GSその他
自分改革(ニーナとタイラー)
(嵐バンビを匂わせてます)
邪魔にならないよう足の間にカバンを置いて雑誌の表紙ををゆっくりと見回す。
普段は漫画雑誌以外殆ど手に取る事のないコンビニの雑誌コーナー、数の少ない男性向けファッション誌のどれを手に取るか彷徨わせ、意を決して一冊手に取る。
平凡、普通、特徴なし。
そんな自分を変えたいと思った。
彼女に相応しい男になりたいとか大それたことは思っていない、ただ彼女の友人として恥ずかしくない男になりたい。
始まりはそんなところ。
* * *
コンビニエンスストア、ハロゲン。夕暮れ少し前の隙間のような時間帯。客もまばらな店内、雑誌コーナーの前であれこれ雑誌を選ぶ姿を何となく眺める。
あの制服うちの生徒だよな、でもここの男性向け雑誌チョイスが微妙だからあんまりおススメできないかも。
内心大きなお世話な事を考えつつも、漫画雑誌の下に重ねるようにファッション誌を手にレジに向かってきた男に背筋を伸ばして頭を下げる。
「いらっしゃいませ、こちらでよろしいですか?」
「はい……」
隠してもあまり意味は無いのだが気持ちはわからなくもない、ここはポーカーフェイスで淡々とレジを打って表紙を袋の外に向けないように入れて手渡す、そこいらへんの機微はちゃんと理解してるつもりだ。
「おつりになります、ありがとうございました」
少しオドオドした様子で店を出ていく後姿を見送ってから、そっとほぐすように両手で頬を撫でる。
『俺という存在そのものが純然たる背徳の篝火』
『構わねえぜ、俺色に酔いしれな』
先ほどの雑誌の表紙に書かれていたアオリ文。
メンズタックル、略してメンタク。正直ファッション誌というよりもネタ雑誌として話題になる事の方が多い代物だ。
「いや、ハードル高いっしょ、それ」
届くはずもない声でぼそりと呟いた。
* * *
なけなしの資金の入った財布を握りしめて。
「……えっと」
既に心が折れそうになっていた。
「いかがです、こちら割引ですよ」
差し出された服はほぼ予算全額と予備の資金を足して辛うじて足りる金額。
「こちら大変人気でして、雑誌で紹介されてから問い合わせ殺到してるんですよ、今逃したら手に入らないかも」
「えっと」
確かにカッコいい服かもしれない、が。派手派手しいデザインは正直自分に似合うとは思えない。
「どうです、ここは気合入れちゃうとこじゃありませんか?」
「あの」
他にもう少し見てから、と言いたいが言葉が出てこない。
「会員入会しちゃえば割引もありますよ、簡単ですから」
自分を変えたいと思って一歩踏み出そうとしたはずが、のっけから完全に躓いている。
「……その」
押し切られそうになったその時。
「ちょーっとさ、アンタ」
「え?」
突然割り込んできた声に店員と二人驚いたように顔を上げる。
見覚えのある顔の――
「あのさ、客商売の基本っての、忘れてない?」
少し咎めるように店員を軽く睨んだ。
「そーいう押売りまがいのやり方、長い目で見たら客無くすよ?ここって店員の質そんな落ちてんの?」
「あ、いえ、その」
物怖じしない堂々とした態度とキッパリした言葉にバツが悪そうに店員が肩を竦める。
「……申し訳ありません」
とりあえず当面の危機からは逃れられた。
「新名さん、すみません。ウチの教育不足でした。そちらのお客様にも気分の悪い思いをさせてしまい申し訳ありません」
「すみませんでした」
あの後、奥から出てきた店長らしき人物と揃って頭を下げられ逆に申し訳ない気分になってしまった。
「あ、あの。ありがとうございます」
「ああ、いいって。余計なお節介でつい割りこんじゃって」
結局何も買わずに店を出て。
「なんか慣れてない風だったからさ」
「ちょっと雑誌参考にして探しにきてみたんだけど……なんかどうしたらいいかわからなくなっちゃって」
「雑誌って」
「あ、うん、これ」
カバンにいれてきたメンタクことメンズタックル。
参考になるかと思ったけれど、正直あまり役に立っているとは言えないが。
「これそのまま参考に?」
「あ、えっと、どういうものがいいか、よくわからなくて」
「それちょっと違うでしょ、こういうのはそのまんまチョイスするんじゃなくて、色々見てってそっから自分に合いそうなのとか選んでくもんなの」
