マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
03:ポルトリンク編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
港には着いた。しかしどうやら、様子がおかしい。リーザス村の辛気臭さとは別の、異様な空気。
トロデは馬車の中に身を隠し、エイトがミーティアの手綱を引いて、桟橋の方角へと進んだ。
時折耳に入る、街人の会話。乗船場に着く頃には、漏れなく全員が、すっかり事情を呑み込めていた。
ここ最近、海の魔物が凶暴化している事。そして、水の上を歩く、不気味な道化師の目撃談。そのせいで、船を出す事が出来ないらしい。
しかし、おかげでゼシカに追いつく事が出来た。彼女は船着場の入り口に立つ、屈強な海の男に食って掛かっていた。
「もう、良い加減に待てないわよ! さあ、今すぐ船を出して!! 私は急いでいるんだから!!」
その、ガラスも砕けそうな剣幕に、男はたじたじになりながらも、首を横に振った。
「いくらゼシカお嬢様の頼みでも、それは出来ねえんでやす。海には危険な魔物が沢山いるので......」
「だから! そんなの私が退治するって言ってるでしょ?!」
「いやいや! ゼシカお嬢様にそんな事をさせたら、後でアルバート家から、何を言われるか......」
男の言い分は、最もだ。ポルトリンクの管理者は、アルバート家。いくらゼシカが家を飛び出して来たとはいえ、何かあれば責任を問われるのは、何時だって下っ端なのだ。
「話の分からない男ね!!」
ゼシカは痺れを切らして、周囲を見渡した。他に責任者はいないのかと、視線を走らせる。
そして、幸か不幸か、アンジェリカとピタリと目が合った。
「あ、ちょうど良かった!」
ゼシカの喜びの表情に、ヤンガスは小さな溜息を零した。
「あっしは、一ミリも良いとは思えないでがすよ」
彼の言葉は、ゼシカに全く届かなかったらしく、彼女はパタパタと駆け寄って来た。
「塔で会った人たちよね? リーザス村で待っててって言ったのに、どうして待っててくれなかったの?」
随分な物言いだ。エイトが、わざわざお屋敷まで会いに行ったというのに、彼女はアローザと大喧嘩をして、その脇を怒涛の羊の如く走り去ってしまったのだ。
「私、ちゃんと謝りたかったのに。......でも、それは今は良いわ。ちょっと頼み事があるの。一緒に来てくれる?」
流石のアンジェリカも、あまりの強引さに唖然とした。世の中には、色んな人がいるものだ。それは理解している。しかし、自分なら、絶対に謝罪の前に頼み事などしない。
ゼシカは構わず、エイトの手を掴んで、先程の男の元へと引き摺った。
「ねえねえ、その魔物を倒すのに、私が手を出さなきゃ良いんでしょう? 」
「へえ......そりゃまあ......」
男は混乱した様子で、ゼシカとエイト達を交互に見やった。
ゼシカは、周りの反応など御構い無しに話を進めて行く。
「だったら、任せて。魔物退治は、この人達が引き受けてくれるわ。ね? これならオッケーよね?」
「オッケーじゃない。全然オッケーじゃないから」
エイトが首を横に振った。アンジェリカも、ヤンガスも同意だ。ゼシカは、勘違いで殺しそうになった相手を、今度は魔物に殺させるつもりなのだろうか。
「へえ......。そりゃまあ、こっちも魔物を倒してくれるんなら、願ったり叶ったりですから......」
男はすまなそうに、エイト達をチラチラと見ながら零した。
ゼシカは、一人で勝手に頷き、話を進める。
「じゃあ決まりね? ね? あなた達もそれで良いでしょう?」
「良いわけないでがすよ!!」
ヤンガスが、わーわーと騒いだ。
「大体、なんであっしらが命を張って、嬢ちゃんに手を貸さなきゃならんのでげす?!」
「でも、海を渡るには、船が必要だわ」
アンジェリカは、半ば諦めた様子で現実を見据えた。
「引き受けるしかない無いでしょう? ドルマゲスおじさんを追い掛けたいなら」
「ああ、やっぱり、強い女の子は話が通じるわ!」
ゼシカは、アンジェリカの手を取ってぶんぶん振り回した。
