憧れは僕の気持ちをまだ知らない
せっかくだから、守谷をひきとりつつ、夕食にしてしまおうと、千尋はアサイ食堂に寄ることにした。
F社の建物を出ると、大粒の雨が降っていて、守谷の家の雨漏りが心配になった。土砂降りの中、傘をさして電車に飛び乗る。無事、アサイ食堂についたのは、ちょうど七時過ぎだった。
アサイ食堂は、守谷勝世のおばが切り盛りしている定食屋で、守谷はその二階を間借りして住まわせてもらっていた。その部屋が雨漏りでとんでもないことになっている、ということなのだが、実際に、現場を見せてもらって、千尋は唖然とした。待っていた守谷とともに、にぎやかな店内を奥へ進んで、階段を上ったさきに待っていたのは小さな滝だった。
「大事なものとか、濡らしちゃだめなやつとかは、下の階に批難させてもらっている」
そう守谷がいうが、天井からぼたばたと水がしたたっている現状に耐えている床に敷かれたブルーシートの上のバケツは、もういっぱいになってあふれそうになっている。
「これはひどいな」
「だろ。古い木造だからな。いつかはこうなるんじゃないかっておばさんも言ってた。それがジャストナウ、今というわけだ。だが! 千尋の家にとめてもらえる。お泊り会だ!」
「一泊だけだぞ。もう」
――といったが、この梅雨時。途切れることなく続く雨のなか、一度、家にいれたら、晴れるまで帰せないような気がして、千尋の表情が曇った。
「なに、大丈夫、大丈夫だって!」
呑気にわらう守谷だが、千尋にはもうひとつ、心配事があった。
「勝世 ~! 新崎くん、戻ってきたわよ~!」
二階をみていた千尋と守谷に、下から守谷のおばさんが声をかけてきた。そう、この部屋に住んでいるのは守谷だけではない。
「この時間まで、彼、バイトなんだ」
守谷は下の階に降りながら、説明したが、千尋は聞いていなかった。
新崎迅人。
それは、千尋の目の前に突然あらわれたトンデモない生き物の一人だった。
明るくて、元気で、とても可愛い子のようにみえる。だが、その勢いがあまりにもすさまじくて、千尋はいつも気おくれしてしまっている。けれど、彼のおかげで、職場でも人間関係が苦手な自分も一歩踏み出そうと思える小さな出来事もあって、新崎という青年はいまや千尋にとって、大切なひとのひとりではあるのだが。
彼を連れて帰る――?
「ええ!? 雨漏り!? 嘘っ!」
帰宅したばかりの新崎は守谷とおばから話を聞いて、慌てて二階に駆けあがった。
「うわー! 滝だ! どうするんですか、これ!」
「とりあえず、今日は無理だ! というわけで、助っ人の千尋先生だ」
ニコニコと微笑みながら、千尋の肩に手を書ける守谷。逃げられなくなったと後悔する千尋。
「えっ、あ、こんばんは! 千尋先生の新作、読みました! 俺も、今回ばかりは、いや、前回の作品でもそうだったのですが、今回も、気合いれて、俺、頑張って役をぶんどってみせます! あ、いや、その話は置いておいて……どういうことですか?」
「だから、この千尋先生のご自宅にとめてもらおうというのだ!」
守谷がたからかに宣言した。そして、新崎が壊れたのだ。
F社の建物を出ると、大粒の雨が降っていて、守谷の家の雨漏りが心配になった。土砂降りの中、傘をさして電車に飛び乗る。無事、アサイ食堂についたのは、ちょうど七時過ぎだった。
アサイ食堂は、守谷勝世のおばが切り盛りしている定食屋で、守谷はその二階を間借りして住まわせてもらっていた。その部屋が雨漏りでとんでもないことになっている、ということなのだが、実際に、現場を見せてもらって、千尋は唖然とした。待っていた守谷とともに、にぎやかな店内を奥へ進んで、階段を上ったさきに待っていたのは小さな滝だった。
「大事なものとか、濡らしちゃだめなやつとかは、下の階に批難させてもらっている」
そう守谷がいうが、天井からぼたばたと水がしたたっている現状に耐えている床に敷かれたブルーシートの上のバケツは、もういっぱいになってあふれそうになっている。
「これはひどいな」
「だろ。古い木造だからな。いつかはこうなるんじゃないかっておばさんも言ってた。それがジャストナウ、今というわけだ。だが! 千尋の家にとめてもらえる。お泊り会だ!」
「一泊だけだぞ。もう」
――といったが、この梅雨時。途切れることなく続く雨のなか、一度、家にいれたら、晴れるまで帰せないような気がして、千尋の表情が曇った。
「なに、大丈夫、大丈夫だって!」
呑気にわらう守谷だが、千尋にはもうひとつ、心配事があった。
「
二階をみていた千尋と守谷に、下から守谷のおばさんが声をかけてきた。そう、この部屋に住んでいるのは守谷だけではない。
「この時間まで、彼、バイトなんだ」
守谷は下の階に降りながら、説明したが、千尋は聞いていなかった。
新崎迅人。
それは、千尋の目の前に突然あらわれたトンデモない生き物の一人だった。
明るくて、元気で、とても可愛い子のようにみえる。だが、その勢いがあまりにもすさまじくて、千尋はいつも気おくれしてしまっている。けれど、彼のおかげで、職場でも人間関係が苦手な自分も一歩踏み出そうと思える小さな出来事もあって、新崎という青年はいまや千尋にとって、大切なひとのひとりではあるのだが。
彼を連れて帰る――?
「ええ!? 雨漏り!? 嘘っ!」
帰宅したばかりの新崎は守谷とおばから話を聞いて、慌てて二階に駆けあがった。
「うわー! 滝だ! どうするんですか、これ!」
「とりあえず、今日は無理だ! というわけで、助っ人の千尋先生だ」
ニコニコと微笑みながら、千尋の肩に手を書ける守谷。逃げられなくなったと後悔する千尋。
「えっ、あ、こんばんは! 千尋先生の新作、読みました! 俺も、今回ばかりは、いや、前回の作品でもそうだったのですが、今回も、気合いれて、俺、頑張って役をぶんどってみせます! あ、いや、その話は置いておいて……どういうことですか?」
「だから、この千尋先生のご自宅にとめてもらおうというのだ!」
守谷がたからかに宣言した。そして、新崎が壊れたのだ。
