、言葉を連ねる。
「そうよ! あんたたちの仲間に頼まれて、院長の様子を見にいったんだって、さっきから言ってるじゃない! だいたい、どうして私たちがこんな目に遭わなきゃならないのよっ!?」
「お前達が犯人でないなら、部下たちは、誰にやられたのだ?」
マルチェロは、エイト達が犯人と決めつけているらしい。彼が求める答えは、ただ一つ。罪を認める供述だ。
彼はチラリと、アンジェリカに目を向けた。彼女は、地下牢に連れて来られてから、一度も口を開かずに、明後日の方向を睨んでいる。
「私の目は、ごまかせんぞ。白状するまでーー」
その時、ゆったりと扉をノックする音が響いた。マルチェロは舌打ちし、訊ねる。
「誰だ」
「団長殿が俺を呼んだんじゃないんですか?」
ククールだ。彼は、さも面倒そうに部屋を横切り、マルチェロの肩に手を置いた。
「何か御用ですか?」
マルチェロは、異母弟の腕を振り払い、嫌悪を露わに唇を歪めた。
「お前に質問がある。だがその前に……。修道院長の命を狙い、部屋に忍び込んだ賊を、私はさきほど捕らえた。こいつらだ。わが聖堂騎士団の団員たちが6人もやられたよ」
「そりゃ、御愁傷様で」
ふざけた感想に、マルチェロは更に醜悪な表情になった。しかし、喉元までせり上がって来た怒りを押し殺し、冷静な声色で続ける。
「……まあいい。問題はここからだ。我がマイエラ修道院は、厳重に警備されている。よそ者が忍び込める隙なぞない。……誰かが手引きをしない限りはな。こやつらの荷物を調べたところ、この指輪が出てきた。聖堂騎士団員、ククール。君の指輪はどこにある? 持っているなら見せてくれ」
空気が凍り付いた。マルチェロは、憎悪に満ちた瞳でククールを睨んだ。
エイト、ヤンガス、ゼシカは、この難局をどう乗り越えるか、冷や汗をかきながら思案している。
沈黙を破ったのは、ククールだった。彼は肩を震わせて笑い、手をヒラヒラと降って見せた。
「流石の俺も、賊に手を貸すような真似はしませんよ。......ほら」
彼が手袋を外すと、騎士団員の指輪が、松明の灯りを受けて煌めいた。
「どういう事よ?!」
ゼシカは、思わず叫び声をあげていた。エイトもヤンガスも、すっかりワケが分からないと言った風に、顔を見合わせていた。
其処で、アンジェリカが初めて体を動かした。マルチェロに向き直り、微笑んでいた。
「聖堂騎士団長。貴方の指輪は何処にありますか?」
「何を............ああ、そうか」
マルチェロは立ち上がり、アンジェリカの胸ぐらを掴んだ。
「忘れていた」
「私は覚えていました。......ずっと」
次の瞬間、アンジェリカは強烈な平手打ちを喰らい、床に倒れた。しかし、怯むこと無く顔を上げ、マルチェロを睨みつけた。
マルチェロは、容赦無くアンジェリカの髪を掴み、再び立ち上がらせると、彼女の身体を乱暴に壁へぶつけた。
「っ......」
アンジェリカは唇を噛み、何とか苦痛の声を押し殺した。滲む視界の隅で、仲間達が血の気を失って身を乗り出しているのが見えた。しかし、彼らは別の団員に刃物を突きつけられて、動けないでいる。
ククールは、余計な事を口にすまいと必死に平静を装っていたが、不自然に瞬きの数が減っていた。
「小賢しい奴め。マイエラ修道院に対する恩を忘れ、事もあろうにオディロ院長の命を狙うとは!」
マルチェロはアンジェリカの首を絞め、自白を迫った。しかし、彼女もめげずに言葉を絞り出す。
「私が......そんな事をしないと......貴方には分かっているはずーー」
「黙れ」
「い......痛い!!」
アンジェリカは、とうとう悲鳴を上げた。マルチェロが手を緩めると、彼女はゲホゲホと噎せ返ってしまった。
丁度タイミングを見計らった様に、扉が開き新たな客が雪崩れ込んできた。
「今度は何だ」
マルチェロは、心底うんざりした調子で訊ねる。緑の化け物の襟首を掴んだ騎士団員が、背筋を正した。
「修道院の外でうろついていた魔物を、1匹捕まえて参りました!」
「なに? 魔物だと? 」
