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殉愛譚

 眠れない、とメールが来た。
 時刻は深夜二時を回ったところ。こんな時間にメールなんてと思いながら、私も私でベッドに潜り込んでも眠れずにいたから、差出人である彗に返事を送信する。
「何かあった?」
 返信は三分後に来た。内容はこんな夜遅くに送ったことの謝罪、それと。
「なんだか目が冴えてるんです」
 理由は分からないのだろう。曖昧な答えだ。
「ホットミルクでも飲んでみたらどうだい?」
「飲みました。羊も数えました」
 よく言われている寝付けない時の対処法は一通り実践したらしい。メールにはいくつか試したものが書かれていた。
 ならどうすれば良いだろうかと考え、しばらく返信を止めていれば、彗からのメールがまた一通。
「傑さんに会いたいです」
 笑みが零れてしまった。
 同じ寮内にいるのだから、確かに会えば良いのだろうが。だが会えばきっと触れたくなる。離したくなくなる。生憎明日は休日なんてものでもない。
「駄目だよ」と返せば、しばらくメールは止まった。
 十分程すると、また一通届いた。
「本当にだめですか」
 一言と画像が一枚添付されていた。
 彗の下手な自撮りだった。どことなくピンボケした画像だ。ベッドに寝転んでいるのだろう、枕が頭の下に見える。
 今夜は眼鏡をかけている彗は、ガラス越しにその銀灰色の瞳でこちらをじっと見ている。
 大切な恋人の求めてくる姿は訴求力がない訳ではないが、それでも私はノーを突きつける。
「駄目だよ。本当に寝られなくなる。良い子だからもう携帯を閉じて」
 再び三分間を置いてから彗は返信を送ってきた。
「分かりました」と、落ち込んだ顔文字を添えて。
 私だって落ち込んでいない訳ではない。本当は会いたい。こんな寝付けない夜なら尚更。それでも、会えばきっと求め過ぎてしまうから。
「起きたら一番に会いにいくよ」
 せめてもと約束を取り付ける。これぐらいしか今の私には出来そうにもない。
「じゃあ、待ってます。おやすみなさい」
 明日会えたら目一杯可愛がってあげよう。次の休みにはどろどろに甘やかそう。そんなことを考えながら、私も最後の返事を送信する。
「おやすみ。良い夢を」
 およそ三十分を費やしたメール。時計は二時半を越すか越さないか。
 きっと今夜の寝つきは悪いだろうが、彗に寝不足の顔を見せるわけにもいかない。ベッドに潜り直して瞼を閉じ、朝を待った。
 朝が来れば、君に会える。
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