GS3嵐×バンビ
ダメ酔っ払い テーマ:酔っ払い嵐さん
『今日は大学の先輩方と飲み会に行ってくる』
メールに書かれていたのは簡素な一文。
駅前通りを一人歩きながら、立ち並ぶショーウインドウをボンヤリと眺める。
大学の講義も午後の早い時間で終わり、サークルに顔を出した後は一人で何を買うでもなくぶらぶらと歩く。
「うーん」
ぽっかりと空いた時間。もう日もすっかり落ちて、通りは会社帰りのサラリーマンの姿がちらほら見え始めている。いつもなら、先に家に帰って同居中の不二山の夕飯の支度をしている時間帯だが、こんな日に限って飲み会で予定が埋まっている。
「楽しんでるかな、嵐くん」
足を止めてショーウインドーに置かれたアクセサリーを眺める。
大学に入って二年目。つい先週の誕生日で成人を迎えたばかりの不二山にとって、仲間との飲み会というのは初めてだ。そも誕生日のお祝いで一緒に一杯ビールを飲んだ程度で彼がどのくらい酒が飲めて酔うとどうなってしまうかは美奈子自身もまだ知らない。
「……お酒、飲めるのかな」
先日一緒に飲んだ時は食事の前に缶ビールで乾杯した程度で、飲んだ後の反応がどうだったかは正直よくわからなかった。酔った反応を見る前に早々にいい雰囲気のまま流されてしまい、その後の様子がどうだったかはまるでわからなかった。
ぐいぐいと平然とした顔で缶ビールを飲み干して、そのままあっという間に押し倒してきた様子からして、割とお酒には強いのかもしれない。
体育会系の飲み会でお酒に強かったりしたら限界まで飲まされたりしないだろうか?
あるいは意外と弱いかもしれない、それはそれで逆に気になる。
「うーん」
知らないところで自分も知らない姿を見せているかもしれない。
そのことが一番美奈子の頭に引っかかっている。
電話しちゃおうか?
将来考えてる奴、というトンでもな紹介で柔道部の先輩方は美奈子を知っているし、不二山との関係も理解している。でも変に連絡をしたりして迷惑するかもしれないし、盛り上がっているところに水を差してしまったら申し訳ない。
「楽しんでる?」
開いた携帯の待ち受け画面、自分撮りで一緒に写った写真を眺めて。
「ん?」
ぶるぶると携帯が震え、画面には着信を告げる電話番号と写真に切り替わる。
その番号と着信画像。
「嵐くん?」
慌ててボタンを押して電話に出る。
「もしもし、嵐くん」
「あ、もしもし、美奈子さん?ごめんね不二山じゃなくて……」
携帯の向こう側から聞こえてきたのは聞き慣れた不二山の声ではなく、一流大学柔道部主将の声だった。
「え?……主将さん?あの、嵐くんは」
「ああ、うん。ちょっと、今、不二山の奴電話できる状態じゃなくて。それでちょっと俺から電話してみたんだけど、今大丈夫?」
「えっ!」
電話できる状態じゃない? それはどういうことなのか。
まさか飲みすぎて急性アルコール中毒とか悪酔いして吐いて動けないとか酔いつぶれて昏睡状態に陥っているとか。あれこれ不穏な想像がぐるぐると頭の中を巡る。
「あ、違う違う。えーっと、なんていったらいいのかな、あの、こっちこられるかな?駅前商店街の居酒屋あかりちゃんってとこなんだけど」
「はいっ!行きますっ」
勢いよく返事すると携帯を手にしたまま走り出す。
大衆居酒屋あかりちゃん、と大きく張り出された看板の前。ゆっくり深呼吸して息を整えてから店に足を踏み入れた。
店内は学生やサラリーマンらで混みあい、笑い声や大声でしゃべる声、店員らの注文の掛け声で騒がしい。
「えっと」
一番奥だというお座敷席へと向かい、入り口で靴を脱いで中を覗く。
「おっ、来たっ」
「美奈子ちゃん来た、おい不二山、美奈子ちゃんきたから、しっかりしろ!」
「いやー助かった、こっちこっち」
「あの……」
顔を出すなり一斉の大歓迎に戸惑いながら不二山の姿を探す。
「嵐くん?」
「ここ!ここ!ほら起きろって」
先輩らに突っつかれて、真っ赤な顔でゆらりと起き上がり焦点のぼやけた目が美奈子を見上げる。
「嵐くん大丈夫!」
「……みなこぉ……」
とろんとした目で美奈子に手を伸ばす、いつもからはまるで想像できない姿に一瞬唖然としてしまう。
