マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
04:マイエラ修道院編
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「アンジェは大丈夫かしら?」
ゼシカは一歩進むごとに、同じ問いを繰り返した。連れの男二人は能天気なもので、何とかなるだろうと、無責任な返答。
魔法使いの彼女だからこそ、この場所に染み付いた怨嗟の声に心を揺さぶられたのかも知れない。とにかく、不安だったのだ。
「ここは、宿舎......」
耳鳴りに導かれる様に、余計な事だと思いながら、ゼシカは本棚に手を伸ばした。ボロボロになった皮表紙の、古い日記を手に取った。
「......っ?!」
「やめろ!」
エイトが動いていなければ、ゼシカは正気を失っていたかも知れない。
床に落ちて伏せられた記録を介して、おびただしい怨嗟の声が、心に響いて来たのだ。
「やっぱり待とうよ!」
ゼシカは、肩で息をしながら大声を上げた。
「アンジェは絶対、一人でも追い掛けて来るわ! 一人でこの道を歩いて来るわ!!」
「一体どうしたの?」
エイトは、ワケが分からないといった様子で頬を掻いた。
「大丈夫」
不意に、背後から声が響き、三人は振り返った。アンジェリカが、無傷で佇んでいた。彼女はゼシカのすぐ横にしゃがみ、日記を拾い上げた。
「ダメ!」
遮るゼシカを制し、記録に目を通した。
ページをパラパラと捲り、ようやく真実に辿り着いた。
「やっぱり......」
アンジェリカがポツリと呟いた瞬間。部屋の隅にボウっと半透明の影が現れた。まだ若い騎士の悪霊だ。恨みがましい目で、生者に手を伸ばして来た。
その腐った半透明の手が、アンジェリカの心臓の辺りを突き抜けた。しかし、アンジェリカは取り乱す事無く、置けない筈の肩に手を添える様な仕草をして見せた。
「生きたまま、此処に閉じ込められたのね?」
悪霊は、救いをこうように、アンジェリカの顔を一心に見つめた。彼女は、淡々とした声色で続ける。
「分かるわ。貴方がどうして此処を出る事が出来ないのか。......辛くて、苦しくって、薬も貰えないまま閉じ込められて、誰かを恨みたくって仕方が無いのでしょう。でも、誰も恨む事が出来ないから、余計に苦しくって......ただ苦しくって、仕方が無いのよね?」
悪霊の腐敗しかけた様な醜悪な顔が、僅かに生前の姿を取り戻した。精悍な顔立ちの、性根の真っ直ぐそうな青年だ。
その影は、一つ呼吸をする度に、ゆらりと姿を変えた。翁にも、青年にも、少年にも見える影は、実態を持ってアンジェリカに縋った。
「助......けて。僕......私を......!」
「貴方はもう、死んでしまったの。貴方を此処に縛り付けているのは、貴方自身よね? 貴方は分かっていたの。此処に病と共に封印される事は、仕方の無い事だと。中には魔法の力のある人もいて、その気になれば外へ抜け出す事も出来た。けれど、そうしなかったのは、他の誰でも無い、貴方自身の選択だわ。貴方が抱えている物は、憎しみなんかじゃない。最初は、もっと純粋な何かだったはずよ」
アンジェリカの言葉に、悪霊はハッキリとした青年の姿を取り戻した。彼はアンジェリカよりも、ずっと年上に見えたが、子供の様に泣きじゃくり、彼女に縋った。
「時折、ふと......寂しくなるんです!! 私が......僕が守った者たちは......俺たちを......わ......忘れて行ってしまう!」
「人間って、そういうものでしょう?」
「僕はそうじゃない! ずっと......忘れようとしても......! 悲しみは薄れる事無く......ずっと! ここに!!」
「それは、貴方が人では無くなってしまったからよ。人なら、どんなに辛い事があっても、生きている限り、忘れる事が出来るわ。完全に記憶を失くす事は出来なくても、最初は刃物みたいに鋭かった悲しみが、どんどん布に包まれて、鈍って行くものなのよ」
「忘れたいのに!」
「でも、忘れられたくたない。......私は覚えているわ。ここの記録を幾つか持ち帰って、まとめましょう。忘れません。この地方の歴史として、名もない騎士団員たちの記録が、残っていくように......」
瞬間、悪霊の姿が柔らかな光を帯びた。アンジェリカは、彼の......彼らの最後の未練を断ち切る様に、微笑み掛けた。
「奥にいらっしゃるのは、昔の修道院長かしら?」
「はい。我々を引き止めようと、もがいております。......助けて差し上げなければ」
