GS3嵐×バンビ
逸材発見 テーマ:美術部バンビ
鉛筆の芯がこすれる音。
手にしたスケッチブックの上を斜めに滑るように動いて薄い線が延びていく。時折指先で擦ってぼかしたり消しゴムをあてて調節しながら、目の前のテーブルに置かれた石膏像の姿をなぞっていく。
開けっ放しの窓の向こうから小さくどこかの部活の掛け声が途切れ途切れ聞こえてくる。たまにちらりと目をやるが、校庭の奥は距離がありすぎてその動きまでは良くわからない。
手を止めて、描きかけの絵を眺める。
部活の先輩に『つまんで持てそうなマルス像』と評されたそれは、確かに奥行きや肉感の足りない薄っぺらさがあり、お世辞でも上手とは言えない。あれから何度か手を入れたものの、対した変化は見られない。
「……はぁ」
大きく溜息をついて机の上に閉じたスケッチブックを置き、椅子にもたれかかる。
友人のミヨが所属しているからと、安易に入部した美術部ではあったが、こうも自分の実力のなさを感じるのは心理的にキツイものがある。
「才能ないのかもなぁ」
前の机に置かれた石膏像。
胸から上の男の姿で心持ち首を斜め下に向けた彫りの深い顔立ち、明かりの下で裸の厚い胸板に影を作っている。デッサンでよく使われる石膏像の中でも美奈子が一番気に入っているボルゲーゼのアレス。マルス像と呼ばれて親しまれるそれはローマ神話の軍神であり、筋骨逞しいその上半身を何度となくデッサンしてみたが、いずれも満足のいくものは得られていない。
そっと手を伸ばして像に手を触れる。吸い付くような石膏の感触とひやりとした冷たさが指に伝わる。この盛り上がった胸の筋肉を、肩から伸びる腕の膨らみを、どうすれば描き出せるのか。
「手、洗ってこよ」
指先から手の端から鉛筆の芯が擦れて黒くなった手を軽くはたいて廊下へ出た。
美術室を出て廊下を抜けて女子トイレへと向かう。
歩きつつも頭の中ではマルス像の姿ばかり考えている。
「こう、筋肉が……」
上の空で歩いていると、目の前が肌色一色に変わった。
「わっ」
「おっ、と」
丁度隣の男子トイレから出てきたと思われる人物に思いっきり頭からぶつかり、ぐらりと体が揺らいだ。倒れる、と。思った次の瞬間ぐいと腕を引かれて腰に回った腕に引っ張り上げられる。
「お前、大丈夫か?」
倒れそうな自分の片腕を掴んで軽がると腰を抱き上げた体。学校の中で何故か上半身裸で、厚い胸板と丸く盛り上がった肩、そして続く二の腕が目の前に写る。
マルスきた。
美奈子の頭に浮かんだのはその一行。
「どした?」
こちらは石膏のマルスと違ってスッキリした顔立ちの大きな目が瞬く。
「ねぇ、私のモデルになって!」
「は?」
思わず半分しがみつくように声を上げていた。
「デッサンのモデル!お願い!描かせて!」
突然の突拍子もない発言に面食らった顔をしていたが、ようやく飲み込めたように頷いた。
「モデル?……別にいいけど」
「ホント!ありがとう!あれ?そういえば同じクラス、だよね?」
「うん。不二山嵐」
「私、小波美奈子。ねぇ、時間ある?ちょっと付き合って!」
「お、おい。まあ、練習終わったからいいけど……」
「早く早く!」
「お、おい」
逃がすものかと腕を抱え込んで引っ張っていく。
「見つけた!見つけた!私のマルス!」
「そんなひっぱんなくても逃げねーよ!って、おい、まさか裸とかじゃねえよな?」
「ええっ、描かせてくれるの!?」
「それはねえよ、ヤバイだろ……」
半分呆れながら、それでも抵抗なく美術室へと引っ張り込まれていった。
