ファヌージュ出身の傭兵。
03:帰還
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ゲイニス城に戻るなり、フランチェスカは真っ先に宰相ジャギルに紹介された。
元々彼女は顔を知っていたが、間近で見て、背の低さに驚愕した。ノームの血でも入っているのではないかと、疑ったくらいだ。
彼は、ルミナスと違い、信念を持ってレイグルに使えているわけでは無さそうだ。力のあるものに屈しているだけ。
だから、レイグルが突然、変な女を連れて現れ、貴族並みの待遇を受けさせるよう命じても、一切逆らわなかった。勿論、不可解そうな顔はしたが。
そういうわけで、フランチェスカは、かつて王妃が使っていた部屋を与えられ、法外な金額の俸給と、騎士の正装も与えられた。
しかし、レイグルは服装に関して、特に指定はしなかった。フランチェスカとしては、有難い限りだ。
無駄に重い甲冑は、かえって彼女の動きを制限してしまう。
だから、フランチェスカは、所持していたものの中で、一番綺麗な私服を着用した。それは、友人に仕立てて貰った、特別な魔法の力のあるローブだった。
身の回りの整理を終え、レイグルの私室へ向かった。幾重にも結界が張られており、流石のレインも聞き耳を立てられないだろう。
フランチェスカは、これまで辿って来た道のりについて、ザックリと説明した。
作り話の様な話をしても、レイグルは一切否定せずに、受け入れてくれた。
「そういうわけで、私は異なるミュールゲニアで5年程過ごしました。竜の力を受け継いだお陰で、年は取っていませんが......。あちらの世界からは、レインという存在が、綺麗さっぱり消えてしまったんです。それがどうしても引っかかっていて。......先程聞き耳を立てていたメルキュールも、そのことを気にしている様です。ですので、レインのことは随分調べました。噂は本当の様です。彼はドラゴンスレイヤーですよ。おまけに政治的な駆け引きにも強い。アヴェルーンで革命騒ぎを起こしていますし」
「なるほど......」
レイグルは目を閉じた。
「間諜が悉く排除されるわけだ」
「彼は、沈む泥船に乗り込むほど愚かではありません。ダグラス王に愛想を尽かせば、ただの傭兵に戻るでしょう。......ですが、ラルファスという貴族と交友関係を持っている様です。レインは......貴方や私とは違う。人間です。情がある。そう簡単に見捨てはしないでしょう」
「戦が避けられぬのなら、それはそれで構わん。やつの力を試す良い機会だ。......しかし、やはり注視すべきだな」
レイグルは、顔をしかめて肘をついた。それから暫く目を閉じて、大きく息を吐いた。
「次の戦では、ルミナスとガルブレイクに指揮をとらせる。不用意に恐怖心を煽るのも、良策とは言えん。あやつのことは、警告程度にとどめよう。個人的には、もう少し探りを入れるつもりだが......」
「でしたら、あの男が殺せない様な人間を使ったら、いかがでしょうか? 例えば、サンクワールから出稼ぎに来ている女性とか」
えげつない提案に、レイグルは、素で驚いた表情を浮かべた。五年前に別れた少女は、名も知らぬ貴族の遺体を修復するために、限界まで魔力を使い、自分の母を殺した村人たちも見逃したのだ。
「......申し訳ございません」
フランチェスカは、ローブをギュッと握りしめて、俯いた。
「正々堂々と戦う貴方に、相応しくない策でした。......でも......それでも」
彼女は顔を上げ、真っ直ぐレイグルを見詰めた。頬に一筋の雫が伝う。
「私には、もう貴方以外に、頼れる者も、信じられる者もいないのです!! これまで、どんな悲惨な目に遭っても、助けてくれる人はいませんでした。貴方以外には!! 私は......私は......ずっと貴方を見ていました。何時か、お力になりたいと!! けれど、貴方には、良い仲間がいて、私の出る幕など無しに全てが片付いてしまって......。悔いました。やり直せるのなら、傍観者ではなく、戦士でありたいと!! 恵沢を与えられるだけの、弱い存在ではなく、生かされた命を限界まで燃やしてやりたいと!! ......羨ましかった。お互いを信じ合う、貴方たちの姿が。だから......だから、貴方の力になりたいんです!!! 私は......ただ、それだけで......」
