マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
01:トラペッタ編
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マスター・ライラスが亡くなってから、一週間の時が過ぎた。
アンジェリカは、宿屋の一室を借り、街の人々に魔法を教授していた。皆、不安なのだ。罪の無い爺さんが一人殺された。明日は我が身かもしれない、と。
「アンジェリカさん、何か身を守れる呪文を教えてくれよ」
防具屋の一人息子がそう頼んで来た。周りに集まった十人程度の大人子供は、一様に頷く。
しかし、アンジェリカは首を横に振った。
「身を守る呪文は幾つかあります。だけど、初心者には難しい。何故だか分かるかしら?」
彼女の問いに、誰一人答えを出せなかった。
「そういう呪文は自分に掛けるものだから、失敗したら、最悪死んじゃうの。まずは、自分に魔法の力があるのか知る必要があるから......」
アンジェリカは、メラを唱えた。小さな火の玉が指先に現れ、そして消えた。
「呪文の言葉には、それ自体に不思議な力がある。だから、もし失敗しても、通常その呪文本来の力以上は現れないから、安心してください。......でも、そうね」
アンジェリカは、ザッと生徒達を見回し神経を研ぎ澄ませた。何人かは魔法の才能がある。逆に何人かは、全く力を感じられない。後の数人は、訓練次第だろう。
「実践は外でやりましょう。この建物を丸焦げにしてしまったら、私は本当に住む場所が無くなってしまうわ」
彼女が木の椅子から立ち上がった時だ。外から大きな悲鳴が聞こえて来た。部屋の住人達の顔が凍り付き、震えだした。まるで頼りになりそうも無い。
「ちょっと、外を見て来ます」
アンジェリカ当たり前の様に、扉へ向かった。立ち去る直前に、念のため、スクルトとフバーハを唱えた。
階段を駆け下り、外へ出ると、罵声や悲鳴の織り混ざった叫びが耳を貫いた。どうやら、騒ぎは広場で起きているらしい。ただ事では無い。
人の群れを掻き分けて進むと、騒動の先には、気品のある白馬と......緑色のおっさん。
ただ、アンジェリカは一目で分かった。強い呪いの力だ。白馬も、緑色も、両方、本来は違う姿の何かだ。
やがて、一人の好青年と、山賊風情の男が、馬車を庇うようにして街を出た。人々はその場にへたり込んだり、怒声を上げたりしていたが、アンジェリカは確信したのだ。
広場を横切り、街の扉を潜ると、緑色のおっさんが、酷く打ち拉がれた様子で、項垂れていた。
「大丈夫ですか?!」
アンジェリカは、躊躇なく駆け寄り、まずは白馬の体に付いた、投石による傷を手当てした。次に腰を屈め、緑色のおっさんに目線を合わせ、彼の額に出来た傷を癒した。
「おお!」
おっさんは平らになった頭を撫で、やけに尊大な態度でこう言った。
「どこのどなたか存ぜぬが、感謝するぞい! 心の傷まで、スッキリと癒えたわい。のう、ミーティア姫?」
彼の言葉に、白馬は一つ嘶いた。
アンジェリカは、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。ミーティア姫......それは、トロデーン国の姫君の名だ。
「やはり、この美しいお馬さんは、呪いを掛けられていたのですね」
彼女がたてがみを撫でると、白馬は心地良さそうに目を閉じた。
緑色のおっさんは、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「話の分かる奴がおって、何よりじゃ! ミーティアに良く似た美人さんだしのう。そなた、名は何という?」
「アンジェリカと申します。」
「わしゃ、トロデーン国王のトロデじゃ。信じられんかも知れんがな」
「信じます」
アンジェリカは膝を折り、頭を下げた。
「お許し頂ける様でしたら、事情をお聞かせ願えますか?」
「ええい! 全てあの道化師のせいじゃ!!」
「......道化師?」
「ドルマゲスとか言う馬鹿者が、我が国の秘宝である杖を持ち出したのじゃ! お陰でワシらはこんな姿になり、城は廃墟になってしもうた」
「ドルマゲスですって! それじゃあ、やっぱり......」
彼は、魔法を使いたがっていた。努力もしていた。しかし何年経っても、簡単な攻撃呪文すら習得出来ずに苦しんでいた。
アンジェリカは、つい先日、ようやく許しを得て読んだ、本の内容を思い出す。トロデーン城には、強い魔法の力を封じた杖があるという伝承を。ドルマゲスは何かのきっかけで、その杖を知り、手にしたのだ。
「私はマスター・ライラスの養女として、修行を積んでいました。ドルマゲスの事も、勿論存じております。」
「何だって?!」
棘だらけの兜を被った、山賊風情の男が大声を出した。
「それじゃあ、話しが早いでゲスよ! ライラスの爺さんの所へ案内してくだせえ!!」
「ヤンガス、彼女がビックリしているよ。」
好青年がイガグリ頭を制し、手を差し出した。
