マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
02:リーザス編
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扉の前に立ち、ポルクは性懲りも無く、偉そうに腕を組んだ。
「この扉は村の人間にしか、開けられない仕組みになってるんだ! 嘘だと思うなら、試してみろよ!」
誰も疑ってはいないのに、攻撃的な口調。エイトはポルクの気が済むのならと、取っ手に手を掛けた。
確かに鍵が掛かっているのか、押しても引いても動かない。
「......ちょっと待って」
アンジェリカは突然閃き、エイトと場所を代わった。彼女は何を思ったのか、地面にしゃがみ込むと、扉を持ち上げた。開いた。
「嘘だろ?!」
ポルクは、目をまん丸にして仰け反った。
「こんな奴初めてだ!」
「初めてじゃないと思うわ。......殺人犯だって中に入れたのだから」
アンジェリカの指摘に、ポルクは意外にも感心した素振りを見せた。
「お前......じゃなくて、姉ちゃんの事、見直したよ!」
「ありがとう」
アンジェリカは優しく笑い、少年の肩に手を置いた。
「村に戻るんでしょ? もし変な奴が来たら、絶対に戦っちゃダメ。お屋敷中の鍵を掛けて、いないフリをするのよ。私たちも、ゼシカさんを連れて、直ぐに帰るから」
「う......うん......」
不意に、少年の目からボロボロと涙が溢れた。精一杯、虚勢を張っていたのだろう。
不安と安堵の入り混じった感情が、ポルクの弱い心を引き出してしまった。
「なんだよ! ジロジロ見るな!!」
「ごめん......ごめんね」
アンジェリカは、出来るだけ神経を逆なでしない様に、さり気なく少年の頭を撫で、呪文を唱えた。
「トヘロス」
これで、村まで安心して帰る事が出来るだろう。少年も多少は魔法について知っているのか、自分の両手を見つめて、驚いた。
「すっげえ! ゼシカ姉ちゃんだって、まだ使えない呪文なのに!」
「さあ、行って。......マルクだけじゃ、頼りないでしょ?」
小さく付け加えられた最後の言葉に、ポルクは少し得意げな顔で頷き、走り去った。
一連の会話を見守っていた男二人は、何とも頼りない顔付きでアンジェリカを見詰めていた。
「私の顔に、スライムでも付いているって言うの?」
「アンジェ姐さんは、子供を扱うのが上手いでがすな。」
歩きながら、ヤンガスが素直な感想を述べた。
「一回も殴らずに言う事を聞かせるなんて、あっしには出来ない芸当でがす」
「物騒な事、言うなよ」
エイトが窘める。ヤンガスは、一つ咳払いをしてその場を誤魔化した。
一行は、黙々と塔を登った。途中鍵の掛かった部屋があったり、魔物が飛び出して来たりと、中々大変な思いをしながら、上へ、上へと。
そして、ついに行き止まりに迷い込んでしまった。
「どうします、兄貴? 壁をぶっ壊しますか?」
ヤンガスの提案を、エイトは即座に跳ね除けた。
「やめて。こんなに大切にされている建物を破壊したら、村の人達に恨まれるよ。......きっと、何か方法があるはずだ」
三人は部屋中をキョロキョロと眺めまわした。そして、どう考えて怪しげな物を発見。
石壁に埋め込まれた、恐ろしい顔。目は青々と光り、この世の終わりを見たかの様に、口を大きく開けている。一体誰の趣味でこんな物が造られたのか。
アンジェリカは、恐る恐る、それに手を伸ばした。様子に気が付いたエイトが、慌ててその腕を掴む。
「噛み付かれたらどうするの?!」
「あ、そういう危険性もあるわね。左手にした方が良いかしら」
「僕がやる」
「剣士は指が無くなったら、大惨事でしょう? 私は魔法使いだから」
