マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
03:ポルトリンク編
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「よし、碇を揚げろ!!」
水夫の声が響き、遂に船は港を離れた。エイト達は甲板に立ち、目を凝らす。どの方角から、どの様に魔物が攻めて来ても、即座に対応できる様に。
陸が遠くなればなるほど、夢主は不安に駆られていった。水深の深い所へ進めば、その分魔物が巨大である可能性も高い。
そして、それは、突然やって来た。水面が泡立ち、ヌッと巨大な触手が二本現れたかと思うと、赤く丸い頭が飛び出して来た。
タコの様な外見のソイツは、けれどタコの数百倍はデカい。船の横幅とほぼ同じ大きさだ。
「気に入らねえなぁ」
タコは、そう一言。全く同じ言葉を、人間側からも返してやりたかった。しかし、変に神経を逆なでしない様にと、出方を伺った。
「全く気に入らねえ! 何時も何時も、何の断りもなく、このオセアーノン様の頭上を通りやがって」
また、頭絡みだ。しかし、このタコの場合、滝壺では無く、広大な海に住んでいるのだから、幾らでも身動きが取れよう。
アンジェリカは想定外に巨大な敵を見据えて、溜め息を堪えた。
オセアーノンは、愚痴愚痴と文句を垂れ流し続けた。
「なあ、おい。全くニンゲンって奴は、躾がなってねえと思わねえか?!」
その場に居合わせた全員が、心中で「知らねえよ!」とツッコミを入れた。エイト達もゼシカも、このタコの頭上を通るのは初めての事だし、怒られる筋合いは無い。
そんなに気に入らないのなら、ザバンの様に「迂回せよ」とでも書いて、立て札でも設置すれば良い。
「ああ、思う、思う! 前から思ってた!!」
オセアーノンは、触手を指人形の様に使い、一人で勝手に会話を進めていく。
「そんじゃ、まあ、海に生きるものを代表して、この俺様が、ニンゲン喰っちまうか? ......ああ。喰っちまえ、喰っちまえ!!」
勝手に自己完結し、飛び上がる巨体。
「スクルト!!!」
アンジェリカは、ありったけの魔力込めて詠唱した。咄嗟にゼシカを背後に庇い、杖を投げ出す。代わりに、腰紐に挟んでおいた鉄の扇を手に、体勢を整えた。
相手はタコだけあって、腕が八本。そのうち特別器用で、力強いのが、人間でいえば、手の部分の二本。
ヤンガスとエイトは、其々の武器を手に、強化された全身を使って、振り下ろされる吸盤だらけの腕を受け止めていた。
船に傷を付けてはいけない。全員の命に関わる。しかし、いかんせん、敵の腕が多過ぎる。
「きゃっ!」
船が大きく揺れ、ゼシカは船縁にしがみ付いた。
「大丈夫か?!」
水夫の一人が、船室から飛び出して来て、彼女を支えた。そして、魔物の姿を目の当たりにし、血の気を失った。
「こんなに......こんな、でっけえヤツに、オレらの仲間は......」
「ゼシカさんを、安全なところへ!!」
アンジェリカは叫び、立ち上がった。ゼシカはそんな彼女に手を伸ばす。
「待って......待ってよ! もう良いわ!! 私が甘かったの!! 一旦逃げましょう?!」
「逃げたら、もう二度と戦えません!!」
アンジェリカは、血を吐く勢いで返した。本当は怖い。痛い思いなどしたくはないし、死にたくもない。けれど、一度背を向けてしまえば、再び立ち向かうだけの勇気が、自分には無いと分かっていた。
「ええい!」
ヤンガスが歯を食いしばり、悔しげに漏らす。
「本体に、あっしの一撃でもお見舞いできりゃ!!」
「ヤンちゃん、代わって!」
アンジェリカは、扇を畳んだ状態で、彼と場所を入れ替わった。重い一撃が腕を痺れさせたが、弱音は吐けなかった。
その隙に、ヤンガスは斧を振りかぶり、大きく宙返りをした。オセアーノンの顔面中央に、魔法の力を伴った一撃が叩き込まれる。相手の守備力を下げる、かぶとわりという技だ。ある程度斧を使いこなした者だけが使える、特別な技。
