ファヌージュ出身の傭兵。
01:革命
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ーー
一階へ行くと、ルミナスが青白い顔で指示を飛ばしていた。
流石にこの惨状は、想定外だったのだろう。
「ルミナス様!!」
フランチェスカが声を掛けると、彼はサッと顔を上げた。
「フランチェスカ!! 生きていたのか!!」
「はい。陛下に......レイグル王に救われました。......あの......アルニア様は?」
訊ねると、ルミナスはうんざりした表情で、遠くに視線を向けた。彼の視線を追うと、フランチェスカの雇い主であった貴族が胴の辺りで両断され、床に転がっていた。
「はっ......」
思わず乾いた笑いが溢れた。ルミナスの制止も聞かず、物言わぬ屍に駆け寄り、恨み言を吐く。
「まだ俸給の半分を受け取っていませんよ!! お前のせいで、あの気持ち悪い男に体を触られて!!! なんとか言ったらどうなんですか!!!!」
「フランチェスカ!」
「ざまあみろ!! 私を売った天罰がーー」
「フランチェスカ!!」
ルミナスは、苦しげな表情で、彼女の頬を張り飛ばした。
「死者を愚弄するな」
「私は死ぬかと思った!! あの男に嬲り殺されると!!! 母の顔も見れずに、こんな知らない国で......他人の娘として!!!」
「もう分かった!!」
ルミナスは、フランチェスカの頭を抱き寄せて遮った。
「分かった。しかし、この者にも娘が......遺族がいる! ......手伝うか、出て行くか、好きな方を選べ」
その時だ。バタバタと忙しない足音が近づいて来た。
「お父様!! お父様!!」
今にも泣き出しそうな、女性の声。
「まずい。扉を閉めて、足止めしろ!」
ルミナスは近くの兵に命じた。部屋に散乱している遺体は、とてもじゃないが、そのまま遺族に返せる状態では無い。
すぐに扉は閉ざされたが、悲痛な叫びが聞こえて来る。
「父は生きています!! お願い!! 中に入れてください!! 父は賢い人です!! 誰に付けば生き残れるか、分かっていたはず!! 父に会わせて!!!」
フランチェスカは、腹を括った。
「担架を増やしましょう。城中のシーツでも、なんでも使って。それから、ルーン・マスターを集めてください。生き返らせる事は出来ませんが......せめて綺麗な状態に修復する事は、可能です。私が手解きをします」
「魔法が使えたのか......?」
「これでも、腕の良い傭兵なんですよ」
フランチェスカは、手始めに足元に転がっている、アルニアに手をかざした。助けてやりたい人間では無かったが、帰りを待っている娘がいるのなら、仕方ない。
亡骸の全身が淡く光り、やがて元通りの姿になった。
「早く、帰してあげてください」
「分かった。......外へ」
ルミナスが指示すると、近くの兵がアルニアの亡骸を運び出して行った。
やがて、扉の外からは、咽び泣く声が聞こえて来た。
フランチェスカは、憂鬱な気持ちになり、前髪を掻き上げた。
「私は、運び出された遺体の所へ行きます。こっちに、集められるだけのルーンマスターを寄越してください。言っておきますが、遺体のパーツを取り違えたりしないでくださいよ! 本人のパーツで無ければ、魔力が通わず、くっつけられませんから。......難しいとは思いますが」
「そのくらいの仕事は、責任を持ってやろう。貴女も、決して無理をするな。死人に命を懸ける必要は無い」
「分かっています」
フランチェスカは、するりとルミナスの脇を通り過ぎた。靴が湿って、嫌な感触がする。
多少無理をしてでも、早く仕事を終わらせてしまいたかった。
しかし、想定通り、“作業”は難航した。そもそもルーンマスターの数が足りない上に、バラバラになった遺体を目にして、吐いたり、泣いたりしない人間は十人いなかった。
フランチェスカも、誰かに恨み言を吐きたくて、堪らなかった。幾ら金のためとはいえ、あまりに過酷過ぎる。特別手当を貰いたいくらいだ。
だが、剣の使い手として、感心したのも事実だ。斬り口は、途轍もなく綺麗。一撃でサクサクとバラして行ったのだろう。
(......あんな化け物みたいなのが、何人も何処かに潜んでるっていうの?! 言われなければ、魔人と気付かない......。人に紛れて生きていたとしたら......? そんな奴らが、急に人間を切り刻む気になったら?! あいつは、何の目的でアラミスを斬ったの?! この国をどうするーー )
