マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
03:ポルトリンク編
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ポルトリンクに着くなり、アンジェリカは老年の如く杖に縋り、船から降りた。桟橋に腰掛け、空を仰ぐ。周りは青一色だというのに、同じ色の、彼女の欲する物が届けられるまで、五分も掛かった。
「お待たせ」
ゼシカが、アンジェリカに皮袋を手渡した。彼女は礼を言う余裕も無く受け取り、中の真水を一気に飲み干した。
その仕草は海の男顔負けで、か弱い乙女とは程遠いものであった。
ゼシカは、自分と歳の近い少女の隣に座り、少し俯いた。
「本当にごめんなさい。......私ね、まさかあんなに大きな魔物だと思わなかった。一人じゃ倒せなかったと思うわ。......貴女にも、みんなにも、沢山迷惑をかけちゃった」
水夫たちは、次の船出へ向けて、船の点検をしている。安全が確認され次第、アンジェリカ達は、すぐに旅立つ事に決めていた。
エイトとヤンガスは、ゼシカと自己紹介を交わして、道具屋へ走った。念のため、薬草や、乾飯などを補充する為だ。
疲れ果てたアンジェリカは、束の間の休息を選び、残った。ゼシカは、負い目を感じていたらしく、彼女の願いを聞き入れ、水を持って来た。
「ごめんなさい。貴女に自己紹介をしていなかったわね。......私はゼシカ。ゼシカ・アルバート。貴女は?」
「......アンジェリカ」
アンジェリカは掠れた声で答え、逡巡の後、ゼシカの瞳を見据えた。
「アンジェリカ・ライラスです」
「ライラス?!」
ゼシカは目を丸くして、口元を覆った。
「ライラスって、あのライラス?! トラペッタの......凄い魔法使いの......」
彼女は勝手に合点がいった様子で頷いた。
「そうなんだ。だから、強いのね」
「違うわ」
アンジェリカは、少し棘のある声色で否定した。
「私は養女です。ライラス家の血は途絶えました」
血縁が人を強くするのだろうか。それは、違う。アンジェリカは、積年の思いを、心中に燻らせた。
彼女は、何処かで違う生き方を選ぶ事も出来た。文字も読めるし、計算も出来る。だから、商売を始めようと思えば、其れも叶ったはずだ。
しかし、それでも養父の元で魔法を学ぶ道を選んだ。
理由など、幾らでも付け加えられる。魔法を成功させれば、養父は不器用ながらに頭を撫でてくれた。それが嬉しかったから。
他にも、人の役に立ちたいと思った事や、魔法の力を美しいと感じた事など。
けれど、根幹にある意志は、もっと切実な物だ。
文献を漁り、知識を身に付け、日々世界は広がって行った。知れば知るほど、自分の無知を思い知らされ、それらの事を知らないままに生きていた可能性を想像すると、寂しさと恐怖を覚えた。
だから、学ぶ事を続けたのだ。その結果、力を手に入れたのだ。彼女が養父の命を、ただ嘆いて見送るだけでは無く、悲しみを抱きながら歩き出す事が出来たのは、"戦うという選択肢"を知っていたからだ。
人は、誰でも強くなれる。"学ぶという事"を学びさえすれば。
「私はとっても怖がりです。夜の蝋燭の影がお化けに見えて泣いたり、魔物を目の前にしたら、足が竦んでしまったり」
でも、とアンジェリカは続ける。
「何も出来ない自分の方が、ずっと怖いんです。だから、私は、目を背ける事が出来ないだけで......」
「......そうなんだ」
ゼシカは、感慨深げに蒼穹を仰いだ。彼女は、初めてアンジェリカの事を、自分と同じ人間だと思えた。
アンジェリカの強さは、弱さだったのだ。
「ねえ、アンジェリカ。私ね、実は貴女に嫉妬してたの」
ゼシカは、ようやく素直な気持ちで、アンジェリカと向き合えた。
「兄さんにも、村のみんなにも、魔法の才能があるって言われてた。自分でもそう思ってた。だけど、貴女の強さを前にして......そう、知ったのよ。私は、まだまだなんだって。貴女みたいな天才が、世界にはいっぱいいて、自分は特別な存在なんかじゃ無いって」