「一先ず落ち着け」
レイグルは、決して責める様子は見せずに、静かに返した。
「お前が見たものは、未来では無いし、ましてや俺では無い。少なくとも、俺には、お前が必要だ。お前の案を飲む。間諜を手配しよう」
彼は席を立ち、窓際へ向かった。
「確かに、我ら魔族の力を以ってすれば、大陸の統一など容易い。しかし、俺は人間を根絶やしにするつもりなどない。故に、人間のルールに従って戦う必要がある。......力を貸せ、フランチェスカ」
「っ......はい!!」
フランチェスカは、涙を拭い立ち上がった。そして、その瞬間、殺気の塊を感じて、姿勢を正す。10人以上だ。
「陛下!!」
「貴族共は、俺に用があるらしい」
レイグルは、魔剣ではなく、普通のサーベルを装備した。もっとも、彼なら素手でも人間の首をへし折る事くらい、容易いだろうが。
玉座の間へ行くと、既に抜剣した騎士たちが身構えていた。
フランチェスカは、すかさず相手の力量を計り、一歩後ずさった。自分が手を下すまでもないと判断したからだ。
「ほお。俺の手間を省いてくれたか。自ら馬脚を現すとは」
レイグルは、完全に喧嘩を売った。微塵も動揺を見せずに、優雅に前髪を搔きあげ、最後通告の意味も込めて、貴族たちを睥睨する。
しかし、相手も引かず、代表で四十絡みの男が叫んだ。
「黙れ!五年前に先王陛下がお前に殺されて以来、我々は耐えに耐えて来た!!しかし、もう我慢の限界だ!! この世界に悪戯に争いを持ち込もうとするお前のやり様、我々は絶対に看過出来ん!!」
言っていることは、至極まともである。確かにレイグルは、他国に戦を仕掛け、その国をザーマインは吸収している。
しかし、抵抗する者以外には決して手を出さず、その国に元々あった良き文化については、口出しせずに見過ごしている。
ザーマインは豊かになり、民は裕福になって行く。一方で、貴族たちの生活は、以前よりもやや質素になっている。それでも、一般人に比べれば、かなり優遇されている方だ。
「最低」
フランチェスカは、初めて口を開いた。全員の視線が彼女に集中する。
「聞こえの良い正義をダシに、この方を殺すの? 善良な民が、レイグル王に対して不服を口にしたのですか? 素直に、自分の利益を取り戻すためと言えば良いのに」
「もう良い」
貴族たちが抗議する前に、レイグルはフランチェスカを制した。愉快そうに笑いながら。そして、貴族たちを余裕綽々と見回し、呆れた様に息を吐いた。
「お前たちごときの実力で、この俺を倒せると本当に思うのか? ......そこまで愚かだったのか。ならば、ちょうど良い厄介払いだ。......今の俺に必要なのは、余人を超えた──いや、余人どころか、最強の魔獣をも打ち倒す、強く有能な部下だ」
「馬鹿馬鹿しい!」
貴族の一人は、吐き捨てる様に言った。
「やはり、お前はどこか狂っている! もっと早く決行すべきだった!!」
「馬鹿馬鹿しい、か。まあ良い。どうせお前たちは此処で死ぬ。これから先の話など、無縁のこと──」
瞬間、レイグルは動いた。3人を一気に斬り伏せ、残る一人に、ゆっくりと詰め寄る。
「ひっ!!」
男は喉を鳴らして後ずさった。レイグルは無造作に片手を上げ、小さく呟く。
「魔光よ!」
真っ白な魔力が爆発的な奔流となり、彼の掌から迸った。
「魔法だと?! ルーンの詠唱もなかった......。こ......こんな事が人間に可能なはずがない!! まさか貴様の正体は──」
男は、全て言い終えることが出来なかった。レイグルの魔法が、彼の全身を焼き切り、炭に変えてしまったのだ。
「......随分と派手にやりましたね」
フランチェスカは、冷静な声色で呟いた。物言わぬ屍を見つめ、俯いた。
「流石に修復出来ません」
「墓くらいは造ってやる」
レイグルは淡々と応え、剣を収めた。
「さて、こうなると、いよいよ新しい部下を捜さねばな」
「サラさんや、デューイたちを招集しては?」
フランチェスカの提案に、レイグルは目を見張った。二人の名は、到底彼女が知り得るはずも無い。そして......