END
鉛筆の芯がこすれる音。
手にしたスケッチブックの上を斜めに滑るように動いて薄い線が延びていく。時折指先で擦ってぼかしたり消しゴムをあてて調節しながら、目の前のテーブルに置かれた石膏像の姿をなぞっていく。
開けっ放しの窓の向こうから小さくどこかの部活の掛け声が途切れ途切れ聞こえてくる。たまにちらりと目をやるが、校庭の奥は距離がありすぎてその動きまでは良くわからない。
手を止めて、描きかけの絵を眺める。
部活の先輩に『つまんで持てそうなマルス像』と評されたそれは、確かに奥行きや肉感の足りない薄っぺらさがあり、お世辞でも上手とは言えない。あれから何度か手を入れたものの、対した変化は見られない。
「……はぁ」
大きく溜息をついて机の上に閉じたスケッチブックを置き、椅子にもたれかかる。
友人のミヨが所属しているからと、安易に入部した美術部ではあったが、こうも自分の実力のなさを感じるのは心理的にキツイものがある。
「才能ないのかもなぁ」
前の机に置かれた石膏像。
胸から上の男の姿で心持ち首を斜め下に向けた彫りの深い顔立ち、明かりの下で裸の厚い胸板に影を作っている。デッサンでよく使われる石膏像の中でも美奈子が一番気に入っているボルゲーゼのアレス。マルス像と呼ばれて親しまれるそれはローマ神話の軍神であり、筋骨逞しいその上半身を何度となくデッサンしてみたが、いずれも満足のいくものは得られていない。
そっと手を伸ばして像に手を触れる。吸い付くような石膏の感触とひやりとした冷たさが指に伝わる。この盛り上がった胸の筋肉を、肩から伸びる腕の膨らみを、どうすれば描き出せるのか。
「手、洗ってこよ」
指先から手の端から鉛筆の芯が擦れて黒くなった手を軽くはたいて廊下へ出た。
美術室を出て廊下を抜けて女子トイレへと向かう。
歩きつつも頭の中ではマルス像の姿ばかり考えている。
「こう、筋肉が……」
上の空で歩いていると、目の前が肌色一色に変わった。
「わっ」
「おっ、と」
丁度隣の男子トイレから出てきたと思われる人物に思いっきり頭からぶつかり、ぐらりと体が揺らいだ。倒れる、と。思った次の瞬間ぐいと腕を引かれて腰に回った腕に引っ張り上げられる。
「お前、大丈夫か?」
倒れそうな自分の片腕を掴んで軽がると腰を抱き上げた体。学校の中で何故か上半身裸で、厚い胸板と丸く盛り上がった肩、そして続く二の腕が目の前に写る。
マルスきた。
美奈子の頭に浮かんだのはその一行。
「どした?」
こちらは石膏のマルスと違ってスッキリした顔立ちの大きな目が瞬く。
「ねぇ、私のモデルになって!」
「は?」
思わず半分しがみつくように声を上げていた。
「デッサンのモデル!お願い!描かせて!」
突然の突拍子もない発言に面食らった顔をしていたが、ようやく飲み込めたように頷いた。
「モデル?……別にいいけど」
「ホント!ありがとう!あれ?そういえば同じクラス、だよね?」
「うん。不二山嵐」
「私、小波美奈子。ねぇ、時間ある?ちょっと付き合って!」
「お、おい。まあ、練習終わったからいいけど……」
「早く早く!」
「お、おい」
逃がすものかと腕を抱え込んで引っ張っていく。
「見つけた!見つけた!私のマルス!」
「そんなひっぱんなくても逃げねーよ!って、おい、まさか裸とかじゃねえよな?」
「ええっ、描かせてくれるの!?」
「それはねえよ、ヤバイだろ……」
半分呆れながら、それでも抵抗なく美術室へと引っ張り込まれていった。
END