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GS3嵐×バンビ

『強豪の洗礼』

女の戦準備 ~美奈子

 母親に作ってもらったエプロンの紐をぎゅっと結ぶ。
 随分長いこと使い込んだせいかちょっと裾の糸がほつれてたりサイズがちょっと小さかったりする、でもこれを着ると不思議と気合いが入る。所々に油のシミがついてたりするけど、これは勲章みたいなもの。
 台所は女の戦場、とはうちの母親の言葉だけどまさにそんな感じ。エプロンを着て台所に立つということは武装して戦場に立つのと同じ意味だ。
「さて」
 両手に広げた料理雑誌のページをめくってカラフルに彩られたお弁当の写真を眺めて。
「彩りかぁ、難しいよね」
 いくつか献立に目星を立てて食材は買ってきてあるものの、まだ全部の品が決まっている訳じゃない。
「茶色ばっかにならないように……」
 赤黄緑の色、野菜に煮物にメインのおかず、栄養のバランス良くかつ彩り良くとなるとなかなかに難しい。
 お弁当一つでこれだけ頭を使うというのに、幼稚園から中学高校と毎日欠かさず手の込んだお弁当を持たせてくれた母親がすごく偉大だ。
「よしっ、献立も一通り決まったし今から下ごしらえしてご飯の予約して、と」
 腕まくりして気合を入れる。
「がんばろう」
 明日の遠征に備えて。
 
 柔道同好会初の合同練習からもう三ヶ月近く。
 もう学校にもすっかり慣れて、制服も夏服に代わり、流浪の民な柔道同好会の活動も大分軌道に乗ってきた。
 肝心の部員の方はまだ増えてはいないけど、今では他の運動部や生徒たちにも柔道同好会の存在がだんだんと認められつつある。といってもまだ柔道のことより名物コンビとして目立っているという感じ。どっちにしても少しでも周りにアピールできているのならいいことなのかもしれない。
 練習の後のミーティング、いつもの階段の踊り場。段差に腰掛けて膝の上にノートを広げる。最初はまっさらだった活動記録ノートも今では半分近く埋まっている。
「もうすっかり夏だよね」
 窓から差し込んでくる日差し、もう夕方の時間だけど外はまだ明るい。
「そうだな、体動かしてて気持ちいい」
 隣には不二山くんが道着姿で前をはだけたままスポーツドリンク片手に座ってる。まだ練習直後で顔も体もほんのり赤くて汗ばんでいて。最初の頃は上半身裸にドギマギしたこともあったけど、今ではもうすっかり慣れたものだ。
「体冷やし過ぎたらダメだよ」
「わかってるって」
 シャーペンで今日の活動をノートに書き留めて、次のページに明日の日付と合同練習の文字を書き込む。
 これまでも最初の伏見高校以外に市内の柔道部のある高校に果ては一流体育大学にまで出張して練習をさせてもらってきた。そして今回は遠方でなかなか実現できなかった強豪校の北辰工業との合同練習ができることになった。
「結構遠いんだよね」
「そうだな、前住んでた家のほうに近い」
「不二山くんも受験組なんだっけ」
 そう言えば、はば学に入る為にすごくがんばって勉強したって話を聞いたような気がする。
「ん、ああ」
 この時、ほんの一瞬。不二山くんの表情が少しだけ変わった。
「あ、そうだ。練習の内容のことで聞きたいことあるんだけど、いい?」
「ああ、いいぞ。どこだ」
 これまでも、時々今みたいに突然不二山くんが表情を変えたことはあった、本当にほんの一瞬だけ。それは決まって柔道の話や昔のことが絡んだ話をしていた時だった。
 多分、なにか柔道のことで色々思うところがあって、言えない何かを抱えてるんだろうな、と思う。
 けどそれは興味本位で首を突っ込んでいいことじゃないはず。だからそんな時はつとめて話題を変えるようにしてる。
「崩し……やっぱりまだよくわからないんだよね」
「勉強して覚えるのとは違うからな、こればっかりはひたすら積み重ねて自分で掴むしかねぇよ」
「私、積み重なってるかな?見てるだけだけど」
 マネージャーをはじめたばかりの頃よりは技や動きも何となくわかるようになってきたけど。
「いいんだよ、それで。とにかく色んな奴の動きや技をしっかり見ていけばいい。そうやっていれば自然と積み重なる」
「見てるだけでも?」
「もちろん」
「ふふっ、じゃあこれからもしっかり見て積まないとね」
「もちろんだ。頼りにしてるぞ、マネージャー」
 いつものように笑う不二山くんからはさっきの一瞬顔を曇らせた影はもう無い。
「あ、そうだ不二山くん。明日の遠征」
「ん?」
「日曜だし朝早いから早く起きるついでに自分でお弁当作ろうと思ってるんだけど。よかったら不二山くんの分も作ろうかなって、どうかな?」
「弁当?!ホントか!」
「え、あ、うん。でも不二山くんのお母さんが用意してくれるなら余計かなとか思ったんだけど」
「弁当食いたい。なぁ、二つ頼んでいいか?」
「うん。あんまり期待されるほど上手くないかもだけど、じゃあ明日お弁当作ってくるね」
 何気なく言ったことでこんな顔を輝かせて喜ぶとは思わなかった。ちょっとプレッシャーはあるけどいつもの食べっぷりから考えて作り甲斐はありそう。
「うん、すげー楽しみ」
「よかった、明日の合同練習がんばろうね」
「押忍!」
 嬉しそうに頷く姿はどことなく子供っぽくてなんだか可愛い、でも本人に言ったら嫌がるから黙っておこう。 
 