「そんなーー」
「でもね」
ゼシカは微笑んだ。
「アンジェリカも、特別なんかじゃ無いって分かった。エイトも、ヤンガスも。ヤンガスなんか、魔法もロクに使えないけれど、それでもあんなに強いじゃない。......きっと人間って、自分の弱い所を知れば、強くなれるのよね? 勇気を貰ったの。私もきっと、ドルマゲスを倒せる、特別な存在になれるって。だから......」
彼女は深々と頭を下げた。
「ありがとう。危険な目に遭わせてごめんなさい。......他の二人には、もう話したんだけど、目的が同じなら、私も一緒に旅をしても良いかな? 今度は、見ているだけじゃなくて、一緒に戦うから! もっと強くなるから!!」
「勿論です」
アンジェリカは、胸の奥に温もりを感じて、頷いた。ずっと抱えていた寂しさが、ようやく取り払われた気がした。
アンジェリカの弱さを知り、同じ人間として向き合える仲間。お互いを高めあえる......ゼシカは、親友、そしてライバルとして、申し分ない存在だった。
「よろしくお願いします、ゼシカさん!」
「ゼシカで良いわよ。その代わり、貴女は......そうね、アンジェって呼ぶわ」
二人が打ち解けた頃、水夫の歓声が聞こえてきた。どうやら、船出の準備が整ったらしい。
タイミングを見計らった様に、馬車を曳きいてエイト達が戻って来た。
「お帰りなさい!」
アンジェリカが、元気いっぱいに声を掛けると、エイトは片手を挙げて応えた。
新たな仲間を加えた一行は、大型輸送船に乗り込んだ。目指すはマイエラ地方の船着場。アンジェリカの故郷だ。
船が陸地を離れた頃、ゼシカは改めてミーティアに目をやった。
「それにしても、立派な馬ね。ううん、馬車も立派。中はどうなっているのかしら?」
幌を覗き込むゼシカ。
エイト、ヤンガス、アンジェリカは、ハッとして視線を交わした。すっかり忘れていたのだが、旅の仲間はもう一人......いや、今現在の状態では、もう一匹いた。
「何コレ!!!!!!!!」
ゼシカの悲鳴が、船中に響き渡った。緑色のおっさんは、得体の知れない缶詰を頬張りながら、ニヤリと笑って振り向いた。
駆けつけて来た水夫達を追い返し、ゼシカにトロデーン城での不幸を説明するのに、苦労人エイトは、かなりの精神をすり減らす事となった。
「お待たせ」
ゼシカが、アンジェリカに皮袋を手渡した。彼女は礼を言う余裕も無く受け取り、中の真水を一気に飲み干した。
その仕草は海の男顔負けで、か弱い乙女とは程遠いものであった。
ゼシカは、自分と歳の近い少女の隣に座り、少し俯いた。
「本当にごめんなさい。......私ね、まさかあんなに大きな魔物だと思わなかった。一人じゃ倒せなかったと思うわ。......貴女にも、みんなにも、沢山迷惑をかけちゃった」
水夫たちは、次の船出へ向けて、船の点検をしている。安全が確認され次第、アンジェリカ達は、すぐに旅立つ事に決めていた。
エイトとヤンガスは、ゼシカと自己紹介を交わして、道具屋へ走った。念のため、薬草や、乾飯などを補充する為だ。
疲れ果てたアンジェリカは、束の間の休息を選び、残った。ゼシカは、負い目を感じていたらしく、彼女の願いを聞き入れ、水を持って来た。
「ごめんなさい。貴女に自己紹介をしていなかったわね。......私はゼシカ。ゼシカ・アルバート。貴女は?」
「......アンジェリカ」
アンジェリカは掠れた声で答え、逡巡の後、ゼシカの瞳を見据えた。
「アンジェリカ・ライラスです」
「ライラス?!」
ゼシカは目を丸くして、口元を覆った。
「ライラスって、あのライラス?! トラペッタの......凄い魔法使いの......」
彼女は勝手に合点がいった様子で頷いた。
「そうなんだ。だから、強いのね」
「違うわ」
アンジェリカは、少し棘のある声色で否定した。
「私は養女です。ライラス家の血は途絶えました」
血縁が人を強くするのだろうか。それは、違う。アンジェリカは、積年の思いを、心中に燻らせた。
彼女は、何処かで違う生き方を選ぶ事も出来た。文字も読めるし、計算も出来る。だから、商売を始めようと思えば、其れも叶ったはずだ。