「そういう問題じゃーー」
エイトの制止を皆まで聞かず、アンジェリカは左手を伸ばしていた。像の口に触れるか触れないかの所で、突然、床ごと壁が回転した。二人一緒に半回転し、気付けば反対側の部屋に移動していた。
向こう側に取り残されたヤンガスが、何やら叫んでいる。
「おーい! 兄貴!!! アンジェ姐さん!!!!」
「ヤンガス!! 壁の顔に触れれば、こっち側に来れるよ!!」
エイトが怒鳴り返した数秒後、床がガタリと動いた。アンジェリカは、慌ててエイトの腕を掴み、壁から離れた。
ヤンガスは、少し壁に挟まりながら、何とか通り抜ける事に成功した。
「やれやれ。せめてもう少し、幅を広げてくれると助かるんでがすが」
その点については、塔の製作者に責任は無いだろう。ヤンガスはアンジェリカに比べて、横のサイズが二倍は大きい。
エイトは顔を背けて、肩を震わせた。アンジェリカも釣られそうになったのだが、ヤンガスが余りにも不機嫌そうだったので、ぐっと堪えた。
その代わり、まだまだ上へと続く階段を見据える。
「ゼシカさんは、一人でここを登ったのかしら?」
「まあ、途中に死体が転がって無いって事は、つまりそう言う事でがすよ」
ヤンガスが縁起でもない事を口にし、ぶるりと震えた。聞いたことも無い謎の念仏を、ブツブツと唱えている。
「ヤンガス、それ、呪いじゃ無いよね?」
エイトは、再び先陣を切って進みながら、問い掛けた。
「とんでもないでがす! あっしの故郷では、何かあった時、こうやって拝むんでがす。なんまんだぶ、なんまんだぶ......」
「万年デブ?」
アンジェリカが、ボソッと零した。エイトはクッと声を漏らして笑い、ヤンガスは悪人面を更にそれっぽくした。
爆弾発言をした張本人は、二人の反応に首を傾げ、数秒後に漸く理解が及び、ヤンガスの服を掴んだ。
「ご......ごめんなさい! 私、人の気持ちも考えないでーー」
「別にあっしは、何にも言ってないでがすよ。」
ますます墓穴を掘ってしまい、アンジェリカは完全にパニックを起こしていた。
エイトは、そんな彼女の様子が可笑しくて堪らなかった。戦いの時には、誰よりも冷静に、合理的に、勇敢に戦う。得体の知れない石の顔面に、自ら手を伸ばし、犠牲を覚悟で道を切り拓いた。
そんな彼女が時折見せる、少女らしい表情を、エイトは、何となく好きになっていた。
思えば、アンジェリカはミーティア姫と同い年。それなのに、随分と大人びて見える。一体どれ程の苦労があったのだろうか。
「ねえ、アンジェ。君って......その、とっても勇敢だよね」
「どうしたの、急に?」
「......ううん。凄いなって思って。怖いものとか、無いの?」
「そうね......」
アンジェリカは、真剣に考え込んだ。これまでの人生で一番怖かった事は何だろう。
「拷問部屋かな」
「え?!」
「はあ?!」
予想外の返答に、エイトとヤンガスは飛び上がった。アンジェリカは、時たま物騒な事を口にする。
彼女は天使の様な笑みを浮かべながら、詳細を説明した。
「マイエラ修道院にいた頃、うっかり騎士団の宿舎に入ってしまった事があって。ちょっとした好奇心で探検をしようと思って、地下牢に降りちゃったのよ。そうしたら、いつも親切にしてくれていた騎士見習いの人が、手に鞭を持って死にそうな荒くれ者をーー」
「もう良い! もう良いから!!」
小市民の心を持ったエイトは、全身が粟立つのを感じた。想像しただけでも、おぞましい。それを幼い子供が見たとなれば、尚更だ。
しかし、アンジェリカは、あっけらかんと笑っていた。
「おかげで、大概のものは怖くなくなったわ。だって、人間を傷付けて、人間に傷付けられるよりも、魔物をやっつける方がずっと楽だもの」
