GS3嵐×バンビ
野望を砕け テーマ:生徒会バンビ(勝気)
会長の溜息
整列した制服姿の男女の姿が並んでいる。
いずれも姿勢正しく背筋をぴんと伸ばし、しわひとつない制服にきっちりと止められたボタンに真っ直ぐに整えられたネクタイ、女子のリボンも左右のバランスもよく歪み一つない。
そして彼らの視線の真っ直ぐ先にはペンを指揮棒代わりに手にした生徒会長、紺野玉緒の姿がある。
「説明は以上、何か不明な点はあるかな?」
普段の温厚で親しみやすい姿とはうって変わった真剣な目が生徒会執行部一同の顔を見渡す。しんと静まり返った生徒会執務室、居並ぶ執行部の中で一人の小柄な女生徒が真っ直ぐに手を上げた。
「会長!よろしいですか!」
部屋中に響く甲高い声、彼女のすぐ隣にいた男子生徒が思わず肩を竦める。
「小波さん。質問は何かな?」
きぃんと響いた頭を人差し指で軽く押えて、勤めて冷静な声で名を呼ぶ。
小波美奈子。入学してまだ日も浅い一年生でありながら、入学してから即生徒会の一員に加わり、生徒指導や挨拶運動では誰よりも熱心に活動している一人。執務に対しては人一倍熱心で正義感が強く行動力もある彼女は、この所停滞感のあった生徒会ではいい刺激になっている。もっとも逆の意味での刺激も大きいのだが。
「はいっ!校内見回りについてですが。ここ最近、活発に活動しているある同好会についてご意見を伺いたいです!」
「ああ、柔道同好会だね。創設者は確か君と同じクラスの」
「不二山嵐です」
「そう、不二山くん。彼が何か?活動を見るところ、特に問題のある行動は見られないようだけれど」
「いえ、会長。この所、奴についていくつか不穏な噂を耳にしてるんです」
待ってましたとばかりに胸を張って胸ポケットにしまった紙を取りだした。
「これはここ最近奴が接触したと思われる人物と、下見をしていたと思われる箇所の目撃例です」
「……熱心だね」
手渡された紙には各文化部や運動部の部長やクラス委員、他にも役職にはついていないがクラスや学校内で知名度のある生徒、リーダーシップのある者、イケメンと言われる者などが細かに記入され、目撃例の報告もいつどこで不二山を見かけたというのを警察の調書?と勘違いしそうなほどのにしっかりと書き連ねてある。
「うん、部活昇格の為にスカウトや人脈作りや協力を仰いでいるのかな」
「いえ、それだけではありません。奴は柔道同好会の知名度アップを狙って再来週に迫った体育祭をジャックして無許可イベントを企画しているという確かな証拠です。クラスでも数名噂を聞いた者もいるそうです」
「無許可イベント、それは確かに見過ごせないし。柔道同好会のアピールの場にしたいというの彼の思惑もわからないでもない。しかしこれだけでは」
「会長!このままでは体育祭が奴に乗っ取られてしまいます!」
「いや、それはないんじゃ……」
「ここは生徒会として奴の野望を止めなければならないと思います!」
ぐっと拳を握り締めて。
いや、野望って。それ以前に体育祭の乗っ取りって一体どういう。というツッコミを入れる暇も与えない。
「テロは計画の段階で潰さないとダメです、今の内に不二山の陰謀を暴かないと」
拳を握って主張する姿、が、しかしその目は怒りに燃えるというよりは期待で輝いてるようにも見える。
「やっぱり生徒会というからには学校内での闘争とか武力鎮圧ですよね」
それはどこのライトノベルの世界だと、ツッコミを入れたいのを必死で押えつつ。
「……えー、小波さん。君は生徒会について誤った認識がないだろうか」
痛むこめかみを押えてゆっくりと言葉を搾り出す。
「生徒会は、あくまで学校内のイベント主催や、生徒達の意見や要望を受けて過ごしやすい学生生活を送るための活動するものであって、決して鎮圧や闘争を煽るものではない、ということは理解して欲しいんだ」
「はい、もちろんです」
ホントに理解しているのか正直怪しいところだが。少なくとも人の言うことを聞かない子ではないことは信用できる。
「まあ、ともかく噂がなんにせよ、憶測で行動するのは好ましくないね。君と一緒に僕が彼の計画について調査するということで理解してもらえるかな?」
「はいっ!」
ガッツポーズで気合を入れる姿に小さく溜息をついた。
主犯?確保
「そこで、だ。その応援合戦の後の休憩時間を狙う」
「そんなうまくいくかぁ?」
昼休みの中庭は昼食を取る生徒達の姿があちらこちらに見える。