マルチェロが顔を向けると、トロデ王は抗議の声を上げて、短い手足をバタバタさせた。
「イテテテテ……! な、何をする!? おいヤンガス! ゼシカ! こんな所で何をしとるんじゃ? ......エイト!!答えんか!」
勿論全員が、知らぬ存ぜぬの顔でそっぽを向いた。
「あんまり長い間帰ってこんから、さみしくなって探しに来てやったぞい!」
最悪の状況だ。マルチェロは、鼻で笑い飛ばした。
「……旅人殿は、どうやらこの魔物の仲間らしい」
「なんじゃ、お前は!! 無礼者め! 放さんかい! おろせっ! 助けてくれ、エイト!」
空気を読まずに暴れまくるトロデを、騎士団員は放り投げる様にしてエイト達へ押し付けた。
「魔物の手下どもめ」
マルチェロは、靴底に張り付いた馬糞を見る様な目で、剣を抜いた。
相手が人間で無いと分かった瞬間、彼の脳裏から容赦という言葉が消えた。
「やめてください!!」
アンジェリカが、少し掠れた声でマルチェロと仲間達の間に割って入った。
「この方は人間です! ドルマゲスに......いえ、私が呪いを掛けて脅したのです!!」
彼女は、真実をマルチェロにとって都合の良いように捻じ曲げた。仲間が何か言いたそうにしているのを、足蹴にして遮り、両手をめいいっぱい広げて訴える。
「全て、私の差し金です! その証拠に、先ほどこの魔物の姿をした者は、私の名を呼びませんでした!!」
「それでは......」
マルチェロは、苦虫を噛んだような表情で言葉を捻り出した。
「納得出来るように、ご説明頂けるのでしょうな?」
「お話します」
「......良いだろう」
マルチェロの合図で、エイト達は奥の部屋へ追い立てられて行った。その後ろ姿を見送ってから、マルチェロは、部屋の隅に呆然と佇んでいた異母弟を思い出し、吐き捨てるように命じる。
「部屋に戻れ」
「言われなくとも、そういたします」
ククールは慇懃無礼に一礼し、一瞬アンジェリカに視線を送って、扉に手を掛けた。しかし、ついに耐えきれず、振り返った。
「......その子を殺せるのか?」
「貴様には関係の無い事だ」
マルチェロは、とりつく島も無い冷たい声で返した。しかし、何処か迷いがあると、ククールは確信した。普段のマルチェロなら、イエスかノーの何方かの返事をする。
ククールは、悔しさと後ろめたさを抱えながら、一先ず部屋を出るより他に無かった。
彼は重い足取りで階段を登り、明るい場所へ出るなり、壁を殴りつけた。
「ククール!」
ふと、小声で名を呼ばれ、彼は辺りを見回した。声の主は、厨房の扉から手招きをしていた。
ククールが人目を盗みながら、普段滅多に立ち入らない部屋に滑り込むと、彼より僅かに若年の聖堂騎士団員・ジーノと、孤児の修道士見習いが酷く怯えた表情で出迎えた。何とも奇妙な組み合わせである。
最初に口を開いたのは、ジーノだった。
「ククール、先ほど連れて行かれたのは、アンジェリカという女性では無かったか?」
「何だよ、あんたも知り合いか?」
ククールが投げやりに聞き返すと、奇妙なデコボココンビは顔を見合わせた。修道士見習いが、両手の拳を握りしめて、不安げに瞬いた。
「もしや、私のせいでマルチェロ様の不興を買ったのではありませんか? あの女性は.....今の修道院の有り様に、本当に憤っておりました。私の様な者にも目を掛けてくださって......」
「別件だ。マルチェロ団長は、あの女性がオディロ院長を害そうとしたと考えている」
「それは本当か?!」
ジーノは、どうにも熱くなりやすいタイプらしい。額に汗をかいて、信じられないと言わんばかりに頭を振った。
「人を殺す様な人間には思えない。ほんの一時、マルチェロ団長の部屋で言葉を交わしたが......」
「単に、気に食わなかったんだろうな」
ククールは、腕組みをして思い返した。どう考えても、今日の異母兄は様子がおかしかった。いや、それ以前にマルチェロが女人に指輪を渡していた事実に驚いた。
「俺だって、あの子が悪人だとは思っていないよ。何とかしねえと!」
「あの」
修道士見習いが、遠慮がちに手を挙げた。