確かに、それはそうだ。エイトは間違っても人殺しなどしたくなかった。ヤンガスですら、金銭は奪っても、人の命までは奪った事が無い。
「そりゃ、そんだけのもんを見て来たんじゃあ、恐怖の感覚もおかしくなるでがすよ」
山賊風情は首をぶんぶんと振って、嫌なイメージを消し去った。
しかし、アンジェリカは気が付いてしまった。自分たちは今、人間を追っているのだ。それも、彼女にとっては家族同然であった男だ。
もし、ドルマゲスが襲い掛かってきたら、アンジェリカは本気で戦う事が出来るだろうか。最悪......その命を奪う必要があるかも知れない。そうなった時、躊躇えば、二人の仲間が傷付くかもしれない。アンジェリカが止めを刺せなければ、二人のどちらかが、罪を背負う事になるだろう。
「ねえ......ドルマゲスを殺さないといけなくなったら、私がとどめを刺すわ」
固い決意。口にする事で、彼女は自分を奮い立たせた。
「駄目だよ」
エイトが、優しい口調で否定する。
「そもそも、あいつが人殺しを始めたのは、僕たちが、国宝の杖を、みすみす渡してしまったからなんだ。悪いけど、復讐の権利は譲れないな」
「かーっ!! アニキのアツいハートに、アッシは涙が止まらないでがすよ!!」
そう言ったヤンガスの目は、実際に潤んでいた。どうも人情に厚い男らしい。彼のおいおい泣く声のせいで、アンジェリカは反論の機会を逸してしまった。
そうこうしているうちに、また、あの不気味な顔のレリーフが現れた。三人同時に通るのは、どう考えても無理なので、二回も壁を反転させる手間が掛かった。
そして、塔を上へと進み、ついに最上階と思しき、開けた空間に辿り着いた。
しかし、そこにもゼシカの姿はない。代わりに、赤い宝石を両眼に埋め込まれた、美しい彫像が諸手を広げて三人を迎え入れた。
その美しさに吸い込まれる様に、エイト達は足を進めていた。
丁度、彫像の前に辿り着いた時だ。背後で人の気配がした。
「この扉は村の人間にしか、開けられない仕組みになってるんだ! 嘘だと思うなら、試してみろよ!」
誰も疑ってはいないのに、攻撃的な口調。エイトはポルクの気が済むのならと、取っ手に手を掛けた。
確かに鍵が掛かっているのか、押しても引いても動かない。
「......ちょっと待って」
アンジェリカは突然閃き、エイトと場所を代わった。彼女は何を思ったのか、地面にしゃがみ込むと、扉を持ち上げた。開いた。
「嘘だろ?!」
ポルクは、目をまん丸にして仰け反った。
「こんな奴初めてだ!」
「初めてじゃないと思うわ。......殺人犯だって中に入れたのだから」
アンジェリカの指摘に、ポルクは意外にも感心した素振りを見せた。
「お前......じゃなくて、姉ちゃんの事、見直したよ!」
「ありがとう」
アンジェリカは優しく笑い、少年の肩に手を置いた。
「村に戻るんでしょ? もし変な奴が来たら、絶対に戦っちゃダメ。お屋敷中の鍵を掛けて、いないフリをするのよ。私たちも、ゼシカさんを連れて、直ぐに帰るから」
「う......うん......」
不意に、少年の目からボロボロと涙が溢れた。精一杯、虚勢を張っていたのだろう。
不安と安堵の入り混じった感情が、ポルクの弱い心を引き出してしまった。
「なんだよ! ジロジロ見るな!!」
「ごめん......ごめんね」
アンジェリカは、出来るだけ神経を逆なでしない様に、さり気なく少年の頭を撫で、呪文を唱えた。
「トヘロス」
これで、村まで安心して帰る事が出来るだろう。少年も多少は魔法について知っているのか、自分の両手を見つめて、驚いた。
「すっげえ! ゼシカ姉ちゃんだって、まだ使えない呪文なのに!」