「う、うん」
饒舌にしゃべる姿に思わずこくこくと頷いてしまう。
「アンタの場合さ、いきなり変えるっていうかもっと自然な雰囲気だしてくほうがいいっしょ」
「そ、そうかな?」
「うん、俺みたいなのとかメンタク系ともちょっと違う感じ?でもそういうおとなしめ系も魅せ方で結構変わってくるもんだって、清潔感をアピールする感じのが合うって」
「うん……だとしたら、何が参考になるかな、なんて」
「ふーむ、こういう場合さ雑誌丸写しとかより道歩いてる人眺めて、おっ?って思った人をチェック、でこっから自分なりにアレンジしてみたりしてくのがベスト、あとはショップで直接マネキンとか見るのもいいね、あといい店員と親しくなる。たまにさっきみたいなのも居るけど」
「……難しい、かも」
「アンタ時間ある?だったらちょっと見に行ってみる?」
「え?いいの?じゃあ、お願いしてもいいかな」
「まっかせといて」
* * *
「自分改革?」
「そんな大層なものじゃないんだけど」
手にした紙袋、あれこれ選んでもらった服が入っている。
うまく古着屋などを回ったおかげで当初の予算以下でいくつも着回せる分の服を買う事が出来た。
「まあ、正直脈がないのはわかってるんだ、でも……友人として恥ずかしくない奴になれれば、なんて自己満足なんだけどね」
「いいじゃん、それでも」
「え?」
「自己満足でもなんでも、そーいう心掛けを実行できるってこと大事じゃん。アンタ結構カッコいいよ」
「そんな、別に」
「なーんかなぁ、内面のカッコよさって奴?俺の先輩とかもそうなんだけど、そういう心のカッコよさって、なんかうらやましいんだよね」
小さく息をついて視線を落とす。
「でも、新名くんもカッコよかったよ。最初に声をかけてくれた時だって、きっちり言いたいことを言えるってスゴいと思ったし」
「……そう?あ、そうだ散々引っ張り回してアンタの名前聞いてないや」
「俺?あ、うん。タイラーでいいよ」
「タイラー?アンタのあだ名?」
「苗字が平だから、なんかそのまま」
「いーじゃんタイラー、呼びやすくて」
「よく言われる。新名くんのことは前から少し知ってたよ」
「え?」
「小波さんと学校で話してるとこ何回か見たことあるし」
「ちょ!アンタ美奈子さん知ってんの?」
「うん、一年からクラスメイトだから」
「美奈子さんのクラスメイトって……ちょ、先輩?」
慌てたように背筋を伸ばす。
「ちょ、待ってマジ?うっわ、先輩って。な、なんか色々スイマセン……思いっきりタメ口聞いてました」
「そんな、いいんだよ」
「ていうか知ってたなら言ってくださいよ、先輩。なんかスンマセン平さん」
「いいんだって、新名くん助けてくれたし」
「でもやっぱ先輩をあだ名呼ばわりは無理っしょ」
「真面目だね」
ひとしきり笑って、何となくお互い空気で通じ合ったように言葉が出てくる。
「ひょっとして……高嶺の花って、美奈子さん?」
「買い物の時に言ってた憧れの先輩って小波さんでしょ?」
微妙な間をおいて、揃って吹きだす。
「なんだかなぁ」
「おかしいね」
自分にとって高嶺の花で彼にとって憧れの先輩、その人が見ているのは――そのどちらでもなく。
「でも、よかったかも」
「え?」
「入学式の日に小波さんに会って、知り合って、ただ見てるだけだったけど、後悔はしてないんだ」
軽く足元の小石を蹴って空を仰ぐ。
「小波さんに会わなかったら、こうやって自分変えようなんて思ったりしなかったし、服探してみたり、頑張ってみたりできなかったから」
「そうっすね。俺も、美奈子さんに会わなかったら、なーにしてんだろうな――なんでもそつなくこなしてる風で、何も残ってないチャラ男だったかのもしれないな、なんて」
「新名くん……」
「やめやめ、こういうのナシ!だいたい嵐さんが一歩リードしてるかもしんないけど、まだ彼氏確定って訳じゃないし?まだまだ俺にだって平さんにだってチャンスはあるわけっしょ」
「そう、だね。うん」
「平さん、こればっかは先輩相手でも譲りませんから」
「うん、俺も、小波さんのことだけは譲らない」
「ま、今日のとこはどうします?」
「カラオケ、行こうか?おススメあるんだよね」
「お、行きましょっか。あそこ新曲早いんすよ!」
「うん、行こう」
END
(嵐バンビを匂わせてます)