そんな中、中庭の片隅の芝生で数名の男子生徒が円陣を組んでなにやら話し合いをしている。その中心人物、不二山嵐が手にしたイチゴ牛乳のパックを一口すすって膝を軽く叩いた。
「やってみねーことには始まらねーだろ?」
「でも、生徒会の目があるだろ?」
「大丈夫だ、こっちも対策はしっかり練ってる」
くしゃっとカラになったパックを潰してにぃっと笑う。
「対策ったってなぁ……つーか最近特に厳しくなったっていうか」
「ああ、あの一年の。ウチの部も弱小で、アピールしようとして何かと目ぇつけられてるからなぁ」
弱小と呼ばれる部長や同好会会長やらに声をかけ、体育祭という場を使ってこれらの部のアピールをする。その為に協力者を募り、イベント関係者らから情報を集めて計画を練っている最中だった。
「生徒会一年?ああ、小波か。アイツもいい逸材だよな……やっぱもっと粘って勧誘しとくべきだったな」
「……お前、強いな」
あっけらかんとした不二山を呆れたように見る男子生徒達の後方、フェンスの裏側。
「会長、聞こえてます?」
「う、うん。でも、こ、こんなことする必要があるのかな?」
「しっ、静かに」
口を塞いで頭を押さえ込まれてもごもごと顔を真っ赤にする玉緒に構わず、円陣を組んでいる男子をじっと見る。
「やれるだけのことはやる、後は本番でどう動くか、だ」
ぽん、と、不二山が膝を叩いたのを見計らうように。
「そこの連中!企みはこの生徒会執行部が見届けたっ!」
男子達の後ろから立ち上がり、フェンス越しに高らかに宣言する美奈子の姿。
「げぇ!生徒会!?」
「うわ、こ、小波!?」
「……こんな近くまで気配感じさせねーとか、やっぱすげぇ!」
悲鳴をあげる男子二名と、嬉しそうな男子一名。
「バカ!喜んでる場合か、逃げろっ」
「させるかっ」
「ちょっ、小波さんフェンス!」
頭に葉っぱをつけたまま飛び出そうとした美奈子を止めようとするが、一瞬早く小柄な体が宙を飛んだ。
「せいっ!」
玉緒の目の前、フェンスを飛び越える白い太ももと翻るスカートの裾が舞った。
「……あ」
その場にいた男子全員が一瞬動きを止める。
スローモーションのようにくるりと回って着地、そのまま主犯?不二山の首に腕を絡めてホールドする。
「うおっ」
「不二山嵐!確保!」
響く声にいち早く我に返った玉緒がメガネを軽く直して心の中で冷静にと自分に言い聞かせながら、残る二人に声をかける。
「不二山くんとそこの二人、君達の計画について生徒会としても詳しく知りたい。話を聞かせてもらえるかな?」
がっしりとホールドされた不二山を見て、二人顔を見合わせて。
「……降伏します」
「同じく」
揃って両手を挙げて投降した。
公式へ
「知名度を上げるための活動アピール、か」
「はい」
生徒会執行室、不二山を初めとした弱小部三名の部長らがそろって立っている。
その後ろで逃がすものかとばかりにきろりと背中を睨む美奈子の姿がある。
「許可なく無断で、となれば。我々生徒会としても許可はできない」
「はい、そこをなんとかしたいと思って」
「…………ふむ」
真っ直ぐに自分を見る不二山の目は真剣そのもので、柔道同好会のことをホントに思ってのことであることは想像はつく。一度や二度計画が流れたところで諦めはしないだろう。そして彼がなんらかの計画を立てるということは、また彼女が尋常でない頑張りを見せることになり。
「わかった、時間は長くは取れないけれど。応援合戦の後の休憩時間に特別にアピールタイムを作ろう」
「本当ですか!」
後ろに立っていた美奈子が驚きの表情を浮かべる。
「その代わり、アピールについての詳細や内容をきちんとこちらに提出すること、いいね?」
「はい!ありがとうございます!」
深々と頭を下げる不二山の頭を眺めて。
「うん、がんばって」
そして後ろの美奈子に視線を移す。
「小波さん、そういうことでいいね?」
「……はい」
不承不承といった風に頷く。
「では、退出してよし。今週中にアピール内容をまとめること。小波さんに渡してくれればいいから」
「はい、失礼します」
戸が閉まる音、遠ざかっていく足音が完全に聞こえなくなって。
「いいんですか?会長」
つまらなそうにつぶやく美奈子の顔に苦笑する。
「いいんだよ、こうやって生徒の要望を聞いていくのも仕事だからね」
ふと。
今更のようにさっきの白い太ももと翻ったスカートの裾が頭をよぎる。
「さ、さ、さぁ、体育祭のプログラムを見直さないと、ね。忙しくなるよ」
「……会長?」
不思議そうな顔で首を傾げる美奈子の視線から逃れるように、机の上の書類で顔を隠した。
