憧れは僕の気持ちをまだ知らない

 千尋のあとをギクシャクと歩く新崎はまるでロボット人間になったみたいだ。
 そんなにも、緊張するなら、かわいそうに、ホテルをとったほうがいいのではないかと思ったのだが、守谷曰く、ご褒美すぎてああなっているのだから、気にするなと話にならない。
 とりあえず、千尋の棲家にしているマンションの玄関までたどり着いて、そのまま部屋にいれた。この二人には狭いかもしれないが、リビングで寝てもらう。玄関で靴の脱ぎ方をわすれて戸惑う新崎をいちからフォローしなくてはならなくなったときには、何の罰ゲームかと思う千尋であった。
「おじゃまします」と、二人が入ってくる。ここまでならいい。ただ、書斎として使っているスペースには誰も入れたくない。千尋はそのことを説明すると、新崎の顔がぱっと華やいだ。
「千尋先生の書斎! 書斎があるんですね。ああ、もちろん、のぞいたりしません。ただ……執筆されている場所が本当にこの世に存在しているんだって思うだけで、なんだか泣けてきそうです」
 本当にうるうるしている。あいかわらず、変な人間である。
「ちーちゃん、どこで寝たらいい?」
「んーそうだな守谷、とりあえず、ここらへんに布団を敷こう」
「いいって、敷布団かわりに寝袋もってきたから」と守谷。
 そういえば、彼はなにか俵型の大きな荷物を二つ持ってきていた。準備万端だ。新崎がぺこりと腰を折った。
「それでは、お世話になります」
「うん、新崎くん、くつろげないかもしれないけれど、ゆっくりしていってね。守谷も」
「千尋、本当にかたじけない」
 深々と頭をさげたふたりに、千尋はほほえんだ。最初はすこし抵抗感があったのだが、こういうのもたまにはいいかもしれない。普段から、ひとりに慣れ過ぎている。誰かがいる毎日も、もしかしたら、楽しいのかもしれない。
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