このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

GS3嵐×バンビ

二人のクリスマス

 両手を擦り合わせる。ここ最近比較的暖かい日が続いていたせいか、12月末だというのを忘れて少し油断していたかもしれない。
「どうした、寒いか?」
「ん、ちょっとだけ」
「ほら、もっとこっちこい、そのカッコ似あうけどちょっと寒いだろ?」
 頷くより早く、大きな手が肩を包んで引寄せられた。
 ショッピングモールに立てられた真っ白なツリーの前には家族連れやカップルらで賑わって、色とりどりのオーナメントとチカチカ瞬く電飾が照らしている。
「こうして眺めてると綺麗だなぁって、思う」
「そうだな」
 コートを羽織った不二山の肩口に額を寄せて、ツリーの明かりに照らされた人波を眺める。足早に家路に着く姿、プレゼントを抱えて歩く姿、連れ添って肩を寄せ合って歩くカップルの姿。
「やっぱり、この時期になるとワクワクするんだよね」
「うん」
「クリスチャンとかそういうの抜きにしても、この時期から年末、お正月にかけての時間って、とても濃くてすごくあっという間で、でもすごく楽しい」
「そうだな、俺もお前とこうやって過ごすの好きだ。今まであんま意識とかしてなかったけど」
 肩に乗せた手があがってゆっくりと髪を撫でる。
「そろそろ中入るか?それともまだ見てくか?」
「ん、大丈夫。行こう」
「わかった」
 前髪をかするように唇を触れて、肩を引寄せる。
 

 高校を卒業してから初めて迎えるクリスマス。
 毎年参加していたパーティではなく、ライブハウスでのジャズライブ。最初不二山から誘われた時に少し驚いたのを憶えている。
「こっち、座れるぞ」
「うん」
 室内に並べられたテーブル席に座って、いつもと雰囲気の違う内装を見回す。
 クリスマス仕様であちこちに飾られた小物ともみの木を丸ごと飾ったツリーが目を引く。
「すごいね、こんなイベントあるなんて知らなかった」
「俺も大学の先輩に聞いてはじめて知ったから。お前、こういうの好きなんじゃねぇかなって思って」
「うん、好き!」
「そっか、良かった」
 高校を卒業してから、以前のように休み毎に会って二人で出かけるという機会は随分と減ってしまって。たまに会っても家で食事をするくらいだったり商店街を少し歩く程度だったり、のんびりと時間をとって過ごすというのは久しぶりだった。こうして不二山と会えるのは嬉しかったが、それ以上に自分を喜ばせる為に色々と考えて調べてくれたことが何より嬉しい。
「ほら、そろそろ始まる」
「うん」
 重なった手がゆっくりと握り締められる。
 
 艶やかなクラリネットの音色がライブの開始を告げた。

 まだ熱気の冷めないライブハウスの中、指を絡めて握り締めた手をゆっくりと開く。
「手、熱いか?」
「ううん、ちょっと喉乾いちゃって」
「そうだな、俺もずっと聞き入ってたし」
「ふふ」
 入場してすぐもらったドリンクは殆ど氷も溶けて、薄まったオレンジジュースが熱気で少し乾いた喉に心地よい。
「すっごく良かったね、雰囲気も演奏も」
「うん、俺も初めて聞いたけどよかった」
 ことんと、寄りかかった肩に頭を預けて。
「お前が喜ぶことしてぇって言ったろ、去年も」
「うん」
「あんまそういうの詳しくねえし、先輩に聞いたり、調べたり、けどどれもなんか同じようなことだったり、お前がホントに喜んでくれるかわかんなかったりで。でもこうやって良かったって聞けて、ホッとしてる」
「嵐くん……」
「正直、ちょっと不安だった。学校卒業してから俺忙しくてあんまお前と会う時間とれなかったし、今までみたいに学校で毎日顔会わせることもなくなって、それでお前がつまらない想いしてんじゃねーかって、だから今日はちゃんとお前のこと楽しませて喜んで欲しいって、思ってた」
 珍しく饒舌にしゃべって一口ウーロン茶を口に含む。
「あのね、嵐くん」
「ん?」
「そんなにね、難しく考えることじゃないと思うんだよ」
 こつんと肩口に頭を寄せて。
「嵐くんが色々私のこと考えてくれて、私の為に調べたり考えてくれて、前より会える時間が少なくなってもこうやって一緒に過ごせるのが……すごく嬉しい」
 僅かに寄りかかった体が身じろぎして、ゆっくりと後ろから包むように両腕が回される。
「よかった」
「うん」
 抱きしめられた腕に少しだけ力が篭る。
「なぁ、まだ閉場まで余裕あるから、ちょっといいか?」
「え?」
 解かれた手、少しだけ間を置いて差し出されたラッピングされた箱。
「これから先、ずっとお前のこと喜ばせてやりたい。その約束と決意を込めてって奴」
「……あ」
 箱と不二山の顔とを交互に見て。
「ありがとう、嬉しい」
「うん。こんな時に気のきく台詞とかなんも思いつかねーけど」
 指先がそっと髪を撫でた。
「メリークリスマス、これから先もずっとお前のこと幸せにする」

END
16/27ページ
スキ