ファヌージュ出身の傭兵。
01:革命
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ーー
ルミナスは、深いため息を吐いて、壁に頭をぶつけた。
確かに4階は綺麗さっぱり片付いていた。遺体自体が無くなっていたのだ。血痕も含めて。
フランチェスカがその事を知ったら、さぞかし立腹するに違いない。
しかし彼女は、大量虐殺......もとい、革命の夜から三日三晩眠っている。相当無理をしていたのだろう。
ルミナスの方も、最早限界だった。
残ったルーンマスターの統率をし、混乱の中にいた騎士たちを総動員して、大掃除をしたのだ。
途中何度か、突然現れたレイグル王を危険視し、斬りかかった者が、追加で死体の山に加わり、泣きっ面に蜂状態だった。
ようやく城内のゴタゴタが治ったと思えば、今度は暴君が崩御したと告げられた国民が、歓喜の声を上げ、城下はお祭り騒ぎである。
それを不遜と捉えた貴族が平民に斬り掛かったのだが、レイグルは貴族の方を罰した。その姿を見て、国民たちはレイグルをザーマインの王として、歓迎した。
城内の使用人たちは、誰一人としてアラミスを助けようとしなかったため、全員息災で、必死に何時も通りに振舞っている。
騎士たちも、レイグルの実力を目の当たりにし、旗色を決めたらしい。3日目の時点で生き残っている者たちは、全員膝を折った。
ようやく秩序が築かれた中で、ただ一人、フランチェスカだけが日常を取り戻せずにいる。
彼女にしてみれば、とばっちりも良いところだ。一稼ぎしに異国に来てみれば、とんでもない仕事を依頼され、革命に巻き込まれ、挙句倒れるまで魔力を搾り取られたのだから。
ルミナスは、流石に様子が気になり、彼女の休んでいる部屋に足を運んでいた。
レイグルは、分かっているのかいないのか、彼女を貴人の使う部屋に泊めている。
そのため、使用人も随分気を使っている様だ。
今日も植物の様に眠ったままかと思いきや、扉の前へ行くと、話し声が聞こえて来た。
「全く。貴方のお陰で、酷い目に遭いました。ありがとうございます」
支離滅裂な言葉が、フランチェスカの心情を如実に表している。
「他に不調は?」
レイグルが、平坦な声で訊ねる。
「いいえ。何処も悪くありません。それよりも......約束を守っていただけますか?」
「そのつもりで此処へ来た。俸給だ。帰郷の準備が整ったら、俺の元へ来い。......ルミナス」
突然名を呼ばれ、ルミナスは文字通り飛び上がってしまった。聞き耳を立てていた事は、バレていたらしい。
観念して扉を開けると、レイグルは黒衣を纏ってベッドの横に立っていた。対して、フランチェスカは、純白の寝巻きを纏ってベッドに座っている。一歩間違えれば、葬式会場だ。
「騎士の編成について指示がある。用が済んだら、すぐに上へ」
「は!」
ルミナスが頭を下げると、レイグルは霞の様に姿を消してしまった。
「大丈夫か?」
声を掛けると、フランチェスカは不可解そうに、空に手をかざした。
「夢を見ていました。きっと、凄く長い時間、寝ていたのでしょうね?」
「3日だ」
「......ありがた迷惑というか、何というか......。お礼のつもりなのか......魔人のする事は、理解出来ません」
彼女は何度か手を握り締め、長い髪を背に流した。
「3日も食事を摂っていないのに、何処にも異常がありません。きっとあの人の魔力のおかげですね」
「何の夢を見ていたんだ?」
「戦いの夢を。魔人や......魔獣......ドラゴンと戦う夢を。きっとこれは、過去に起こった事で、私は知識を得たんです。戦いの術を、学べました。傭兵にとって、何より大切な事」
フランチェスカは、毛布を畳み、床に足をつけた。ベッドの横には、綺麗なブーツと、清潔そうな服が置かれている。
「あの人が用意したものでしょうか? それとも、ザーマインでは、黒衣が正装なのですか?」
「黒は、嫌いなのか?」
「ええ。出血量を把握出来ませんから」
フランチェスカは、落ち着いた声で返し、ルミナスの目を見た。
「城内はどうなりましたか?」
「すっかり落ち着いた。もう、さほど大きな問題は起こらないだろう」
「その手の言葉は、大概あてになりません。......着替えるので、出て行っていただけますか? もう沢山。早くこの城を出たいんです。悪い夢を見ていたと......そう思わせてください」
「分かった」
ルミナスは、素直に頷いて踵を返した。確かに、フランチェスカは一刻も早くこの城を出た方が良いだろう。
「ルミナス様」
突然、思い立った様に、フランチェスカは言葉を発していた。
振り返った彼に、フランチェスカは、初めて穏やかな笑みを向けた。
「貴方にお会い出来て良かったです。私は、時々人を信じられなくなることがあるのですが、貴方の善意に救われました。異国人の私を、心配してくださって、ありがとうございます」
「俺は何も出来なかった」
