ファヌージュ出身の傭兵。
03:帰還
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──5年後
ザーマインの王都・リアグルは活気に満ちていた。新しい王が即位してからというものの、この国は豊かになる一方だった。
暖かな日差しの中を、一人の少女が歩いていた。真っ白なローブを纏い、黄金色に輝く髪を靡かせながら。
すれ違う人々は、一瞬見惚れ、次の瞬間、ギョッとした様子で立ち止まった。彼女は、華奢な体に見合わない、剣を帯びている。
(それにしても、もう少し良い色にならないかしらね?)
フランチェスカは、周りの目など一切気にせず、髪の毛をクルクルと指に巻きつけて弄んだ。
昔は美しい黒髪だったのだが、散々魔法を使いまくった副作用で、色素が薄くなって来ている。もう数年もすれば、銀髪になってしまうだろう。......魔人やヴァンパイアと同じ様に。
元来の、緑色の瞳も相まって、何度かサンクワールの貴族と勘違いされた事もある。どうやら、彼の国では、貴族が随分と嫌われている様で、誤解を解くまで邪険に扱われる事もしばしばだった。
そのサンクワールと、ザーマインは、近々戦をするらしい。
大国ザーマインが、敗北するとは思えなかったが、一つだけイレギュラーな出来事が起きた。あの、伝説の傭兵「レイン」が、サンクワール側に付いているらしい。
(中に入れてくれるかしら)
フランチェスカは、やや不安な気持ちを抱えながら、城門の前へ着いた。
「止まれ!!」
案の定、見張りの兵が鋭い声を発した。
「何者だ?!」
「しがない傭兵です。陛下にお目にかかりたく、罷り越しました」
正直に伝えると、二人の兵は顔を見合わせて、抜剣した。
「陛下は今、戦の支度に忙しい。大人しく立ち去れ!」
「じゃあ、ルミナスでも良いわ」
敢えて呼び捨てにしてやると、兵はギョッとした様子で仰け反った。混乱しているところに、追い討ちを掛ける。
「宰相のジャギルでも良い。兎に角、偉くて、すぐに剣を抜かない、頭の良い人を呼んでください」
押し通っても良かったのだが、これから共に戦う事になる者を、無闇に傷付けたくは無かった。
しかし、事は上手く進まなかった。兵たちは武器を構え直した。仕方が無いので、フランチェスカはパッと腕を上げ、詠唱も無しに魔法を使い、二人を眠らせてしまった。
(全く! 代わりが来るまでに、本物の刺客が来たら、どうするつもりなのよ)
大した問題では無いだろう。レイグルなら、1秒も掛からずに、始末できる。
フランチェスカは、勝手知ったる他人の城に侵入し、階段を登った。相変わらず人気が無い。
「待て!!」
不意に背後から呼び止められ、振り返った。
「ルミナス様......」
彼は少し老けて見えたが、5年前とあまり変わっていない。......いや、ほんの少しだけ、戦いの腕を磨いた様だ。
「お久し振りです」
「......何者だ? 何故私の名をーー」
「フランチェスカです」
彼女の答えを聞き、ルミナスは唖然とした表情で凍り付いてしまった。
無理もない。フランチェスカは、まるで年を取っていないのに、髪の色は、すっかり変わってしまったのだから。
「驚かせてすみません。陛下に、借りを返しに参りました。今の私には、人並み以上の力があります。お役に立てるかと」
「そう......か......。いや、しかし......母上はどうされた?! 祖国と戦う事になるやもしれんぞ?!」
「母は、ファヌージュに殺されました。あの国に......人間に未練はありません。陛下にお会い出来ますか?」
「......貴女の様な強者には、喜んでお会いしてくださるだろう。案内する」
ルミナスは、フランチェスカの前に回り、歩き出した。彼も人並み以上の戦士だったから、フランチェスカの放つ、異常なまでのプレッシャーに気が付いていた。
5年前の時点でも、既に人知を超える領域に踏み込んでいたが、今では、もう人とは呼べぬ何かに変貌している。
「......一体、この数年、何をしていたのだ?」
「傭兵ギルドの仕事をしながら、旅をしていました。伝説の武器を求めて、遺跡へ足を運んだりもしました。生憎先を越されましたが」
フランチェスカは、不機嫌に返した。何処の国へ行っても、黒衣の戦士についての噂を耳にした。傾国の剣と呼ばれる、最強の魔剣は、どうやら彼の手に渡ってしまったらしい。
剣については、諦めがついた。レイグルに用意して貰った魔剣を、気に入っていたし、自分や友人の魔力も注いで改良した。銘も付けた。