二人の騎士は、同時に彼に注目した。
「夕食に眠り薬を混ぜては如何でしょう」
「......どうして其処までして、助けたいんだ?」
ククールは、急に猜疑心を露わにした。彼にとって、修道院の中で心の内を曝け出せる相手は、オディロ院長ただ一人だ。
理由は、品行方正、成績優秀の異母兄。マルチェロは、幼い時分からククールにだけ態度が冷たかった。そのせいで、多くの騎士がククールを邪険に扱い、遠ざけた。
人格が形成されるより前に、周囲の評価はほぼ固まっていた。ククールは、あの優秀で面倒見の良いマルチェロが疎ましく思うほど、しょうもない人間なのだ、と。
「なあ、ククール、誰にも言わないでくれ」
ジーノはビクビクしながら声を落とし、早口に続ける。
「さっき運び込まれた怪我人は、意識を取り戻すなり、ハッキリと道化師に襲われたと言った。あの女性は、昼間の内に団長の元へ来て、道化師の人殺しに気を付けるよう、忠告していたんだ」
「......あの子が無実だって事は、マルチェロ団長も分かってるさ」
ククールは、自分の不甲斐なさを呪ってうな垂れた。
「団長は、今回の騒ぎを利用して、俺を追い出す算段でいた。けれど、目論見は上手くいかなかった。あの子のちょっとした機転のお陰で、俺にアリバイが出来ちまったから。......あいつ、怒り出すと見境い無くなるだろう?」
しかし、ジーノと修道士見習いは、顔を見合わせて眉を顰めた。二人とも、マルチェロが見境い無しに怒り狂う所を見た事が無かったのだ。
ククールは、二人に構わず知恵を絞りだそうと奮闘した。
悩む彼の姿を目に、ジーノは遠慮がちに声をかける。
「私に出来ることは無いか?」
ククールは、二人の存在を思い出し、顔を上げた。正直な所、彼はまだ人を信用出来ずにいた。しかし、助けは必要なのだ。
「......分かった。俺に考えがある。手伝ってくれ」
三人の反逆者は、額を寄せ合って無謀な計画を共有し合う事となった。
ヤンガスは、カンカンになって尋問室の机を殴りつけた。ゼシカも深く頷き、言葉を連ねる。
「そうよ! あんたたちの仲間に頼まれて、院長の様子を見にいったんだって、さっきから言ってるじゃない! だいたい、どうして私たちがこんな目に遭わなきゃならないのよっ!?」
「お前達が犯人でないなら、部下たちは、誰にやられたのだ?」
マルチェロは、エイト達が犯人と決めつけているらしい。彼が求める答えは、ただ一つ。罪を認める供述だ。
彼はチラリと、アンジェリカに目を向けた。彼女は、地下牢に連れて来られてから、一度も口を開かずに、明後日の方向を睨んでいる。
「私の目は、ごまかせんぞ。白状するまでーー」
その時、ゆったりと扉をノックする音が響いた。マルチェロは舌打ちし、訊ねる。
「誰だ」
「団長殿が俺を呼んだんじゃないんですか?」
ククールだ。彼は、さも面倒そうに部屋を横切り、マルチェロの肩に手を置いた。
「何か御用ですか?」
マルチェロは、異母弟の腕を振り払い、嫌悪を露わに唇を歪めた。
「お前に質問がある。だがその前に……。修道院長の命を狙い、部屋に忍び込んだ賊を、私はさきほど捕らえた。こいつらだ。わが聖堂騎士団の団員たちが6人もやられたよ」
「そりゃ、御愁傷様で」
ふざけた感想に、マルチェロは更に醜悪な表情になった。しかし、喉元までせり上がって来た怒りを押し殺し、冷静な声色で続ける。
「……まあいい。問題はここからだ。我がマイエラ修道院は、厳重に警備されている。よそ者が忍び込める隙なぞない。……誰かが手引きをしない限りはな。こやつらの荷物を調べたところ、この指輪が出てきた。聖堂騎士団員、ククール。君の指輪はどこにある? 持っているなら見せてくれ」
空気が凍り付いた。マルチェロは、憎悪に満ちた瞳でククールを睨んだ。
エイト、ヤンガス、ゼシカは、この難局をどう乗り越えるか、冷や汗をかきながら思案している。
沈黙を破ったのは、ククールだった。彼は肩を震わせて笑い、手をヒラヒラと降って見せた。
「流石の俺も、賊に手を貸すような真似はしませんよ。......ほら」