「そうよね。リーザス像が見せてくれた光景を、私は一生忘れないわ。あのドルマゲスって男に、一体どんな目的があるのか。どうして兄さんをあんな目に遭わせたのか......。世界の果てまで行っても、追い詰めてやるわ! でも、それにはまず、航路の安全を確保しなくちゃね!」
「ゼシカさん」
アンジェリカは、冷静な声色で、血気盛んな同年代の少女を遮った。子供達に魔法を教える時と、同じ調子で諭す。
「ドルマゲスは、この大陸で一番高名な魔法使い、マスター・ライラスを......私の養父を殺した男です。おそらく、海の魔物よりも、ずっと強い相手です」
「何が言いたいのよ?!」
ゼシカは癇に障ったらしく、腰に手を当てて眉を吊り上げた。
「私じゃ倒せないって言いたいの?! ......ええ、勿論判る。貴女が私より、ずっと強い魔法使いだって事くらい。でも、馬鹿にしないでよ! 海の魔物くらいなら倒せるわ! そこの石頭が、どうしても言う事を聞いてくれないから、止むを得ず貴女たちにお願いしているのよ!!」
「お願いされた覚えは無いよ」
普段温厚なエイトが、珍しく尖った語調で応酬を遮った。
「確かに、僕たちは船が必要だから、魔物退治を引き受ける。止むを得ず、引き受けるんだよ」
彼は正確に現状を説明し、ゼシカではなく、海の男に目を向ける。
「すぐにでも、海を渡りたいんです。協力して貰えませんか?」
「今すぐに?!」
ゼシカは、あたふたと視線を漂わせた。
「定期船の足止めをしているくらいだもの。その魔物だって、きっとかなり強いわ!」
「時間が無いんです」
アンジェリカは、落ち着いて返し、自らも男に頭を下げた。
「船を出して下さい。お願いします」
男は長年の経験から、彼女の瞳に映る本物の決意に頷き、即座に仲間たちに指示を出し、目的を持って動き出した。
それを横目に、アンジェリカは、最早不治の病ともいえる、お説教癖を如何なく発揮した。
「......ゼシカさん。貴族のご令嬢に対して、失礼かと存じますが、どうか言わせてください。お兄様を亡くした、貴女のお気持ちも分かります。でも、魔物退治に失敗すれば、船乗りさんたち全員が、命を落とす事になるんですよ」
船を一人で動かす事など出来ない。エイト達が戦うのなら、他に船長、航海士、操舵士の力添えは必須だ。
アンジェリカは、船についての知識を手繰り寄せ、懸念を説明した。
ポルトリンクの船は、低い船首楼と長い船体の大型の帆船。荷を多く積め、商用船としては、申し分ない。しかし、吃水が浅く、スピードが出る反面、安定性に欠けており、転覆しやすいという難点がある。その船で、魔物退治に向かうのだ。
アンジェリカの見立てで、この大きさの交易船なら、積荷に加え、水夫や商人、修道士なども含め、通常、一艘に乗員は三十名程度。必要最低限の人数を乗せたとしても、エイト達の他に、十人弱の手が必要だ。
それを踏まえた上で、戦いに繰り出す事を、どうしてもゼシカに理解して貰いたかったのだ。
「......そう......そうね」
ゼシカは、そう返しつつも何処か、納得していなかった。彼女は何故か、アンジェリカの事が好きになれなかったのだ。まるで、自分の良くない所や、足りない部分を、全て探し出してうつす、鏡のように思えたから。
アンジェリカは、既にエイト達と向き合い、作戦会議を始めていた。
「船に穴を空けるわけにはいかないし、どうしたら良いかしら」
「物には、スカラを掛けられないかな?」
エイトの提案に、アンジェリカは頷いた。
「出来るわ。錬金釜の魔法の力で、装備を強化出来るんですもの。分かった。補助は任せて。私が責任を持って守るわ。......ミーティ......馬車は港に置いていきましょう?」
「そうだね。装備はどうしよう?」
エイトは、アンジェリカの言葉に、何の疑問も持たずに、議論を進めた。
ゼシカは、不思議に思った。何故、アンジェリカの"守る"という言葉を、彼らは、無条件に信頼できるのだろう。背だって小さくて、腕も細い。色白で、黒い髪が美しくて、とてもじゃないが、戦士には見えないのに。......何故、自分よりも、強いのだろうか。
