GS3嵐×バンビ
花丸進呈 テーマ:うどん
「あーあ」
手をかざした先、遠ざかっていく電車を見送って。
「いっちまったな、電車」
「うん、次は……20分後だって」
時刻表を指で辿って携帯の時間と照らし合わせる。丁度今発車した電車から急行通過を含めて随分間が空いてしまっている。
「しょーがねえ、座って待つか」
「そうだね」
近くのベンチに座って手にしたバッグを足元に置く。その隣にどっかりと不二山が座り背にもたれた。
10月も終わり、ふきっさらしのホームを抜ける風は冷たい。ホームにはベンチに座った二人以外に人影もなくガランとしていた。
「練習、結構調子よかったね」
「ん、ああ、そうだな。やっぱ部員の数、だよな。せめてあっちの三分の一でもうちに居ればな」
「うん……」
小さく溜息をついた不二山の横顔を見る。
今日の合同練習先の高校。少しはばたき市から離れているが、古くからの柔道強豪校であり、不二山の通っていた道場の知人を通じて合同練習をさせてもらっていた。
「やっぱ、もっとアピールいるよな」
「そうだね、ほら、でも文化祭のイベントがうまく行けば」
「ああ、そうだな」
二人きりの柔道同好会、練習場所も決まっていなければ部室もなく、一人では組み合いも出来ない為、他校の練習に混ぜてもらいながら体裁を保つのが精一杯だった。
「やれるだけやる」
「うん」
「こっから、だよな」
「そうだよ」
小さなプレハブの城。真新しい畳の匂いと、木の匂いがする神棚、部費で買ったホワイトボードに百円均一で買ったマグネットで予定表を留めて。
ここにあれを置こうこっちに何を置こう、と。二人で時間が経つのも忘れてプレハブ部室のセッティングをしていたのがついこの間。
「なんだかね、今でも夢じゃないかってちょっと心配になっちゃう」
「部室のことか?」
「うん、だからつい朝来た時とか壁とか畳に触っちゃうんだ、ああ夢じゃないって」
「当たり前だろ、それに部室で満足したらダメだろ?あの人が俺らの夢に賭けてくれたんだ、だったら精一杯それに応えないとな」
「うん。あ、あっちの人達にもチラシ……無理かな」
「場所がな、でもこっちの方に住んでる部員もいるみてーだし、はば学通ってる知り合いも居るようだからそっから頼んでもらうって手もあるな」
「柔道はやったことなくても、多少なりとも知ってる人なら敷居も低くなるもんね」
「ああ」
ふと顔をあげて隣に座る美奈子を見る。ベンチに縮こまるように体を竦め、両手を握り合わせている。
「お前、寒いのか?」
「え、うん、ちょっと。でも大丈夫だよ」
「やせ我慢すんな、風邪引いたら遅いぞ?そういう時は俺に合わせずに言え」
「でも」
「そこ、入ろ。時間もまだ大丈夫だろうし」
指差した先、茶色に白抜きの暖簾にうどんと書かれた立ち食い店。
「えーと、立って食べるお店、だよね」
「喰ったことねーのか?女はあんまはいんねーか、こういうとこ。うまいぞ、丁度俺も腹減ってきたし、食べよ」
「う、うん」
手招きされるまま、不二山の後を追って歩く。
カウンターの前、所在なさげにきょろきょろと見回す美奈子の肩をつついてメニューを指差す。
「これ、メニュー。お前どれにする?」
「あ、えっと、きつねうどん」
「よし、すいませーん!きつねうどんと大盛りたぬきうどん一つ」
「あいよー、きつねと大盛りたぬきね」
カウンターの向こう、沸き立つ湯気の向こうで皺だらけのおじいさん店員が目を細めて慣れた手つきでうどん玉を鍋に放り込む。
「わぁ」
物珍しげに店員の動きを目で追う。
「そんな珍しいか?」
「だって、こういうとこで食べたことないし。あ、でもたまに美味しそうなお出汁の匂いとかして気になることはあるんだけど、やっぱ女の子が一人でこういうとこで食べるのって、なんか気恥ずかしくて……」
「俺はたまに喰うけどな、学校帰りとかトレーニングの後とか。安くてうまいし、うどんは消化も早いし」
「いいなぁ。あ、お水いれておくね」
「ああ、頼む」