「おい」
「ひいぃ!!」
突然呼び掛けられ、フランチェスカは飛び上がった。振り返ると、憔悴気味のルミナスが立っていた。
「顔色が悪い。少し休んだ方がーー」
「ご心配無く。早く片付けて、家に帰りたいんです」
フランチェスカは、静謐な空気の漂う、木の部屋を思い出した。あそこへ帰れば、血の匂いも、争いの日々も、何もかも忘れられる。
「レイグル王は......何処で何をしているんでしょうね? 手伝ってくれても良いのに」
恨み言を吐きながら、手を動かす。もう、バラバラになった死体を見ても、何の感情も湧かなかった。ただ、魔力を消費した反動的で、体が怠い。
しかし、それでもーー
「っ?!」
不意に感じた、大きな気配。
「ルミナス伏せて!!!」
抜剣し、大の男を押し退けて、彼女は剣を突き出した。
顔色一つ変えず、レイグルはそれを交わして、じっとフランチェスカを見つめていた。
彼女は大汗をかきながら、ゆっくりと剣を収めた。
「......やめてください。死ぬかと思いました」
「人間にしては良い反応だ。魔力も。しかし、生まれ持った才能というわけで無さそうだな」
「良い師がいたのですよ。......ああ、そういえば、あの人は魔人を憎んでいましたね。貴方と関わったせいで、破門です」
フランチェスカは額に手を当てて、少し警戒しながらレイグルに向き直った。
「何か御用でしょうか?」
「エクシードが薄れて行くのを感じた」
レイグルは、徐に手を伸ばし、フランチェスカの額に触れた。
「なっ......」
彼女は糸が切れた様に、その場に崩れ落ちた。
「フランチェスカ?!」
ルミナスが慌てて抱え上げると、レイグルはスッと踵を返してしまった。
「4階はあらかた片付いている。少し眠らせておけ」
「は!!」
ルミナスは深々と頭を下げた。確かに、こうでもしなければ、フランチェスカは休まなかっただろう。
それにしても......
(一体何が目的だ? 何故アラミス王を斬った?! 何故、今、この子を殺さなかった?)
彼はこめかみの辺りをさすった。自分は大きな間違いを犯したかもしれないと、恐怖に駆られながら。
一階へ行くと、ルミナスが青白い顔で指示を飛ばしていた。
流石にこの惨状は、想定外だったのだろう。
「ルミナス様!!」
フランチェスカが声を掛けると、彼はサッと顔を上げた。
「フランチェスカ!! 生きていたのか!!」
「はい。陛下に......レイグル王に救われました。......あの......アルニア様は?」
訊ねると、ルミナスはうんざりした表情で、遠くに視線を向けた。彼の視線を追うと、フランチェスカの雇い主であった貴族が胴の辺りで両断され、床に転がっていた。
「はっ......」
思わず乾いた笑いが溢れた。ルミナスの制止も聞かず、物言わぬ屍に駆け寄り、恨み言を吐く。
「まだ俸給の半分を受け取っていませんよ!! お前のせいで、あの気持ち悪い男に体を触られて!!! なんとか言ったらどうなんですか!!!!」
「フランチェスカ!」
「ざまあみろ!! 私を売った天罰がーー」
「フランチェスカ!!」
ルミナスは、苦しげな表情で、彼女の頬を張り飛ばした。
「死者を愚弄するな」
「私は死ぬかと思った!! あの男に嬲り殺されると!!! 母の顔も見れずに、こんな知らない国で......他人の娘として!!!」
「もう分かった!!」
ルミナスは、フランチェスカの頭を抱き寄せて遮った。
「分かった。しかし、この者にも娘が......遺族がいる! ......手伝うか、出て行くか、好きな方を選べ」
その時だ。バタバタと忙しない足音が近づいて来た。
「お父様!! お父様!!」
今にも泣き出しそうな、女性の声。
「まずい。扉を閉めて、足止めしろ!」
ルミナスは近くの兵に命じた。部屋に散乱している遺体は、とてもじゃないが、そのまま遺族に返せる状態では無い。
すぐに扉は閉ざされたが、悲痛な叫びが聞こえて来る。
「父は生きています!! お願い!! 中に入れてください!! 父は賢い人です!! 誰に付けば生き残れるか、分かっていたはず!! 父に会わせて!!!」
フランチェスカは、腹を括った。
