トラファルガー・ローII
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「…何時だ、今」
ちょうど春島から夏島への海域に変わったのか、気温が上がり寝苦しくなっていつもより早く目覚めてしまった。むくりと身体を起こして時計を見れば早朝五時。寝苦しいとはいえ二度寝が出来ないわけでもない。もう一度眠ってしまおうと思ったが、この時間帯なら確実にコックである彼女は起きて仕込みをしているはず。もちろん仕事の邪魔をするつもりはないが、たまにはその姿を眺めてゆったりとした時間を過ごすのも悪くない。
ふァ、と大きな欠伸をしながら顔を洗って歯をさっと磨き、シャツを羽織って食堂に足を運んだ。
「これとこれを混ぜて~」
「何だ、ずいぶんとご機嫌だな」
「あれ、キャプテン!?…早いですね、おはようございます」
「あァ…。なんか目が覚めてな。コーヒーくれ」
「はーい!ホット、アイス?」
「アイス」
予想通り、朝食の仕込みをしていた。おれが急に現れた事に驚いて多少目を丸くしたが、手慣れた様子でコーヒーの準備に取り掛かった。キッチンは彼女の聖域。故に入る事はないが色々拘っているらしい。なんなら今から淹れてくれるコーヒーも豆を挽く所から始まる。
味の良し悪しは勿論分かるが、手間じゃないかと以前伝えてみたら〝キャプテンだって、手術器具には拘るでしょ?それと一緒!〟と。少しゴリ押しな気もしたが、確かにそうだと笑った記憶がある。
「はい、アイスコーヒー」
「サンキュ」
「あ、そうだ。今ね、新作のメニューを考えてたの」
「新作メニュー…お前の事だ、またデザート関連だろ」
「正解!だって甘い物を食べると幸せになるんだもん」
「幸せねェ…?そも、お前はなんでも美味そうに食うだろう」
図星なのか、うっとなる相手。その姿を見ながらコーヒーを一口含む。本来、寝起きの身体には向いてない飲み物ではあるが、たまには良いだろう。キンキンに冷えたコーヒーが火照った身体を冷やしていく。こいつの作る物はなんでも美味い。その一つがこの特製のブレンドコーヒー、一気に半分くらいまで飲み干した。
「確かに私は何でも美味しく食べるけど…でも、それはキャプテンがいるからなんだよ?」
「…おれ?」
「そうだよ、だって大好きな人が私の作った物を美味しいって思いながら食べてくれるんだよ?なんていうのコック冥利に尽きる?すごく嬉しい。だから私もなんでも美味しそうに食べるの。そうじゃないとキャプテン…ローに失礼だしね」
「……はァ、お前ってヤツは」
「…ロー?」
ある意味、殺し文句。
実際の所、美味いなんて滅多に口にはしない。それは簡単に言えば照れ隠しだ。心の中ではいつも美味いと思いながら食べている。伝わって欲しい訳じゃなかったが、どうやらその気持ちはちゃんと伝わっていたようで少しだけ恥ずかしくなった。さらに不意打ちの〝ロー〟呼び。
「おい、ナナシ。今度町に着いたら丸一日休みをやる」
「え?」
「それで、その町の名物…一緒に食いに行くぞ」
「良いの!?」
「あァ、何なら船長命令だ」
「ふふ…」
相手の頭を撫でて額を引っ付けた。船長命令なんて大袈裟に言わなくても良いのにと、嬉しそうに笑う相手。コックであるこいつが丸一日休んだら、クルーの飯はどうなるかって?てめェの事はてめェでやれ、おれの知った事じゃない。酷いキャプテン?当たり前だ、おれはこいつにだけ優しいキャプテンだからな。何が悲しくて他の野郎に愛想を振り撒かなきゃならねェと一喝するだろう。
「話を戻すか、甘ェ物はあまり好まねェがお前の作るのは別だ。…なんせ美味ェからな?それに適度な糖分は脳にも良い。ほら、早く作れ。他の奴らが起きて来るぞ」
「アイアイーキャプテン!!」
ベポのマネをして嬉しそうにキッチンへと戻った。楽しそうに作る様を見ているだけで楽しいだなんて、おれも相当末期。あいつの作る物も、あいつ自身にもゾッコンってわけだ。
時計を見れば、あと一時間もすればここは慌ただしくなるだろう。普段、この時間帯はまだ夢の中なのでその光景は見ない。いや、正確に言えば見るとイラついてしまう。他の奴らに笑顔を見せるな、と。勿論、個人的な感情に過ぎない。せわしなく動く姿を見ると少しは自分で動けとか。待て…そこはおれもか。墓穴を掘っている気がするが、結論を言えば笑顔を見せるのはおれの前だけにしろという独占欲。しかしたまには嫉妬をせずに大人びた対応で見守るのもありだろう。朝にいつもはいない〝キャプテン〟がいる事でクルー達は畏縮するかも知れない、あいつらがどんな反応するか見物だ。
とりあえず今はおれとこいつだけの甘い時間。それは誰にも邪魔はさせない、邪魔をするものなら遠慮なくバラす。
「でーきた!はいロー、あーん!」
「…ッ!…あー…」
味も雰囲気も甘過ぎて蕩けそうになり、このまま食べてしまいたい衝動に駆られたが我慢。町に着いた際は其れを必ず実行しようと心に決めて、二人だけの時間を楽しんだ。