「彼らを呼び出すほど、あちらの俺は手こずったのか?」
「いいえ。噂に聞いただけですが、貴方のやり方に同調した魔人が、自ら加勢した様です。多少の障害はありましたが、貴方は殆ど苦労する事なく、大陸を征服しました」
そう答えて、死者の元へ歩み寄ろうとした彼女の腕を、レイグルは咄嗟に掴んだ。フランチェスカは、驚いた表情を浮かべて振り返った。
「......あの?」
「始末は俺がつける。その格好では、汚れが目立つだろう。扉の外にジャギルが控えている。城を見て回れ」
「ご配慮、ありがとうございます」
フランチェスカは、膝を折って低頭した。レイグルは手を離したが、何を思ったのか、突然フランチェスカの頭に手を置いた。
「陛下?」
彼女は目を伏せたまま、意を探る。
レイグルは、自分で自分の感情を言葉に出来ず、考え込んでしまった。対等に、同じ次元......いや、それ以上の会話が出来る存在と出会った興奮に、胸が高鳴っていた。ましてや、敵対する者では無く、彼女は完全に自分の味方だと言っているのだ。
フランチェスカの求める見返りは、レイグルの目的と一致しており、彼女は実質なんの利益も求めていない事になる。魔界では、まずこんな関係を築ける相手など、見つからないだろう。
「良く戻った」
結局そう告げて頭を撫でてやると、フランチェスカは、何故か顔を赤らめて、バッとレイグルの手を振り払った。
「子供扱いしないでください! 失礼します!!」
彼女は勢いよく立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
レイグルは、フランチェスカの感情を全く理解出来ずに、顔をしかめた。
元々彼女は顔を知っていたが、間近で見て、背の低さに驚愕した。ノームの血でも入っているのではないかと、疑ったくらいだ。
彼は、ルミナスと違い、信念を持ってレイグルに使えているわけでは無さそうだ。力のあるものに屈しているだけ。
だから、レイグルが突然、変な女を連れて現れ、貴族並みの待遇を受けさせるよう命じても、一切逆らわなかった。勿論、不可解そうな顔はしたが。
そういうわけで、フランチェスカは、かつて王妃が使っていた部屋を与えられ、法外な金額の俸給と、騎士の正装も与えられた。
しかし、レイグルは服装に関して、特に指定はしなかった。フランチェスカとしては、有難い限りだ。
無駄に重い甲冑は、かえって彼女の動きを制限してしまう。
だから、フランチェスカは、所持していたものの中で、一番綺麗な私服を着用した。それは、友人に仕立てて貰った、特別な魔法の力のあるローブだった。
身の回りの整理を終え、レイグルの私室へ向かった。幾重にも結界が張られており、流石のレインも聞き耳を立てられないだろう。
フランチェスカは、これまで辿って来た道のりについて、ザックリと説明した。
作り話の様な話をしても、レイグルは一切否定せずに、受け入れてくれた。
「そういうわけで、私は異なるミュールゲニアで5年程過ごしました。竜の力を受け継いだお陰で、年は取っていませんが......。あちらの世界からは、レインという存在が、綺麗さっぱり消えてしまったんです。それがどうしても引っかかっていて。......先程聞き耳を立てていたメルキュールも、そのことを気にしている様です。ですので、レインのことは随分調べました。噂は本当の様です。彼はドラゴンスレイヤーですよ。おまけに政治的な駆け引きにも強い。アヴェルーンで革命騒ぎを起こしていますし」
「なるほど......」
レイグルは目を閉じた。
「間諜が悉く排除されるわけだ」
「彼は、沈む泥船に乗り込むほど愚かではありません。ダグラス王に愛想を尽かせば、ただの傭兵に戻るでしょう。......ですが、ラルファスという貴族と交友関係を持っている様です。レインは......貴方や私とは違う。人間です。情がある。そう簡単に見捨てはしないでしょう」