ルミナスは、喉の奥が詰まるのを感じた。
「何もしなかった! 貴女がアラミス王に差し出される前に......俺は止められた!!」
「許します」
フランチェスカは、新品の靴を履きながら、無邪気な笑みを浮かべた。ルミナスは、ようやく彼女が、随分年下の女性である事に気付かされた。
「人には、それぞれ、守るべき立場や、役割があります。勿論私にも。戦いに身を置いている者として、理解しています。貴方は、この国の貴族で、その地位を活かして、成し遂げたい何かがあるのでしょう? だから、仕方のない事です」
「......貴女の幸せを願っているよ」
ルミナスは、それ以上何も言えず、静かに部屋を出た。
責められた方が楽だった。激しく捲し立てられれば、弁明の余地があった。けれど、フランチェスカはそれすら認めず、形だけの許しを与えた。
言われた通り、ルミナスには野心があった。それ故に、余計な諍いを避けて生きて来たのだ。その癖を発揮して、哀れな女性を一人、見殺しにするところだったのだ。
額に手を当てて、思い悩む。
人の世は、単純では無い。白か黒か、その両極に、全ての人間......いや、魔人が分類されるとは限らない。
灰色の苦しみが、ルミナスの胸を締め付けた。
身支度を整えたフランチェスカは、部屋を飛び出し、迷う事なく上階へ進んだ。城の構造は、夢に見て頭に入っている。
樫の木で出来た大扉をノックすると、「入れ」と短く声が聞こえた。
「失礼します」
フランチェスカが、臆する事無く入室すると、レイグルは不機嫌極まり無い顔で、窓辺に立っていた。否、フランチェスカは、この魔人の機嫌の良さそうな顔など見た事が無いので、特に不快な事があったわけでは無いのかも知れない。
「陛下。きちんと務めを果たせなかった事、お詫び申し上げます。結局、ルミナス様に負担を掛けてしまいました」
「この国の騒ぎは、この国の者が収めるべきだ。お前に非はない。......用意が出来たのなら、俺の腕に掴まれ」
「......はい」
正直、フランチェスカは拒絶したかった。掴んだ途端に、手首をへし折られそうだ。しかし、レイグルは余計なやり取りを極力排除したいらしく、一切の説明を省いたので、フランチェスカは、諦めて従う事にした。
「目を閉じて、目的の場所をハッキリと想像しろ」
「はい」
フランチェスカは、目を閉じて母の姿を強く思い浮かべた。帰りたい場所は、そこしかない。
瞬間、内臓がグッと上に持ち上げられる様な不可解な感覚に襲われ、足が宙に浮いた。
そして......
ルミナスは、深いため息を吐いて、壁に頭をぶつけた。
確かに4階は綺麗さっぱり片付いていた。遺体自体が無くなっていたのだ。血痕も含めて。
フランチェスカがその事を知ったら、さぞかし立腹するに違いない。
しかし彼女は、大量虐殺......もとい、革命の夜から三日三晩眠っている。相当無理をしていたのだろう。
ルミナスの方も、最早限界だった。
残ったルーンマスターの統率をし、混乱の中にいた騎士たちを総動員して、大掃除をしたのだ。
途中何度か、突然現れたレイグル王を危険視し、斬りかかった者が、追加で死体の山に加わり、泣きっ面に蜂状態だった。
ようやく城内のゴタゴタが治ったと思えば、今度は暴君が崩御したと告げられた国民が、歓喜の声を上げ、城下はお祭り騒ぎである。
それを不遜と捉えた貴族が平民に斬り掛かったのだが、レイグルは貴族の方を罰した。その姿を見て、国民たちはレイグルをザーマインの王として、歓迎した。
城内の使用人たちは、誰一人としてアラミスを助けようとしなかったため、全員息災で、必死に何時も通りに振舞っている。
騎士たちも、レイグルの実力を目の当たりにし、旗色を決めたらしい。3日目の時点で生き残っている者たちは、全員膝を折った。
ようやく秩序が築かれた中で、ただ一人、フランチェスカだけが日常を取り戻せずにいる。
彼女にしてみれば、とばっちりも良いところだ。一稼ぎしに異国に来てみれば、とんでもない仕事を依頼され、革命に巻き込まれ、挙句倒れるまで魔力を搾り取られたのだから。
ルミナスは、流石に様子が気になり、彼女の休んでいる部屋に足を運んでいた。
レイグルは、分かっているのかいないのか、彼女を貴人の使う部屋に泊めている。
そのため、使用人も随分気を使っている様だ。
今日も植物の様に眠ったままかと思いきや、扉の前へ行くと、話し声が聞こえて来た。
「全く。貴方のお陰で、酷い目に遭いました。ありがとうございます」
支離滅裂な言葉が、フランチェスカの心情を如実に表している。
「他に不調は?」
レイグルが、平坦な声で訊ねる。
「いいえ。何処も悪くありません。それよりも......約束を守っていただけますか?」
「そのつもりで此処へ来た。俸給だ。帰郷の準備が整ったら、俺の元へ来い。......ルミナス」
突然名を呼ばれ、ルミナスは文字通り飛び上がってしまった。聞き耳を立てていた事は、バレていたらしい。