「ね......ねえ」
ゼシカは、疎外感を覚えながらも、遠慮がちに声を上げた。
「私、戦いには加われないけど、少しは呪文が使えるの。......ルカニと、ピオリムなら。役に立てないかしら?」
「心配しなくて大丈夫だよ」
エイトは、ゼシカの心中を察せずに、そう返した。
「絶対に負けないから」
「......そう」
ゼシカは、益々落ち込み、胸を抑えた。苦しさを感じて、唇を噛む。息を巻いて村を出たものの、何一つ、思った様に事が進まない。
自分の力だけでは、船さえ出して貰えず、村では一番と言われていた魔法の腕も、あてにされない。復讐どころの話ではなく、無知を思い知らされた。
アンジェリカという少女が説明してくれた、船についての話も、本当の所、良く分からなかった。アルバート家が、所有している物だと言うのに。彼女は、自分の家の事すら知らないまま、世界に飛び出してしまったのだ。無責任にも、程がある。芋づる式に良くない考えが浮かび上がる。もし、魔物退治に失敗したら、自分も......旅人たちも死ぬのだろうか。
「それじゃあ、準備は整ったぜ」
水夫の声に導かれ、エイト達は、桟橋へと向かった。その大き過ぎる背中を、ゼシカも追う。彼女は、怖くて堪らなかった。兄の最期の表情が、鮮明に思い出される。死ぬ事は、苦しいのだろうか、痛いのだろうか。
「大丈夫ですか?」
アンジェリカが振り返り、手を差し出した。ゼシカは震える足を、無理矢理奮い立たせ、その手のひらまで辿り着く。そっと自分の手を重ねると、アンジェリカが震えている事に気が付いた。それでも、アンジェリカは笑顔だ。
「こんなに大きな船に乗るのは、初めてなんです。緊張感してしまって......」
嘘だ。ゼシカには、分かった。彼女は怯えている。本当は怖くて、不安で堪らないのだろう。
「ねえ......」
ゼシカは、少女を引き止め、小さな声で告げる。
「終わったら......全部終わったら、今度こそ、ちゃんと謝るから......だから......」
「頑張りますね」
アンジェリカは、邪気のない笑顔で応え、仲間の後に続いた。
ゼシカも、それ追う。今はまだ、着いて行く事しか出来ない。けれど、もっと強くなりたい。強くならなければ、と、心に固く誓った。
トロデは馬車の中に身を隠し、エイトがミーティアの手綱を引いて、桟橋の方角へと進んだ。
時折耳に入る、街人の会話。乗船場に着く頃には、漏れなく全員が、すっかり事情を呑み込めていた。
ここ最近、海の魔物が凶暴化している事。そして、水の上を歩く、不気味な道化師の目撃談。そのせいで、船を出す事が出来ないらしい。
しかし、おかげでゼシカに追いつく事が出来た。彼女は船着場の入り口に立つ、屈強な海の男に食って掛かっていた。
「もう、良い加減に待てないわよ! さあ、今すぐ船を出して!! 私は急いでいるんだから!!」
その、ガラスも砕けそうな剣幕に、男はたじたじになりながらも、首を横に振った。
「いくらゼシカお嬢様の頼みでも、それは出来ねえんでやす。海には危険な魔物が沢山いるので......」
「だから! そんなの私が退治するって言ってるでしょ?!」
「いやいや! ゼシカお嬢様にそんな事をさせたら、後でアルバート家から、何を言われるか......」
男の言い分は、最もだ。ポルトリンクの管理者は、アルバート家。いくらゼシカが家を飛び出して来たとはいえ、何かあれば責任を問われるのは、何時だって下っ端なのだ。
「話の分からない男ね!!」
ゼシカは痺れを切らして、周囲を見渡した。他に責任者はいないのかと、視線を走らせる。
そして、幸か不幸か、アンジェリカとピタリと目が合った。
「あ、ちょうど良かった!」
ゼシカの喜びの表情に、ヤンガスは小さな溜息を零した。
「あっしは、一ミリも良いとは思えないでがすよ」
彼の言葉は、ゼシカに全く届かなかったらしく、彼女はパタパタと駆け寄って来た。
「塔で会った人たちよね? リーザス村で待っててって言ったのに、どうして待っててくれなかったの?」
随分な物言いだ。エイトが、わざわざお屋敷まで会いに行ったというのに、彼女はアローザと大喧嘩をして、その脇を怒涛の羊の如く走り去ってしまったのだ。