「戦が避けられぬのなら、それはそれで構わん。やつの力を試す良い機会だ。......しかし、やはり注視すべきだな」
レイグルは、顔をしかめて肘をついた。それから暫く目を閉じて、大きく息を吐いた。
「次の戦では、ルミナスとガルブレイクに指揮をとらせる。不用意に恐怖心を煽るのも、良策とは言えん。あやつのことは、警告程度にとどめよう。個人的には、もう少し探りを入れるつもりだが......」
「でしたら、あの男が殺せない様な人間を使ったら、いかがでしょうか? 例えば、サンクワールから出稼ぎに来ている女性とか」
えげつない提案に、レイグルは、素で驚いた表情を浮かべた。五年前に別れた少女は、名も知らぬ貴族の遺体を修復するために、限界まで魔力を使い、自分の母を殺した村人たちも見逃したのだ。
「......申し訳ございません」
フランチェスカは、ローブをギュッと握りしめて、俯いた。
「正々堂々と戦う貴方に、相応しくない策でした。......でも......それでも」
彼女は顔を上げ、真っ直ぐレイグルを見詰めた。頬に一筋の雫が伝う。
「私には、もう貴方以外に、頼れる者も、信じられる者もいないのです!! これまで、どんな悲惨な目に遭っても、助けてくれる人はいませんでした。貴方以外には!! 私は......私は......ずっと貴方を見ていました。何時か、お力になりたいと!! けれど、貴方には、良い仲間がいて、私の出る幕など無しに全てが片付いてしまって......。悔いました。やり直せるのなら、傍観者ではなく、戦士でありたいと!! 恵沢を与えられるだけの、弱い存在ではなく、生かされた命を限界まで燃やしてやりたいと!! ......羨ましかった。お互いを信じ合う、貴方たちの姿が。だから......だから、貴方の力になりたいんです!!! 私は......ただ、それだけで......」
「一先ず落ち着け」
レイグルは、決して責める様子は見せずに、静かに返した。
「お前が見たものは、未来では無いし、ましてや俺では無い。少なくとも、俺には、お前が必要だ。お前の案を飲む。間諜を手配しよう」
彼は席を立ち、窓際へ向かった。
「確かに、我ら魔族の力を以ってすれば、大陸の統一など容易い。しかし、俺は人間を根絶やしにするつもりなどない。故に、人間のルールに従って戦う必要がある。......力を貸せ、フランチェスカ」
「っ......はい!!」
フランチェスカは、涙を拭い立ち上がった。そして、その瞬間、殺気の塊を感じて、姿勢を正す。10人以上だ。
「陛下!!」
「貴族共は、俺に用があるらしい」
レイグルは、魔剣ではなく、普通のサーベルを装備した。もっとも、彼なら素手でも人間の首をへし折る事くらい、容易いだろうが。
玉座の間へ行くと、既に抜剣した騎士たちが身構えていた。
フランチェスカは、すかさず相手の力量を計り、一歩後ずさった。自分が手を下すまでもないと判断したからだ。
「ほお。俺の手間を省いてくれたか。自ら馬脚を現すとは」
レイグルは、完全に喧嘩を売った。微塵も動揺を見せずに、優雅に前髪を搔きあげ、最後通告の意味も込めて、貴族たちを睥睨する。
しかし、相手も引かず、代表で四十絡みの男が叫んだ。
「黙れ!五年前に先王陛下がお前に殺されて以来、我々は耐えに耐えて来た!!しかし、もう我慢の限界だ!! この世界に悪戯に争いを持ち込もうとするお前のやり様、我々は絶対に看過出来ん!!」
言っていることは、至極まともである。確かにレイグルは、他国に戦を仕掛け、その国をザーマインは吸収している。
しかし、抵抗する者以外には決して手を出さず、その国に元々あった良き文化については、口出しせずに見過ごしている。
ザーマインは豊かになり、民は裕福になって行く。一方で、貴族たちの生活は、以前よりもやや質素になっている。それでも、一般人に比べれば、かなり優遇されている方だ。