「担架を増やしましょう。城中のシーツでも、なんでも使って。それから、ルーン・マスターを集めてください。生き返らせる事は出来ませんが......せめて綺麗な状態に修復する事は、可能です。私が手解きをします」
「魔法が使えたのか......?」
「これでも、腕の良い傭兵なんですよ」
フランチェスカは、手始めに足元に転がっている、アルニアに手をかざした。助けてやりたい人間では無かったが、帰りを待っている娘がいるのなら、仕方ない。
亡骸の全身が淡く光り、やがて元通りの姿になった。
「早く、帰してあげてください」
「分かった。......外へ」
ルミナスが指示すると、近くの兵がアルニアの亡骸を運び出して行った。
やがて、扉の外からは、咽び泣く声が聞こえて来た。
フランチェスカは、憂鬱な気持ちになり、前髪を掻き上げた。
「私は、運び出された遺体の所へ行きます。こっちに、集められるだけのルーンマスターを寄越してください。言っておきますが、遺体のパーツを取り違えたりしないでくださいよ! 本人のパーツで無ければ、魔力が通わず、くっつけられませんから。......難しいとは思いますが」
「そのくらいの仕事は、責任を持ってやろう。貴女も、決して無理をするな。死人に命を懸ける必要は無い」
「分かっています」
フランチェスカは、するりとルミナスの脇を通り過ぎた。靴が湿って、嫌な感触がする。
多少無理をしてでも、早く仕事を終わらせてしまいたかった。
しかし、想定通り、“作業”は難航した。そもそもルーンマスターの数が足りない上に、バラバラになった遺体を目にして、吐いたり、泣いたりしない人間は十人いなかった。
フランチェスカも、誰かに恨み言を吐きたくて、堪らなかった。幾ら金のためとはいえ、あまりに過酷過ぎる。特別手当を貰いたいくらいだ。
だが、剣の使い手として、感心したのも事実だ。斬り口は、途轍もなく綺麗。一撃でサクサクとバラして行ったのだろう。
(......あんな化け物みたいなのが、何人も何処かに潜んでるっていうの?! 言われなければ、魔人と気付かない......。人に紛れて生きていたとしたら......? そんな奴らが、急に人間を切り刻む気になったら?! あいつは、何の目的でアラミスを斬ったの?! この国をどうするーー )
「おい」
「ひいぃ!!」
突然呼び掛けられ、フランチェスカは飛び上がった。振り返ると、憔悴気味のルミナスが立っていた。
「顔色が悪い。少し休んだ方がーー」
「ご心配無く。早く片付けて、家に帰りたいんです」
フランチェスカは、静謐な空気の漂う、木の部屋を思い出した。あそこへ帰れば、血の匂いも、争いの日々も、何もかも忘れられる。
「レイグル王は......何処で何をしているんでしょうね? 手伝ってくれても良いのに」
恨み言を吐きながら、手を動かす。もう、バラバラになった死体を見ても、何の感情も湧かなかった。ただ、魔力を消費した反動的で、体が怠い。
しかし、それでもーー
「っ?!」
不意に感じた、大きな気配。
「ルミナス伏せて!!!」
抜剣し、大の男を押し退けて、彼女は剣を突き出した。
顔色一つ変えず、レイグルはそれを交わして、じっとフランチェスカを見つめていた。
彼女は大汗をかきながら、ゆっくりと剣を収めた。
「......やめてください。死ぬかと思いました」
「人間にしては良い反応だ。魔力も。しかし、生まれ持った才能というわけで無さそうだな」
「良い師がいたのですよ。......ああ、そういえば、あの人は魔人を憎んでいましたね。貴方と関わったせいで、破門です」
フランチェスカは額に手を当てて、少し警戒しながらレイグルに向き直った。
「何か御用でしょうか?」
「エクシードが薄れて行くのを感じた」
レイグルは、徐に手を伸ばし、フランチェスカの額に触れた。
「なっ......」
彼女は糸が切れた様に、その場に崩れ落ちた。
「フランチェスカ?!」
ルミナスが慌てて抱え上げると、レイグルはスッと踵を返してしまった。
「4階はあらかた片付いている。少し眠らせておけ」
「は!!」
ルミナスは深々と頭を下げた。確かに、こうでもしなければ、フランチェスカは休まなかっただろう。
それにしても......
(一体何が目的だ? 何故アラミス王を斬った?! 何故、今、この子を殺さなかった?)
彼はこめかみの辺りをさすった。自分は大きな間違いを犯したかもしれないと、恐怖に駆られながら。