無自覚な波乱 ~不二山
 
 あの街に帰るのはどれくらいぶりだろう。
 まだ半年程しか経っていないはずだけど、もう何年も帰っていないような気がしている。それだけこっちの生活に馴染んできた証拠なのかも知れない。
 柔道を辞めて、はばたき市に引っ越してから、もう戻らないだろうと思っていた。懐かしい風景を見て、見知った顔に会えば、どうしても柔道のことを思い出すから。
 柔道のことは忘れようと思っていた、はずだった。
 
 箸でちぎった焼き魚を一切れ口に放り込んで茶碗の飯をかっ込む。
「おかわり」
「はい」
 いつものように会話の少ない食卓。けれど息苦しい静かさやひっそりとしたものではないような気がする。
 黙っているというよりは、言葉にしなくても伝わっているような、口にしなくてもお互い分かっているといった雰囲気に近いかもしれない。
 目の前で父親が手を止めて箸を置くと、何も言わずに母親が空になった茶碗をとって席を離れる。そして飯を盛った茶碗と一緒に急須を手に戻ってきて、茶碗を渡してから湯のみにお代わりを注ぐ。特に言葉にしなくてもお互いが思っていることが分かっている、そんな感じ。
 以前は食卓の光景を特に意識せずにいたが、最近になってそのやり取りが何となく見えてきたような気がする。見えてきたというよりも、どこかで自分も覚えがあるというか。何も話さなくても思っていることが伝わっているような、察してくれているような、そんな感覚。
 飲み干した味噌汁の椀を置いて、手を止める。
「おかわり?」
「うん、あのさ」
 味噌汁椀を渡しながら。
「明日の日曜、弁当いらない」
「あら、朝から出かけるんじゃなかったの?」
「うん、弁当はつくってもらうから」
 椀を受け取った母親が目をしばたたいて手を止める。
「作ってもらうって、誰に?」
「クラスの女子に」
「えっ」
 急に素っ頓狂な声をあげてこちらの顔をまじまじと見る。
「クラスの女子が弁当つくってくれるから、弁当はいい」
 気がつくと、目の前で父親が手を止めてこっちを見ている。
 柔道の事だと気づかれることは何も言ってないはずだが、ひょっとしてなんか疑われるような事を言ってしまったのか、一瞬ひやっとする。
「あら……そうなの」
「うん」
 何故かまじまじとこちらを見る父親と母親の視線から思わず目をそらす。
「うん、明日朝早いし。弁当はいいから」
「ああ、いいのよ、いいの。そうなの……良かったわね。ああ、お父さんもお味噌汁おかわりいかがです?」
 やけに弾んだ声で嬉しそうに席を立つ母親の背中を見送る。父親も何故かしばらくこっちを見ていたが、母親が戻るとすぐに食事に戻った。
 なんだかよくわからないけれど、部活のことを疑われていないようで内心ホッとした。
 
 ベッドに寝転がって天井を眺める、かと言ってもまだ別に眠くはない。
「遠征か」
 これまでも遠征は何回も行った。
 特に伏見高校には距離の近さと顧問の先生の好意もあって、何度も一緒に練習させてもらった。先生の指導を間近で見たかったし、何より大人数での稽古を少しでも多くやりたかった。
 例えば自分が進学したのがはば学でなく伏見だったら、あの先生の元で思いっきり柔道が出来ただのだろうか?
「違うな」
 そもそもはば学に進学していなければあいつと出会って居なければ、今の自分はなかったかもしれないし、伏見の事を知ることもなかったかもしれない。
 一度柔道から離れて、それでも止められなくて一人でも続けようと行動して、今は少しづつ柔道同好会が形になり始めている。
 それは全て自分一人の成果でなく小波が居たからだ。あいつが居なければここまでやっていけたかもわからない。
「……北辰、か」
 あいつが言い出さなければ、北辰に合同練習に行こうなどとは絶対に思わなかった。行きたくないわけではない、むしろ道場の仲間達ともう一度手合わせできるなら願ってもない。
 多分、顔を合わせるのが不安なだけだ。
「男らしくねぇな」
 天井に手を伸ばして見つめる。
 ふと、机の上に置いた携帯電話が震える音が響いた。
「ん?」
 手を伸ばして携帯を見るとメールが一通、差出人は小波だ。
 