「よ、酔っ払ってる?嵐くん」
「いや、なんか全然顔に出なくてさ。結構いけるクチなんかなって思ってたら、まさかこんなんなるとは思わなくて……」
申し訳なさそうに頭を下げる主将に構わずぐったりとお座敷に転がっている不二山の側に膝をついて。
「嵐くん大丈夫?お水飲んだ?」
「ん……」
ぎゅっと伸ばした手を握って膝の上にことんと頭を乗せて。
「あ、嵐くん?」
「みなこー」
腰に腕を回してごろごろと猫のように擦り寄ってくる。
「ちょ、ダメっ!ほらお水飲もう?酔いさまして、ね?」
「やだ、酔ってないもん」
「酔ってるでしょ」
「よってないもん」
膝の上で目を細めたまま頑として動かない。
「……もう」
「いや、さっきから美奈子ちゃんのこと呼んでこの有様でさぁ」
「何杯くらい飲んだんですか?」
動かすのは無理とあきらめて、膝に擦り寄る不二山の頭を撫でながらテーブルに並ぶカラのコップに目をやる。
「えっと、乾杯の中生二本と。意外といけそうだったんで焼酎と……あ、あと日本酒をお猪口で……何杯だった、かな?あは、あはは」
後半はじろりと睨む美奈子の視線を誤魔化すように。
「飲ませすぎです……嵐くんも、飲みすぎ、もうっ」
「んー」
「しょうがないなぁ」
太ももを撫でながら目を細める姿に溜息をつく。
「……みなこ」
「ちょ、嵐く」
起き上がった体に抱きすくめられて目の前一杯に広がる不二山の顔、侵入してくる熱い舌の感触とアルコールの匂いが口の中に広がる。
「んっ」
おぉっ、と。騒ぐ声に我に返って慌てて不二山の体を押しのける。
「もうっ、お酒くさいっ!だめっ」
「うー」
押しのけられても懲りずに、今度は耳に生暖かい息が掛かる。
「やっ……こら、だめ!みんな見てるでしょ!」
「ん」
押し返されてずるずると崩れて胸に顔をうずめる。
「この酔っ払いー」
「いやぁ、こいつ酔うとここまで崩れるとはなぁ」
「……主将さん」
「あ、はい、ごめんなさい」
縮こまる先輩方をきろりと睨んで。
胸に顔をうずめたまましっかと抱きついてくる不二山の頭を撫でる。
「私も知らなかったよ、嵐くん……もう」
酔っ払ってこんなにだらしなくなる姿なんて始めてみた。
呆れる半分、赤ん坊みたいに擦り寄る姿に思わず笑ってしまう。
「みなこぉ」
「はいはい、ここに居るよ、嵐くん」
しょうがない子と胸の中で付け加えつつ、そっと頭を抱きしめた。
END
『今日は大学の先輩方と飲み会に行ってくる』
メールに書かれていたのは簡素な一文。
駅前通りを一人歩きながら、立ち並ぶショーウインドウをボンヤリと眺める。
大学の講義も午後の早い時間で終わり、サークルに顔を出した後は一人で何を買うでもなくぶらぶらと歩く。
「うーん」
ぽっかりと空いた時間。もう日もすっかり落ちて、通りは会社帰りのサラリーマンの姿がちらほら見え始めている。いつもなら、先に家に帰って同居中の不二山の夕飯の支度をしている時間帯だが、こんな日に限って飲み会で予定が埋まっている。
「楽しんでるかな、嵐くん」
足を止めてショーウインドーに置かれたアクセサリーを眺める。
大学に入って二年目。つい先週の誕生日で成人を迎えたばかりの不二山にとって、仲間との飲み会というのは初めてだ。そも誕生日のお祝いで一緒に一杯ビールを飲んだ程度で彼がどのくらい酒が飲めて酔うとどうなってしまうかは美奈子自身もまだ知らない。
「……お酒、飲めるのかな」
先日一緒に飲んだ時は食事の前に缶ビールで乾杯した程度で、飲んだ後の反応がどうだったかは正直よくわからなかった。酔った反応を見る前に早々にいい雰囲気のまま流されてしまい、その後の様子がどうだったかはまるでわからなかった。
ぐいぐいと平然とした顔で缶ビールを飲み干して、そのままあっという間に押し倒してきた様子からして、割とお酒には強いのかもしれない。
体育会系の飲み会でお酒に強かったりしたら限界まで飲まされたりしないだろうか?
あるいは意外と弱いかもしれない、それはそれで逆に気になる。
「うーん」
知らないところで自分も知らない姿を見せているかもしれない。
そのことが一番美奈子の頭に引っかかっている。
電話しちゃおうか?