効果はてきめんだった。オセアーノンは、悲鳴を挙げて頭を摩った。隙が生まれた。
アンジェリカは、咄嗟に策を思い付いたが、実行するには、扇よりも杖が適している。
「任せて!!」
エイトが、次の一手を受け止めた。彼とヤンガスが先陣に立ち、アンジェリカ一旦、後退した。扇を投げ捨て、代わりに杖を手にする。
最初に人間全員に、マホカンタを掛けた。これは危険な賭けだ。攻撃呪文だけではなく、回復呪文も跳ね返す様になってしまうからだ。
後には引けない。アンジェリカは極限まで集中し、詠唱した。
「ライデイン!」
全身水に浸かっていたオセアーノンに、電気の呪文は大打撃を与えた。彼は聞き苦しい叫びと共に、半分海に沈んだ。
「やった......の?」
エイトが海を覗き込むと、オセアーノンは頭を撫で着けながら、上目遣いに声を上げた。
「いや~。お強いんですね。おみそれしました。いえ、ホント、ホント」
突然、近所のおばさんの様なノリで、ゴマをするタコ。
「コレ、言い訳っぽいんですが、今回の件、ワタシのせいじゃないんですよ。そうそう! アイツのせいなんです! ......いえ、ね。この前、道化師みたいな野郎が、海の上をスイスイと歩いていましてね」
「道化師!」
ヤンガスは、ウンザリした様子で肩を落とした。オセアーノンは、頼みもしないのに、ペラペラと話を続ける。
「ニンゲンのくせに、海の上を歩くなんて、ナマイキな奴だと思って睨んでてたら、睨み返されまして......。それ以来、ワタシ、身も心もヤツに乗っ取らちゃったんですねぇ。船を襲ったのも、その所為なんですよ」
「つまり、また八つ当たりに遭ったって事?」
エイトが、深い息を吐いた。運が無いにも程がある。ドルマゲスの辿った道を歩くと、どうもロクなことが起こらない。
自称犠牲者のタコは、両腕を掲げ、何かを差し出した。
「てなわけで、悪いのは、ワタシじゃなくて、あの道化師なんですが、これは、ほんのお詫びの気持ちです。海の底に落ちてた物で、恐縮ですが......」
金のブレスレット。エイトが受け取ると、オセアーノンは、腕を振って見せた。
「それじゃ、ワタシはこの辺で退散しますね。ではでは、皆さん。良い船旅をば~」
言うだけ言うと、彼は海の底に姿を消してしまった。自己中と無責任も、此処まで来ると立派である。
一瞬の後、全員が一斉に脱力し、その場にへたり込んでいた。
エイトは剣を鞘に収め、ヤンガスは斧を背負い直した。
一番ダメージを受けていたのは、今回もアンジェリカだった。加減をせずに、自分の限界も分からぬまま、魔力を解き放った彼女は、杖に縋り付く様にして、浅い呼吸を繰り返した。
「アンジェ姐さん!」
ヤンガスは、ギョッとして彼女に駆け寄った。
「ああ、あっしが不甲斐ないばっかりに!! どうすりゃ良いんでがすか!!!」
「落ち着いてよ!」
ゼシカは、自分の罪悪感を隠す様に、強い口調で制した。
「魔法を使い過ぎたから、疲れただけよね? ねえ、一度、さっきの港に戻りましょう? 私、船を戻す様に言ってくるわ!!」
彼女が走り去った所で、エイトもアンジェリカの元へ駆け寄った。
「本当に大丈夫なの?! ......すごい汗だよ!」
彼は道具袋から、麻の布切れを取り出して、アンジェリカの額を拭った。彼女は小さな声で礼を述べ、片手を挙げてみせた。今は、それが、せいいっぱいの"大丈夫"のサインだった。
失われた魔法の力は、体を休める事で回復する。......その全てを使い切らない限りは。
この世界には、沢山の謎がある。魔法もその一つだ。魔力を持つ者もいれば、持たない者もいる。家柄や国籍、信仰に拘らず......まるで神が無作為に選んだかの様に、魔法使いは生まれる。
魔力は、まるで命と紐付けされているかの様に、繊細で、力強い。
それを全て使い切る事......例としてあげるならば、アンジェリカの母がそうした様に、メガザルを唱えれば、命を落とす事になる。