「私、ちゃんと謝りたかったのに。......でも、それは今は良いわ。ちょっと頼み事があるの。一緒に来てくれる?」
流石のアンジェリカも、あまりの強引さに唖然とした。世の中には、色んな人がいるものだ。それは理解している。しかし、自分なら、絶対に謝罪の前に頼み事などしない。
ゼシカは構わず、エイトの手を掴んで、先程の男の元へと引き摺った。
「ねえねえ、その魔物を倒すのに、私が手を出さなきゃ良いんでしょう? 」
「へえ......そりゃまあ......」
男は混乱した様子で、ゼシカとエイト達を交互に見やった。
ゼシカは、周りの反応など御構い無しに話を進めて行く。
「だったら、任せて。魔物退治は、この人達が引き受けてくれるわ。ね? これならオッケーよね?」
「オッケーじゃない。全然オッケーじゃないから」
エイトが首を横に振った。アンジェリカも、ヤンガスも同意だ。ゼシカは、勘違いで殺しそうになった相手を、今度は魔物に殺させるつもりなのだろうか。
「へえ......。そりゃまあ、こっちも魔物を倒してくれるんなら、願ったり叶ったりですから......」
男はすまなそうに、エイト達をチラチラと見ながら零した。
ゼシカは、一人で勝手に頷き、話を進める。
「じゃあ決まりね? ね? あなた達もそれで良いでしょう?」
「良いわけないでがすよ!!」
ヤンガスが、わーわーと騒いだ。
「大体、なんであっしらが命を張って、嬢ちゃんに手を貸さなきゃならんのでげす?!」
「でも、海を渡るには、船が必要だわ」
アンジェリカは、半ば諦めた様子で現実を見据えた。
「引き受けるしかない無いでしょう? ドルマゲスおじさんを追い掛けたいなら」
「ああ、やっぱり、強い女の子は話が通じるわ!」
ゼシカは、アンジェリカの手を取ってぶんぶん振り回した。
「そうよね。リーザス像が見せてくれた光景を、私は一生忘れないわ。あのドルマゲスって男に、一体どんな目的があるのか。どうして兄さんをあんな目に遭わせたのか......。世界の果てまで行っても、追い詰めてやるわ! でも、それにはまず、航路の安全を確保しなくちゃね!」
「ゼシカさん」
アンジェリカは、冷静な声色で、血気盛んな同年代の少女を遮った。子供達に魔法を教える時と、同じ調子で諭す。
「ドルマゲスは、この大陸で一番高名な魔法使い、マスター・ライラスを......私の養父を殺した男です。おそらく、海の魔物よりも、ずっと強い相手です」
「何が言いたいのよ?!」
ゼシカは癇に障ったらしく、腰に手を当てて眉を吊り上げた。
「私じゃ倒せないって言いたいの?! ......ええ、勿論判る。貴女が私より、ずっと強い魔法使いだって事くらい。でも、馬鹿にしないでよ! 海の魔物くらいなら倒せるわ! そこの石頭が、どうしても言う事を聞いてくれないから、止むを得ず貴女たちにお願いしているのよ!!」
「お願いされた覚えは無いよ」
普段温厚なエイトが、珍しく尖った語調で応酬を遮った。
「確かに、僕たちは船が必要だから、魔物退治を引き受ける。止むを得ず、引き受けるんだよ」
彼は正確に現状を説明し、ゼシカではなく、海の男に目を向ける。
「すぐにでも、海を渡りたいんです。協力して貰えませんか?」
「今すぐに?!」
ゼシカは、あたふたと視線を漂わせた。
「定期船の足止めをしているくらいだもの。その魔物だって、きっとかなり強いわ!」
「時間が無いんです」
アンジェリカは、落ち着いて返し、自らも男に頭を下げた。
「船を出して下さい。お願いします」
男は長年の経験から、彼女の瞳に映る本物の決意に頷き、即座に仲間たちに指示を出し、目的を持って動き出した。
それを横目に、アンジェリカは、最早不治の病ともいえる、お説教癖を如何なく発揮した。
「......ゼシカさん。貴族のご令嬢に対して、失礼かと存じますが、どうか言わせてください。お兄様を亡くした、貴女のお気持ちも分かります。でも、魔物退治に失敗すれば、船乗りさんたち全員が、命を落とす事になるんですよ」
船を一人で動かす事など出来ない。エイト達が戦うのなら、他に船長、航海士、操舵士の力添えは必須だ。
