マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
04:マイエラ修道院編
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その亡霊は、この世の全てを憎んでいた。憎悪そのものだった。杖に縋りながらも、二本の足で立ち、ボロボロの僧衣を纏っていた事から、辛うじて人間と呼ばれていたものだと分かった。
「......修道院長様?」
アンジェリカが、恐る恐る声を掛けると、瞳の無くなった空洞が、彼女の方へと向けられた。
「おおおヲ、おヲオオおオ…! 苦しイ……くるシい、苦シイ…… 神ハ、いずコにおらレル? こノ苦しみハ、イツマデ続く? 」
「あのーー」
「おヲオぉお……!! 死ンだ死んダ死んだ死ンダのだ!ミナ、苦しミながら死んデ行ッた! あノ、恐ろシィ病ガ、我ラを......コの修道院ノすべテを、死に包ンだ! 苦シイクるしイクルシイ……く、クククッ。 我が苦シみぃッ! 我等ガ苦シミっ! おマエにも味わワセてやるゥゥゥッ!!!」
二度ある事は三度ある。また八つ当たりの類で、一行は災難を被る事になった。
腐りかけた嘆きの亡霊の腕が振り下ろされると、部屋の其処彼処から、亡者が湧き上がった。
腐った死体と、骸骨が、エイト達を取り囲み、一斉に攻撃を開始した。
「どうする、この数?!」
エイトが、滅茶苦茶に剣を振り回しながら、誰にともなく叫んだ。
彼が、自分の剣から気をそらしてまで、叫んだのには、勿論理由がある。普通に戦っては、九割型勝ち目が無いと判断したからだ。
「火!」
アンジェリカは短く返し、ベギラマを唱えた。死体は、あっという間に燃え尽き、灰となって崩れた。しかし、床に降り積もったそれを掻き分ける様にして、新たな骸が起き上がる。
ゼシカも魔法で参戦をしたが、燃やしても、燃やしてもキリが無い。
ものの数分も経たずに、全員が同じ結論に辿り着いた。
親玉の嘆きの亡霊を倒さない限り、この不気味な屍人パーティーは終わらない、と。
何か手立ては無いかと、苦し紛れにゼシカがヒャダルコを唱えた。しかし、それはアダとなってしまった。
ヒャド系統の呪文は、攻撃対象の水分を凍らせる事で、ダメージを与える技だ。
しかし、死体に血液は流れていないし、体内の微量の水分が凍ったところで、彼らは痛みを感じる事もない。
「ひっ?!」
不意を突かれたゼシカの体が、大きく右に傾き、倒れた。彼女の右脚には、爪で引っ掻いた様な痕が三つ。
たいした怪我では無かった。しかし、死体の爪には毒があったのだ。
「ゼシカさん、少しだけ我慢してください」
アンジェリカが声を発した瞬間、腐った死体と、がいこつ達は、一斉に彼女に注目した。
エイトとヤンガスは、反射的に飛び出そうとしたが、アンジェリカの所作を目に、寸手の所で思いとどまった。
アンジェリカは、人差し指を立てて口に当て、沈黙を命じていた。
1秒......2秒......。
ほとんどの屍達が、輪を作ってアンジェリカとゼシカを取り囲んで行く。
嘆きの亡霊は、怨嗟の声を上げ、魔力の高まった腕を振り上げた。
瞬間、エイトとヤンガスは、飛び出した。其々の武器を振り上げ、嘆きの亡霊を攻撃。
勝敗は決した。
嘆きの亡霊の呼び寄せた亡者は、土塊となり、床に崩れた。
アンジェリカは、その場に膝を着いた。体に毒が回って行くのを感じながら、何とか顔だけを亡霊に向ける。
積もり、澱んだ魔力が発散されたおかげで、亡霊は人の姿に近付いていた。しかし、アンジェリカは唇まで痺れ、何の言葉も発せない。
エイトとヤンガスが、代わりに亡霊の元へ歩み寄った。
元修道院長は、心なしか疲れた様な表情で、けれども、解き放たれた様に安らかな表情で、片腕を天へと掲げた。淡い光が、その全身を包み込んだ。
「おおヲぉお......っ。神ヨ......。神ょおぉぉオ......!