タオルの上に積まれたコップを取って二つ分水を汲んで。
「はい、お二人さん。きつねうどんとたぬきうどんの大盛りお待たせ」
「どうも」
「はーい」
鼻をくすぐる出汁の香りと刻んだネギのつんとした匂い。
「いただきまーす」
両手でぱきんと割った箸を手にうどんを掬う。
「焦って喰うとヤケドするぞー」
「そ、そんなにがっついてないよ」
真っ赤になる美奈子を楽しそうに眺めて箸を手に取った。
冬に差し掛かった空の下、電車の来ないガランとしたホームの立ち食いうどん店。
制服姿で無言のまま熱々のうどん相手に箸を動かす二人の姿。
どんぶりを持ち上げてつゆをたっぷり含んだ天カスを啜って、傍らで真っ赤になってうどんに息を吹きかけてはせっせと口に運ぶ美奈子の姿をちらりと見た。
「なぁ」
「ん?」
手を止めてきょとんと顔を上げる、仕草がいちいち小動物ぽくてどこか可笑しい。
「お前さ、なんでマネージャーやろうって思った?」
「え?だって不二山くんがスカウトしたんだよ」
「それはそうだけどさ、ホントに真に受けて入部するもんかなって。そりゃ俺はお前来て助かってるし、誘ってよかったって思ってるけど」
「んーなんでって聞かれると、何でだろうとしか言えないけど。私、マネージャーになってよかったと思うよ」
「そうか?」
「うん、そりゃ毎日練習場所探したり、仕事も手探りで。雑用も多いし、今日みたいな遠征もあって大変だけど、なんか充実してる。既に形になってる部と違ってね、やれば手ごたえがあるみたいな感じがすごく新鮮。ホントに部を作ってるんだなーって実感があって」
「そっか……うん。本当、お前には助かってる。ありがとな」
「なんか、そうやって言われるとちょっと照れくさいな」
「ほら、これやる」
ひょいと美奈子のどんぶりに箸でつまんだナルトをのせる。
「え?」
「頑張ってるお前に、花丸進呈」
「花丸……ふふっ、ありがたくいただきます」
くすぐったそうに笑ってナルトにぱくつく姿に口元が綻んだ。
END
「あーあ」
手をかざした先、遠ざかっていく電車を見送って。
「いっちまったな、電車」
「うん、次は……20分後だって」
時刻表を指で辿って携帯の時間と照らし合わせる。丁度今発車した電車から急行通過を含めて随分間が空いてしまっている。
「しょーがねえ、座って待つか」
「そうだね」
近くのベンチに座って手にしたバッグを足元に置く。その隣にどっかりと不二山が座り背にもたれた。
10月も終わり、ふきっさらしのホームを抜ける風は冷たい。ホームにはベンチに座った二人以外に人影もなくガランとしていた。
「練習、結構調子よかったね」
「ん、ああ、そうだな。やっぱ部員の数、だよな。せめてあっちの三分の一でもうちに居ればな」
「うん……」
小さく溜息をついた不二山の横顔を見る。
今日の合同練習先の高校。少しはばたき市から離れているが、古くからの柔道強豪校であり、不二山の通っていた道場の知人を通じて合同練習をさせてもらっていた。
「やっぱ、もっとアピールいるよな」
「そうだね、ほら、でも文化祭のイベントがうまく行けば」
「ああ、そうだな」
二人きりの柔道同好会、練習場所も決まっていなければ部室もなく、一人では組み合いも出来ない為、他校の練習に混ぜてもらいながら体裁を保つのが精一杯だった。
「やれるだけやる」
「うん」
「こっから、だよな」
「そうだよ」
小さなプレハブの城。真新しい畳の匂いと、木の匂いがする神棚、部費で買ったホワイトボードに百円均一で買ったマグネットで予定表を留めて。
ここにあれを置こうこっちに何を置こう、と。二人で時間が経つのも忘れてプレハブ部室のセッティングをしていたのがついこの間。
「なんだかね、今でも夢じゃないかってちょっと心配になっちゃう」
「部室のことか?」
「うん、だからつい朝来た時とか壁とか畳に触っちゃうんだ、ああ夢じゃないって」
「当たり前だろ、それに部室で満足したらダメだろ?あの人が俺らの夢に賭けてくれたんだ、だったら精一杯それに応えないとな」