『明日楽しみだね。おやすみなさい』
 
 なんの変哲もなりやり取り、ほんの短いメールの言葉に不思議と自分の中でわだかまっていたものが解れていく。
「おやすみ、明日な」
 携帯を閉じて枕元に置く。特に意味はないけれど、なんとなく今日はよく眠れそうな気がした。
 
 
男の園へ ~美奈子
 
 お弁当二つって結構な量だと思う。
「よいしょ」
 不二山くんのお弁当二つと自分のお弁当、そして疲労回復用のはちみつレモンを入れたタッパーとスポーツドリンク入りの水筒が二本、それに記録用ノートと資料に応急セット、そして着替えの運動着とジャージ。これだけ入っていれば流石に重い。
 まだ朝も早い時間、待ち合わせよりちょっとだけ早く駅前に着いた。
「不二山くんのお母さんって偉いなぁ」
 毎日これだけのお弁当を欠かさず作って持たせてるってだけで十分すごいのに、たまに見せてもらうお弁当の内容はどれも手がこんでて彩りも綺麗で美味しそうなおかずが一杯だった。
「私のお弁当なんかで大丈夫かな……」
 美食家という感じではないと思うけど、これは美味しい美味しくないといったことは割とすっぱりいいそうな気もする。
 今更のように心配になっていると背後から肩を叩かれた。
 夏服に大きなスポーツバッグを肩から下げた不二山くんがすぐ後ろに立っている。
「押忍、お前早いな」
「おはよう、不二山くん。なんかそわそわしちゃって早く来ちゃった」
「俺も。てか、お前すごい荷物だな」
「えーと、必要なものあれこれ入れてたら、大荷物になっちゃって」
「ほら、貸せ」
 私が両手で抱えたバッグを片手で軽々と手にとって。
「行こう、時間早いから一本早い電車乗れるだろ」
「うん。ありがとう、不二山くん」
 
 日曜朝の電車は私たち以外は数える程しか乗客がいない。
 長い座席の端に座って停車駅案内の図を見上げる。
「終点の手前だっけ」
「ああ、一時間半以上かかるから眠いなら寝てもいいぞ」
「うん」
 動き出した電車に揺られながら、ぼんやり向かいの窓の向こうの景色が流れていく。
 最初はちょこちょこ話をしていたけど、だんだんと時間が経つにつれ話すことがなくなってお互い黙って電車に揺られる。
 二人で遠征するようになった最初の頃は、何か話して間を持たせないと気まずい気がしていたけど、今はもうすっかり慣れたものでお互い黙っててもあんまり気にならない。
 もともと私もよくしゃべる方ではないからか、一緒に居ても黙っている時間の方が長い時もある。だからと言って別に気まずいわけでもないし、お互い気にしていないというのもなんだか違う。何となく言葉にしなくても伝わっているというか、連帯感とか共感みたいなものかもしれない。
 いくつ目かの駅を通り過ぎた当たりで、肩にのしかかる感触。
「寝てもいいって言っておいて先に寝ちゃうし」
 肩に寄りかかってもうすっかり寝息を立てている。
 やっぱり元々体温が高いのか寄りかかった肩や触れた腕がポカポカと温かい。
「やっぱり子供みたいだね」
 
 駅を出て商店街が立ち並ぶ広い通りを抜けた先、目指す北辰工業高校の校門が見えてきた。
 道すがら、学校は休みのはずなのに学校へ向かっている制服姿の生徒がの姿がちらほら見える。
「あの人たち、部活なのかな?」
「ああ。多分な、柔道だけでなく他の運動部も強豪揃いだって聞いてる」
「へぇ、すごいね」
 門をくぐって入った北辰高校の敷地内はとても広かった。三階建ての校舎に面した校庭はサッカーと野球のグランドがすっぽり入るほど広く、数名の部員達が準備運動をしている。
「ホントだ、すごいね。部員も一杯居るみたい」
「ほらこっち、向こうが格技棟」
 不二山くんの後を付いて校内を歩いていくうちに、ふと視線を感じた。足を止めて見ると、準備運動中だったサッカー部の集団がこちらを見ている。やっぱり他校の生徒は珍しいのかな。
 でも気のせいか建物に近づくにつれ、通りすがりの生徒や練習中らしい部員達らの視線がどんどん増えてる気がする。
「なんか私たちすごく見られてない?」
「そうか?やっぱ珍しいんじゃねーか、見ない制服だし」
「そうだけど……」
 それにしてはやけに視線が痛いというか、凝視されているというか、何かがおかしいような。
「ここ男ばっかだから女が珍しいのかもな」
「えっ?」
 思わず足を止めて不二山くんのシャツをつかむ。
 なんか今さらっととんでもない事を言われたような。
「ちょ、ちょっと待って。北辰工業って男子校なの?」
「ん、いや男子校じゃねーよ、一応共学だ。女がいないだけで」
「それ、男子校と変わらないよ!」
 どうりで視線があちこちから飛んでくるわけだ。
 見られてる理由が分かったけど、なんだかすごく居心地が悪いというか、余計に周囲の視線が気になってきた。
「おい見ろよ、女子だぞ」
「……なんだ他校の子か?見ない制服だぞ」
 私のことを話しているらしい会話がちらちら聞こえてくる。「ホントだ、女の子だ」
「おおお、夏服」
 なんか意識すると余計にあれこれ聞こえてきてしまう。
「い、いこう不二山くん」
「ああ、もうすぐだ」
 不二山くんのほうはどこ吹く風というか、男子だから当然気にならないんだろうけど。
 なんだか不安になってきた……
 

