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03:ポルトリンク編

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マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
夢主様
夢主様あだ名

港には着いた。しかしどうやら、様子がおかしい。リーザス村の辛気臭さとは別の、異様な空気。

トロデは馬車の中に身を隠し、エイトがミーティアの手綱を引いて、桟橋の方角へと進んだ。

時折耳に入る、街人の会話。乗船場に着く頃には、漏れなく全員が、すっかり事情を呑み込めていた。

ここ最近、海の魔物が凶暴化している事。そして、水の上を歩く、不気味な道化師の目撃談。そのせいで、船を出す事が出来ないらしい。

しかし、おかげでゼシカに追いつく事が出来た。彼女は船着場の入り口に立つ、屈強な海の男に食って掛かっていた。

「もう、良い加減に待てないわよ! さあ、今すぐ船を出して!! 私は急いでいるんだから!!」

その、ガラスも砕けそうな剣幕に、男はたじたじになりながらも、首を横に振った。

「いくらゼシカお嬢様の頼みでも、それは出来ねえんでやす。海には危険な魔物が沢山いるので......」

「だから! そんなの私が退治するって言ってるでしょ?!」

「いやいや! ゼシカお嬢様にそんな事をさせたら、後でアルバート家から、何を言われるか......」

男の言い分は、最もだ。ポルトリンクの管理者は、アルバート家。いくらゼシカが家を飛び出して来たとはいえ、何かあれば責任を問われるのは、何時だって下っ端なのだ。

「話の分からない男ね!!」

ゼシカは痺れを切らして、周囲を見渡した。他に責任者はいないのかと、視線を走らせる。

そして、幸か不幸か、アンジェリカとピタリと目が合った。

「あ、ちょうど良かった!」

ゼシカの喜びの表情に、ヤンガスは小さな溜息を零した。

「あっしは、一ミリも良いとは思えないでがすよ」

彼の言葉は、ゼシカに全く届かなかったらしく、彼女はパタパタと駆け寄って来た。

「塔で会った人たちよね? リーザス村で待っててって言ったのに、どうして待っててくれなかったの?」

随分な物言いだ。エイトが、わざわざお屋敷まで会いに行ったというのに、彼女はアローザと大喧嘩をして、その脇を怒涛の羊の如く走り去ってしまったのだ。

「私、ちゃんと謝りたかったのに。......でも、それは今は良いわ。ちょっと頼み事があるの。一緒に来てくれる?」

流石のアンジェリカも、あまりの強引さに唖然とした。世の中には、色んな人がいるものだ。それは理解している。しかし、自分なら、絶対に謝罪の前に頼み事などしない。

ゼシカは構わず、エイトの手を掴んで、先程の男の元へと引き摺った。

「ねえねえ、その魔物を倒すのに、私が手を出さなきゃ良いんでしょう? 」

「へえ......そりゃまあ......」

男は混乱した様子で、ゼシカとエイト達を交互に見やった。

ゼシカは、周りの反応など御構い無しに話を進めて行く。

「だったら、任せて。魔物退治は、この人達が引き受けてくれるわ。ね? これならオッケーよね?」

「オッケーじゃない。全然オッケーじゃないから」

エイトが首を横に振った。アンジェリカも、ヤンガスも同意だ。ゼシカは、勘違いで殺しそうになった相手を、今度は魔物に殺させるつもりなのだろうか。

「へえ......。そりゃまあ、こっちも魔物を倒してくれるんなら、願ったり叶ったりですから......」

男はすまなそうに、エイト達をチラチラと見ながら零した。

ゼシカは、一人で勝手に頷き、話を進める。

「じゃあ決まりね? ね? あなた達もそれで良いでしょう?」

「良いわけないでがすよ!!」

ヤンガスが、わーわーと騒いだ。

「大体、なんであっしらが命を張って、嬢ちゃんに手を貸さなきゃならんのでげす?!」

「でも、海を渡るには、船が必要だわ」

アンジェリカは、半ば諦めた様子で現実を見据えた。

「引き受けるしかない無いでしょう? ドルマゲスおじさんを追い掛けたいなら」

「ああ、やっぱり、強い女の子は話が通じるわ!」

ゼシカは、アンジェリカの手を取ってぶんぶん振り回した。

「そうよね。リーザス像が見せてくれた光景を、私は一生忘れないわ。あのドルマゲスって男に、一体どんな目的があるのか。どうして兄さんをあんな目に遭わせたのか......。世界の果てまで行っても、追い詰めてやるわ! でも、それにはまず、航路の安全を確保しなくちゃね!」

「ゼシカさん」

アンジェリカは、冷静な声色で、血気盛んな同年代の少女を遮った。子供達に魔法を教える時と、同じ調子で諭す。

「ドルマゲスは、この大陸で一番高名な魔法使い、マスター・ライラスを......私の養父を殺した男です。おそらく、海の魔物よりも、ずっと強い相手です」

「何が言いたいのよ?!」

ゼシカは癇に障ったらしく、腰に手を当てて眉を吊り上げた。

「私じゃ倒せないって言いたいの?! ......ええ、勿論判る。貴女が私より、ずっと強い魔法使いだって事くらい。でも、馬鹿にしないでよ! 海の魔物くらいなら倒せるわ! そこの石頭が、どうしても言う事を聞いてくれないから、止むを得ず貴女たちにお願いしているのよ!!」