観念して扉を開けると、レイグルは黒衣を纏ってベッドの横に立っていた。対して、フランチェスカは、純白の寝巻きを纏ってベッドに座っている。一歩間違えれば、葬式会場だ。
「騎士の編成について指示がある。用が済んだら、すぐに上へ」
「は!」
ルミナスが頭を下げると、レイグルは霞の様に姿を消してしまった。
「大丈夫か?」
声を掛けると、フランチェスカは不可解そうに、空に手をかざした。
「夢を見ていました。きっと、凄く長い時間、寝ていたのでしょうね?」
「3日だ」
「......ありがた迷惑というか、何というか......。お礼のつもりなのか......魔人のする事は、理解出来ません」
彼女は何度か手を握り締め、長い髪を背に流した。
「3日も食事を摂っていないのに、何処にも異常がありません。きっとあの人の魔力のおかげですね」
「何の夢を見ていたんだ?」
「戦いの夢を。魔人や......魔獣......ドラゴンと戦う夢を。きっとこれは、過去に起こった事で、私は知識を得たんです。戦いの術を、学べました。傭兵にとって、何より大切な事」
フランチェスカは、毛布を畳み、床に足をつけた。ベッドの横には、綺麗なブーツと、清潔そうな服が置かれている。
「あの人が用意したものでしょうか? それとも、ザーマインでは、黒衣が正装なのですか?」
「黒は、嫌いなのか?」
「ええ。出血量を把握出来ませんから」
フランチェスカは、落ち着いた声で返し、ルミナスの目を見た。
「城内はどうなりましたか?」
「すっかり落ち着いた。もう、さほど大きな問題は起こらないだろう」
「その手の言葉は、大概あてになりません。......着替えるので、出て行っていただけますか? もう沢山。早くこの城を出たいんです。悪い夢を見ていたと......そう思わせてください」
「分かった」
ルミナスは、素直に頷いて踵を返した。確かに、フランチェスカは一刻も早くこの城を出た方が良いだろう。
「ルミナス様」
突然、思い立った様に、フランチェスカは言葉を発していた。
振り返った彼に、フランチェスカは、初めて穏やかな笑みを向けた。
「貴方にお会い出来て良かったです。私は、時々人を信じられなくなることがあるのですが、貴方の善意に救われました。異国人の私を、心配してくださって、ありがとうございます」
「俺は何も出来なかった」
ルミナスは、喉の奥が詰まるのを感じた。
「何もしなかった! 貴女がアラミス王に差し出される前に......俺は止められた!!」
「許します」
フランチェスカは、新品の靴を履きながら、無邪気な笑みを浮かべた。ルミナスは、ようやく彼女が、随分年下の女性である事に気付かされた。
「人には、それぞれ、守るべき立場や、役割があります。勿論私にも。戦いに身を置いている者として、理解しています。貴方は、この国の貴族で、その地位を活かして、成し遂げたい何かがあるのでしょう? だから、仕方のない事です」
「......貴女の幸せを願っているよ」
ルミナスは、それ以上何も言えず、静かに部屋を出た。
責められた方が楽だった。激しく捲し立てられれば、弁明の余地があった。けれど、フランチェスカはそれすら認めず、形だけの許しを与えた。
言われた通り、ルミナスには野心があった。それ故に、余計な諍いを避けて生きて来たのだ。その癖を発揮して、哀れな女性を一人、見殺しにするところだったのだ。
額に手を当てて、思い悩む。
人の世は、単純では無い。白か黒か、その両極に、全ての人間......いや、魔人が分類されるとは限らない。
灰色の苦しみが、ルミナスの胸を締め付けた。
身支度を整えたフランチェスカは、部屋を飛び出し、迷う事なく上階へ進んだ。城の構造は、夢に見て頭に入っている。
樫の木で出来た大扉をノックすると、「入れ」と短く声が聞こえた。
「失礼します」
フランチェスカが、臆する事無く入室すると、レイグルは不機嫌極まり無い顔で、窓辺に立っていた。否、フランチェスカは、この魔人の機嫌の良さそうな顔など見た事が無いので、特に不快な事があったわけでは無いのかも知れない。
「陛下。きちんと務めを果たせなかった事、お詫び申し上げます。結局、ルミナス様に負担を掛けてしまいました」
「この国の騒ぎは、この国の者が収めるべきだ。お前に非はない。......用意が出来たのなら、俺の腕に掴まれ」
「......はい」
正直、フランチェスカは拒絶したかった。掴んだ途端に、手首をへし折られそうだ。しかし、レイグルは余計なやり取りを極力排除したいらしく、一切の説明を省いたので、フランチェスカは、諦めて従う事にした。
「目を閉じて、目的の場所をハッキリと想像しろ」
「はい」
フランチェスカは、目を閉じて母の姿を強く思い浮かべた。帰りたい場所は、そこしかない。
瞬間、内臓がグッと上に持ち上げられる様な不可解な感覚に襲われ、足が宙に浮いた。
そして......