邪魔にならないよう足の間にカバンを置いて雑誌の表紙ををゆっくりと見回す。
普段は漫画雑誌以外殆ど手に取る事のないコンビニの雑誌コーナー、数の少ない男性向けファッション誌のどれを手に取るか彷徨わせ、意を決して一冊手に取る。
平凡、普通、特徴なし。
そんな自分を変えたいと思った。
彼女に相応しい男になりたいとか大それたことは思っていない、ただ彼女の友人として恥ずかしくない男になりたい。
始まりはそんなところ。
* * *
コンビニエンスストア、ハロゲン。夕暮れ少し前の隙間のような時間帯。客もまばらな店内、雑誌コーナーの前であれこれ雑誌を選ぶ姿を何となく眺める。
あの制服うちの生徒だよな、でもここの男性向け雑誌チョイスが微妙だからあんまりおススメできないかも。
内心大きなお世話な事を考えつつも、漫画雑誌の下に重ねるようにファッション誌を手にレジに向かってきた男に背筋を伸ばして頭を下げる。
「いらっしゃいませ、こちらでよろしいですか?」
「はい……」
隠してもあまり意味は無いのだが気持ちはわからなくもない、ここはポーカーフェイスで淡々とレジを打って表紙を袋の外に向けないように入れて手渡す、そこいらへんの機微はちゃんと理解してるつもりだ。
「おつりになります、ありがとうございました」
少しオドオドした様子で店を出ていく後姿を見送ってから、そっとほぐすように両手で頬を撫でる。
『俺という存在そのものが純然たる背徳の篝火』
『構わねえぜ、俺色に酔いしれな』
先ほどの雑誌の表紙に書かれていたアオリ文。
メンズタックル、略してメンタク。正直ファッション誌というよりもネタ雑誌として話題になる事の方が多い代物だ。
「いや、ハードル高いっしょ、それ」
届くはずもない声でぼそりと呟いた。
* * *
なけなしの資金の入った財布を握りしめて。
「……えっと」
既に心が折れそうになっていた。
「いかがです、こちら割引ですよ」
差し出された服はほぼ予算全額と予備の資金を足して辛うじて足りる金額。
「こちら大変人気でして、雑誌で紹介されてから問い合わせ殺到してるんですよ、今逃したら手に入らないかも」
「えっと」
確かにカッコいい服かもしれない、が。派手派手しいデザインは正直自分に似合うとは思えない。
「どうです、ここは気合入れちゃうとこじゃありませんか?」
「あの」
他にもう少し見てから、と言いたいが言葉が出てこない。
「会員入会しちゃえば割引もありますよ、簡単ですから」
自分を変えたいと思って一歩踏み出そうとしたはずが、のっけから完全に躓いている。
「……その」
押し切られそうになったその時。
「ちょーっとさ、アンタ」
「え?」
突然割り込んできた声に店員と二人驚いたように顔を上げる。
見覚えのある顔の――
「あのさ、客商売の基本っての、忘れてない?」
少し咎めるように店員を軽く睨んだ。
「そーいう押売りまがいのやり方、長い目で見たら客無くすよ?ここって店員の質そんな落ちてんの?」
「あ、いえ、その」
物怖じしない堂々とした態度とキッパリした言葉にバツが悪そうに店員が肩を竦める。
「……申し訳ありません」
とりあえず当面の危機からは逃れられた。
「新名さん、すみません。ウチの教育不足でした。そちらのお客様にも気分の悪い思いをさせてしまい申し訳ありません」
「すみませんでした」
あの後、奥から出てきた店長らしき人物と揃って頭を下げられ逆に申し訳ない気分になってしまった。
「あ、あの。ありがとうございます」
「ああ、いいって。余計なお節介でつい割りこんじゃって」
結局何も買わずに店を出て。
「なんか慣れてない風だったからさ」
「ちょっと雑誌参考にして探しにきてみたんだけど……なんかどうしたらいいかわからなくなっちゃって」
「雑誌って」
「あ、うん、これ」
カバンにいれてきたメンタクことメンズタックル。
参考になるかと思ったけれど、正直あまり役に立っているとは言えないが。
「これそのまま参考に?」
「あ、えっと、どういうものがいいか、よくわからなくて」
「それちょっと違うでしょ、こういうのはそのまんまチョイスするんじゃなくて、色々見てってそっから自分に合いそうなのとか選んでくもんなの」
「う、うん」
饒舌にしゃべる姿に思わずこくこくと頷いてしまう。