いま、御許に参りマす......」
長い間、孤独に苛まれ、苦しみ続けた魂がようやく神の元へと還って行った。
暫しの沈黙の後、アンジェリカは何とか体を動かそうと努力した。
「......あら?」
驚くべき事に、毒がすっかり抜けていた。引っ掻き傷も消え、皮膚は滑らかに繋がっている。ゼシカもだ。
二人は、支え合う様にして立ち上がり、顔を見合わせた。
「アンジェ、大丈夫?」
「元気いっぱいよ」
アンジェリカは、努めて明るい声音で返し、一息吐いて、すぐに歩き出した。
「早く......早くオディロ院長の所へ!」
うわ言の様に発せられた言葉に、エイト達はギクリと背筋を正した。
「アンジェ!!」
エイトは、アンジェリカの肩を掴んで引き止めてしまった。先へ進むより他に、選択肢の無い一同にとって、全く無意味な行為だと知りながら、止めずにはいられなかった。
誰の目にも明らかな事実。今のエイト達では、神鳥の杖を持ったドルマゲスに敵わない。少なくとも、一対一では、絶対に負ける。四人がかりで殴りかかったとしても、全員無事では済まされないだろう。
振り返ったアンジェリカは、表情が固く、何かに怯えている様子だった。エイトは、言葉に詰まり少し悩んで、こう言った。
「僕が先に行く」
「私は大丈夫よ」
「そうだと思ったけれど、ドルマゲスに最初に襲われたのは僕だ。僕が一番最初に殴る。良いね?」
「......分かったわ。」
アンジェリカは、素直に引き下がった。彼女は、ぼんやりエイトの背中を見つめて歩いた。歩いている内に、その背中を頼もしく思い、張り詰めていた心の線が緩んで行くのを感じた。
四人は、更に奥へ奥へと進み、狭い通路を上へ這い上がった。最後の扉であろう、石の天井をヤンガスが無理矢理動かすと、その隙間から夕陽が顔を出した。
「......修道院長様?」
アンジェリカが、恐る恐る声を掛けると、瞳の無くなった空洞が、彼女の方へと向けられた。
「おおおヲ、おヲオオおオ…! 苦しイ……くるシい、苦シイ…… 神ハ、いずコにおらレル? こノ苦しみハ、イツマデ続く? 」
「あのーー」
「おヲオぉお……!! 死ンだ死んダ死んだ死ンダのだ!ミナ、苦しミながら死んデ行ッた! あノ、恐ろシィ病ガ、我ラを......コの修道院ノすべテを、死に包ンだ! 苦シイクるしイクルシイ……く、クククッ。 我が苦シみぃッ! 我等ガ苦シミっ! おマエにも味わワセてやるゥゥゥッ!!!」
二度ある事は三度ある。また八つ当たりの類で、一行は災難を被る事になった。
腐りかけた嘆きの亡霊の腕が振り下ろされると、部屋の其処彼処から、亡者が湧き上がった。
腐った死体と、骸骨が、エイト達を取り囲み、一斉に攻撃を開始した。
「どうする、この数?!」
エイトが、滅茶苦茶に剣を振り回しながら、誰にともなく叫んだ。
彼が、自分の剣から気をそらしてまで、叫んだのには、勿論理由がある。普通に戦っては、九割型勝ち目が無いと判断したからだ。
「火!」
アンジェリカは短く返し、ベギラマを唱えた。死体は、あっという間に燃え尽き、灰となって崩れた。しかし、床に降り積もったそれを掻き分ける様にして、新たな骸が起き上がる。
ゼシカも魔法で参戦をしたが、燃やしても、燃やしてもキリが無い。
ものの数分も経たずに、全員が同じ結論に辿り着いた。
親玉の嘆きの亡霊を倒さない限り、この不気味な屍人パーティーは終わらない、と。
何か手立ては無いかと、苦し紛れにゼシカがヒャダルコを唱えた。しかし、それはアダとなってしまった。