彼が手袋を外すと、騎士団員の指輪が、松明の灯りを受けて煌めいた。
「どういう事よ?!」
ゼシカは、思わず叫び声をあげていた。エイトもヤンガスも、すっかりワケが分からないと言った風に、顔を見合わせていた。
其処で、アンジェリカが初めて体を動かした。マルチェロに向き直り、微笑んでいた。
「聖堂騎士団長。貴方の指輪は何処にありますか?」
「何を............ああ、そうか」
マルチェロは立ち上がり、アンジェリカの胸ぐらを掴んだ。
「忘れていた」
「私は覚えていました。......ずっと」
次の瞬間、アンジェリカは強烈な平手打ちを喰らい、床に倒れた。しかし、怯むこと無く顔を上げ、マルチェロを睨みつけた。
マルチェロは、容赦無くアンジェリカの髪を掴み、再び立ち上がらせると、彼女の身体を乱暴に壁へぶつけた。
「っ......」
アンジェリカは唇を噛み、何とか苦痛の声を押し殺した。滲む視界の隅で、仲間達が血の気を失って身を乗り出しているのが見えた。しかし、彼らは別の団員に刃物を突きつけられて、動けないでいる。
ククールは、余計な事を口にすまいと必死に平静を装っていたが、不自然に瞬きの数が減っていた。
「小賢しい奴め。マイエラ修道院に対する恩を忘れ、事もあろうにオディロ院長の命を狙うとは!」
マルチェロはアンジェリカの首を絞め、自白を迫った。しかし、彼女もめげずに言葉を絞り出す。
「私が......そんな事をしないと......貴方には分かっているはずーー」
「黙れ」
「い......痛い!!」
アンジェリカは、とうとう悲鳴を上げた。マルチェロが手を緩めると、彼女はゲホゲホと噎せ返ってしまった。
丁度タイミングを見計らった様に、扉が開き新たな客が雪崩れ込んできた。
「今度は何だ」
マルチェロは、心底うんざりした調子で訊ねる。緑の化け物の襟首を掴んだ騎士団員が、背筋を正した。
「修道院の外でうろついていた魔物を、1匹捕まえて参りました!」
「なに? 魔物だと? 」
マルチェロが顔を向けると、トロデ王は抗議の声を上げて、短い手足をバタバタさせた。
「イテテテテ……! な、何をする!? おいヤンガス! ゼシカ! こんな所で何をしとるんじゃ? ......エイト!!答えんか!」
勿論全員が、知らぬ存ぜぬの顔でそっぽを向いた。
「あんまり長い間帰ってこんから、さみしくなって探しに来てやったぞい!」
最悪の状況だ。マルチェロは、鼻で笑い飛ばした。
「……旅人殿は、どうやらこの魔物の仲間らしい」
「なんじゃ、お前は!! 無礼者め! 放さんかい! おろせっ! 助けてくれ、エイト!」
空気を読まずに暴れまくるトロデを、騎士団員は放り投げる様にしてエイト達へ押し付けた。
「魔物の手下どもめ」
マルチェロは、靴底に張り付いた馬糞を見る様な目で、剣を抜いた。
相手が人間で無いと分かった瞬間、彼の脳裏から容赦という言葉が消えた。
「やめてください!!」
アンジェリカが、少し掠れた声でマルチェロと仲間達の間に割って入った。
「この方は人間です! ドルマゲスに......いえ、私が呪いを掛けて脅したのです!!」
彼女は、真実をマルチェロにとって都合の良いように捻じ曲げた。仲間が何か言いたそうにしているのを、足蹴にして遮り、両手をめいいっぱい広げて訴える。
「全て、私の差し金です! その証拠に、先ほどこの魔物の姿をした者は、私の名を呼びませんでした!!」
「それでは......」
マルチェロは、苦虫を噛んだような表情で言葉を捻り出した。
「納得出来るように、ご説明頂けるのでしょうな?」
「お話します」
「......良いだろう」
マルチェロの合図で、エイト達は奥の部屋へ追い立てられて行った。その後ろ姿を見送ってから、マルチェロは、部屋の隅に呆然と佇んでいた異母弟を思い出し、吐き捨てるように命じる。
「部屋に戻れ」
「言われなくとも、そういたします」
ククールは慇懃無礼に一礼し、一瞬アンジェリカに視線を送って、扉に手を掛けた。しかし、ついに耐えきれず、振り返った。
