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GS3嵐×バンビ

ひとめ、あなたに

「ねぇ、嵐くん見て見てウサギだよ」
「お、ホントだ」
 はばたき山を少し登った先に見つけた動物ふれあい広場。訪れた客は自分達以外に家族連れの姿がちらほら見える。
 動物園というほど種類も多くなく珍しい動物もいないが、ふれあいという名に相応しくサルやウサギの餌が売っていたり、低い柵から手を伸ばせば触れられる程の位置で飼われているミニブタや鹿の姿も見える。いつも来ている動物園ともまた違う身近に感じる動物達の姿はまた新鮮だ。
「んーもっとこっち向いて~」
 団子のように集まってニンジンをかじるウサギに携帯を向けて写真を撮ろうとしているが中々うまくいかない。
「そんな覗き込んでるとすっ転ぶぞ」
「平気だよー」
 柵に手をかけ身を乗り出して必死に携帯を構える美奈子の姿に思わず笑いそうになる。
「よし、撮れたっ」
 ようやくお気に入りのショットが撮れたらしくやり遂げた顔で戻ってくる。
「ほら」
「へぇ、よく撮れてる」
 自慢げに掲げた携帯にはところ狭しとぎっしりすし詰め状態になったウサギが映っている。
「けどなんだこいつら、何でこんなに団子になってんだろ」
「さぁ、でもなんかさっきからずっと一箇所に集まって固まってるよ」
 柵の中を見ると、確かにさっきからずっとウサギ達が身を寄せ合っている。
「寒いのか?ってそんな寒くもねーか」
「むしろちょっと暑いかも、天気いいし」
「そうだな」
「ね、あっち行ってみる?他にも色々いるみたい」
「うん、行こう」
 特に気に留めず、伸ばされた手を握って順路に沿って歩き出した。
 舗装もなく踏み固められた道にロープを張り巡らされただけの道を二人で歩く。
 時々見える小さな檻や金網の向こうにヤギやミニブタの姿が見える。
「ほーらこっちおいでおいで、こっちむいてー」
「ほら、こっちこいこい」
 足を止めて小屋の隅に縮こまって動かないヤギに携帯を向けて呼びかけるが、一向に動く気配がない。
「どうしちゃったのかなぁ」
「具合悪いんかな?」
「さっきのウサギも変だったよね」
 首を傾げて視線をめぐらせると、隣の柵にいる数匹のミニブタも体を寄せ合ったままジッとしているのが見えた。
「ね、こっちもだよ」
「ホントだ」
 美奈子が指差した先、身を寄せ合ってこちらを見上げるミニブタの黒いつぶらな目を見つめる。無論、表情も考えも読めないが何か言葉にできない不思議な何かがあるようにも思える。
「どうしちゃったのかな?」
「病気とかじゃねーよな」
「だってみんな変だし」
「うん、向こうのほうも見てみよっか」
「そうだな」
 動物達の不可解な行動に言い知れない不安を感じつつも気を取り直して歩き出す。程なく歩いた先に広く開けたサル山が見えた。
「サルだ」
「いっぱいいる!ね、見て見て」
 指差した先、サルの餌と書かれた看板が目に映る。
「へぇ、餌やれんのか」
 手を引かれるままに看板の隣に置かれたテーブルを見ると、粗く切ったサツマイモやポップコーンが入ったプラスチックカップが並んでいる。
「ひとつ百円、よし買う!」
「じゃ、俺もひとつ」
 餌の入ったカップを手に柵から身を乗り出してサツマイモの欠片を放ると、転がって落ちた餌に向かって数引きの子サルが駆け寄って拾い上げる。
「あ、食べた。もうひとつ!」
「こっちも」
 ひとつ、ふたつ。
 放った餌めがけて一直線に駆け寄ってくるのはいずれも小さな子供のサルばかりで大人のサルはまるで餌に興味を向けずにジッとしている。
「やっぱり変だね」
「そだな、さっきからウサギもヤギもブタも様子おかしいな」
 餌を目の前に投げられても体を震わせて体を寄せ合うサルの様子にいぶかしげに首を傾げる。
「なんだろ、大人しいというのともちょっと違うような。ソワソワしてる感じ」
「どうしたんだろな?」
 カップから最後のポップコーンを放って、餌にかぶりつく子ザルとうずくまってあたりを見回す親サルとを見比べる。
「ひょっとして前兆とかそういうのかな」
「なんだ、それ」
「ほら、動物って人より勘が働くでしょ?何かが起こるとかそういう」
「なんかって?」
「これって、ひょっとして世界が終末を迎える前触れだったり!?」
 大げさに両手を広げて声をひそめる。
「……あれ?」
 そんなわけねーだろ?という反応を期待して待ち構えていた美奈子が不思議そうに首を傾げる。
「嵐くん?」
 不意に押し黙ってしまった不二山の顔を見上げる。
「そういう、ちょっと有り得そうなここえーこと言うな」
「あ、冗談だよ。ゴメン」
 真顔でつぶやくように答えた様子に慌てて袖を掴む。
「もし、さ」
「え?」
 袖を掴んだ美奈子の手を包むように手が触れる。
「もしさ、マジで世界が終わりとかになったりしたら、お前んとこ行く」
「私のところ?」
「うん」
 触れた手をぎゅっと握って、見上げた美奈子の目を見る。
「お前んとこいって、どうするかはわかんねーけど……でも行く、絶対」
「……うん」
「いこ、あっち座ろ」
 手を引いて近くのベンチへと歩き出す。
「ふふっ」
「なんだよ?」
「ううん、ゴメンね。前に読んだ本を思い出したんだよ」
「本?」
 ベンチに並んで腰掛け、ペットボトルに口を付けて小さく笑う。
「あと一週間で世界が終わるって状態で、主人公の女の人が恋人に会いに行く話」
「へぇ」
「恋人に会いに行く途中、世界が終わってしまうって状況で狂っちゃった人に出会ったりして、それでも最後にひとめ会いたくて恋人の居るところに向かうの」
 くるくるとペットボトルを回して、波打つ渦を眺める。
「最後は、みんな死ぬんか?」
「そこまでは書いてないけどね。でも世界が終わっちゃうのは避けられなくて、でもその主人公はすごく幸せそうだったんだよ。最後に恋人に会えて、ひとめあなたに会いたかったって」
 伸ばした手のひらを空に掲げる。
「世界が終わっても、地球が終わっても、無になったりしない。何かが終わらないと何かが始まらない、始まったものはいつか終わる。でもきっと何かが残るって」
 横から伸ばした手をさらうように握られる。
「嵐くん?」
「もし、ホントに……そうなったらさ。俺が会いに行く、お前に」
 掴んだ手を唇が触れそうな位置まで引き寄せて。
「会いに行くから」
「うん」
「お前に会えてホントよかったって思ってる。お前に会わなかったら、きっと色んなこと始められなかったから」
「ふふっ、ありがと嵐くん」
 引き寄せられた手を握って頷き返した。
 
END
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