「本当の救いは、貴方たちが此処にとどまって、優しく寄り添う事じゃないわ。あの人を、此処から出してあげる事よね? ......さあ、何時までも此処にいると、また貴方たちは淀んでしまう。あとの事は任せて下さい」
すると、騎士の霊は膝を折り、深々と頭をさげた。
「感謝申し上げます。貴女の旅路に、神の御加護がありますように」
青年の姿は、まるで雪がぬるま湯に溶ける様に、ゆっくりと、消えていった。
アンジェリカは、無言で日記をゼシカに手渡した。彼女は恐る恐るページを捲った。しかし、それはもう、ただのカビ臭い紙と成り果てていた。
「......寂しかったんだ」
ゼシカは、ポツリと溢した。アンジェリカは、コクリと頷き、日記を荷物袋にしまった。
「貴女には、その寂しさの意味が分かったのでしょう?」
「......うん」
ゼシカは、涙を拭いながら、何度も頷いた。
「うん。毎晩......ドルマゲスをどう倒してやるか、考えるの。それから、倒したあとの事も。......そうすると、悲しくてしょうがないのよ。どんなに恨んでも、兄さんはもう帰って来ないのに......どうして、恨む事をやめられないんだろうって!」
「きっとそれはーー」
「忘れない様にするためよ。分かってる。貴女の言う通り、人間は生きている限り、忘れて行く生き物なのよ。でも、忘れて行く事が許せなくって......だから、覚えている事にしたいのよ!」
恐らく、その共通の悲しみに、悪霊が付け入ったのだ。ゼシカは、まだ呪いの余韻に浸り、フラフラとした心のまま、行き場のない感情をアンジェリカにぶつけた。
「貴女は、きっと馬鹿にしているんでしょうね! そうだわ......貴女はただ冷たいの! だから、日記を読んで、あんなに可哀想な亡霊を見ても、平気でいられたのよ!」
「落ち着くでがすよ」
ヤンガスが、片手でひょいとゼシカの襟首を掴み、アンジェリカから引き剥がした。
アンジェリカは、痛みをこらえる様に唇を噛み、歩き出した。まるで、全てを受け止めて歩き出す事が、自らの使命だとでもいう様に。
おかげで、ゼシカの心には、羞恥と罪悪感だけが取り残された。前を行くアンジェリカに言葉を掛けたかった。
しかし、どんな言葉も、自分とアンジェリカを余計に傷付けてしまいそうで、喉に詰まって音にはならなかった。
奥へ進む毎に、異臭が強くなり、イヤな気配は大きくなって行った。
今度は、エイトとヤンガスも影響を受けた様子で、背中を丸めて腕を摩っている。
しっかりと背筋を伸ばして歩みを進めているのは、先頭を行くアンジェリカだけとなった。
アンジェリカは、仲間と自分の間に、薄く頑丈な一枚の壁を感じて、歩いていた。手を伸ばせば触れらる距離にいながら、決して縋ることの出来ない存在に、歯痒い想いを抱いて。
エイトとヤンガスも、ゼシカとアンジェリカに気を使ってか、口数がめっきり少なくなった。喋ることといえば、注意を促す掛け声だけ。
「アンジェ」
ふと、背後から声が聞こえ、アンジェリカは足を止めた。振り返ったその顔は、何時もとまるで同じ、穏やかなもので、ゼシカは面食らってしまった。
「何かしら?」
アンジェリカが首を傾げた所で、ゼシカはようやく声を取り戻した。彼女は、ほんの少し躊躇ってから、エイトとヤンガスを抜かして、アンジェリカの隣へ歩み寄り、遠慮がちに袖を掴んだ。
「あのね......、私......ごめん」
「え?」
「え? じゃないわよ!」
ゼシカは、反射的に大声を出してしまった。
「傷付いたんでしょう?! どうして怒ってくれないのよ!! 私......貴女に酷いことを......」
謝罪するつもりでいたのに、ゼシカの方が感情に呑まれてしまった。そんな彼女を、アンジェリカは当たり前の様に励ます。
「全然気にしてなーー」
「ごめんなさい! 私がこんなに弱いから、貴女は甘えられなくなっちゃうのよね......」
「そんなこーー」
「ねえ、アンジェ。私、もっと強くなるから。だから、ごめん。もう少しだけ、力を貸してください!」
ゼシカは深々と頭を下げた。
「私、怖くて仕方がないの。......この部屋の先に、何かがいるわ。貴女にも分かるんでしょう?」
「ええ」
アンジェリカは、完璧な微笑のまま、頷いた。ゼシカは、唯一の同性の仲間の心が、完全に閉ざされてしまった事を悟った。
ゼシカが力なく項垂れると、その頭をアンジェリカが撫でた。それは、同じ立場の仲間に対する労わりでは無く、庇護の対象に示す励ましだ。
「大丈夫。勝てるわ。」