「トロデーン国の近衛兵、エイト。こっちは、ヤンガス」
アンジェリカは、握手に応じ、其れから胸を抑えて項垂れた。
「マスター・ライラスは......一週間ほど前、ドルマゲスに殺されました」
「何じゃと?!」
トロデは、丸い目を更に大きく見開き、フラフラと尻餅をついた。
「自らの師を手に掛けるとは......」
「何かお力になれる事があれば良いのですが」
そこで、アンジェリカは、ふとユリマの事を思い出した。彼女の父親は、昔名うての占い師だったらしい。今もその力が残っているのかは、不明だが。
「アンジェリカ」
突然背後から声が掛かり、アンジェリカは飛び上がった。
「ユリマ......」
「今のお話、聞かせて頂きました。私の父は、かつて高名な占い師でした。父が本来の力を取り戻せば、お力になれる筈です。でも、其れには、本物の水晶が必要なんです」
「それって、何処にあるのか分かるかしら?」
アンジェリカが単刀直入に尋ねると、ユリマは天を仰ぎ、記憶を辿った。
「そう......確か、この先にある滝の洞窟の奥底に棄てたと......そんな事を言っていました」
「ありがとう。直ぐに探しに行くわ」
アンジェリカは、ライラスに譲られた魔導師の杖を構え直した。そして、すかさずユリマの頬に付いた傷を癒した。おそらく酔った父親に付けられたものだ。
ユリマの父親は、すこぶる酒癖の悪い男だったが、決してユリマにだけは手を上げない。ところが、マスター・ライラスが亡くなった頃から、何時にも増して飲んだくれる様になったと聞く。殆ど意識も無いうちに、誤って怪我をさせたのだろう。
「貴女は街で待っていて」
アンジェリカの言葉に、ユリマは頷くより他に無かった。自分は非力で、何も出来ない人間なのだ。
そこで、ユリマはエイト達に向かって頭を下げた。
「お願いします。皆さんも、アンジェリカに力を貸して下さい。彼女は、私の大切な親友なんです!」
「案ずるな、娘さんよ。ワシはこのお嬢さんを気に入った! ドルマゲスを追う目的は同じじゃ!」
「では、ご一緒させて頂きます」
アンジェリカは、嬉しそうに微笑んだ。それからミーティア姫の顔を撫で、語り掛ける。
「姫様にも、同行をお許しいただけますか?」
ミーティアは、首を縦に振った。
トロデは、ミーティアを丁重に扱うアンジェリカを、心底気に入ったらしい。満足げに笑い、馬車に飛び乗った。
「さあ、そうと決まれば、善は急げじゃ!」
「まったく、おっさんは単純でがすな」
ヤンガスは呆れた様子で首を振り、黙って馬車の後を着いて行った。
「じゃあね!」
アンジェリカは、ユリマに短く手を振り、仲間の後を追った。
アンジェリカは、宿屋の一室を借り、街の人々に魔法を教授していた。皆、不安なのだ。罪の無い爺さんが一人殺された。明日は我が身かもしれない、と。
「アンジェリカさん、何か身を守れる呪文を教えてくれよ」
防具屋の一人息子がそう頼んで来た。周りに集まった十人程度の大人子供は、一様に頷く。
しかし、アンジェリカは首を横に振った。
「身を守る呪文は幾つかあります。だけど、初心者には難しい。何故だか分かるかしら?」
彼女の問いに、誰一人答えを出せなかった。
「そういう呪文は自分に掛けるものだから、失敗したら、最悪死んじゃうの。まずは、自分に魔法の力があるのか知る必要があるから......」
アンジェリカは、メラを唱えた。小さな火の玉が指先に現れ、そして消えた。
「呪文の言葉には、それ自体に不思議な力がある。だから、もし失敗しても、通常その呪文本来の力以上は現れないから、安心してください。......でも、そうね」
アンジェリカは、ザッと生徒達を見回し神経を研ぎ澄ませた。何人かは魔法の才能がある。逆に何人かは、全く力を感じられない。後の数人は、訓練次第だろう。
「実践は外でやりましょう。この建物を丸焦げにしてしまったら、私は本当に住む場所が無くなってしまうわ」
彼女が木の椅子から立ち上がった時だ。外から大きな悲鳴が聞こえて来た。部屋の住人達の顔が凍り付き、震えだした。まるで頼りになりそうも無い。
「ちょっと、外を見て来ます」
アンジェリカ当たり前の様に、扉へ向かった。立ち去る直前に、念のため、スクルトとフバーハを唱えた。
階段を駆け下り、外へ出ると、罵声や悲鳴の織り混ざった叫びが耳を貫いた。どうやら、騒ぎは広場で起きているらしい。ただ事では無い。
人の群れを掻き分けて進むと、騒動の先には、気品のある白馬と......緑色のおっさん。
ただ、アンジェリカは一目で分かった。強い呪いの力だ。白馬も、緑色も、両方、本来は違う姿の何かだ。
やがて、一人の好青年と、山賊風情の男が、馬車を庇うようにして街を出た。人々はその場にへたり込んだり、怒声を上げたりしていたが、アンジェリカは確信したのだ。
広場を横切り、街の扉を潜ると、緑色のおっさんが、酷く打ち拉がれた様子で、項垂れていた。
「大丈夫ですか?!」