END
会長の溜息
整列した制服姿の男女の姿が並んでいる。
いずれも姿勢正しく背筋をぴんと伸ばし、しわひとつない制服にきっちりと止められたボタンに真っ直ぐに整えられたネクタイ、女子のリボンも左右のバランスもよく歪み一つない。
そして彼らの視線の真っ直ぐ先にはペンを指揮棒代わりに手にした生徒会長、紺野玉緒の姿がある。
「説明は以上、何か不明な点はあるかな?」
普段の温厚で親しみやすい姿とはうって変わった真剣な目が生徒会執行部一同の顔を見渡す。しんと静まり返った生徒会執務室、居並ぶ執行部の中で一人の小柄な女生徒が真っ直ぐに手を上げた。
「会長!よろしいですか!」
部屋中に響く甲高い声、彼女のすぐ隣にいた男子生徒が思わず肩を竦める。
「小波さん。質問は何かな?」
きぃんと響いた頭を人差し指で軽く押えて、勤めて冷静な声で名を呼ぶ。
小波美奈子。入学してまだ日も浅い一年生でありながら、入学してから即生徒会の一員に加わり、生徒指導や挨拶運動では誰よりも熱心に活動している一人。執務に対しては人一倍熱心で正義感が強く行動力もある彼女は、この所停滞感のあった生徒会ではいい刺激になっている。もっとも逆の意味での刺激も大きいのだが。
「はいっ!校内見回りについてですが。ここ最近、活発に活動しているある同好会についてご意見を伺いたいです!」
「ああ、柔道同好会だね。創設者は確か君と同じクラスの」
「不二山嵐です」
「そう、不二山くん。彼が何か?活動を見るところ、特に問題のある行動は見られないようだけれど」
「いえ、会長。この所、奴についていくつか不穏な噂を耳にしてるんです」
待ってましたとばかりに胸を張って胸ポケットにしまった紙を取りだした。
「これはここ最近奴が接触したと思われる人物と、下見をしていたと思われる箇所の目撃例です」
「……熱心だね」
手渡された紙には各文化部や運動部の部長やクラス委員、他にも役職にはついていないがクラスや学校内で知名度のある生徒、リーダーシップのある者、イケメンと言われる者などが細かに記入され、目撃例の報告もいつどこで不二山を見かけたというのを警察の調書?と勘違いしそうなほどのにしっかりと書き連ねてある。
「うん、部活昇格の為にスカウトや人脈作りや協力を仰いでいるのかな」
「いえ、それだけではありません。奴は柔道同好会の知名度アップを狙って再来週に迫った体育祭をジャックして無許可イベントを企画しているという確かな証拠です。クラスでも数名噂を聞いた者もいるそうです」
「無許可イベント、それは確かに見過ごせないし。柔道同好会のアピールの場にしたいというの彼の思惑もわからないでもない。しかしこれだけでは」
「会長!このままでは体育祭が奴に乗っ取られてしまいます!」
「いや、それはないんじゃ……」
「ここは生徒会として奴の野望を止めなければならないと思います!」
ぐっと拳を握り締めて。
いや、野望って。それ以前に体育祭の乗っ取りって一体どういう。というツッコミを入れる暇も与えない。
「テロは計画の段階で潰さないとダメです、今の内に不二山の陰謀を暴かないと」
拳を握って主張する姿、が、しかしその目は怒りに燃えるというよりは期待で輝いてるようにも見える。
「やっぱり生徒会というからには学校内での闘争とか武力鎮圧ですよね」
それはどこのライトノベルの世界だと、ツッコミを入れたいのを必死で押えつつ。
「……えー、小波さん。君は生徒会について誤った認識がないだろうか」
痛むこめかみを押えてゆっくりと言葉を搾り出す。
「生徒会は、あくまで学校内のイベント主催や、生徒達の意見や要望を受けて過ごしやすい学生生活を送るための活動するものであって、決して鎮圧や闘争を煽るものではない、ということは理解して欲しいんだ」
「はい、もちろんです」
ホントに理解しているのか正直怪しいところだが。少なくとも人の言うことを聞かない子ではないことは信用できる。
「まあ、ともかく噂がなんにせよ、憶測で行動するのは好ましくないね。君と一緒に僕が彼の計画について調査するということで理解してもらえるかな?」
「はいっ!」
ガッツポーズで気合を入れる姿に小さく溜息をついた。
主犯?確保
「そこで、だ。その応援合戦の後の休憩時間を狙う」
「そんなうまくいくかぁ?」
昼休みの中庭は昼食を取る生徒達の姿があちらこちらに見える。
そんな中、中庭の片隅の芝生で数名の男子生徒が円陣を組んでなにやら話し合いをしている。その中心人物、不二山嵐が手にしたイチゴ牛乳のパックを一口すすって膝を軽く叩いた。
