マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
02:リーザス編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エイト達が振り返ると、そこには赤毛の美しい少女。思わぬ先客を目にし、手にしていた花束を取り落とした。
「......あんた達!」
その瞳が憎しみに赤く燃えた。
「とうとう現れたわね! リーザス像の瞳を狙って、絶対また現れると思っていたわ!!」
「待って!!」
アンジェリカの制止も聞かず、ゼシカ・アルバートは火球を作り上げた。
「兄さんを殺した盗賊め! 兄さんと同じ目に遭わせてやる!!」
瞬間、アンジェリカは、二人の仲間を背後に追いやった。唱えた呪文はフバーハ。少しだが、アンジェリカはダメージを受けてよろけた。
ゼシカは、自分の呪文が効かなかった事に驚いた様子だったが、それでも怖気付かずに、更に大きな火球を作った。
「兄さんを殺しただけあって、流石に強いわね。でも、次は逃さない!!!」
アンジェリカは、悩んだ。マホカンタを唱えれば、呪文を跳ね返せる。しかし、相手は殺す気でかかって来ているのだ。そんな火球がゼシカに当たれば、彼女の命が危ない。
その時だ。
『待て』
何処からともなく、声が響いた。ゼシカは、目に見えて狼狽え周囲を見回す。
『私だ、ゼシカ。......私の声が、分からないか?』
リーザス像が不思議な光を纏っていた。
「サ......サーベルト兄さん......?」
ゼシカは信じられないといった様子で、像の瞳を凝視した。
『その呪文を止めるんだ、ゼシカ。......私を殺したのは、この方達では無い』
「と......止めろったって......もう止まんないわよっ!!!」
「マホトーン」
アンジェリカが漸く思いつき、杖を振り翳すと、火球はしぼむ様に小さくなり、小さな光を散らして消えた。
ゼシカは、三人組を跳ね飛ばす勢いでリーザス像の元へ走った。
「サーベルト兄さん?! 本当にサーベルト兄さんなの?!」
『ああ。本当だとも。......聞いてくれ、ゼシカ。......そして、そこにいる旅の方よ』
厳かな声に、エイト達も背筋を正した。
『死の間際......リーザス像は我が魂の欠片を、預かってくださった。この声も......その魂の欠片の力で放っている。......だから、もう......時間が無い。像の瞳を見つめてくれ。そこに、真実が刻まれている。......さあ、急ぐんだ』
促されるまま、エイト達もゼシカの横に駆け寄った。対の赤い宝石を覗き込むと、世界が一瞬暗くなり、セピア色の空間に迷い込んでいた。
これが、記憶の世界なのだろうか。
同じ場所に、同じ様にたたずむリーザス像から、追憶の声が響き渡る。
『あの日、塔の扉が開いていた事を、不審に思った私は、一人でこの塔の様子を見に来た。そして......』
青年が辺りを注意深く伺いながら、階段を上がって来た。
兄の姿に、ゼシカは思わず駆け寄ろうとしたが、金縛りにあったかの様に動けない。声さえ出せない。それはエイト達も同じだった。
誰もいない事を確認し、彼が踵を返した瞬間、邪悪な気配が辺りを支配した。リーザス像の目の前......エイト達のすぐ目の前に、杖を持った道化師が現れた。
異変に気が付いた青年は、剣に手を掛け素早く振り返る。
「だ......誰だ、貴様は?!」
「悲しいなあ......」
ドルマゲスは、気色の悪い甘い声色でそんな事を呟いた。
「な......何だと?! 質問に答えろ! 貴様は誰だ?! ここで何をしている?!」
「くっくっくっ......我が名はドルマゲス。ここで、人生の儚さについて考えていた」
完全にイカれている。アンジェリカにも分かった。ドルマゲスは、最早人間では無い。
人間だったとしても、まともな精神状態では無い。
「ふざけるな!」
サーベルトは叫び、剣を抜こうとした。しかし......
