GSその他
フリマにて(ルカ&コウ)
「おい、ルカ!バカルカ!どこいった!」
イライラした琥一の声が響く。
「ちっ……ったく」
一時間かけてセットした髪を片手でかきながら、休日の人波でごった返すフリーマーケット会場を見回す。
数ヶ月に一度の恒例フリマ探索で、年代ものプレイヤーと美品のレコードセットを見つけ、初老の売主との値切り交渉を兼ねた薀蓄話をしている間に、後ろで暇そうにしていたルカの姿が消えていた。
売主にお取り置きを頼んで、人波を掻き分てルカの金髪の頭を探す。
「……あいつ、どこいきやがった」
昔からそうだった、ルカは時々一人で姿を消す。
それは決まって琥一が趣味に没頭している時だったり、父親と音楽談義に花を咲かせている時、ふと気づくとルカの姿が見えなくなっている。
「あのバカ……」
昔から変わっていない。
いつも遠い目をして、何を考えているのか何を見ているのか全く読ませない。
明るくて気さくでなようでいて、不用意に内側に踏み込んでくる相手は容赦なく拒絶する。伸ばされた手からはするりと逃げるくせに、琥一や美奈子のように気を許した相手には、それこそ害する者は容赦せずに懐いて護ろうとする。
そして、自分が意識にないとわかると、こんな風に自分から離れていく。
「ルカ!」
フリマ会場の端から探し回って、ようやく見慣れた派手な金髪の後ろ頭を見つけた。
「コウ、来たんだ」
「フラフラすんなって言ってんだろうが」
大きく溜息をついた琥一の様子にお構いなしに、しゃがんだ店先の商品を指でつついた。
「ねぇ、コウ」
「ん?」
「ほら、これ。懐かしくない?」
ルカの指の先、昔見ていた戦隊物の後にやっていた女の子向けアニメのフィギュアが並んでいる。
「マジカルリップルちゃん、男子はガチレンジャーで女の子はみんなこれはまってたよね」
「アホか、こんなん買わねえぞ」
「別におねだりしてるわけじゃないのに、あの子も好きだったんじゃないかなって」
「……だろうな」
指先でフィギュアの頬を撫でて、またいつもの何を考えているかわからない遠くを見る目になる。
あの頃、日が暮れるまで三人で遊んでいた昔。琥一もルカも幼馴染の少女に夢中だった。
あの頃のままの彼女が居れば、ひょっとしたらルカを繋ぎとめてくれたのかもしれない。
「ほら、帰んぞ」
「いたっ、乱暴だなコウは」
頭を掴むように金髪をかき回す。
指の隙間をするりとすり抜ける柔らかい髪、不承不承立ち上がったルカの視線がふと琥一の後ろに向いた。
「なんだ?」
「……ん」
振り向いて。
その先にあの頃から少しだけ大人っぽくなった美奈子の姿が見えた。
きゅっと、ルカの手が琥一のジャケットを掴む。
美奈子の隣、手を繋いで歩く男。柔道部でもはや公認夫婦扱いされている二人の姿。
「ルカ」
「……うん」
その目の奥に何を思っているのか、同じ気持ちなのか。
「帰んぞ、バカルカ」
「コウ、買わないの?」
「断りいれる」
くしゃくしゃと金髪頭をかき回して。
「今日はアレだ、お前のいつものな」
「え?ホント!?それってアレ?」
「ったく、豹変しやがって」
ルカの好きな、高級ホットケーキの元。
一袋で普通のホットケーキの三倍の値はする、贅沢品。
「ほら帰ろ、コウ!コウの気が変わらないうちに!」
「へえへえ」
ジャケットを引っ張る姿は、どこかわざとらしい。
お互い誤魔化している、騙し騙し、気持ちをはぐらかしてる。
「なぁ、コウ」
「ん」
足元の小石を蹴る。
「ん、なんでもない」
返事代わりに、拳で軽く後ろ頭を小突いた。
変わらないもんはない、それは信じたい。
変わってしまったものが望む形ではなかったかもしれないが、それでも彼女との再会は、どんな形であれルカにとっても琥一とっても変化のきっかけになったのは確かだった。