問題は、その黒衣の戦士が、サンクワールの将軍に取り立てられたという事だ。
あの国は、度を超えた貴族主義で、平民の男を高い地位に据えるなど、よっぽどの事がなければ、あり得ない。
「ルミナス様は? ルナン戦の際には、指揮を執ったと聞いておりますが」
「俺の功績と言うよりも、陛下の圧倒的な求心力によるものだ。兵の士気が高く、秩序が保たれているのは、あのお方の力故だ」
「そうでしょうね。大陸中が、ザーマインの動向に怯えています。......もっと怖がらせても良かったのですが、陛下が黙っていらっしゃる様なので」
フランチェスカの言葉に、ルミナスは感心した。“レイグル王は魔人である”という情報を売るだけで、それを信じる先見の目のある国で、重職に就けただろう。
「陛下は、実力のある騎士を必要とされている。生まれた身分を問わずに、取り立ててくれるはずだ。しかし、この国にも、未だ貴族主義は残っている。城内に留まれば、肩身の狭い思いをするかもしれない」
「御忠告をありがとうございます。それでも私はーー」
フランチェスカは言葉を切った。階段の上に、レイグルその人が姿を現したのだ。
「......戻ったか」
彼は、まるでついさっき遣いに出した子供を迎える様な、さりげない口調でそう言った。
フランチェスカは床に膝を着き、王族に対するものに相応しい礼をした。
「ただ今戻りました。サンクワールの上将軍・レインについてご報告が御座います」
「ほう......」
レイグルは、珍しく驚きの表情を浮かべた。即位以来、側に仕えているルミナスですら、そんな顔を見るのは初めてで、ひっくり返りそうになった。空から槍が降るかもしれない。
レイグルは、ここ数年で一番機嫌の良い様子で、自ら階段を降りた。
「お前に相応の部屋と身分を与えた後、詳しく聞かせて貰おう」
「その前にお願いがあります」
フランチェスカは、絶大なプレッシャーにも怯える事なく、立ち上がって剣に手を置いた。
「他人の力量を見極める目はありますので、勝ち目の無い事は分かっています。それでも、貴方と一騎討ちをさせてください。私が、貴方にとって役に立つ存在と、証明してみせます」
「良いだろう」
レイグルはすぐに承諾し、フランチェスカの肩に手を置いた。
呆然と立ち尽くすルミナスを置き去りに、二人はザーマインから遠く離れた場所へ転移した。
ザーマインの王都・リアグルは活気に満ちていた。新しい王が即位してからというものの、この国は豊かになる一方だった。
暖かな日差しの中を、一人の少女が歩いていた。真っ白なローブを纏い、黄金色に輝く髪を靡かせながら。
すれ違う人々は、一瞬見惚れ、次の瞬間、ギョッとした様子で立ち止まった。彼女は、華奢な体に見合わない、剣を帯びている。
(それにしても、もう少し良い色にならないかしらね?)
フランチェスカは、周りの目など一切気にせず、髪の毛をクルクルと指に巻きつけて弄んだ。
昔は美しい黒髪だったのだが、散々魔法を使いまくった副作用で、色素が薄くなって来ている。もう数年もすれば、銀髪になってしまうだろう。......魔人やヴァンパイアと同じ様に。
元来の、緑色の瞳も相まって、何度かサンクワールの貴族と勘違いされた事もある。どうやら、彼の国では、貴族が随分と嫌われている様で、誤解を解くまで邪険に扱われる事もしばしばだった。
そのサンクワールと、ザーマインは、近々戦をするらしい。
大国ザーマインが、敗北するとは思えなかったが、一つだけイレギュラーな出来事が起きた。あの、伝説の傭兵「レイン」が、サンクワール側に付いているらしい。
(中に入れてくれるかしら)
フランチェスカは、やや不安な気持ちを抱えながら、城門の前へ着いた。
「止まれ!!」
案の定、見張りの兵が鋭い声を発した。
「何者だ?!」
「しがない傭兵です。陛下にお目にかかりたく、罷り越しました」
正直に伝えると、二人の兵は顔を見合わせて、抜剣した。
「陛下は今、戦の支度に忙しい。大人しく立ち去れ!」
「じゃあ、ルミナスでも良いわ」
敢えて呼び捨てにしてやると、兵はギョッとした様子で仰け反った。混乱しているところに、追い討ちを掛ける。
「宰相のジャギルでも良い。兎に角、偉くて、すぐに剣を抜かない、頭の良い人を呼んでください」
押し通っても良かったのだが、これから共に戦う事になる者を、無闇に傷付けたくは無かった。
しかし、事は上手く進まなかった。兵たちは武器を構え直した。仕方が無いので、フランチェスカはパッと腕を上げ、詠唱も無しに魔法を使い、二人を眠らせてしまった。