「くっ......どうした事だ! 剣が......剣が抜けん!!」
そのもがく姿を見て、ドルマゲスは笑った。
「悲しいなあ......。君の、その勇ましさに触れるほど、私は悲しくなる」
彼の杖が光った。その瞬間、サーベルトの表情が強張る。勇気ある青年が、初めて恐怖を浮かべた。
「き......貴様! 何をした......? 体が......動かん!」
そんな彼に、ドルマゲスはゆっくりと歩み寄る。サーベルトにも、傍観者であるエイト達にも、道化師の狙いが全く理解できなかった。
ドルマゲスは、サーベルトの目の前に立ち止まり、無意味な抵抗を続けている青年を見下ろした。
サーベルトは、尚も勇敢さを失わず、声を絞り出す。
「おのれ......!! ドルマゲスと言ったな?! ......その名前、決して忘れんぞ!!」
「ほう? ......私の名を忘れずにいれてくれると言うのか。何と喜ばしい事だろう」
まるで恋人に囁く言葉の様に、甘い声。
「私こそ、決して忘れはしない。君の名はたった今より、我が魂に永遠に焼き付く事となる。......さあ、もうこれ以上、私を悲しませないでおくれ」
「き......貴様!!!」
サーベルトの叫びと同時に、ドルマゲスは青年を抱き寄せた。そして......杖を......杖を青年の心臓に突き刺した。背中まで貫通した凶器を抜かれると、赤い血が辺りに飛び散る。
サーベルトは、恐怖と痛みの表情を浮かべながら、一拍遅れて床に崩れた。
ドルマゲスはわざわざ膝を着き、不気味な程優しい声色で、亡骸に囁く。
「君との出会い......語らい......。その全てを、我が人生の誇りと思おう。......キミの死は、無駄にしないよ」
彼は、耳障りな甲高い、狂った笑い声を上げ、雷鳴と共に姿を消した。
世界が再び暗くなり、エイト達は色のある世界で、優しい表情のリーザス像と対峙していた。
誰も言葉を発せなかった。
『旅の方よ。......リーザス像の記憶、見届けてくれたか?』
サーベルトの声が、部屋いっぱいに響き渡る。アンジェリカは、あまりのショックに膝から崩れ落ちてしまった。ドルマゲスが、人を殺した。それも、あんなに狂気に満ちた表情で、楽しむ様に。
『私にも、何故かは分からぬ。だが......リーザス像は、そなたらが来るのを待っていた様だ......。願わくば、このリーザス像の記憶が旅の助けになれば......私も報われる』
「ごめんなさい! 本当に......」
アンジェリカは、ボロボロと涙を零しながら頭を下げた。
『ゼシカよ』
サーベルトは、妹に向けて言葉を紡いだ。
『これで、我が魂の欠片も役割を終えた。......お別れだ』
「いやぁ!!!」
ゼシカはすがる様に、リーザス像へ向かって叫んだ。
「どうすれば良いの?! 行かないでよ......兄さん......」
二度目の別れが、彼女の心をズタズタに引き裂いた。この世界で、誰よりもゼシカに優しくしてくれた、サーベルト。何時だって、ゼシカの本音を唯一受け入れてくれる、大切な存在。
『ゼシカ......最後に、此れだけは伝えておきたかった』
人は、溢れる砂を、止められない。サーベルトの声は、どんどん遠くなる。
『この先も母さんは、お前に手を焼く事だろう。......だが、それで良い。お前は、自分の信じた道を進め。......さよならだ、ゼシカ......』
薄れ行く、像の光。ゼシカは、手を伸ばす。しかし、最早その輝きはこの世の物ではない。触れる事も許されぬまま、空に消えて行った。
少女は、両手で顔を覆い、泣き崩れてしまった。
「なんたる事じゃ。あのサーベルトを殺したのは、間違いなくドルマゲスじゃ!」
「おっさん、いつの間に?!」
突然現れたトロデに、ヤンガスは三十センチは飛び上がった。
トロデは全く取り合わず、醜悪な顔を更に歪める。