ヒャド系統の呪文は、攻撃対象の水分を凍らせる事で、ダメージを与える技だ。
しかし、死体に血液は流れていないし、体内の微量の水分が凍ったところで、彼らは痛みを感じる事もない。
「ひっ?!」
不意を突かれたゼシカの体が、大きく右に傾き、倒れた。彼女の右脚には、爪で引っ掻いた様な痕が三つ。
たいした怪我では無かった。しかし、死体の爪には毒があったのだ。
「ゼシカさん、少しだけ我慢してください」
アンジェリカが声を発した瞬間、腐った死体と、がいこつ達は、一斉に彼女に注目した。
エイトとヤンガスは、反射的に飛び出そうとしたが、アンジェリカの所作を目に、寸手の所で思いとどまった。
アンジェリカは、人差し指を立てて口に当て、沈黙を命じていた。
1秒......2秒......。
ほとんどの屍達が、輪を作ってアンジェリカとゼシカを取り囲んで行く。
嘆きの亡霊は、怨嗟の声を上げ、魔力の高まった腕を振り上げた。
瞬間、エイトとヤンガスは、飛び出した。其々の武器を振り上げ、嘆きの亡霊を攻撃。
勝敗は決した。
嘆きの亡霊の呼び寄せた亡者は、土塊となり、床に崩れた。
アンジェリカは、その場に膝を着いた。体に毒が回って行くのを感じながら、何とか顔だけを亡霊に向ける。
積もり、澱んだ魔力が発散されたおかげで、亡霊は人の姿に近付いていた。しかし、アンジェリカは唇まで痺れ、何の言葉も発せない。
エイトとヤンガスが、代わりに亡霊の元へ歩み寄った。
元修道院長は、心なしか疲れた様な表情で、けれども、解き放たれた様に安らかな表情で、片腕を天へと掲げた。淡い光が、その全身を包み込んだ。
「おおヲぉお......っ。神ヨ......。神ょおぉぉオ......!
いま、御許に参りマす......」
長い間、孤独に苛まれ、苦しみ続けた魂がようやく神の元へと還って行った。
暫しの沈黙の後、アンジェリカは何とか体を動かそうと努力した。
「......あら?」
驚くべき事に、毒がすっかり抜けていた。引っ掻き傷も消え、皮膚は滑らかに繋がっている。ゼシカもだ。
二人は、支え合う様にして立ち上がり、顔を見合わせた。
「アンジェ、大丈夫?」
「元気いっぱいよ」
アンジェリカは、努めて明るい声音で返し、一息吐いて、すぐに歩き出した。
「早く......早くオディロ院長の所へ!」
うわ言の様に発せられた言葉に、エイト達はギクリと背筋を正した。
「アンジェ!!」
エイトは、アンジェリカの肩を掴んで引き止めてしまった。先へ進むより他に、選択肢の無い一同にとって、全く無意味な行為だと知りながら、止めずにはいられなかった。
誰の目にも明らかな事実。今のエイト達では、神鳥の杖を持ったドルマゲスに敵わない。少なくとも、一対一では、絶対に負ける。四人がかりで殴りかかったとしても、全員無事では済まされないだろう。
振り返ったアンジェリカは、表情が固く、何かに怯えている様子だった。エイトは、言葉に詰まり少し悩んで、こう言った。
「僕が先に行く」
「私は大丈夫よ」
「そうだと思ったけれど、ドルマゲスに最初に襲われたのは僕だ。僕が一番最初に殴る。良いね?」
「......分かったわ。」
アンジェリカは、素直に引き下がった。彼女は、ぼんやりエイトの背中を見つめて歩いた。歩いている内に、その背中を頼もしく思い、張り詰めていた心の線が緩んで行くのを感じた。
四人は、更に奥へ奥へと進み、狭い通路を上へ這い上がった。最後の扉であろう、石の天井をヤンガスが無理矢理動かすと、その隙間から夕陽が顔を出した。