アンジェリカは、船についての知識を手繰り寄せ、懸念を説明した。
ポルトリンクの船は、低い船首楼と長い船体の大型の帆船。荷を多く積め、商用船としては、申し分ない。しかし、吃水が浅く、スピードが出る反面、安定性に欠けており、転覆しやすいという難点がある。その船で、魔物退治に向かうのだ。
アンジェリカの見立てで、この大きさの交易船なら、積荷に加え、水夫や商人、修道士なども含め、通常、一艘に乗員は三十名程度。必要最低限の人数を乗せたとしても、エイト達の他に、十人弱の手が必要だ。
それを踏まえた上で、戦いに繰り出す事を、どうしてもゼシカに理解して貰いたかったのだ。
「......そう......そうね」
ゼシカは、そう返しつつも何処か、納得していなかった。彼女は何故か、アンジェリカの事が好きになれなかったのだ。まるで、自分の良くない所や、足りない部分を、全て探し出してうつす、鏡のように思えたから。
アンジェリカは、既にエイト達と向き合い、作戦会議を始めていた。
「船に穴を空けるわけにはいかないし、どうしたら良いかしら」
「物には、スカラを掛けられないかな?」
エイトの提案に、アンジェリカは頷いた。
「出来るわ。錬金釜の魔法の力で、装備を強化出来るんですもの。分かった。補助は任せて。私が責任を持って守るわ。......ミーティ......馬車は港に置いていきましょう?」
「そうだね。装備はどうしよう?」
エイトは、アンジェリカの言葉に、何の疑問も持たずに、議論を進めた。
ゼシカは、不思議に思った。何故、アンジェリカの"守る"という言葉を、彼らは、無条件に信頼できるのだろう。背だって小さくて、腕も細い。色白で、黒い髪が美しくて、とてもじゃないが、戦士には見えないのに。......何故、自分よりも、強いのだろうか。
「ね......ねえ」
ゼシカは、疎外感を覚えながらも、遠慮がちに声を上げた。
「私、戦いには加われないけど、少しは呪文が使えるの。......ルカニと、ピオリムなら。役に立てないかしら?」
「心配しなくて大丈夫だよ」
エイトは、ゼシカの心中を察せずに、そう返した。
「絶対に負けないから」
「......そう」
ゼシカは、益々落ち込み、胸を抑えた。苦しさを感じて、唇を噛む。息を巻いて村を出たものの、何一つ、思った様に事が進まない。
自分の力だけでは、船さえ出して貰えず、村では一番と言われていた魔法の腕も、あてにされない。復讐どころの話ではなく、無知を思い知らされた。
アンジェリカという少女が説明してくれた、船についての話も、本当の所、良く分からなかった。アルバート家が、所有している物だと言うのに。彼女は、自分の家の事すら知らないまま、世界に飛び出してしまったのだ。無責任にも、程がある。芋づる式に良くない考えが浮かび上がる。もし、魔物退治に失敗したら、自分も......旅人たちも死ぬのだろうか。
「それじゃあ、準備は整ったぜ」
水夫の声に導かれ、エイト達は、桟橋へと向かった。その大き過ぎる背中を、ゼシカも追う。彼女は、怖くて堪らなかった。兄の最期の表情が、鮮明に思い出される。死ぬ事は、苦しいのだろうか、痛いのだろうか。
「大丈夫ですか?」
アンジェリカが振り返り、手を差し出した。ゼシカは震える足を、無理矢理奮い立たせ、その手のひらまで辿り着く。そっと自分の手を重ねると、アンジェリカが震えている事に気が付いた。それでも、アンジェリカは笑顔だ。
「こんなに大きな船に乗るのは、初めてなんです。緊張感してしまって......」
嘘だ。ゼシカには、分かった。彼女は怯えている。本当は怖くて、不安で堪らないのだろう。
「ねえ......」
ゼシカは、少女を引き止め、小さな声で告げる。
「終わったら......全部終わったら、今度こそ、ちゃんと謝るから......だから......」
「頑張りますね」
アンジェリカは、邪気のない笑顔で応え、仲間の後に続いた。
ゼシカも、それ追う。今はまだ、着いて行く事しか出来ない。けれど、もっと強くなりたい。強くならなければ、と、心に固く誓った。