「何故だか分からぬが、あのサーベルトとやらも、わしらにドルマゲスを倒せと、言っているようじゃ。彼の思いは無駄に出来んな。これでまた一つ、奴を追う理由が増えたと言うことじゃ。それじゃあ、わしは馬車で待っておるぞ」
彼は言いたい事だけ言うと、ひょこひょこと立ち去ってしまった。
アンジェリカは涙を拭い、自分と同じ苦しみを抱える事となったゼシカの肩を抱いた。
「......ゼシカさん......ですね?」
「......名前も分からないけれど、誤解しちゃってごめん。今度、ゆっくりと謝るから。だから、もう暫く、一人で此処にいさせて......。少ししたら、村に戻るから」
彼女の気持ちは、痛いほど分かった。
アンジェリカは立ち上がり、仲間の方を見て一つ頷く。
「村に戻りましょう? 大丈夫。彼女は、一人でここまで来れたんだし、今はーー」
「分かったよ」
エイトは頷き、手を差し出した。アンジェリカは、その意図が分からず首を傾げる。すると、彼は困った様に微笑んだ。
「ごめんね。また君を盾にしちゃったし、助けて貰ったね。......疲れてない?」
「......大丈夫」
アンジェリカは、精一杯努力して笑顔を見せた。実際には、心が重く、恐怖の余韻が身体中を支配していた。人が殺される瞬間を、初めて見た。
何故、ドルマゲスは、一度も会った事のないサーベルトを殺したのだろう。
追憶の幻影を目の当たりにして、アンジェリカは何度叫びたかった事か。駆け寄り、凶行を止めたかった。ただ見ている事しか出来ない、悔しさと悲しみが渦を巻いている。
もっと早くドルマゲスを追っていれば......マスター・ライラスが殺された日に旅立っていれば、何かが変わっていたかもしれない。彫像の前で泣き崩れている、もう一人の自分を生み出さずに、済んだのかもしれない。
「大丈夫じゃないよね」
エイトは、自らアンジェリカに歩み寄り、手を引いた。
「帰ろう」
そして、もう片方の手をヤンガスに差し出す。リレミトが唱えられ、三人の姿は霞んで消えた。
「......あんた達!」
その瞳が憎しみに赤く燃えた。
「とうとう現れたわね! リーザス像の瞳を狙って、絶対また現れると思っていたわ!!」
「待って!!」
アンジェリカの制止も聞かず、ゼシカ・アルバートは火球を作り上げた。
「兄さんを殺した盗賊め! 兄さんと同じ目に遭わせてやる!!」
瞬間、アンジェリカは、二人の仲間を背後に追いやった。唱えた呪文はフバーハ。少しだが、アンジェリカはダメージを受けてよろけた。
ゼシカは、自分の呪文が効かなかった事に驚いた様子だったが、それでも怖気付かずに、更に大きな火球を作った。
「兄さんを殺しただけあって、流石に強いわね。でも、次は逃さない!!!」
アンジェリカは、悩んだ。マホカンタを唱えれば、呪文を跳ね返せる。しかし、相手は殺す気でかかって来ているのだ。そんな火球がゼシカに当たれば、彼女の命が危ない。
その時だ。
『待て』
何処からともなく、声が響いた。ゼシカは、目に見えて狼狽え周囲を見回す。
『私だ、ゼシカ。......私の声が、分からないか?』
リーザス像が不思議な光を纏っていた。
「サ......サーベルト兄さん......?」
ゼシカは信じられないといった様子で、像の瞳を凝視した。
『その呪文を止めるんだ、ゼシカ。......私を殺したのは、この方達では無い』
「と......止めろったって......もう止まんないわよっ!!!」
「マホトーン」
アンジェリカが漸く思いつき、杖を振り翳すと、火球はしぼむ様に小さくなり、小さな光を散らして消えた。
ゼシカは、三人組を跳ね飛ばす勢いでリーザス像の元へ走った。
「サーベルト兄さん?! 本当にサーベルト兄さんなの?!」
『ああ。本当だとも。......聞いてくれ、ゼシカ。......そして、そこにいる旅の方よ』