アンジェリカは、再び歩き出した。そして、恐らく最後の扉を、躊躇いもせずに押し開けた。
祭壇の間。教壇に暗い影が、杖に縋りながら立っていた。
ゼシカは一歩進むごとに、同じ問いを繰り返した。連れの男二人は能天気なもので、何とかなるだろうと、無責任な返答。
魔法使いの彼女だからこそ、この場所に染み付いた怨嗟の声に心を揺さぶられたのかも知れない。とにかく、不安だったのだ。
「ここは、宿舎......」
耳鳴りに導かれる様に、余計な事だと思いながら、ゼシカは本棚に手を伸ばした。ボロボロになった皮表紙の、古い日記を手に取った。
「......っ?!」
「やめろ!」
エイトが動いていなければ、ゼシカは正気を失っていたかも知れない。
床に落ちて伏せられた記録を介して、おびただしい怨嗟の声が、心に響いて来たのだ。
「やっぱり待とうよ!」
ゼシカは、肩で息をしながら大声を上げた。
「アンジェは絶対、一人でも追い掛けて来るわ! 一人でこの道を歩いて来るわ!!」
「一体どうしたの?」
エイトは、ワケが分からないといった様子で頬を掻いた。
「大丈夫」
不意に、背後から声が響き、三人は振り返った。アンジェリカが、無傷で佇んでいた。彼女はゼシカのすぐ横にしゃがみ、日記を拾い上げた。
「ダメ!」
遮るゼシカを制し、記録に目を通した。
ページをパラパラと捲り、ようやく真実に辿り着いた。
「やっぱり......」
アンジェリカがポツリと呟いた瞬間。部屋の隅にボウっと半透明の影が現れた。まだ若い騎士の悪霊だ。恨みがましい目で、生者に手を伸ばして来た。
その腐った半透明の手が、アンジェリカの心臓の辺りを突き抜けた。しかし、アンジェリカは取り乱す事無く、置けない筈の肩に手を添える様な仕草をして見せた。
「生きたまま、此処に閉じ込められたのね?」
悪霊は、救いをこうように、アンジェリカの顔を一心に見つめた。彼女は、淡々とした声色で続ける。
「分かるわ。貴方がどうして此処を出る事が出来ないのか。......辛くて、苦しくって、薬も貰えないまま閉じ込められて、誰かを恨みたくって仕方が無いのでしょう。でも、誰も恨む事が出来ないから、余計に苦しくって......ただ苦しくって、仕方が無いのよね?」
悪霊の腐敗しかけた様な醜悪な顔が、僅かに生前の姿を取り戻した。精悍な顔立ちの、性根の真っ直ぐそうな青年だ。
その影は、一つ呼吸をする度に、ゆらりと姿を変えた。翁にも、青年にも、少年にも見える影は、実態を持ってアンジェリカに縋った。
「助......けて。僕......私を......!」
「貴方はもう、死んでしまったの。貴方を此処に縛り付けているのは、貴方自身よね? 貴方は分かっていたの。此処に病と共に封印される事は、仕方の無い事だと。中には魔法の力のある人もいて、その気になれば外へ抜け出す事も出来た。けれど、そうしなかったのは、他の誰でも無い、貴方自身の選択だわ。貴方が抱えている物は、憎しみなんかじゃない。最初は、もっと純粋な何かだったはずよ」
アンジェリカの言葉に、悪霊はハッキリとした青年の姿を取り戻した。彼はアンジェリカよりも、ずっと年上に見えたが、子供の様に泣きじゃくり、彼女に縋った。
「時折、ふと......寂しくなるんです!! 私が......僕が守った者たちは......俺たちを......わ......忘れて行ってしまう!」
「人間って、そういうものでしょう?」
「僕はそうじゃない! ずっと......忘れようとしても......! 悲しみは薄れる事無く......ずっと! ここに!!」
「それは、貴方が人では無くなってしまったからよ。人なら、どんなに辛い事があっても、生きている限り、忘れる事が出来るわ。完全に記憶を失くす事は出来なくても、最初は刃物みたいに鋭かった悲しみが、どんどん布に包まれて、鈍って行くものなのよ」
「忘れたいのに!」
「でも、忘れられたくたない。......私は覚えているわ。ここの記録を幾つか持ち帰って、まとめましょう。忘れません。この地方の歴史として、名もない騎士団員たちの記録が、残っていくように......」
瞬間、悪霊の姿が柔らかな光を帯びた。アンジェリカは、彼の......彼らの最後の未練を断ち切る様に、微笑み掛けた。
「奥にいらっしゃるのは、昔の修道院長かしら?」
「はい。我々を引き止めようと、もがいております。......助けて差し上げなければ」
「本当の救いは、貴方たちが此処にとどまって、優しく寄り添う事じゃないわ。あの人を、此処から出してあげる事よね? ......さあ、何時までも此処にいると、また貴方たちは淀んでしまう。あとの事は任せて下さい」