歓迎の声 ~不二山

 格技棟の建物が近づいてくるにつれて、不安と期待がごちゃまぜになってわきあがってくる。
 北辰の柔道部には道場の二つ年上の先輩がいるという話は聞いている。引っ越して以来顔を合わせていないが、道場を辞めた自分をどう思っているのか、少しだけ気になっていた。
 
 入口が近づいて、中から生徒たちの掛け声や畳に叩きつけられる音が響いてくると反射的に体がじわりと熱くなって血が騒いでくる。
 入り口で足を止めて、ゆっくり息を吸って腹で溜める。
「失礼します、はばたき学園柔道同好会です!」
 道場に響いた声に自主練習中の部員たちが動きを止めた。その中の一人がこちらを見るなり駆け寄ってくる。
「お前……不二山か?」
「お久しぶりです、菊池さん」
 背筋を伸ばして頭を下げる、と。いきなり頭を鷲掴みにしてぐしゃぐしゃとかき回された。
「不二山お前、久しぶりじゃないか!なんだ、今日来る練習相手はお前だったのか、先に言え!そういうことは!」
「すいません」
「引っ越してから音沙汰なかったからお前どうしてるのかって、道場で話してたんだぞ?元気そうだな」
「はい」
「はははっ!背も伸びたか?前よりごつくなったみたいだな、手合わせが楽しみだぞ」
 肩を叩かれながら頭をぐしゃぐしゃにかき回されて。予想していなかった反応にびっくりした。
「いえ、先輩の方こそ」
「ほれ、いいからとっとと着替えて来い。部長と顧問がもうすぐ来るから」
「はい」
 背中を叩かれてようやく頭が落ち着いて、同時にホッとした。
 道場を辞めたことをどう思っているのか、今更何しにきたのかとか、変に考えすぎる事はなかったのかもしれない。いつもと変わらない菊池先輩の様子にようやくつかえていたものが取れた気がする。
「よし小波、着替え行くぞ」
「あ、うん」
 遅れて付いてきた小波が遠慮がちに顔を出す、と。
「え……女の子?」
 その場にいた部員の視線が一斉に集中した。
「なに女子マネ?!」
「い、いらっしゃい。どうぞどうぞ!ようこそ北辰へ!」
「うわ、やべ、女の子だ……」
 あっという間に集まってきた部員たちに取り囲まれる。
「は、はじめまして小波美奈子です」
「おおお、小波さん。はじめまして」
「あ、俺二年の田村です」
「おいこら勝手にアピールするな!どうも三年の鈴井です」
「は、はい。よろしくお願いします」
 あっと言う間に部員たちに囲まれて小波の姿が見えなくなる。
「なぁ、不二山」
「はい」
 こそっと菊池先輩が肩に腕を回して耳打ちしてくる。
「あの子、彼女か?」
「違います」
「そっか、違うのかー相変わらずだなぁ、お前は」
 大仰にため息を付いて首を降る。
「ま、いいか。それにしても小波さんか……いや、うちの連中女っけないからなぁ……すまんな」
「いえ」
 小波の方は部員たちに質問攻めにされながらいちいち丁寧に答えている。
 ああいうお人好しでバカ素直なところがあいつらしいというか、男女構わず気に入られるところなんだろう。
「小波さんってはばたき市の人?遠かったでしょ」
「はい、はばたき市から……電車乗ってる時間はそんなに気にならなかったんで」
「ね、駅前商店街に俺の実家あんだけどさ、通りにあった肉屋。見てない?」
「気づかねーよ」
「お肉屋さん?……確か途中でいい匂いがしてたお店はありましたけど」
「そうそうそう、揚げたてコロッケの店!」
「あ、小波さーん!うちは……」
 部員たちに囲まれたまま、あちこちから飛んでくる質問や話に嫌な顔ひとつせず受け答えしている。
 相変わらず、バカ素直で、とりとめもない話を真顔で聞いて、答えてくれる。
 そういう奴だ。
「おーい、不二山ー」
「はい?」
 肩を叩く菊池先輩の声でわれに返る。
「あーいや、悪い悪い。そろそろ奴ら切り上げさせるからそんな怖い顔で睨むな」
「睨む?」
 睨んでたのか?自分だと良くわからない。
「ほらお前ら!解散解散」
 菊池先輩に追い払われ、抗議しつつもわらわらと離れていく部員たち。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっとびっくりしたけど」
 大きく息をついて。
「すいません小波さん。うちの連中、女っ気ないもんで」
「平気です、菊池さん。今日はよろしくお願いします」
「どうも、よろしく。じゃあ……柴田!案内頼む」
「押忍」
 ふと目の前に壁が立ちふさがったような大男が現れる。
「更衣室に案内します。不二山さん、小波さん」
「はい、よろしくお願いします」
 