厳かな声に、エイト達も背筋を正した。
『死の間際......リーザス像は我が魂の欠片を、預かってくださった。この声も......その魂の欠片の力で放っている。......だから、もう......時間が無い。像の瞳を見つめてくれ。そこに、真実が刻まれている。......さあ、急ぐんだ』
促されるまま、エイト達もゼシカの横に駆け寄った。対の赤い宝石を覗き込むと、世界が一瞬暗くなり、セピア色の空間に迷い込んでいた。
これが、記憶の世界なのだろうか。
同じ場所に、同じ様にたたずむリーザス像から、追憶の声が響き渡る。
『あの日、塔の扉が開いていた事を、不審に思った私は、一人でこの塔の様子を見に来た。そして......』
青年が辺りを注意深く伺いながら、階段を上がって来た。
兄の姿に、ゼシカは思わず駆け寄ろうとしたが、金縛りにあったかの様に動けない。声さえ出せない。それはエイト達も同じだった。
誰もいない事を確認し、彼が踵を返した瞬間、邪悪な気配が辺りを支配した。リーザス像の目の前......エイト達のすぐ目の前に、杖を持った道化師が現れた。
異変に気が付いた青年は、剣に手を掛け素早く振り返る。
「だ......誰だ、貴様は?!」
「悲しいなあ......」
ドルマゲスは、気色の悪い甘い声色でそんな事を呟いた。
「な......何だと?! 質問に答えろ! 貴様は誰だ?! ここで何をしている?!」
「くっくっくっ......我が名はドルマゲス。ここで、人生の儚さについて考えていた」
完全にイカれている。アンジェリカにも分かった。ドルマゲスは、最早人間では無い。
人間だったとしても、まともな精神状態では無い。
「ふざけるな!」
サーベルトは叫び、剣を抜こうとした。しかし......
「くっ......どうした事だ! 剣が......剣が抜けん!!」
そのもがく姿を見て、ドルマゲスは笑った。
「悲しいなあ......。君の、その勇ましさに触れるほど、私は悲しくなる」
彼の杖が光った。その瞬間、サーベルトの表情が強張る。勇気ある青年が、初めて恐怖を浮かべた。
「き......貴様! 何をした......? 体が......動かん!」
そんな彼に、ドルマゲスはゆっくりと歩み寄る。サーベルトにも、傍観者であるエイト達にも、道化師の狙いが全く理解できなかった。
ドルマゲスは、サーベルトの目の前に立ち止まり、無意味な抵抗を続けている青年を見下ろした。
サーベルトは、尚も勇敢さを失わず、声を絞り出す。
「おのれ......!! ドルマゲスと言ったな?! ......その名前、決して忘れんぞ!!」
「ほう? ......私の名を忘れずにいれてくれると言うのか。何と喜ばしい事だろう」
まるで恋人に囁く言葉の様に、甘い声。
「私こそ、決して忘れはしない。君の名はたった今より、我が魂に永遠に焼き付く事となる。......さあ、もうこれ以上、私を悲しませないでおくれ」
「き......貴様!!!」
サーベルトの叫びと同時に、ドルマゲスは青年を抱き寄せた。そして......杖を......杖を青年の心臓に突き刺した。背中まで貫通した凶器を抜かれると、赤い血が辺りに飛び散る。
サーベルトは、恐怖と痛みの表情を浮かべながら、一拍遅れて床に崩れた。
ドルマゲスはわざわざ膝を着き、不気味な程優しい声色で、亡骸に囁く。
「君との出会い......語らい......。その全てを、我が人生の誇りと思おう。......キミの死は、無駄にしないよ」
彼は、耳障りな甲高い、狂った笑い声を上げ、雷鳴と共に姿を消した。
世界が再び暗くなり、エイト達は色のある世界で、優しい表情のリーザス像と対峙していた。
誰も言葉を発せなかった。
『旅の方よ。......リーザス像の記憶、見届けてくれたか?』