すると、騎士の霊は膝を折り、深々と頭をさげた。
「感謝申し上げます。貴女の旅路に、神の御加護がありますように」
青年の姿は、まるで雪がぬるま湯に溶ける様に、ゆっくりと、消えていった。
アンジェリカは、無言で日記をゼシカに手渡した。彼女は恐る恐るページを捲った。しかし、それはもう、ただのカビ臭い紙と成り果てていた。
「......寂しかったんだ」
ゼシカは、ポツリと溢した。アンジェリカは、コクリと頷き、日記を荷物袋にしまった。
「貴女には、その寂しさの意味が分かったのでしょう?」
「......うん」
ゼシカは、涙を拭いながら、何度も頷いた。
「うん。毎晩......ドルマゲスをどう倒してやるか、考えるの。それから、倒したあとの事も。......そうすると、悲しくてしょうがないのよ。どんなに恨んでも、兄さんはもう帰って来ないのに......どうして、恨む事をやめられないんだろうって!」
「きっとそれはーー」
「忘れない様にするためよ。分かってる。貴女の言う通り、人間は生きている限り、忘れて行く生き物なのよ。でも、忘れて行く事が許せなくって......だから、覚えている事にしたいのよ!」
恐らく、その共通の悲しみに、悪霊が付け入ったのだ。ゼシカは、まだ呪いの余韻に浸り、フラフラとした心のまま、行き場のない感情をアンジェリカにぶつけた。
「貴女は、きっと馬鹿にしているんでしょうね! そうだわ......貴女はただ冷たいの! だから、日記を読んで、あんなに可哀想な亡霊を見ても、平気でいられたのよ!」
「落ち着くでがすよ」
ヤンガスが、片手でひょいとゼシカの襟首を掴み、アンジェリカから引き剥がした。
アンジェリカは、痛みをこらえる様に唇を噛み、歩き出した。まるで、全てを受け止めて歩き出す事が、自らの使命だとでもいう様に。
おかげで、ゼシカの心には、羞恥と罪悪感だけが取り残された。前を行くアンジェリカに言葉を掛けたかった。
しかし、どんな言葉も、自分とアンジェリカを余計に傷付けてしまいそうで、喉に詰まって音にはならなかった。
奥へ進む毎に、異臭が強くなり、イヤな気配は大きくなって行った。
今度は、エイトとヤンガスも影響を受けた様子で、背中を丸めて腕を摩っている。
しっかりと背筋を伸ばして歩みを進めているのは、先頭を行くアンジェリカだけとなった。
アンジェリカは、仲間と自分の間に、薄く頑丈な一枚の壁を感じて、歩いていた。手を伸ばせば触れらる距離にいながら、決して縋ることの出来ない存在に、歯痒い想いを抱いて。
エイトとヤンガスも、ゼシカとアンジェリカに気を使ってか、口数がめっきり少なくなった。喋ることといえば、注意を促す掛け声だけ。
「アンジェ」
ふと、背後から声が聞こえ、アンジェリカは足を止めた。振り返ったその顔は、何時もとまるで同じ、穏やかなもので、ゼシカは面食らってしまった。
「何かしら?」
アンジェリカが首を傾げた所で、ゼシカはようやく声を取り戻した。彼女は、ほんの少し躊躇ってから、エイトとヤンガスを抜かして、アンジェリカの隣へ歩み寄り、遠慮がちに袖を掴んだ。
「あのね......、私......ごめん」
「え?」
「え? じゃないわよ!」
ゼシカは、反射的に大声を出してしまった。
「傷付いたんでしょう?! どうして怒ってくれないのよ!! 私......貴女に酷いことを......」
謝罪するつもりでいたのに、ゼシカの方が感情に呑まれてしまった。そんな彼女を、アンジェリカは当たり前の様に励ます。
「全然気にしてなーー」
「ごめんなさい! 私がこんなに弱いから、貴女は甘えられなくなっちゃうのよね......」
「そんなこーー」
「ねえ、アンジェ。私、もっと強くなるから。だから、ごめん。もう少しだけ、力を貸してください!」
ゼシカは深々と頭を下げた。
「私、怖くて仕方がないの。......この部屋の先に、何かがいるわ。貴女にも分かるんでしょう?」
「ええ」
アンジェリカは、完璧な微笑のまま、頷いた。ゼシカは、唯一の同性の仲間の心が、完全に閉ざされてしまった事を悟った。
ゼシカが力なく項垂れると、その頭をアンジェリカが撫でた。それは、同じ立場の仲間に対する労わりでは無く、庇護の対象に示す励ましだ。
「大丈夫。勝てるわ。」
アンジェリカは、再び歩き出した。そして、恐らく最後の扉を、躊躇いもせずに押し開けた。
祭壇の間。教壇に暗い影が、杖に縋りながら立っていた。