 目の前を歩く柴田と呼ばれた男。
 自分より頭ひとつ分以上大きい、はば学の桜井琥一よりも更に高い背。そして体も骨太で非常に安定している。そして無骨で大柄な体に似合わない、静かな穏やかさ。
 この感覚はどこかで覚えがある、春に最初の合同練習で伏見高校の顧問に会った時と同じ。
「あの人、強いね」
「ああ」
 こそっと小さな声で耳打ちする小波の声に小さく頷いた。


好敵手 ~美奈子

 緊張した、というか練習前に既に疲れた。
 体操着に着替えて記録ノートとシャーペンを手に大きく息をつく。
 手荒い歓迎ではないけれど北辰の部員さんたちのテンションの高い歓迎っぷりにすっかり圧倒されてしまった。
「ほとんど男子校みたいなもんなんだね……」
 学校を調べたときに最初に気づくべきだった、ホント。でもここで始まる前からへたれていたらダメだ。
「よし、頑張ろう」
 それにしてもさっきの菊池さんと不二山くんのやり取り、傍目で見てもすごく仲が良さそうだった。
 前に合同練習で仲良くなった伏見の主将さんもそうだけど、ああいう男同士の他愛のないやりとりは見ていてちょっと羨ましい。やっぱり男同士の時と私相手の時だと微妙に不二山くんの態度が違う気がする、当たり前だけど。
 やっぱり男と女の差なのかな?ちょっと寂しい気もする。
 
 道場のすみっこに正座して記録ノートを広げる。
 顧問の先生が来て整列すると部員たちみんなの表情がガラリと変わった。
 練習が始まり、広い格技棟内に打ち込みの掛け声と畳に叩きつけられる音が響く。
「……さて」
 流石に強豪、これまで見てきた他の学校との差を肌で感じる。
 この差を感じ取れるようになってきたのも、自分自身が積んできた成果だと思う。マネージャーをはじめたばかりの頃だったらこの空気の差を知ることもできなかったはず。
 中でも。
「よし、柴田!お前不二山と組め」
「押忍」
 さっき案内してくれた柴田くんという人。菊池さん曰く北辰の新星で私達と同じ一年生、とてもそうは見えないけど。
 組み合う二人をじっと見つめながら、前に不二山くんが言った言葉を思い出す。
『一見緩くて柔らかそうに見えるけど動きが怖いくらい自然だ、全然隙がない』
 第一印象で言えば、大柄でがっしりした体に似合わずびっくりするくらい穏やかで柔らかい雰囲気。けれどうまく説明できないけれど何かが違う、これが不二山くんの言う隙のなさなのかもしれない。
 なんというか、不安とか心配というのとはまた違う、直感のような何かを感じる。
「不二山くん、頑張って!」
 心の中のもやつきを振り払うように大声を出した。
 
 朝から始まった柔道部の練習は昼を挟んでほとんど休む暇もないくらい濃い内容だった。
 最初来たときに質問攻めにしてきた時の浮かれた雰囲気は微塵もなく、怖いくらいの気迫と熱気で強豪校の名に恥じない力強さを肌で感じた。
 隅っこに座り、時折記録係やタイマー係などを手伝わせてもらいつつ、全国クラスの部員たちの動きを目に焼きつける。
 しっかりと見て、積む。少しでも経験を重ねるために。
 途中、一番気にしていたお昼の時間は手作り弁当に部員たちが殺到して大騒ぎになったけど、おかずを各自等価交換しあって皆で食べることで何とか落ち着いた。
 不二山くんに全部食べてもらえなかったことはちょっと残念だったけど、不二山くんも部員のみんなも美味しそうに食べていたからよしとしよう。
 