サーベルトの声が、部屋いっぱいに響き渡る。アンジェリカは、あまりのショックに膝から崩れ落ちてしまった。ドルマゲスが、人を殺した。それも、あんなに狂気に満ちた表情で、楽しむ様に。
『私にも、何故かは分からぬ。だが......リーザス像は、そなたらが来るのを待っていた様だ......。願わくば、このリーザス像の記憶が旅の助けになれば......私も報われる』
「ごめんなさい! 本当に......」
アンジェリカは、ボロボロと涙を零しながら頭を下げた。
『ゼシカよ』
サーベルトは、妹に向けて言葉を紡いだ。
『これで、我が魂の欠片も役割を終えた。......お別れだ』
「いやぁ!!!」
ゼシカはすがる様に、リーザス像へ向かって叫んだ。
「どうすれば良いの?! 行かないでよ......兄さん......」
二度目の別れが、彼女の心をズタズタに引き裂いた。この世界で、誰よりもゼシカに優しくしてくれた、サーベルト。何時だって、ゼシカの本音を唯一受け入れてくれる、大切な存在。
『ゼシカ......最後に、此れだけは伝えておきたかった』
人は、溢れる砂を、止められない。サーベルトの声は、どんどん遠くなる。
『この先も母さんは、お前に手を焼く事だろう。......だが、それで良い。お前は、自分の信じた道を進め。......さよならだ、ゼシカ......』
薄れ行く、像の光。ゼシカは、手を伸ばす。しかし、最早その輝きはこの世の物ではない。触れる事も許されぬまま、空に消えて行った。
少女は、両手で顔を覆い、泣き崩れてしまった。
「なんたる事じゃ。あのサーベルトを殺したのは、間違いなくドルマゲスじゃ!」
「おっさん、いつの間に?!」
突然現れたトロデに、ヤンガスは三十センチは飛び上がった。
トロデは全く取り合わず、醜悪な顔を更に歪める。
「何故だか分からぬが、あのサーベルトとやらも、わしらにドルマゲスを倒せと、言っているようじゃ。彼の思いは無駄に出来んな。これでまた一つ、奴を追う理由が増えたと言うことじゃ。それじゃあ、わしは馬車で待っておるぞ」
彼は言いたい事だけ言うと、ひょこひょこと立ち去ってしまった。
アンジェリカは涙を拭い、自分と同じ苦しみを抱える事となったゼシカの肩を抱いた。
「......ゼシカさん......ですね?」
「......名前も分からないけれど、誤解しちゃってごめん。今度、ゆっくりと謝るから。だから、もう暫く、一人で此処にいさせて......。少ししたら、村に戻るから」
彼女の気持ちは、痛いほど分かった。
アンジェリカは立ち上がり、仲間の方を見て一つ頷く。
「村に戻りましょう? 大丈夫。彼女は、一人でここまで来れたんだし、今はーー」
「分かったよ」
エイトは頷き、手を差し出した。アンジェリカは、その意図が分からず首を傾げる。すると、彼は困った様に微笑んだ。
「ごめんね。また君を盾にしちゃったし、助けて貰ったね。......疲れてない?」
「......大丈夫」
アンジェリカは、精一杯努力して笑顔を見せた。実際には、心が重く、恐怖の余韻が身体中を支配していた。人が殺される瞬間を、初めて見た。
何故、ドルマゲスは、一度も会った事のないサーベルトを殺したのだろう。
追憶の幻影を目の当たりにして、アンジェリカは何度叫びたかった事か。駆け寄り、凶行を止めたかった。ただ見ている事しか出来ない、悔しさと悲しみが渦を巻いている。
もっと早くドルマゲスを追っていれば......マスター・ライラスが殺された日に旅立っていれば、何かが変わっていたかもしれない。彫像の前で泣き崩れている、もう一人の自分を生み出さずに、済んだのかもしれない。
「大丈夫じゃないよね」
エイトは、自らアンジェリカに歩み寄り、手を引いた。
「帰ろう」
そして、もう片方の手をヤンガスに差し出す。リレミトが唱えられ、三人の姿は霞んで消えた。