しかし、それでも養父の元で魔法を学ぶ道を選んだ。
理由など、幾らでも付け加えられる。魔法を成功させれば、養父は不器用ながらに頭を撫でてくれた。それが嬉しかったから。
他にも、人の役に立ちたいと思った事や、魔法の力を美しいと感じた事など。
けれど、根幹にある意志は、もっと切実な物だ。
文献を漁り、知識を身に付け、日々世界は広がって行った。知れば知るほど、自分の無知を思い知らされ、それらの事を知らないままに生きていた可能性を想像すると、寂しさと恐怖を覚えた。
だから、学ぶ事を続けたのだ。その結果、力を手に入れたのだ。彼女が養父の命を、ただ嘆いて見送るだけでは無く、悲しみを抱きながら歩き出す事が出来たのは、"戦うという選択肢"を知っていたからだ。
人は、誰でも強くなれる。"学ぶという事"を学びさえすれば。
「私はとっても怖がりです。夜の蝋燭の影がお化けに見えて泣いたり、魔物を目の前にしたら、足が竦んでしまったり」
でも、とアンジェリカは続ける。
「何も出来ない自分の方が、ずっと怖いんです。だから、私は、目を背ける事が出来ないだけで......」
「......そうなんだ」
ゼシカは、感慨深げに蒼穹を仰いだ。彼女は、初めてアンジェリカの事を、自分と同じ人間だと思えた。
アンジェリカの強さは、弱さだったのだ。
「ねえ、アンジェリカ。私ね、実は貴女に嫉妬してたの」
ゼシカは、ようやく素直な気持ちで、アンジェリカと向き合えた。
「兄さんにも、村のみんなにも、魔法の才能があるって言われてた。自分でもそう思ってた。だけど、貴女の強さを前にして......そう、知ったのよ。私は、まだまだなんだって。貴女みたいな天才が、世界にはいっぱいいて、自分は特別な存在なんかじゃ無いって」
「そんなーー」
「でもね」
ゼシカは微笑んだ。
「アンジェリカも、特別なんかじゃ無いって分かった。エイトも、ヤンガスも。ヤンガスなんか、魔法もロクに使えないけれど、それでもあんなに強いじゃない。......きっと人間って、自分の弱い所を知れば、強くなれるのよね? 勇気を貰ったの。私もきっと、ドルマゲスを倒せる、特別な存在になれるって。だから......」
彼女は深々と頭を下げた。
「ありがとう。危険な目に遭わせてごめんなさい。......他の二人には、もう話したんだけど、目的が同じなら、私も一緒に旅をしても良いかな? 今度は、見ているだけじゃなくて、一緒に戦うから! もっと強くなるから!!」
「勿論です」
アンジェリカは、胸の奥に温もりを感じて、頷いた。ずっと抱えていた寂しさが、ようやく取り払われた気がした。
アンジェリカの弱さを知り、同じ人間として向き合える仲間。お互いを高めあえる......ゼシカは、親友、そしてライバルとして、申し分ない存在だった。
「よろしくお願いします、ゼシカさん!」
「ゼシカで良いわよ。その代わり、貴女は......そうね、アンジェって呼ぶわ」
二人が打ち解けた頃、水夫の歓声が聞こえてきた。どうやら、船出の準備が整ったらしい。
タイミングを見計らった様に、馬車を曳きいてエイト達が戻って来た。
「お帰りなさい!」
アンジェリカが、元気いっぱいに声を掛けると、エイトは片手を挙げて応えた。
新たな仲間を加えた一行は、大型輸送船に乗り込んだ。目指すはマイエラ地方の船着場。アンジェリカの故郷だ。
船が陸地を離れた頃、ゼシカは改めてミーティアに目をやった。
「それにしても、立派な馬ね。ううん、馬車も立派。中はどうなっているのかしら?」
幌を覗き込むゼシカ。
エイト、ヤンガス、アンジェリカは、ハッとして視線を交わした。すっかり忘れていたのだが、旅の仲間はもう一人......いや、今現在の状態では、もう一匹いた。
「何コレ!!!!!!!!」
ゼシカの悲鳴が、船中に響き渡った。緑色のおっさんは、得体の知れない缶詰を頬張りながら、ニヤリと笑って振り向いた。
駆けつけて来た水夫達を追い返し、ゼシカにトロデーン城での不幸を説明するのに、苦労人エイトは、かなりの精神をすり減らす事となった。