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GS2若デジ

結晶 コンセプト:「雪」「白衣」

 大きく吐き出した息が白く染まる。夕暮れ過ぎの薄闇の中、街灯に照らされた細かな雪が淡い粉のように後から後から降り注ぐ。
「せんせぇ、まだですか?」
 両手に抱えたスタンドライトを片手に前を歩く白衣の背中に声をかける。
「もうちょっとの辛抱です、寒いですか?」
「少し」
「ゴメンなさい、でも損はさせませんよ」
「はぁ」
 素敵なものを見せてあげますという若王子の言葉にのってついてきたものの、その意図がまるで見えない。
「はい、ここら辺です。重かったでしょう、ここにこれを設置します」
「えーと、はい」
 受け取ったライトの延長コードを引っ張り明かりの点灯を確認しながら、白衣のポケットから黒い紙を引っ張り出す。
「せんせぇ、素敵なものってなんですか?」
「もうちょっとです、先生を信じて待って」
 訝しげな顔の自分を見て、頭にうっすら雪を積もらせたままイタズラっぽく笑う。見上げた空は継ぎ目もなく一面に広がった灰色。音もなく、ただしんしんと、多い尽くすような雪に包まれて、そのまま景色に溶けてしまいそうで。
「はい、大体オーケーです。さ、お待たせしました」
「え?」
 白衣の上に巻いたマフラーで口元を覆って、手にした黒い紙をそっと差し出す。
「ルーペは持って来ましたね、見てみましょう。今日の雪はとてもいい、結晶がとても綺麗です」
「あ……」
 慌ててコートのポケットに仕舞ったルーペを引っ張り出す。
「ほら、口元を隠して。溶けちゃいますから」
 首に巻いたマフラーで口元を覆ってルーペを覗き込んだ。
「わぁ」
 細かな針を伸ばしたガラス細工のような六角、鮮やかな花のようにも見えるもの、一つとして同じものない結晶が目の前で踊っている。
「綺麗」
「でしょう?ルーペと軽い雪と、興味を持つ心、これだけがあれば、こんな綺麗なものを楽しむことができる」
「すごい」
 思わず息を吹きかけてしまいそうになって慌てて口を押える。
「君に見せたかったんです、こんな心の豊かさを……僕に教えてくれたのは君ですから」

END
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