将来考えてる奴、というトンでもな紹介で柔道部の先輩方は美奈子を知っているし、不二山との関係も理解している。でも変に連絡をしたりして迷惑するかもしれないし、盛り上がっているところに水を差してしまったら申し訳ない。
「楽しんでる?」
開いた携帯の待ち受け画面、自分撮りで一緒に写った写真を眺めて。
「ん?」
ぶるぶると携帯が震え、画面には着信を告げる電話番号と写真に切り替わる。
その番号と着信画像。
「嵐くん?」
慌ててボタンを押して電話に出る。
「もしもし、嵐くん」
「あ、もしもし、美奈子さん?ごめんね不二山じゃなくて……」
携帯の向こう側から聞こえてきたのは聞き慣れた不二山の声ではなく、一流大学柔道部主将の声だった。
「え?……主将さん?あの、嵐くんは」
「ああ、うん。ちょっと、今、不二山の奴電話できる状態じゃなくて。それでちょっと俺から電話してみたんだけど、今大丈夫?」
「えっ!」
電話できる状態じゃない? それはどういうことなのか。
まさか飲みすぎて急性アルコール中毒とか悪酔いして吐いて動けないとか酔いつぶれて昏睡状態に陥っているとか。あれこれ不穏な想像がぐるぐると頭の中を巡る。
「あ、違う違う。えーっと、なんていったらいいのかな、あの、こっちこられるかな?駅前商店街の居酒屋あかりちゃんってとこなんだけど」
「はいっ!行きますっ」
勢いよく返事すると携帯を手にしたまま走り出す。
大衆居酒屋あかりちゃん、と大きく張り出された看板の前。ゆっくり深呼吸して息を整えてから店に足を踏み入れた。
店内は学生やサラリーマンらで混みあい、笑い声や大声でしゃべる声、店員らの注文の掛け声で騒がしい。
「えっと」
一番奥だというお座敷席へと向かい、入り口で靴を脱いで中を覗く。
「おっ、来たっ」
「美奈子ちゃん来た、おい不二山、美奈子ちゃんきたから、しっかりしろ!」
「いやー助かった、こっちこっち」
「あの……」
顔を出すなり一斉の大歓迎に戸惑いながら不二山の姿を探す。
「嵐くん?」
「ここ!ここ!ほら起きろって」
先輩らに突っつかれて、真っ赤な顔でゆらりと起き上がり焦点のぼやけた目が美奈子を見上げる。
「嵐くん大丈夫!」
「……みなこぉ……」
とろんとした目で美奈子に手を伸ばす、いつもからはまるで想像できない姿に一瞬唖然としてしまう。
「よ、酔っ払ってる?嵐くん」
「いや、なんか全然顔に出なくてさ。結構いけるクチなんかなって思ってたら、まさかこんなんなるとは思わなくて……」
申し訳なさそうに頭を下げる主将に構わずぐったりとお座敷に転がっている不二山の側に膝をついて。
「嵐くん大丈夫?お水飲んだ?」
「ん……」
ぎゅっと伸ばした手を握って膝の上にことんと頭を乗せて。
「あ、嵐くん?」
「みなこー」
腰に腕を回してごろごろと猫のように擦り寄ってくる。
「ちょ、ダメっ!ほらお水飲もう?酔いさまして、ね?」
「やだ、酔ってないもん」
「酔ってるでしょ」
「よってないもん」
膝の上で目を細めたまま頑として動かない。
「……もう」
「いや、さっきから美奈子ちゃんのこと呼んでこの有様でさぁ」
「何杯くらい飲んだんですか?」
動かすのは無理とあきらめて、膝に擦り寄る不二山の頭を撫でながらテーブルに並ぶカラのコップに目をやる。
「えっと、乾杯の中生二本と。意外といけそうだったんで焼酎と……あ、あと日本酒をお猪口で……何杯だった、かな?あは、あはは」
後半はじろりと睨む美奈子の視線を誤魔化すように。
「飲ませすぎです……嵐くんも、飲みすぎ、もうっ」
「んー」
「しょうがないなぁ」
太ももを撫でながら目を細める姿に溜息をつく。
「……みなこ」
「ちょ、嵐く」
起き上がった体に抱きすくめられて目の前一杯に広がる不二山の顔、侵入してくる熱い舌の感触とアルコールの匂いが口の中に広がる。
「んっ」
おぉっ、と。騒ぐ声に我に返って慌てて不二山の体を押しのける。
「もうっ、お酒くさいっ!だめっ」
「うー」
押しのけられても懲りずに、今度は耳に生暖かい息が掛かる。
「やっ……こら、だめ!みんな見てるでしょ!」
「ん」
押し返されてずるずると崩れて胸に顔をうずめる。
「この酔っ払いー」
「いやぁ、こいつ酔うとここまで崩れるとはなぁ」
「……主将さん」
「あ、はい、ごめんなさい」
縮こまる先輩方をきろりと睨んで。
胸に顔をうずめたまましっかと抱きついてくる不二山の頭を撫でる。
「私も知らなかったよ、嵐くん……もう」
酔っ払ってこんなにだらしなくなる姿なんて始めてみた。
呆れる半分、赤ん坊みたいに擦り寄る姿に思わず笑ってしまう。
「みなこぉ」
「はいはい、ここに居るよ、嵐くん」
しょうがない子と胸の中で付け加えつつ、そっと頭を抱きしめた。
END