「やってみねーことには始まらねーだろ?」
「でも、生徒会の目があるだろ?」
「大丈夫だ、こっちも対策はしっかり練ってる」
くしゃっとカラになったパックを潰してにぃっと笑う。
「対策ったってなぁ……つーか最近特に厳しくなったっていうか」
「ああ、あの一年の。ウチの部も弱小で、アピールしようとして何かと目ぇつけられてるからなぁ」
弱小と呼ばれる部長や同好会会長やらに声をかけ、体育祭という場を使ってこれらの部のアピールをする。その為に協力者を募り、イベント関係者らから情報を集めて計画を練っている最中だった。
「生徒会一年?ああ、小波か。アイツもいい逸材だよな……やっぱもっと粘って勧誘しとくべきだったな」
「……お前、強いな」
あっけらかんとした不二山を呆れたように見る男子生徒達の後方、フェンスの裏側。
「会長、聞こえてます?」
「う、うん。でも、こ、こんなことする必要があるのかな?」
「しっ、静かに」
口を塞いで頭を押さえ込まれてもごもごと顔を真っ赤にする玉緒に構わず、円陣を組んでいる男子をじっと見る。
「やれるだけのことはやる、後は本番でどう動くか、だ」
ぽん、と、不二山が膝を叩いたのを見計らうように。
「そこの連中!企みはこの生徒会執行部が見届けたっ!」
男子達の後ろから立ち上がり、フェンス越しに高らかに宣言する美奈子の姿。
「げぇ!生徒会!?」
「うわ、こ、小波!?」
「……こんな近くまで気配感じさせねーとか、やっぱすげぇ!」
悲鳴をあげる男子二名と、嬉しそうな男子一名。
「バカ!喜んでる場合か、逃げろっ」
「させるかっ」
「ちょっ、小波さんフェンス!」
頭に葉っぱをつけたまま飛び出そうとした美奈子を止めようとするが、一瞬早く小柄な体が宙を飛んだ。
「せいっ!」
玉緒の目の前、フェンスを飛び越える白い太ももと翻るスカートの裾が舞った。
「……あ」
その場にいた男子全員が一瞬動きを止める。
スローモーションのようにくるりと回って着地、そのまま主犯?不二山の首に腕を絡めてホールドする。
「うおっ」
「不二山嵐!確保!」
響く声にいち早く我に返った玉緒がメガネを軽く直して心の中で冷静にと自分に言い聞かせながら、残る二人に声をかける。
「不二山くんとそこの二人、君達の計画について生徒会としても詳しく知りたい。話を聞かせてもらえるかな?」
がっしりとホールドされた不二山を見て、二人顔を見合わせて。
「……降伏します」
「同じく」
揃って両手を挙げて投降した。
公式へ
「知名度を上げるための活動アピール、か」
「はい」
生徒会執行室、不二山を初めとした弱小部三名の部長らがそろって立っている。
その後ろで逃がすものかとばかりにきろりと背中を睨む美奈子の姿がある。
「許可なく無断で、となれば。我々生徒会としても許可はできない」
「はい、そこをなんとかしたいと思って」
「…………ふむ」
真っ直ぐに自分を見る不二山の目は真剣そのもので、柔道同好会のことをホントに思ってのことであることは想像はつく。一度や二度計画が流れたところで諦めはしないだろう。そして彼がなんらかの計画を立てるということは、また彼女が尋常でない頑張りを見せることになり。
「わかった、時間は長くは取れないけれど。応援合戦の後の休憩時間に特別にアピールタイムを作ろう」
「本当ですか!」
後ろに立っていた美奈子が驚きの表情を浮かべる。
「その代わり、アピールについての詳細や内容をきちんとこちらに提出すること、いいね?」
「はい!ありがとうございます!」
深々と頭を下げる不二山の頭を眺めて。
「うん、がんばって」
そして後ろの美奈子に視線を移す。
「小波さん、そういうことでいいね?」
「……はい」
不承不承といった風に頷く。
「では、退出してよし。今週中にアピール内容をまとめること。小波さんに渡してくれればいいから」
「はい、失礼します」
戸が閉まる音、遠ざかっていく足音が完全に聞こえなくなって。
「いいんですか?会長」
つまらなそうにつぶやく美奈子の顔に苦笑する。
「いいんだよ、こうやって生徒の要望を聞いていくのも仕事だからね」
ふと。
今更のようにさっきの白い太ももと翻ったスカートの裾が頭をよぎる。
「さ、さ、さぁ、体育祭のプログラムを見直さないと、ね。忙しくなるよ」
「……会長?」
不思議そうな顔で首を傾げる美奈子の視線から逃れるように、机の上の書類で顔を隠した。
END