「さあ、行って。......マルクだけじゃ、頼りないでしょ?」
小さく付け加えられた最後の言葉に、ポルクは少し得意げな顔で頷き、走り去った。
一連の会話を見守っていた男二人は、何とも頼りない顔付きでアンジェリカを見詰めていた。
「私の顔に、スライムでも付いているって言うの?」
「アンジェ姐さんは、子供を扱うのが上手いでがすな。」
歩きながら、ヤンガスが素直な感想を述べた。
「一回も殴らずに言う事を聞かせるなんて、あっしには出来ない芸当でがす」
「物騒な事、言うなよ」
エイトが窘める。ヤンガスは、一つ咳払いをしてその場を誤魔化した。
一行は、黙々と塔を登った。途中鍵の掛かった部屋があったり、魔物が飛び出して来たりと、中々大変な思いをしながら、上へ、上へと。
そして、ついに行き止まりに迷い込んでしまった。
「どうします、兄貴? 壁をぶっ壊しますか?」
ヤンガスの提案を、エイトは即座に跳ね除けた。
「やめて。こんなに大切にされている建物を破壊したら、村の人達に恨まれるよ。......きっと、何か方法があるはずだ」
三人は部屋中をキョロキョロと眺めまわした。そして、どう考えて怪しげな物を発見。
石壁に埋め込まれた、恐ろしい顔。目は青々と光り、この世の終わりを見たかの様に、口を大きく開けている。一体誰の趣味でこんな物が造られたのか。
アンジェリカは、恐る恐る、それに手を伸ばした。様子に気が付いたエイトが、慌ててその腕を掴む。
「噛み付かれたらどうするの?!」
「あ、そういう危険性もあるわね。左手にした方が良いかしら」
「僕がやる」
「剣士は指が無くなったら、大惨事でしょう? 私は魔法使いだから」
「そういう問題じゃーー」
エイトの制止を皆まで聞かず、アンジェリカは左手を伸ばしていた。像の口に触れるか触れないかの所で、突然、床ごと壁が回転した。二人一緒に半回転し、気付けば反対側の部屋に移動していた。
向こう側に取り残されたヤンガスが、何やら叫んでいる。
「おーい! 兄貴!!! アンジェ姐さん!!!!」
「ヤンガス!! 壁の顔に触れれば、こっち側に来れるよ!!」
エイトが怒鳴り返した数秒後、床がガタリと動いた。アンジェリカは、慌ててエイトの腕を掴み、壁から離れた。
ヤンガスは、少し壁に挟まりながら、何とか通り抜ける事に成功した。
「やれやれ。せめてもう少し、幅を広げてくれると助かるんでがすが」
その点については、塔の製作者に責任は無いだろう。ヤンガスはアンジェリカに比べて、横のサイズが二倍は大きい。
エイトは顔を背けて、肩を震わせた。アンジェリカも釣られそうになったのだが、ヤンガスが余りにも不機嫌そうだったので、ぐっと堪えた。
その代わり、まだまだ上へと続く階段を見据える。
「ゼシカさんは、一人でここを登ったのかしら?」
「まあ、途中に死体が転がって無いって事は、つまりそう言う事でがすよ」
ヤンガスが縁起でもない事を口にし、ぶるりと震えた。聞いたことも無い謎の念仏を、ブツブツと唱えている。
「ヤンガス、それ、呪いじゃ無いよね?」
エイトは、再び先陣を切って進みながら、問い掛けた。
「とんでもないでがす! あっしの故郷では、何かあった時、こうやって拝むんでがす。なんまんだぶ、なんまんだぶ......」
「万年デブ?」
アンジェリカが、ボソッと零した。エイトはクッと声を漏らして笑い、ヤンガスは悪人面を更にそれっぽくした。
爆弾発言をした張本人は、二人の反応に首を傾げ、数秒後に漸く理解が及び、ヤンガスの服を掴んだ。
「ご......ごめんなさい! 私、人の気持ちも考えないでーー」
「別にあっしは、何にも言ってないでがすよ。」