アンジェリカは、躊躇なく駆け寄り、まずは白馬の体に付いた、投石による傷を手当てした。次に腰を屈め、緑色のおっさんに目線を合わせ、彼の額に出来た傷を癒した。
「おお!」
おっさんは平らになった頭を撫で、やけに尊大な態度でこう言った。
「どこのどなたか存ぜぬが、感謝するぞい! 心の傷まで、スッキリと癒えたわい。のう、ミーティア姫?」
彼の言葉に、白馬は一つ嘶いた。
アンジェリカは、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。ミーティア姫......それは、トロデーン国の姫君の名だ。
「やはり、この美しいお馬さんは、呪いを掛けられていたのですね」
彼女がたてがみを撫でると、白馬は心地良さそうに目を閉じた。
緑色のおっさんは、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「話の分かる奴がおって、何よりじゃ! ミーティアに良く似た美人さんだしのう。そなた、名は何という?」
「アンジェリカと申します。」
「わしゃ、トロデーン国王のトロデじゃ。信じられんかも知れんがな」
「信じます」
アンジェリカは膝を折り、頭を下げた。
「お許し頂ける様でしたら、事情をお聞かせ願えますか?」
「ええい! 全てあの道化師のせいじゃ!!」
「......道化師?」
「ドルマゲスとか言う馬鹿者が、我が国の秘宝である杖を持ち出したのじゃ! お陰でワシらはこんな姿になり、城は廃墟になってしもうた」
「ドルマゲスですって! それじゃあ、やっぱり......」
彼は、魔法を使いたがっていた。努力もしていた。しかし何年経っても、簡単な攻撃呪文すら習得出来ずに苦しんでいた。
アンジェリカは、つい先日、ようやく許しを得て読んだ、本の内容を思い出す。トロデーン城には、強い魔法の力を封じた杖があるという伝承を。ドルマゲスは何かのきっかけで、その杖を知り、手にしたのだ。
「私はマスター・ライラスの養女として、修行を積んでいました。ドルマゲスの事も、勿論存じております。」
「何だって?!」
棘だらけの兜を被った、山賊風情の男が大声を出した。
「それじゃあ、話しが早いでゲスよ! ライラスの爺さんの所へ案内してくだせえ!!」
「ヤンガス、彼女がビックリしているよ。」
好青年がイガグリ頭を制し、手を差し出した。
「トロデーン国の近衛兵、エイト。こっちは、ヤンガス」
アンジェリカは、握手に応じ、其れから胸を抑えて項垂れた。
「マスター・ライラスは......一週間ほど前、ドルマゲスに殺されました」
「何じゃと?!」
トロデは、丸い目を更に大きく見開き、フラフラと尻餅をついた。
「自らの師を手に掛けるとは......」
「何かお力になれる事があれば良いのですが」
そこで、アンジェリカは、ふとユリマの事を思い出した。彼女の父親は、昔名うての占い師だったらしい。今もその力が残っているのかは、不明だが。
「アンジェリカ」
突然背後から声が掛かり、アンジェリカは飛び上がった。
「ユリマ......」
「今のお話、聞かせて頂きました。私の父は、かつて高名な占い師でした。父が本来の力を取り戻せば、お力になれる筈です。でも、其れには、本物の水晶が必要なんです」
「それって、何処にあるのか分かるかしら?」
アンジェリカが単刀直入に尋ねると、ユリマは天を仰ぎ、記憶を辿った。
「そう......確か、この先にある滝の洞窟の奥底に棄てたと......そんな事を言っていました」
「ありがとう。直ぐに探しに行くわ」
アンジェリカは、ライラスに譲られた魔導師の杖を構え直した。そして、すかさずユリマの頬に付いた傷を癒した。おそらく酔った父親に付けられたものだ。
ユリマの父親は、すこぶる酒癖の悪い男だったが、決してユリマにだけは手を上げない。ところが、マスター・ライラスが亡くなった頃から、何時にも増して飲んだくれる様になったと聞く。殆ど意識も無いうちに、誤って怪我をさせたのだろう。
「貴女は街で待っていて」
アンジェリカの言葉に、ユリマは頷くより他に無かった。自分は非力で、何も出来ない人間なのだ。
そこで、ユリマはエイト達に向かって頭を下げた。
「お願いします。皆さんも、アンジェリカに力を貸して下さい。彼女は、私の大切な親友なんです!」
「案ずるな、娘さんよ。ワシはこのお嬢さんを気に入った! ドルマゲスを追う目的は同じじゃ!」
「では、ご一緒させて頂きます」
アンジェリカは、嬉しそうに微笑んだ。それからミーティア姫の顔を撫で、語り掛ける。
「姫様にも、同行をお許しいただけますか?」
ミーティアは、首を縦に振った。
トロデは、ミーティアを丁重に扱うアンジェリカを、心底気に入ったらしい。満足げに笑い、馬車に飛び乗った。
「さあ、そうと決まれば、善は急げじゃ!」
「まったく、おっさんは単純でがすな」
ヤンガスは呆れた様子で首を振り、黙って馬車の後を着いて行った。
「じゃあね!」
アンジェリカは、ユリマに短く手を振り、仲間の後を追った。