「......その子を殺せるのか?」
「貴様には関係の無い事だ」
マルチェロは、とりつく島も無い冷たい声で返した。しかし、何処か迷いがあると、ククールは確信した。普段のマルチェロなら、イエスかノーの何方かの返事をする。
ククールは、悔しさと後ろめたさを抱えながら、一先ず部屋を出るより他に無かった。
彼は重い足取りで階段を登り、明るい場所へ出るなり、壁を殴りつけた。
「ククール!」
ふと、小声で名を呼ばれ、彼は辺りを見回した。声の主は、厨房の扉から手招きをしていた。
ククールが人目を盗みながら、普段滅多に立ち入らない部屋に滑り込むと、彼より僅かに若年の聖堂騎士団員・ジーノと、孤児の修道士見習いが酷く怯えた表情で出迎えた。何とも奇妙な組み合わせである。
最初に口を開いたのは、ジーノだった。
「ククール、先ほど連れて行かれたのは、アンジェリカという女性では無かったか?」
「何だよ、あんたも知り合いか?」
ククールが投げやりに聞き返すと、奇妙なデコボココンビは顔を見合わせた。修道士見習いが、両手の拳を握りしめて、不安げに瞬いた。
「もしや、私のせいでマルチェロ様の不興を買ったのではありませんか? あの女性は.....今の修道院の有り様に、本当に憤っておりました。私の様な者にも目を掛けてくださって......」
「別件だ。マルチェロ団長は、あの女性がオディロ院長を害そうとしたと考えている」
「それは本当か?!」
ジーノは、どうにも熱くなりやすいタイプらしい。額に汗をかいて、信じられないと言わんばかりに頭を振った。
「人を殺す様な人間には思えない。ほんの一時、マルチェロ団長の部屋で言葉を交わしたが......」
「単に、気に食わなかったんだろうな」
ククールは、腕組みをして思い返した。どう考えても、今日の異母兄は様子がおかしかった。いや、それ以前にマルチェロが女人に指輪を渡していた事実に驚いた。
「俺だって、あの子が悪人だとは思っていないよ。何とかしねえと!」
「あの」
修道士見習いが、遠慮がちに手を挙げた。
二人の騎士は、同時に彼に注目した。
「夕食に眠り薬を混ぜては如何でしょう」
「......どうして其処までして、助けたいんだ?」
ククールは、急に猜疑心を露わにした。彼にとって、修道院の中で心の内を曝け出せる相手は、オディロ院長ただ一人だ。
理由は、品行方正、成績優秀の異母兄。マルチェロは、幼い時分からククールにだけ態度が冷たかった。そのせいで、多くの騎士がククールを邪険に扱い、遠ざけた。
人格が形成されるより前に、周囲の評価はほぼ固まっていた。ククールは、あの優秀で面倒見の良いマルチェロが疎ましく思うほど、しょうもない人間なのだ、と。
「なあ、ククール、誰にも言わないでくれ」
ジーノはビクビクしながら声を落とし、早口に続ける。
「さっき運び込まれた怪我人は、意識を取り戻すなり、ハッキリと道化師に襲われたと言った。あの女性は、昼間の内に団長の元へ来て、道化師の人殺しに気を付けるよう、忠告していたんだ」
「......あの子が無実だって事は、マルチェロ団長も分かってるさ」
ククールは、自分の不甲斐なさを呪ってうな垂れた。
「団長は、今回の騒ぎを利用して、俺を追い出す算段でいた。けれど、目論見は上手くいかなかった。あの子のちょっとした機転のお陰で、俺にアリバイが出来ちまったから。......あいつ、怒り出すと見境い無くなるだろう?」
しかし、ジーノと修道士見習いは、顔を見合わせて眉を顰めた。二人とも、マルチェロが見境い無しに怒り狂う所を見た事が無かったのだ。
ククールは、二人に構わず知恵を絞りだそうと奮闘した。
悩む彼の姿を目に、ジーノは遠慮がちに声をかける。
「私に出来ることは無いか?」
ククールは、二人の存在を思い出し、顔を上げた。正直な所、彼はまだ人を信用出来ずにいた。しかし、助けは必要なのだ。
「......分かった。俺に考えがある。手伝ってくれ」
三人の反逆者は、額を寄せ合って無謀な計画を共有し合う事となった。