「そうだ、不二山。どうだ、最後のシメに練習試合をしてみないか?」
 練習の終わり間際、菊池さんが不二山くんの肩を叩いてにやりと笑った。
「ぜひお願いします」
「よしっ、柴田来い!先生審判お願いします!」
 急遽行われる練習試合に沸き立つ部員たちの中、柴田くんが静かに歩み出て不二山くんと私にゆっくり頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「押忍、よろしくな」
「はい、よろしく……」
 表情を引き締めて不二山くんが礼をする。きっと不二山くんも柴田くんの強さを肌で感じてるんだろう。
 他の部員たちと少し違う何か、何が違うのかは私もうまく説明できない。
「なに、試合か?」
「柴田いけ!遠慮すんな!」
「北辰の意地を見せてやれ!」
「女連れに負けるな!柴田!」
 いつの間にか部員たちの他に他の部のギャラリーが格技棟の窓や入口に集まっている。
 顧問の先生が中央に立って片手を上げると、ざわついていた空気が一瞬静まり返る。痛いくらいに張り詰めた空気の中、不二山くんが前に歩み出る。続いて柴田くんが進み出た。
「不二山くん……」
「小波、よく見とけよ」
「うん、がんばって」
 歩いていく背中を見送って、両手をぎゅっと握る。
 ドキドキする、不二山くんのいう積み上げた勘というものかもしれない。
 私が積んだ勘なんて、不二山くんが小さい頃から積んでいたものと比べれば紙っぺらくらいのものかもしれないけれど。
 これまで見てきた不二山くんの動き、合同稽古での練習に試合、そして今日の厳しい練習。その全てを合わせたものからでてきた答え。
 この人、強い。
 向き合って礼をする二人を見て、胸の前で祈るように両手にきつく力を込めた。
 それはあっという間の出来事だった。
 
 いや、時間でいえばあっという間だったけど、ほんのわずかな時間の中で以前はつかめなかった動きがほんの少しだけ見えた気がする。
 襟をつかみあった手、咄嗟に相手の体を引いて攻めにいった不二山くんの動き、でもそれより更に早く相手は動いていた。
「不二山くん!」
 払われた足、決して小柄ではない不二山くんの体が大きく宙を舞ってコマ送りのように、ゆっくりと落ちて行く。
 叩きつけられる音、軋んで揺れる畳、そして。
「一本!それまで!」
 審判の声と部員たちやギャラリーの歓声が格技棟に響く。
 思わず前に飛び出したくなるのを必死で堪えて、畳に倒れた不二山くんを見る。倒れた位置からは顔が見えないけど、呆然としてるのはここから見ても分かった。
 柔道同好会で遠征を始めてから、不二山くんが一本負けするのは初めてだった。


敗北の味 ~不二山

 噛み締めた歯が軋む。
 握り締めた拳をドアに押し付ける。
 試合の後、練習が終わってから。ミーティングまでのわずかな休憩時間に格技棟の外にある男子トイレの一室で今日の試合を反芻する。
 柴田は強い、それは分かっていた。
 だからこそ積み上げた経験と勘すべてを賭けて全力で攻めて仕掛けた。
 そして負けた、完膚なきまでに。
 開始時でのこちらの動きは完全に読まれていた、反応されたときの対応も何もかも全て。こちらの攻めをすべて流され、そこからできたわずかな崩れを見逃さず綺麗に一本とられた。
 勝負というからには勝ちもあれば負けもある。
 敗北は終わりではない、そこから学ぶものは沢山ある。
 
 それでも。
 握った拳を開くと手の平に小さく爪の跡がついている。
 試合に勝てば爽快だ、だが負ければこの苦さを噛み締めなければならない。それを乗り越えた先に得るものがあるならば、今はこの苦さをしっかりと噛み締めなければいけない。
 ひょっとしたら、自覚はなくとも自分は強いと自惚れていたのかもしれない。その驕りを真正面からたたきつぶしてくれたことには感謝するべきなのかもしれない。
 拳を握って、もう一度柴田の姿を思い浮かべる。
 あれだけの強者が北辰にいるとは思わなかった。それも柔道を始めたのは中学からだと菊池先輩が言っていた。
 北辰にいれば実力のある練習相手もいて、顧問に本格的な指導を受けることができ、互いに研鑽し合える。柔道を始めたのはあいつのほうが後だが、こっちは柔道部のないはば学でゼロからのスタート、向こうは理想的な環境で存分に柔道の腕を高めることができる。
 奴と俺との差は広がることはあっても縮めることはできないのか?
 せめてもっと練習相手がいて、活動が出来ていれば。
 いや、負けたのは環境のせいだけじゃない。勝てなかったのは単純な力量さだ。
 負けは全ての終わりではない。
   