「うん。あ、あっちの人達にもチラシ……無理かな」
「場所がな、でもこっちの方に住んでる部員もいるみてーだし、はば学通ってる知り合いも居るようだからそっから頼んでもらうって手もあるな」
「柔道はやったことなくても、多少なりとも知ってる人なら敷居も低くなるもんね」
「ああ」
ふと顔をあげて隣に座る美奈子を見る。ベンチに縮こまるように体を竦め、両手を握り合わせている。
「お前、寒いのか?」
「え、うん、ちょっと。でも大丈夫だよ」
「やせ我慢すんな、風邪引いたら遅いぞ?そういう時は俺に合わせずに言え」
「でも」
「そこ、入ろ。時間もまだ大丈夫だろうし」
指差した先、茶色に白抜きの暖簾にうどんと書かれた立ち食い店。
「えーと、立って食べるお店、だよね」
「喰ったことねーのか?女はあんまはいんねーか、こういうとこ。うまいぞ、丁度俺も腹減ってきたし、食べよ」
「う、うん」
手招きされるまま、不二山の後を追って歩く。
カウンターの前、所在なさげにきょろきょろと見回す美奈子の肩をつついてメニューを指差す。
「これ、メニュー。お前どれにする?」
「あ、えっと、きつねうどん」
「よし、すいませーん!きつねうどんと大盛りたぬきうどん一つ」
「あいよー、きつねと大盛りたぬきね」
カウンターの向こう、沸き立つ湯気の向こうで皺だらけのおじいさん店員が目を細めて慣れた手つきでうどん玉を鍋に放り込む。
「わぁ」
物珍しげに店員の動きを目で追う。
「そんな珍しいか?」
「だって、こういうとこで食べたことないし。あ、でもたまに美味しそうなお出汁の匂いとかして気になることはあるんだけど、やっぱ女の子が一人でこういうとこで食べるのって、なんか気恥ずかしくて……」
「俺はたまに喰うけどな、学校帰りとかトレーニングの後とか。安くてうまいし、うどんは消化も早いし」
「いいなぁ。あ、お水いれておくね」
「ああ、頼む」
タオルの上に積まれたコップを取って二つ分水を汲んで。
「はい、お二人さん。きつねうどんとたぬきうどんの大盛りお待たせ」
「どうも」
「はーい」
鼻をくすぐる出汁の香りと刻んだネギのつんとした匂い。
「いただきまーす」
両手でぱきんと割った箸を手にうどんを掬う。
「焦って喰うとヤケドするぞー」
「そ、そんなにがっついてないよ」
真っ赤になる美奈子を楽しそうに眺めて箸を手に取った。
冬に差し掛かった空の下、電車の来ないガランとしたホームの立ち食いうどん店。
制服姿で無言のまま熱々のうどん相手に箸を動かす二人の姿。
どんぶりを持ち上げてつゆをたっぷり含んだ天カスを啜って、傍らで真っ赤になってうどんに息を吹きかけてはせっせと口に運ぶ美奈子の姿をちらりと見た。
「なぁ」
「ん?」
手を止めてきょとんと顔を上げる、仕草がいちいち小動物ぽくてどこか可笑しい。
「お前さ、なんでマネージャーやろうって思った?」
「え?だって不二山くんがスカウトしたんだよ」
「それはそうだけどさ、ホントに真に受けて入部するもんかなって。そりゃ俺はお前来て助かってるし、誘ってよかったって思ってるけど」
「んーなんでって聞かれると、何でだろうとしか言えないけど。私、マネージャーになってよかったと思うよ」
「そうか?」
「うん、そりゃ毎日練習場所探したり、仕事も手探りで。雑用も多いし、今日みたいな遠征もあって大変だけど、なんか充実してる。既に形になってる部と違ってね、やれば手ごたえがあるみたいな感じがすごく新鮮。ホントに部を作ってるんだなーって実感があって」
「そっか……うん。本当、お前には助かってる。ありがとな」
「なんか、そうやって言われるとちょっと照れくさいな」
「ほら、これやる」
ひょいと美奈子のどんぶりに箸でつまんだナルトをのせる。
「え?」
「頑張ってるお前に、花丸進呈」
「花丸……ふふっ、ありがたくいただきます」
くすぐったそうに笑ってナルトにぱくつく姿に口元が綻んだ。
END