「アンタの場合さ、いきなり変えるっていうかもっと自然な雰囲気だしてくほうがいいっしょ」
「そ、そうかな?」
「うん、俺みたいなのとかメンタク系ともちょっと違う感じ?でもそういうおとなしめ系も魅せ方で結構変わってくるもんだって、清潔感をアピールする感じのが合うって」
「うん……だとしたら、何が参考になるかな、なんて」
「ふーむ、こういう場合さ雑誌丸写しとかより道歩いてる人眺めて、おっ?って思った人をチェック、でこっから自分なりにアレンジしてみたりしてくのがベスト、あとはショップで直接マネキンとか見るのもいいね、あといい店員と親しくなる。たまにさっきみたいなのも居るけど」
「……難しい、かも」
「アンタ時間ある?だったらちょっと見に行ってみる?」
「え?いいの?じゃあ、お願いしてもいいかな」
「まっかせといて」
* * *
「自分改革?」
「そんな大層なものじゃないんだけど」
手にした紙袋、あれこれ選んでもらった服が入っている。
うまく古着屋などを回ったおかげで当初の予算以下でいくつも着回せる分の服を買う事が出来た。
「まあ、正直脈がないのはわかってるんだ、でも……友人として恥ずかしくない奴になれれば、なんて自己満足なんだけどね」
「いいじゃん、それでも」
「え?」
「自己満足でもなんでも、そーいう心掛けを実行できるってこと大事じゃん。アンタ結構カッコいいよ」
「そんな、別に」
「なーんかなぁ、内面のカッコよさって奴?俺の先輩とかもそうなんだけど、そういう心のカッコよさって、なんかうらやましいんだよね」
小さく息をついて視線を落とす。
「でも、新名くんもカッコよかったよ。最初に声をかけてくれた時だって、きっちり言いたいことを言えるってスゴいと思ったし」
「……そう?あ、そうだ散々引っ張り回してアンタの名前聞いてないや」
「俺?あ、うん。タイラーでいいよ」
「タイラー?アンタのあだ名?」
「苗字が平だから、なんかそのまま」
「いーじゃんタイラー、呼びやすくて」
「よく言われる。新名くんのことは前から少し知ってたよ」
「え?」
「小波さんと学校で話してるとこ何回か見たことあるし」
「ちょ!アンタ美奈子さん知ってんの?」
「うん、一年からクラスメイトだから」
「美奈子さんのクラスメイトって……ちょ、先輩?」
慌てたように背筋を伸ばす。
「ちょ、待ってマジ?うっわ、先輩って。な、なんか色々スイマセン……思いっきりタメ口聞いてました」
「そんな、いいんだよ」
「ていうか知ってたなら言ってくださいよ、先輩。なんかスンマセン平さん」
「いいんだって、新名くん助けてくれたし」
「でもやっぱ先輩をあだ名呼ばわりは無理っしょ」
「真面目だね」
ひとしきり笑って、何となくお互い空気で通じ合ったように言葉が出てくる。
「ひょっとして……高嶺の花って、美奈子さん?」
「買い物の時に言ってた憧れの先輩って小波さんでしょ?」
微妙な間をおいて、揃って吹きだす。
「なんだかなぁ」
「おかしいね」
自分にとって高嶺の花で彼にとって憧れの先輩、その人が見ているのは――そのどちらでもなく。
「でも、よかったかも」
「え?」
「入学式の日に小波さんに会って、知り合って、ただ見てるだけだったけど、後悔はしてないんだ」
軽く足元の小石を蹴って空を仰ぐ。
「小波さんに会わなかったら、こうやって自分変えようなんて思ったりしなかったし、服探してみたり、頑張ってみたりできなかったから」
「そうっすね。俺も、美奈子さんに会わなかったら、なーにしてんだろうな――なんでもそつなくこなしてる風で、何も残ってないチャラ男だったかのもしれないな、なんて」
「新名くん……」
「やめやめ、こういうのナシ!だいたい嵐さんが一歩リードしてるかもしんないけど、まだ彼氏確定って訳じゃないし?まだまだ俺にだって平さんにだってチャンスはあるわけっしょ」
「そう、だね。うん」
「平さん、こればっかは先輩相手でも譲りませんから」
「うん、俺も、小波さんのことだけは譲らない」
「ま、今日のとこはどうします?」
「カラオケ、行こうか?おススメあるんだよね」
「お、行きましょっか。あそこ新曲早いんすよ!」
「うん、行こう」
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