アンジェリカは、呆然と立ち尽くしていた。家が......養父の家が燃えている。

町の人々が、大勢集まり、何とか火を消そうと奮闘していたが、魔法の炎は全てを焼き尽くすまで、その勢いを失うことは無いだろう。魔法使いのアンジェリカには、それが分かった。

「アンジェリカ！」

駆け寄って来たのは、占い師の一人娘・ユリマ。彼女は今にも飛び出しそうな親友の腕を掴み、ギュッと目を閉じた。

「せめて、貴女が無事で良かった......。本当に......」

「アンジェリカ！」

道具屋の婦人が、彼女の存在に気が付き、歩み寄って来た。

「心配したよ。気をしっかりもっとくれ！」

優しい人々の声は、アンジェリカの心に届かなかった。

「誰が......誰がやったの？！」

「俺は見たぞ！！」

誰かが、そう叫んだ。

「あいつだ！ あの、男！ ライラスさんの所に出入りしてた、ドル......何とかって言う......」

「ドルマゲス？！」

アンジェリカは、信じられないと言わんばかりに目を見開いた。彼女は、何年もドルマゲスの姿を見て来た。

中々魔法の才能に目覚めなかった彼は、それでも直向きに努力し、ライラスの課題を堅実にこなしていた。

アンジェリカは、最後に彼にあった日のことを思い出す。そう言えば、あの日、ドルマゲスはかなり落ち込んでいた。

錬金の素材を集めていたアンジェリカとすれ違った時、挨拶すらせずに通り過ぎて行った。大方ライラスに叱られ、不機嫌なのだろうと思っていた。

まさか、その逆恨みで、養父を殺したのだろうか？ ありえなくも無い。

ライラスは、時折辛辣な言葉を放つ。アンジェリカですら、酷く傷付いた事もあった。しかし、だからと言って......

「ドルマゲスを探さないと！ 彼を問い詰めなければーー」

「駄目よ！」

ユリマが、アンジェリカの腕を強く引いた。

「彼は貴女も、殺すつもりだったのかもしれない！ 今は駄目よ！！」

「聞き分けておくれ。」

道具屋の婦人が、優しくアンジェリカの肩を抱いた。

「あんたの事は、街のみんなが大好きなんだ。危ない目には、あって欲しく無いんだよ」

アンジェリカは膝から崩れ落ちて、泣いた。彼女の愛した人は、皆いなくなってしまう。父も母も、養父も。