 ただ、あいつの前で負けた事がひどく悔しい。 
 

取り残されて ~美奈子

 さっきの試合のことがまだちょっと信じられない。
 あの試合、初めて不二山くんが負けるのを見た。
 そりゃあ今まででも試合で苦戦することはあったし、今まで絶対に負け知らず、ってわけではないと思うけど。
 不二山くんが強いのは間違いない。でも勝負は何があるかわからないし、強い相手はどこにだっているはず。
 そのはずなのに、不二山くんが負けるはずがないって心のどこかで信じきっていた気がする。
 練習を終えて片付けも終わり、ミーティングの前のほんの少しの休憩時間。
「不二山くん……どこいっちゃったんだろう」
 気がつくと不二山くんの姿が見えなくて、菊池さんに聞くと少し頭を冷やしてくると言っていたみたいだけど。
「大丈夫かな」
 試合に負けて一番悔しいのは不二山くんのはず、だったら今はそっとしておいてあげるべきなのかもしれない。
 だけど。
「お、ホントだ、女子だ」
「女子マネージャーかぁ……くぅーいいなぁ」
 柔道部の練習は終わったのに未だにギャラリーが一杯いる。
「どこどこ、女子どこ?」
「ほら、あそこ」
 さっきからあちこちから見られている。
 ギャラリーばかりじゃなくて部員さん達もこちらをちらちら気にしている。もちろんみんな悪気はないと思うし、物珍しいからなんだろうけど。
 居心地が悪い。
 男ばっかりの中で一人だけ女子って構図。少女マンガとかの世界でなんとなくあこがれたりしたことはあったけど、正直訂正したい。
「なんかキョロキョロしてる」
「可愛いなぁ……いーなぁ、女子マネ」
 気にしないようにしていても、あちこちから感じる視線と耳に入ってくる話し声。
「不二山くん……」
 どこいっちゃったんだろう。でもこんな時は一人にさせてあげるべきなのかもしれない。けど、知らない男の人だらけの中であちこちから見られている状況は心細くてたまらない。
「小波さん、大丈夫ですか?」
「え?はい」
 不意に声をかけられて顔を上げる、と。
 まさしく壁のような大きな体がすぐそばに立っている。
「さっきから様子が……小波さん?」
「きゃあああぁぁ!」
 さっきからずっと張り詰めていた糸が切れた。
「あの、小波さんっ」
 伸ばされた手を振り払って、逃げるようにその場から走り出した。


呼ぶ声 ~不二山

 男子トイレの個室の中、ドアの前に立ったまま目を閉じる。
 ゆっくり腹から息を吸って、少し溜めてから細く長く息を吐く。
 例えば試合に負けた時、思うように戦えなかった時、壁にぶつかって行き詰まった時。こうして一人でトイレに篭って気持ちを落ち着けるのは昔からの習慣だ。
 一人になって、気持ちを落ち着かせて、また歩き出す為に。
 広げた手をゆっくりと握り締めて、もう一度深呼吸する。そろそろ戻らないと練習後のミーティングが始まる。
「よし、戻るか」
 小波にも何も言わずにこもっていたのでひょっとしたら探しているかもしれない。
 個室を出てすぐ、聞き覚えのある高い声が聞こえてきた。
「不二山くんっ!!」
「小波?」
「不二山くんどこっ!不二山くん!」
 それは単に自分を探して呼んでいるというにしては声が上ずって切羽詰っている。
「小波!どうした?」
 手洗い場の脇の窓を開けて声を出す。
「不二山くん!?いるの?どこ!」
 こちらの声は聞こえたようだが、ここからだと小波の姿が見えない。
 何があったかはわからないがとにかく小波を探しに行こうとした時、バタバタと足音を響かせて男子トイレの入り口から小波が駆け寄ってきた。
「不二山くんっ!」
「小波、お前」
 言葉を発するより先に体当たりするように飛びついてきた。
「お前っ、どうした?」
「不二山くん、もう!どこ行ってたの!?」
「ちょ、お前、落ち着けって、叩くな」
「だって、不二山くん一人でどっかいっちゃって!」
 ぽかぽかと叩いてくる両腕を捕まえてなだめるがまるで聞く耳を持たない。よく見ると顔は半泣きで、よほど慌てていたのか履いている靴は自分のではなく他の部員のものだ。
「何かあったのか?」
 だんだん落ち着いてきたのか、力が抜けた小波の体を支えて背中を軽く叩く。
「……心細かった」
「え?」
 にじんだ涙をぬぐって、口を開く。
「不二山くん……どっかいっちゃって……私、一人で心細くて」
「……悪かった」
 ようやく言わんとしたことが理解できて、小波の頭に手を載せる。
「そうだよな、女一人で居心地悪かったんだな」
「うん……」
 何も言われずに男ばかりの中に一人で置いていかれて、よく考えてみれば不安になるのも当たり前だ。
「悪い、ちょっと一人で考え事してた。ほったらかしにして悪かった」
「不二山くん、どこに居たの?探してもどこにもいなかったし」
「いや。ここ……男子トイレだし」
「ええっ!?」
 驚いたように顔を上げて、恐る恐る周りを見渡して、みるみる小波の顔が真っ赤に染まる。
「きゃああああああぁ!!」
「お、おい、小波どうした」