アンジェリカは、まだ自分の中に魔力が残っている事を感じたし、実際生きているのだから、そうなのだろう。だから、大丈夫だ。
船はゆっくりと方角を変え、再び港町へと向かった。
水夫の声が響き、遂に船は港を離れた。エイト達は甲板に立ち、目を凝らす。どの方角から、どの様に魔物が攻めて来ても、即座に対応できる様に。
陸が遠くなればなるほど、夢主は不安に駆られていった。水深の深い所へ進めば、その分魔物が巨大である可能性も高い。
そして、それは、突然やって来た。水面が泡立ち、ヌッと巨大な触手が二本現れたかと思うと、赤く丸い頭が飛び出して来た。
タコの様な外見のソイツは、けれどタコの数百倍はデカい。船の横幅とほぼ同じ大きさだ。
「気に入らねえなぁ」
タコは、そう一言。全く同じ言葉を、人間側からも返してやりたかった。しかし、変に神経を逆なでしない様にと、出方を伺った。
「全く気に入らねえ! 何時も何時も、何の断りもなく、このオセアーノン様の頭上を通りやがって」
また、頭絡みだ。しかし、このタコの場合、滝壺では無く、広大な海に住んでいるのだから、幾らでも身動きが取れよう。
アンジェリカは想定外に巨大な敵を見据えて、溜め息を堪えた。
オセアーノンは、愚痴愚痴と文句を垂れ流し続けた。
「なあ、おい。全くニンゲンって奴は、躾がなってねえと思わねえか?!」
その場に居合わせた全員が、心中で「知らねえよ!」とツッコミを入れた。エイト達もゼシカも、このタコの頭上を通るのは初めての事だし、怒られる筋合いは無い。
そんなに気に入らないのなら、ザバンの様に「迂回せよ」とでも書いて、立て札でも設置すれば良い。
「ああ、思う、思う! 前から思ってた!!」
オセアーノンは、触手を指人形の様に使い、一人で勝手に会話を進めていく。
「そんじゃ、まあ、海に生きるものを代表して、この俺様が、ニンゲン喰っちまうか? ......ああ。喰っちまえ、喰っちまえ!!」
勝手に自己完結し、飛び上がる巨体。
「スクルト!!!」
アンジェリカは、ありったけの魔力込めて詠唱した。咄嗟にゼシカを背後に庇い、杖を投げ出す。代わりに、腰紐に挟んでおいた鉄の扇を手に、体勢を整えた。
相手はタコだけあって、腕が八本。そのうち特別器用で、力強いのが、人間でいえば、手の部分の二本。
ヤンガスとエイトは、其々の武器を手に、強化された全身を使って、振り下ろされる吸盤だらけの腕を受け止めていた。
船に傷を付けてはいけない。全員の命に関わる。しかし、いかんせん、敵の腕が多過ぎる。
「きゃっ!」
船が大きく揺れ、ゼシカは船縁にしがみ付いた。
「大丈夫か?!」
水夫の一人が、船室から飛び出して来て、彼女を支えた。そして、魔物の姿を目の当たりにし、血の気を失った。
「こんなに......こんな、でっけえヤツに、オレらの仲間は......」
「ゼシカさんを、安全なところへ!!」
アンジェリカは叫び、立ち上がった。ゼシカはそんな彼女に手を伸ばす。
「待って......待ってよ! もう良いわ!! 私が甘かったの!! 一旦逃げましょう?!」
「逃げたら、もう二度と戦えません!!」
アンジェリカは、血を吐く勢いで返した。本当は怖い。痛い思いなどしたくはないし、死にたくもない。けれど、一度背を向けてしまえば、再び立ち向かうだけの勇気が、自分には無いと分かっていた。
「ええい!」
ヤンガスが歯を食いしばり、悔しげに漏らす。
「本体に、あっしの一撃でもお見舞いできりゃ!!」
「ヤンちゃん、代わって!」
アンジェリカは、扇を畳んだ状態で、彼と場所を入れ替わった。重い一撃が腕を痺れさせたが、弱音は吐けなかった。
その隙に、ヤンガスは斧を振りかぶり、大きく宙返りをした。オセアーノンの顔面中央に、魔法の力を伴った一撃が叩き込まれる。相手の守備力を下げる、かぶとわりという技だ。ある程度斧を使いこなした者だけが使える、特別な技。
効果はてきめんだった。オセアーノンは、悲鳴を挙げて頭を摩った。隙が生まれた。
アンジェリカは、咄嗟に策を思い付いたが、実行するには、扇よりも杖が適している。