ますます墓穴を掘ってしまい、アンジェリカは完全にパニックを起こしていた。
エイトは、そんな彼女の様子が可笑しくて堪らなかった。戦いの時には、誰よりも冷静に、合理的に、勇敢に戦う。得体の知れない石の顔面に、自ら手を伸ばし、犠牲を覚悟で道を切り拓いた。
そんな彼女が時折見せる、少女らしい表情を、エイトは、何となく好きになっていた。
思えば、アンジェリカはミーティア姫と同い年。それなのに、随分と大人びて見える。一体どれ程の苦労があったのだろうか。
「ねえ、アンジェ。君って......その、とっても勇敢だよね」
「どうしたの、急に?」
「......ううん。凄いなって思って。怖いものとか、無いの?」
「そうね......」
アンジェリカは、真剣に考え込んだ。これまでの人生で一番怖かった事は何だろう。
「拷問部屋かな」
「え?!」
「はあ?!」
予想外の返答に、エイトとヤンガスは飛び上がった。アンジェリカは、時たま物騒な事を口にする。
彼女は天使の様な笑みを浮かべながら、詳細を説明した。
「マイエラ修道院にいた頃、うっかり騎士団の宿舎に入ってしまった事があって。ちょっとした好奇心で探検をしようと思って、地下牢に降りちゃったのよ。そうしたら、いつも親切にしてくれていた騎士見習いの人が、手に鞭を持って死にそうな荒くれ者をーー」
「もう良い! もう良いから!!」
小市民の心を持ったエイトは、全身が粟立つのを感じた。想像しただけでも、おぞましい。それを幼い子供が見たとなれば、尚更だ。
しかし、アンジェリカは、あっけらかんと笑っていた。
「おかげで、大概のものは怖くなくなったわ。だって、人間を傷付けて、人間に傷付けられるよりも、魔物をやっつける方がずっと楽だもの」
確かに、それはそうだ。エイトは間違っても人殺しなどしたくなかった。ヤンガスですら、金銭は奪っても、人の命までは奪った事が無い。
「そりゃ、そんだけのもんを見て来たんじゃあ、恐怖の感覚もおかしくなるでがすよ」
山賊風情は首をぶんぶんと振って、嫌なイメージを消し去った。
しかし、アンジェリカは気が付いてしまった。自分たちは今、人間を追っているのだ。それも、彼女にとっては家族同然であった男だ。
もし、ドルマゲスが襲い掛かってきたら、アンジェリカは本気で戦う事が出来るだろうか。最悪......その命を奪う必要があるかも知れない。そうなった時、躊躇えば、二人の仲間が傷付くかもしれない。アンジェリカが止めを刺せなければ、二人のどちらかが、罪を背負う事になるだろう。
「ねえ......ドルマゲスを殺さないといけなくなったら、私がとどめを刺すわ」
固い決意。口にする事で、彼女は自分を奮い立たせた。
「駄目だよ」
エイトが、優しい口調で否定する。
「そもそも、あいつが人殺しを始めたのは、僕たちが、国宝の杖を、みすみす渡してしまったからなんだ。悪いけど、復讐の権利は譲れないな」
「かーっ!! アニキのアツいハートに、アッシは涙が止まらないでがすよ!!」
そう言ったヤンガスの目は、実際に潤んでいた。どうも人情に厚い男らしい。彼のおいおい泣く声のせいで、アンジェリカは反論の機会を逸してしまった。
そうこうしているうちに、また、あの不気味な顔のレリーフが現れた。三人同時に通るのは、どう考えても無理なので、二回も壁を反転させる手間が掛かった。
そして、塔を上へと進み、ついに最上階と思しき、開けた空間に辿り着いた。
しかし、そこにもゼシカの姿はない。代わりに、赤い宝石を両眼に埋め込まれた、美しい彫像が諸手を広げて三人を迎え入れた。
その美しさに吸い込まれる様に、エイト達は足を進めていた。
丁度、彫像の前に辿り着いた時だ。背後で人の気配がした。