騒動の後始末 ~美奈子
 
 穴があったら入りたい。
 もう恥ずかしくて顔があげられない。
「すみませんでした小波さん。柴田!お前は小波さんから離れろ!3メートル以内に近づくな」
「押忍、すみません。小波さん」
 全員整列して深々と頭を下げる北辰柔道部の皆さん、そしてちょっと離れた位置で頭を下げている柴田くんの姿。
 不二山くんが居なくて不安やら心細さやらでテンパって大騒ぎしてしまった後。
 柔道部の皆さんだけでなく他の部の生徒さん方、顧問の先生に悲鳴を聞きつけた他の先生方も巻き込んで大騒ぎになってしまったみたい。
 結局、声をかけた柴田くんが私を怖がらせてしまったせいだと謝罪することでなんとか収束した。
 驚いてしまったのは確かだけど、あの状況と言葉からして私のことを心配して声を掛けてくれたはずなのに、パニックを起こして悲鳴をあげて迷惑を掛けてしまった。
「あの、本当に柴田くんは悪くないんです……私が勝手に驚いて騒いでしまって……本当にごめんなさい」
「いいんです、小波さん。あいつ人相悪くてガタイもデカイから男でもびびりますから。もう近寄らせませんから」
「菊池さん、こいつを一人でほったらかしにした俺が悪いんです。すいませんでした」
 もうみんながみんな謝罪する流れになっている。
「お騒がせしてすみません、本当に……」
 もう穴掘って埋まりたい。
 
 謝罪だらけの騒動もなんとか落ち着いて。
「また来いよ。不二山」
「はい」
「今日はありがとうございました」
「小波さん、お疲れ様でした!」
 校門前で部員さんたちが整列してのお見送り、柴田くんだけは少し離れた木の影から姿をのぞかせて深々と頭を下げてる。今回一番とばっちりを食ってしまったのは彼かもしれない……悪いことをしちゃった。
 
「はぁ……」
 今回の遠征練習、収穫は沢山あったけどそれ以上に恥ずかしい思い出を作ってしまった。
「小波」
「ん?」
「悪かった、ホント」
「不二山くん……でも私が」
 反論しようと顔を上げて、真剣な顔に思わず口篭ってしまう。
「考えてみたら、当然なんだよな。全然知らないとこ来て、それも男ばっかの中で一人でほっとかれたら不安になるのも当たり前だ。逆の立場で考えたら俺だって居心地わりーし」
 逆に女ばかりの中でほっといても不二山くんなら堂々としてそうな気もするけど。
「悪かった、ごめんな」
「……うん」
「もうお前のこと一人にしねーから」
「う、うん」
 そのままの意味なんだけど、その台詞だけだとなんだか違う意味に聞こえてドキッとしてしまう。
「じゃあ、お詫びに何かおごってくれる?」
「なんだ、そんなんでいいのか?いいぞ、何食いたい?」


反省 ~不二山

 目の前でコロッケをほおばる小波の顔をぼんやり眺める。
「おいしいね」
「お前、一個でいいのか?」
「そんなに一杯食べれないよ」
 商店街からちょっと外れた先の小さな公園。
 小波と並んでベンチに座って紙袋から三つ目のコロッケを取り出してかじる。
「そうか?あと三個はいけるけどな」
「そんなに食べたらお腹もたれちゃう」
 湯気を立てるコロッケにかぶりついてゆっくりと噛む。
 小波のほうは熱いコロッケに息を吹きかけながらちまちまと齧っている。
「ん?どうしたの、不二山くん」
「ん、ああなんでもねぇ」
 体つきも違う、食う量も違う、自分が当然だと思ってることがこいつにとっては全く違ったりする。
 空になった袋をくしゃくしゃと丸めてくずかごに放り投げる。
「今日は……色々あったけど収穫もたくさんあったよね」
「ああ」
 今日の合同練習。
 強豪北辰の実力を身をもって思い知らされたこと、そして敗北して初めてわかった自分の思い上がり、そして。
「お前のこともな」
「え?」
 あの試合で負けた後、俺は自分のことしか考えてなかった。
 試合に負けたことで頭が一杯になって、小波のことをすっかり忘れて一人で閉じこもっていた。
 一緒に柔道同好会を作って、はるばる遠方まで文句のひとつも言わずついてきてくれたこいつのことを。
「……まだまだだな」
「試合のこと?」
「色々」
「ほら、まだこれからだよ。もっと練習重ねてまた来よう、次は勝とう。私もしっかりマネージャーとして積むから、ね!」
 くしゃっと、頭を掴むように頭を撫でる。
「うん……ありがとな」
 
END
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