END
「おい、ルカ!バカルカ!どこいった!」
イライラした琥一の声が響く。
「ちっ……ったく」
一時間かけてセットした髪を片手でかきながら、休日の人波でごった返すフリーマーケット会場を見回す。
数ヶ月に一度の恒例フリマ探索で、年代ものプレイヤーと美品のレコードセットを見つけ、初老の売主との値切り交渉を兼ねた薀蓄話をしている間に、後ろで暇そうにしていたルカの姿が消えていた。
売主にお取り置きを頼んで、人波を掻き分てルカの金髪の頭を探す。
「……あいつ、どこいきやがった」
昔からそうだった、ルカは時々一人で姿を消す。
それは決まって琥一が趣味に没頭している時だったり、父親と音楽談義に花を咲かせている時、ふと気づくとルカの姿が見えなくなっている。
「あのバカ……」
昔から変わっていない。
いつも遠い目をして、何を考えているのか何を見ているのか全く読ませない。
明るくて気さくでなようでいて、不用意に内側に踏み込んでくる相手は容赦なく拒絶する。伸ばされた手からはするりと逃げるくせに、琥一や美奈子のように気を許した相手には、それこそ害する者は容赦せずに懐いて護ろうとする。
そして、自分が意識にないとわかると、こんな風に自分から離れていく。
「ルカ!」
フリマ会場の端から探し回って、ようやく見慣れた派手な金髪の後ろ頭を見つけた。
「コウ、来たんだ」
「フラフラすんなって言ってんだろうが」
大きく溜息をついた琥一の様子にお構いなしに、しゃがんだ店先の商品を指でつついた。
「ねぇ、コウ」
「ん?」
「ほら、これ。懐かしくない?」
ルカの指の先、昔見ていた戦隊物の後にやっていた女の子向けアニメのフィギュアが並んでいる。
「マジカルリップルちゃん、男子はガチレンジャーで女の子はみんなこれはまってたよね」
「アホか、こんなん買わねえぞ」
「別におねだりしてるわけじゃないのに、あの子も好きだったんじゃないかなって」
「……だろうな」
指先でフィギュアの頬を撫でて、またいつもの何を考えているかわからない遠くを見る目になる。
あの頃、日が暮れるまで三人で遊んでいた昔。琥一もルカも幼馴染の少女に夢中だった。
あの頃のままの彼女が居れば、ひょっとしたらルカを繋ぎとめてくれたのかもしれない。
「ほら、帰んぞ」
「いたっ、乱暴だなコウは」
頭を掴むように金髪をかき回す。
指の隙間をするりとすり抜ける柔らかい髪、不承不承立ち上がったルカの視線がふと琥一の後ろに向いた。
「なんだ?」
「……ん」
振り向いて。
その先にあの頃から少しだけ大人っぽくなった美奈子の姿が見えた。
きゅっと、ルカの手が琥一のジャケットを掴む。
美奈子の隣、手を繋いで歩く男。柔道部でもはや公認夫婦扱いされている二人の姿。
「ルカ」
「……うん」
その目の奥に何を思っているのか、同じ気持ちなのか。
「帰んぞ、バカルカ」
「コウ、買わないの?」
「断りいれる」
くしゃくしゃと金髪頭をかき回して。
「今日はアレだ、お前のいつものな」
「え?ホント!?それってアレ?」
「ったく、豹変しやがって」
ルカの好きな、高級ホットケーキの元。
一袋で普通のホットケーキの三倍の値はする、贅沢品。
「ほら帰ろ、コウ!コウの気が変わらないうちに!」
「へえへえ」
ジャケットを引っ張る姿は、どこかわざとらしい。
お互い誤魔化している、騙し騙し、気持ちをはぐらかしてる。
「なぁ、コウ」
「ん」
足元の小石を蹴る。
「ん、なんでもない」
返事代わりに、拳で軽く後ろ頭を小突いた。
変わらないもんはない、それは信じたい。
変わってしまったものが望む形ではなかったかもしれないが、それでも彼女との再会は、どんな形であれルカにとっても琥一とっても変化のきっかけになったのは確かだった。
END