憧れは僕の気持ちをまだ知らない

「あのさー、ことの顛末くらい教えてくれてもいいじゃん、モリヤン、ひとりぼっちにされてるみたいで、さみしー」
 家に帰ったら、ちょうどスマホがなって守谷から着信がきていた。出たら、うだったく守谷がずっとからんでくる。
「だから、そのちゃんと仲直りできたって」
「ほんとー、それ以上に仲良しになっちゃったんじゃない~」
「なに、もう、それ以上のことはいいでしょう」
「よくない~! 千尋と新崎だけ仲良ししててずるぃ~」
「あーはいはい」
「俺、キューピッドみたいなことしちゃったわけじゃんな、俺に千尋はもっと感謝したほうがいいよ」
 キューピッド。確かにふたりをくっつけるきっかけになってくれ――っておいおい、千尋は頭を抱え始めた。
「しまったー!」
「え? なにどうしたの?」
「まずい、どうしよう、このままじゃ」
「だから、どうしたんだって」
「つい、うっかり、その、一線を越えてしまった!」
「はい!?」
「本当なら、その、うんとかいってうなづかないで、もっと大人な対応したほうが良かったのに!」
「いやだから、大丈夫? 何があったの」
「うわ、どうしよう、守谷、ぼく、ちょっと、犯罪者になっちゃったかも!」
「犯罪者!? ええー、話がみえないー」
「いや、未成年者じゃないからオーケイ? んなわけあるかー!」
「ちーちゃん、落ち着いて、落ち着いて」
「うわーどうしよう、守谷ー!」
「どうしようもなにも、こっちにはなにも。っていうか、そういや、ちーちゃん、次回作なに書きたいとかある?」
「え?」
「急にで悪いけれど、また場所おさえられそうだから、小話的な短めの脚本かいてほしいの。イベントの内容とか、あとでメールおくっとく」
「ええ、いま? その話?」
 自家製の劇団を従えている守谷がことあるごとに、千尋に演じる脚本を頼ってくるのは毎度のことだ。地元のイベントに参加するということは、何かのフェスで演劇を披露するということ。
「それ、はやく送って」
「ああ、うん。今日中には概要送るから」
「いますぐ、宇宙人書きたくてしかたがないんだ!」
「宇宙人!?」
「あっと、脅かせてみせる、そんな脚本を用意してあげるから」
「お、おう、それはまたまた、楽しみになってきたな。じゃ、一回電話切るからな。メールみてくれよ」
「もちろん」
 千尋はダッシュで自作の書斎スペースに身体をすべりこませた。そこに置いてあるノートパソコンをひらいて、画面を確認する。エディタを開いて、準備ばっちりだ。
 やる、やるぞ。
 見ていてほしい。
 とびきりのものを、見せてやるんだって、気持ちでいっぱいなのだから。

(了)
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