「最低」
フランチェスカは、初めて口を開いた。全員の視線が彼女に集中する。
「聞こえの良い正義をダシに、この方を殺すの? 善良な民が、レイグル王に対して不服を口にしたのですか? 素直に、自分の利益を取り戻すためと言えば良いのに」
「もう良い」
貴族たちが抗議する前に、レイグルはフランチェスカを制した。愉快そうに笑いながら。そして、貴族たちを余裕綽々と見回し、呆れた様に息を吐いた。
「お前たちごときの実力で、この俺を倒せると本当に思うのか? ......そこまで愚かだったのか。ならば、ちょうど良い厄介払いだ。......今の俺に必要なのは、余人を超えた──いや、余人どころか、最強の魔獣をも打ち倒す、強く有能な部下だ」
「馬鹿馬鹿しい!」
貴族の一人は、吐き捨てる様に言った。
「やはり、お前はどこか狂っている! もっと早く決行すべきだった!!」
「馬鹿馬鹿しい、か。まあ良い。どうせお前たちは此処で死ぬ。これから先の話など、無縁のこと──」
瞬間、レイグルは動いた。3人を一気に斬り伏せ、残る一人に、ゆっくりと詰め寄る。
「ひっ!!」
男は喉を鳴らして後ずさった。レイグルは無造作に片手を上げ、小さく呟く。
「魔光よ!」
真っ白な魔力が爆発的な奔流となり、彼の掌から迸った。
「魔法だと?! ルーンの詠唱もなかった......。こ......こんな事が人間に可能なはずがない!! まさか貴様の正体は──」
男は、全て言い終えることが出来なかった。レイグルの魔法が、彼の全身を焼き切り、炭に変えてしまったのだ。
「......随分と派手にやりましたね」
フランチェスカは、冷静な声色で呟いた。物言わぬ屍を見つめ、俯いた。
「流石に修復出来ません」
「墓くらいは造ってやる」
レイグルは淡々と応え、剣を収めた。
「さて、こうなると、いよいよ新しい部下を捜さねばな」
「サラさんや、デューイたちを招集しては?」
フランチェスカの提案に、レイグルは目を見張った。二人の名は、到底彼女が知り得るはずも無い。そして......
「彼らを呼び出すほど、あちらの俺は手こずったのか?」
「いいえ。噂に聞いただけですが、貴方のやり方に同調した魔人が、自ら加勢した様です。多少の障害はありましたが、貴方は殆ど苦労する事なく、大陸を征服しました」
そう答えて、死者の元へ歩み寄ろうとした彼女の腕を、レイグルは咄嗟に掴んだ。フランチェスカは、驚いた表情を浮かべて振り返った。
「......あの?」
「始末は俺がつける。その格好では、汚れが目立つだろう。扉の外にジャギルが控えている。城を見て回れ」
「ご配慮、ありがとうございます」
フランチェスカは、膝を折って低頭した。レイグルは手を離したが、何を思ったのか、突然フランチェスカの頭に手を置いた。
「陛下?」
彼女は目を伏せたまま、意を探る。
レイグルは、自分で自分の感情を言葉に出来ず、考え込んでしまった。対等に、同じ次元......いや、それ以上の会話が出来る存在と出会った興奮に、胸が高鳴っていた。ましてや、敵対する者では無く、彼女は完全に自分の味方だと言っているのだ。
フランチェスカの求める見返りは、レイグルの目的と一致しており、彼女は実質なんの利益も求めていない事になる。魔界では、まずこんな関係を築ける相手など、見つからないだろう。
「良く戻った」
結局そう告げて頭を撫でてやると、フランチェスカは、何故か顔を赤らめて、バッとレイグルの手を振り払った。
「子供扱いしないでください! 失礼します!!」
彼女は勢いよく立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
レイグルは、フランチェスカの感情を全く理解出来ずに、顔をしかめた。
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