(全く! 代わりが来るまでに、本物の刺客が来たら、どうするつもりなのよ)
大した問題では無いだろう。レイグルなら、1秒も掛からずに、始末できる。
フランチェスカは、勝手知ったる他人の城に侵入し、階段を登った。相変わらず人気が無い。
「待て!!」
不意に背後から呼び止められ、振り返った。
「ルミナス様......」
彼は少し老けて見えたが、5年前とあまり変わっていない。......いや、ほんの少しだけ、戦いの腕を磨いた様だ。
「お久し振りです」
「......何者だ? 何故私の名をーー」
「フランチェスカです」
彼女の答えを聞き、ルミナスは唖然とした表情で凍り付いてしまった。
無理もない。フランチェスカは、まるで年を取っていないのに、髪の色は、すっかり変わってしまったのだから。
「驚かせてすみません。陛下に、借りを返しに参りました。今の私には、人並み以上の力があります。お役に立てるかと」
「そう......か......。いや、しかし......母上はどうされた?! 祖国と戦う事になるやもしれんぞ?!」
「母は、ファヌージュに殺されました。あの国に......人間に未練はありません。陛下にお会い出来ますか?」
「......貴女の様な強者には、喜んでお会いしてくださるだろう。案内する」
ルミナスは、フランチェスカの前に回り、歩き出した。彼も人並み以上の戦士だったから、フランチェスカの放つ、異常なまでのプレッシャーに気が付いていた。
5年前の時点でも、既に人知を超える領域に踏み込んでいたが、今では、もう人とは呼べぬ何かに変貌している。
「......一体、この数年、何をしていたのだ?」
「傭兵ギルドの仕事をしながら、旅をしていました。伝説の武器を求めて、遺跡へ足を運んだりもしました。生憎先を越されましたが」
フランチェスカは、不機嫌に返した。何処の国へ行っても、黒衣の戦士についての噂を耳にした。傾国の剣と呼ばれる、最強の魔剣は、どうやら彼の手に渡ってしまったらしい。
剣については、諦めがついた。レイグルに用意して貰った魔剣を、気に入っていたし、自分や友人の魔力も注いで改良した。銘も付けた。
問題は、その黒衣の戦士が、サンクワールの将軍に取り立てられたという事だ。
あの国は、度を超えた貴族主義で、平民の男を高い地位に据えるなど、よっぽどの事がなければ、あり得ない。
「ルミナス様は? ルナン戦の際には、指揮を執ったと聞いておりますが」
「俺の功績と言うよりも、陛下の圧倒的な求心力によるものだ。兵の士気が高く、秩序が保たれているのは、あのお方の力故だ」
「そうでしょうね。大陸中が、ザーマインの動向に怯えています。......もっと怖がらせても良かったのですが、陛下が黙っていらっしゃる様なので」
フランチェスカの言葉に、ルミナスは感心した。“レイグル王は魔人である”という情報を売るだけで、それを信じる先見の目のある国で、重職に就けただろう。
「陛下は、実力のある騎士を必要とされている。生まれた身分を問わずに、取り立ててくれるはずだ。しかし、この国にも、未だ貴族主義は残っている。城内に留まれば、肩身の狭い思いをするかもしれない」
「御忠告をありがとうございます。それでも私はーー」
フランチェスカは言葉を切った。階段の上に、レイグルその人が姿を現したのだ。
「......戻ったか」
彼は、まるでついさっき遣いに出した子供を迎える様な、さりげない口調でそう言った。
フランチェスカは床に膝を着き、王族に対するものに相応しい礼をした。
「ただ今戻りました。サンクワールの上将軍・レインについてご報告が御座います」
「ほう......」
レイグルは、珍しく驚きの表情を浮かべた。即位以来、側に仕えているルミナスですら、そんな顔を見るのは初めてで、ひっくり返りそうになった。空から槍が降るかもしれない。
レイグルは、ここ数年で一番機嫌の良い様子で、自ら階段を降りた。
「お前に相応の部屋と身分を与えた後、詳しく聞かせて貰おう」
「その前にお願いがあります」
フランチェスカは、絶大なプレッシャーにも怯える事なく、立ち上がって剣に手を置いた。
「他人の力量を見極める目はありますので、勝ち目の無い事は分かっています。それでも、貴方と一騎討ちをさせてください。私が、貴方にとって役に立つ存在と、証明してみせます」
「良いだろう」
レイグルはすぐに承諾し、フランチェスカの肩に手を置いた。
呆然と立ち尽くすルミナスを置き去りに、二人はザーマインから遠く離れた場所へ転移した。