ちょうど春島から夏島への海域に変わったのか、気温が上がり寝苦しくなっていつもより早く目覚めてしまった。むくりと身体を起こして時計を見れば早朝五時。寝苦しいとはいえ二度寝が出来ないわけでもない。もう一度眠ってしまおうと思ったが、この時間帯なら確実にコックである彼女は起きて仕込みをしているはず。もちろん仕事の邪魔をするつもりはないが、たまにはその姿を眺めてゆったりとした時間を過ごすのも悪くない。
ふァ、と大きな欠伸をしながら顔を洗って歯をさっと磨き、シャツを羽織って食堂に足を運んだ。
「これとこれを混ぜて~」
「何だ、ずいぶんとご機嫌だな」
「あれ、キャプテン!?…早いですね、おはようございます」
「あァ…。なんか目が覚めてな。コーヒーくれ」
「はーい!ホット、アイス?」
「アイス」
予想通り、朝食の仕込みをしていた。おれが急に現れた事に驚いて多少目を丸くしたが、手慣れた様子でコーヒーの準備に取り掛かった。キッチンは彼女の聖域。故に入る事はないが色々拘っているらしい。なんなら今から淹れてくれるコーヒーも豆を挽く所から始まる。
味の良し悪しは勿論分かるが、手間じゃないかと以前伝えてみたら〝キャプテンだって、手術器具には拘るでしょ?それと一緒!〟と。少しゴリ押しな気もしたが、確かにそうだと笑った記憶がある。
「はい、アイスコーヒー」
「サンキュ」
「あ、そうだ。今ね、新作のメニューを考えてたの」
「新作メニュー…お前の事だ、またデザート関連だろ」
「正解!だって甘い物を食べると幸せになるんだもん」
「幸せねェ…?そも、お前はなんでも美味そうに食うだろう」
図星なのか、うっとなる相手。その姿を見ながらコーヒーを一口含む。本来、寝起きの身体には向いてない飲み物ではあるが、たまには良いだろう。キンキンに冷えたコーヒーが火照った身体を冷やしていく。こいつの作る物はなんでも美味い。その一つがこの特製のブレンドコーヒー、一気に半分くらいまで飲み干した。
「確かに私は何でも美味しく食べるけど…でも、それはキャプテンがいるからなんだよ?」
「…おれ?」
「そうだよ、だって大好きな人が私の作った物を美味しいって思いながら食べてくれるんだよ?なんていうのコック冥利に尽きる?すごく嬉しい。だから私もなんでも美味しそうに食べるの。そうじゃないとキャプテン…ローに失礼だしね」
「……はァ、お前ってヤツは」
「…ロー?」
ある意味、殺し文句。
実際の所、美味いなんて滅多に口にはしない。それは簡単に言えば照れ隠しだ。心の中ではいつも美味いと思いながら食べている。伝わって欲しい訳じゃなかったが、どうやらその気持ちはちゃんと伝わっていたようで少しだけ恥ずかしくなった。さらに不意打ちの〝ロー〟呼び。
「おい、ナナシ。今度町に着いたら丸一日休みをやる」
「え?」
「それで、その町の名物…一緒に食いに行くぞ」
「良いの!?」
「あァ、何なら船長命令だ」
「ふふ…」
相手の頭を撫でて額を引っ付けた。船長命令なんて大袈裟に言わなくても良いのにと、嬉しそうに笑う相手。コックであるこいつが丸一日休んだら、クルーの飯はどうなるかって?てめェの事はてめェでやれ、おれの知った事じゃない。酷いキャプテン?当たり前だ、おれはこいつにだけ優しいキャプテンだからな。何が悲しくて他の野郎に愛想を振り撒かなきゃならねェと一喝するだろう。
「話を戻すか、甘ェ物はあまり好まねェがお前の作るのは別だ。…なんせ美味ェからな?それに適度な糖分は脳にも良い。ほら、早く作れ。他の奴らが起きて来るぞ」
「アイアイーキャプテン!!」
ベポのマネをして嬉しそうにキッチンへと戻った。楽しそうに作る様を見ているだけで楽しいだなんて、おれも相当末期。あいつの作る物も、あいつ自身にもゾッコンってわけだ。
時計を見れば、あと一時間もすればここは慌ただしくなるだろう。普段、この時間帯はまだ夢の中なのでその光景は見ない。いや、正確に言えば見るとイラついてしまう。他の奴らに笑顔を見せるな、と。勿論、個人的な感情に過ぎない。せわしなく動く姿を見ると少しは自分で動けとか。待て…そこはおれもか。墓穴を掘っている気がするが、結論を言えば笑顔を見せるのはおれの前だけにしろという独占欲。しかしたまには嫉妬をせずに大人びた対応で見守るのもありだろう。朝にいつもはいない〝キャプテン〟がいる事でクルー達は畏縮するかも知れない、あいつらがどんな反応するか見物だ。
とりあえず今はおれとこいつだけの甘い時間。それは誰にも邪魔はさせない、邪魔をするものなら遠慮なくバラす。
「でーきた!はいロー、あーん!」
「…ッ!…あー…」
味も雰囲気も甘過ぎて蕩けそうになり、このまま食べてしまいたい衝動に駆られたが我慢。町に着いた際は其れを必ず実行しようと心に決めて、二人だけの時間を楽しんだ。
