このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

GS3嵐×バンビ

フードコートにて

「ねぇ嵐くん、新作だって!」
 歩いていた美奈子が足を止めて、ドーナツチェーン店の前に置かれた看板を指差す。
「ん? おっ、うまそうだな」
 日曜日、ショッピングモールのフードコートは家族連れや学生達にカップルらの姿で賑わっている。道路側に大きく飾られた看板には新作ドーナツと限定オリジナルグッズが大きくプリントされている。
「ほら、それに新作ドーナツ買うとポイントでオリジナルグッズと交換だって!」
「へぇ、こういうの好きなんか?」
「ほら、可愛いよ、このミニリュック」
「なら食ってみるか?」
「うん!」
 嬉しそうに手を引いてドーナツショップへと入っていく。店内は女性客と家族連れで半分以上埋まっていた。
「どれにしようかな」
 レジ前のメニューを睨んで思案顔。
「じゃ、俺これにする」
「抹茶チョコがけかぁ、じゃあ私ホワイトチョコのにするね」
「うん」
「えーと、このセットで……嵐くん飲み物なんにする?」
「アイスウーロン」
「じゃあ、この新作のドリンクセット二つでアイスウーロンとオレンジジュースでお願いします」
「はい、かしこまりました」


 アイスウーロンのストローをくわえて、両手で持ったドーナツを笑顔満面で頬張る美奈子の姿をボンヤリと眺める。
「なに?嵐くん」
「看板みたいな顔だよな」
「え?」
「顔一面に幸せーって書いてあるみてえ」
「えっなにそれ……そ、そんな風に見える?だっておいしいし」
「うん、うまい。こっち少し食うか?」
「食べるっ」
「ほら」
「えっ」
 目の前に差し出されたかじりかけのドーナツ。
「一口いいぞ」
「え、あ、その」
 ドーナツと不二山の顔を交互に見比べて。
「後でお前のも一口くれな?」
「う、うん……じゃあ」
 小さく息を吸って吐いて、差し出されたドーナツにかぶりつく。
 抹茶チョコの甘さと微かな苦味が口に広がる。
「おいしい」
「だろ?お前のもくれ」
「あ、うん」
 一瞬迷って、千切ろうとした手を止めて前に差し出す。
「いただき」
 身を乗り出して、目の前でぱくりとドーナツをかじる。すぐ目の鼻の先で不二山の茶色い髪が揺れた。
「うん、こっちのホワイトチョコのもうまいな」
「そう、だね」
 今更のように真っ赤になって、慌ててトレイに置いてあるスクラッチカードを引っ張りあげる。
「ほ、ほら、点数どうかな」
「ん?ああ、これ削るんだろ?」
 スクラッチを削って出てくる点数が合計10点でオリジナルグッズと交換。
「うん、はい十円」
「サンキュ、でもこれ爪でやってもよくないか?」
「汚れちゃうし」
「まいっか、全部削ればいいんだよな」
 残ったドーナツを食べ終えた後、スクラッチカードをこすり始める。
「えっと、全部で……4点、嵐くんは?」
「こっちは3点だ」
「あと3点足りないね、じゃとっとこうか」
「うん」

 くるくるとカードを手で弄びながら、裏にかかれたオリジナルグッズ一覧を眺める。
「やっぱこういうの欲しいもん?」
「うん、ほら可愛いし」
 「そこらの店とかでも売ってそうな感じだけどな」
「ここでしか手に入らないオリジナルグッズっていうのがいいんだよ」
「そういうもんか」
 半分になったオレンジジュースの氷をストローでかき回していると、ふと隣に座った親子連れがカードを手になにやら話しているのが見える。
「できた、これ!」
「はい、全部で何点?」
「3点!」
「じゃあ、また次に来た時に点数溜めようね」
「えー」
「そんなに一杯食べきれないでしょう?」
「やだーこれ欲しいー」
 3歳ほどの男の子が足をばたつかせて頬を膨らませる。母親がたしなめるように頭を撫でるがふくれっ面のまま眉を寄せて手にしたカードを眺めた。
「嵐くん、これもらっちゃっていい?」
「ん?いいぞ」
 スクラッチカードを手に席を立つ。
「ねえ、ボク」
「え?」
「はい?」
 突然話しかけられて驚いた表情の母親ときょとんとする男の子の目の前にカードを差し出す。
「これあげる、丁度10点になるよ」
「えっ?」
 差し出されたカードと美奈子の顔をきょときょとと見比べて目を見開く。
「いいの?」
「うん」
 おずおずと受け取って、不二山曰くの看板のようにぱぁっと顔を綻ばせて。
「やった!」
「まあ、すいません、そんな気を……」
「いいんですよ」
「ほら、おねえさんにお礼を言いなさい」
「うん!おねえさんありがとう!!」
「ふふっ、よかったね」
 ぺこんと頭を下げる親子に手を振ってテーブルに戻る。
「ごめん、お待たせ」
「うん。でもさ、お前よかったのか?」
「え?」
「欲しかったんだろ、あのオリジナルグッズ」
「え、うん。欲しいなぁとは思ってたけど、すっごく欲しい!って程じゃなかったし、あの子すごく欲しがってたから」
「そっか」
 ストローをで氷をかき回しながら、小さく笑う。
「嵐くん?」
「お前、子供好きだよな」
「そうかも、あの子可愛かったし。ほら、ちっちゃい嵐くんみたいで」
「俺?」
「うん」
 ちらりと見ると両手で持ったカードを嬉しそうに眺める男の子。
「俺がガキの頃はあんな元気じゃなかったかもなぁ」
「そうなんだ、私なんか全然手がかからない子だったってよく言われたよ」
「お前が?」
「うん、小さい頃とか病気もしないし怪我もしなくて寝込んだりとか全然なくて、ホント丈夫で手のかからない子だったっていつも言われてた」
「へぇ……うん、いいな、それが一番だ」
「うん」
「そういうとこはお前に似るといいよな」
「えっ」
「ん?」
 突然の発言に思わず手を止めて顔を上げる。当の本人は平然とした顔で不思議そうに美奈子の顔を見る。
「あ、ううん。そ、そうだね、うん」
 肯定していいのか一瞬迷ったが、不自然にならないようになんとか動悸を押えつつ答える。
「また食いにくるか?うまかったし、お前もグッズ欲しいだろ?」
「え、う、うん。行く」
 さり気無くトンでもな発言だったような気がするが、とりあえずは今はこれ以上深く考えないように小さくこめかみを小突いた。

END
14/27ページ
スキ