「お願いされた覚えは無いよ」

普段温厚なエイトが、珍しく尖った語調で応酬を遮った。

「確かに、僕たちは船が必要だから、魔物退治を引き受ける。止むを得ず、引き受けるんだよ」

彼は正確に現状を説明し、ゼシカではなく、海の男に目を向ける。

「すぐにでも、海を渡りたいんです。協力して貰えませんか?」

「今すぐに?!」

ゼシカは、あたふたと視線を漂わせた。

「定期船の足止めをしているくらいだもの。その魔物だって、きっとかなり強いわ!」

「時間が無いんです」

アンジェリカは、落ち着いて返し、自らも男に頭を下げた。

「船を出して下さい。お願いします」

男は長年の経験から、彼女の瞳に映る本物の決意に頷き、即座に仲間たちに指示を出し、目的を持って動き出した。

それを横目に、アンジェリカは、最早不治の病ともいえる、お説教癖を如何なく発揮した。

「......ゼシカさん。貴族のご令嬢に対して、失礼かと存じますが、どうか言わせてください。お兄様を亡くした、貴女のお気持ちも分かります。でも、魔物退治に失敗すれば、船乗りさんたち全員が、命を落とす事になるんですよ」

船を一人で動かす事など出来ない。エイト達が戦うのなら、他に船長、航海士、操舵士の力添えは必須だ。

アンジェリカは、船についての知識を手繰り寄せ、懸念を説明した。

ポルトリンクの船は、低い船首楼と長い船体の大型の帆船。荷を多く積め、商用船としては、申し分ない。しかし、吃水が浅く、スピードが出る反面、安定性に欠けており、転覆しやすいという難点がある。その船で、魔物退治に向かうのだ。

アンジェリカの見立てで、この大きさの交易船なら、積荷に加え、水夫や商人、修道士なども含め、通常、一艘に乗員は三十名程度。必要最低限の人数を乗せたとしても、エイト達の他に、十人弱の手が必要だ。

それを踏まえた上で、戦いに繰り出す事を、どうしてもゼシカに理解して貰いたかったのだ。

「......そう......そうね」

ゼシカは、そう返しつつも何処か、納得していなかった。彼女は何故か、アンジェリカの事が好きになれなかったのだ。まるで、自分の良くない所や、足りない部分を、全て探し出してうつす、鏡のように思えたから。

アンジェリカは、既にエイト達と向き合い、作戦会議を始めていた。

「船に穴を空けるわけにはいかないし、どうしたら良いかしら」

「物には、スカラを掛けられないかな?」

エイトの提案に、アンジェリカは頷いた。

「出来るわ。錬金釜の魔法の力で、装備を強化出来るんですもの。分かった。補助は任せて。私が責任を持って守るわ。......ミーティ......馬車は港に置いていきましょう?」

「そうだね。装備はどうしよう?」

エイトは、アンジェリカの言葉に、何の疑問も持たずに、議論を進めた。

ゼシカは、不思議に思った。何故、アンジェリカの"守る"という言葉を、彼らは、無条件に信頼できるのだろう。背だって小さくて、腕も細い。色白で、黒い髪が美しくて、とてもじゃないが、戦士には見えないのに。......何故、自分よりも、強いのだろうか。

「ね......ねえ」

ゼシカは、疎外感を覚えながらも、遠慮がちに声を上げた。

「私、戦いには加われないけど、少しは呪文が使えるの。......ルカニと、ピオリムなら。役に立てないかしら?」

「心配しなくて大丈夫だよ」

エイトは、ゼシカの心中を察せずに、そう返した。

「絶対に負けないから」

「......そう」

ゼシカは、益々落ち込み、胸を抑えた。苦しさを感じて、唇を噛む。息を巻いて村を出たものの、何一つ、思った様に事が進まない。

自分の力だけでは、船さえ出して貰えず、村では一番と言われていた魔法の腕も、あてにされない。復讐どころの話ではなく、無知を思い知らされた。

アンジェリカという少女が説明してくれた、船についての話も、本当の所、良く分からなかった。アルバート家が、所有している物だと言うのに。彼女は、自分の家の事すら知らないまま、世界に飛び出してしまったのだ。無責任にも、程がある。芋づる式に良くない考えが浮かび上がる。もし、魔物退治に失敗したら、自分も......旅人たちも死ぬのだろうか。

「それじゃあ、準備は整ったぜ」

水夫の声に導かれ、エイト達は、桟橋へと向かった。その大き過ぎる背中を、ゼシカも追う。彼女は、怖くて堪らなかった。兄の最期の表情が、鮮明に思い出される。死ぬ事は、苦しいのだろうか、痛いのだろうか。

「大丈夫ですか?」

アンジェリカが振り返り、手を差し出した。ゼシカは震える足を、無理矢理奮い立たせ、その手のひらまで辿り着く。そっと自分の手を重ねると、アンジェリカが震えている事に気が付いた。それでも、アンジェリカは笑顔だ。

「こんなに大きな船に乗るのは、初めてなんです。緊張感してしまって......」

嘘だ。ゼシカには、分かった。彼女は怯えている。本当は怖くて、不安で堪らないのだろう。

「ねえ......」

ゼシカは、少女を引き止め、小さな声で告げる。

「終わったら......全部終わったら、今度こそ、ちゃんと謝るから......だから......」

「頑張りますね」

アンジェリカは、邪気のない笑顔で応え、仲間の後に続いた。

ゼシカも、それ追う。今はまだ、着いて行く事しか出来ない。けれど、もっと強くなりたい。強くならなければ、と、心に固く誓った。
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