「任せて!!」
エイトが、次の一手を受け止めた。彼とヤンガスが先陣に立ち、アンジェリカ一旦、後退した。扇を投げ捨て、代わりに杖を手にする。
最初に人間全員に、マホカンタを掛けた。これは危険な賭けだ。攻撃呪文だけではなく、回復呪文も跳ね返す様になってしまうからだ。
後には引けない。アンジェリカは極限まで集中し、詠唱した。
「ライデイン!」
全身水に浸かっていたオセアーノンに、電気の呪文は大打撃を与えた。彼は聞き苦しい叫びと共に、半分海に沈んだ。
「やった......の?」
エイトが海を覗き込むと、オセアーノンは頭を撫で着けながら、上目遣いに声を上げた。
「いや~。お強いんですね。おみそれしました。いえ、ホント、ホント」
突然、近所のおばさんの様なノリで、ゴマをするタコ。
「コレ、言い訳っぽいんですが、今回の件、ワタシのせいじゃないんですよ。そうそう! アイツのせいなんです! ......いえ、ね。この前、道化師みたいな野郎が、海の上をスイスイと歩いていましてね」
「道化師!」
ヤンガスは、ウンザリした様子で肩を落とした。オセアーノンは、頼みもしないのに、ペラペラと話を続ける。
「ニンゲンのくせに、海の上を歩くなんて、ナマイキな奴だと思って睨んでてたら、睨み返されまして......。それ以来、ワタシ、身も心もヤツに乗っ取らちゃったんですねぇ。船を襲ったのも、その所為なんですよ」
「つまり、また八つ当たりに遭ったって事?」
エイトが、深い息を吐いた。運が無いにも程がある。ドルマゲスの辿った道を歩くと、どうもロクなことが起こらない。
自称犠牲者のタコは、両腕を掲げ、何かを差し出した。
「てなわけで、悪いのは、ワタシじゃなくて、あの道化師なんですが、これは、ほんのお詫びの気持ちです。海の底に落ちてた物で、恐縮ですが......」
金のブレスレット。エイトが受け取ると、オセアーノンは、腕を振って見せた。
「それじゃ、ワタシはこの辺で退散しますね。ではでは、皆さん。良い船旅をば~」
言うだけ言うと、彼は海の底に姿を消してしまった。自己中と無責任も、此処まで来ると立派である。
一瞬の後、全員が一斉に脱力し、その場にへたり込んでいた。
エイトは剣を鞘に収め、ヤンガスは斧を背負い直した。
一番ダメージを受けていたのは、今回もアンジェリカだった。加減をせずに、自分の限界も分からぬまま、魔力を解き放った彼女は、杖に縋り付く様にして、浅い呼吸を繰り返した。
「アンジェ姐さん!」
ヤンガスは、ギョッとして彼女に駆け寄った。
「ああ、あっしが不甲斐ないばっかりに!! どうすりゃ良いんでがすか!!!」
「落ち着いてよ!」
ゼシカは、自分の罪悪感を隠す様に、強い口調で制した。
「魔法を使い過ぎたから、疲れただけよね? ねえ、一度、さっきの港に戻りましょう? 私、船を戻す様に言ってくるわ!!」
彼女が走り去った所で、エイトもアンジェリカの元へ駆け寄った。
「本当に大丈夫なの?! ......すごい汗だよ!」
彼は道具袋から、麻の布切れを取り出して、アンジェリカの額を拭った。彼女は小さな声で礼を述べ、片手を挙げてみせた。今は、それが、せいいっぱいの"大丈夫"のサインだった。
失われた魔法の力は、体を休める事で回復する。......その全てを使い切らない限りは。
この世界には、沢山の謎がある。魔法もその一つだ。魔力を持つ者もいれば、持たない者もいる。家柄や国籍、信仰に拘らず......まるで神が無作為に選んだかの様に、魔法使いは生まれる。
魔力は、まるで命と紐付けされているかの様に、繊細で、力強い。
それを全て使い切る事......例としてあげるならば、アンジェリカの母がそうした様に、メガザルを唱えれば、命を落とす事になる。
アンジェリカは、まだ自分の中に魔力が残っている事を感じたし、実際生きているのだから、そうなのだろう。だから、大丈夫だ。
船はゆっくりと方角を変え、再び港町へと向かった。