憧れは僕の気持ちをまだ知らない
「やっぱり、さ、千尋、新崎のこと、好きだろ?」
食事のあとかたづけを新崎一人に任せて、守谷とふたりになった瞬間、彼が小声で話しかけてきた。
「な!」
「ほら図星」
「そりゃ、まあ、いい子だし。ちょっと変わっているけれど」
「俺は、いいと思うね。もっと、仲良くなれたら、千尋も楽しいだろうし。友達でもなんでも、なってみれば?」
「ものすごい年が離れすぎていて、犯罪のにおいしかしないじゃないか。彼とぼく」
「新崎がいいって思えば、犯罪じゃないって」
へへっと守谷が笑う。
「それで、新崎は千尋のこと、大好きだから、もっと仲良くなってやってくれ」
ぺこりと新崎を真似て守谷が頭をさげた。
「――と言ってもねぇ、やっぱり、ほら、ぼくとは違う世界の人間だし」
「おふたりとも、何を話されているんですか?」
ぎょっとして振り返ると、片付け終わった新崎がそこにいた。
「今日は千尋も俺たちと一緒にリビング雑魚寝しないかって誘っていたんだけどなぁ」
守谷がないことをあったように言う。
「え? ぼくが?」
「うわ、千尋先生と!」
「修学旅行気分が味わえていいと思うんだが。ちーちゃんと枕投げするの、何年ぶりかな?」
「いや、それはしないからな」
「いいですね、枕投げ」
新崎がくいついた。
「ストレス発散になりそうで」
「ストレスって、新崎くん、ストレスあるの?」
「いえ、いまとても幸せなので特にないですが、千尋さん、今日も遅くまで大変だっただろうし、一緒に発散しませんか」
「ストレスないんかい、新崎」
「守谷さん、あ、いや、千尋さんに迷惑かけてしまってそれはとても申し訳なくは思っていますが」
「新崎くん、その申し訳なさとやらを枕に変えて発散でもするかい?」
と、口に出していて千尋は自分で自分の言ったことにぎょっと驚いた。
「あ、ああ、いや、きみさえよければで」
ペースが、乱れる。ちゃんと大人の距離をとりたかったのに、枕投げなんてする予定じゃなかったのに、なんでこんなふうに首を突っ込んでしまったのか。千尋の提案に新崎は微笑んだ。やる気になって腕まくりする。――結局、枕投げが開催されることになった。
「いざ、新崎迅人、参ります! 鬼は外!」
ぼふっと音を立てて枕が飛んできた。千尋の胸元にちょうど飛び込んできたそれをうまくキャッチする。
「では千尋崇彦も参ります。福は内!」
守谷めがけて投げた枕は守谷に届かずに彼の足元に落ちてしまった。しかし、彼は腹をかかえたまま、落ちている枕を拾おうとしない。
「なに笑ってんだ、守谷」
千尋がむっとして問うと、守谷が言った。
「それ、節分。枕投げじゃない」
「え、そうなの、見様見真似でやってみたんだけど」
「すみません、千尋さん、俺、次こそはパーフェクトに決めてみせます」
「鬼は外で、福は内じゃないと、悪いものは外へ、いいことは内へでちょうどいいと思ったんだけどな」
「ですよね、千尋さん」
「いやいや、なんでふたりして息ぴったりなの? ついでに、年の数だけ豆を食べたりするわけ?」
「守谷とぼくは豆の数がたいへんだから、新崎くん手伝ってくれる?」
「わかりました。千尋さんのお腹が豆だらけにならないよう、俺がかわりに千尋さんのぶんまで食べますから! 任せてください」
「守谷のも、助けてあげてほしいな」
「もちろんです!」
「ちーちゃんも新崎も、完全に節分の話してんな」
「修学旅行気分だね、新崎くん」
「はい! ついでに、恋バナして、怖い話しながら寝ませんか」
「こ、恋バナ……!」
ぎょっと千尋は半歩後ろに下がった。
「苦手ですか?」
「あ、いや、違うんだ、ぼくはほら、職業柄、そういう恋愛ものの漫画を担当しているから、ここは、負けられないね」
「なんで、ちーちゃん変なところで意地はってるんだよ」
「わかりました。俺も、千尋さんに負けないようとっておきの背筋が凍るくらい怖い恋バナを拾うします」
「新崎も怪談と恋バナがごっちゃになっているぞ」
「そこまでいうのなら、守谷から、スタートしてくれ」
「俺、怪談話せばいいの? 恋バナすればいいの? どっちだよ」
「俺個人の考えですが、寝る前なので、怖くて寝れなくなっては困るので、ふたつは混ぜて中和させたほうがいいと思います」
「それはぼくもそう思う。新崎くんに賛成」
「いやだから! 怪談と恋バナ混ぜるってどういうことよ!」
守谷のつっこみに、千尋と新崎はお互いに顔を見合わせた。
「た、確かに!どうします、千尋さん。混ぜるな危険ですよ、これは! どっちの話をしましょうか」
千尋は、うーんと悩みはじめた。守谷が冷静になってつぶやく。
「……もう俺、帰っていいか?」
「守谷、おうち、雨漏れしてんじゃなくて?」
千尋が守谷に尋ねた。
「いやん、そうなの。……にしても」
守谷がにやりと笑った。
「ふたりにはお手上げだ」
食事のあとかたづけを新崎一人に任せて、守谷とふたりになった瞬間、彼が小声で話しかけてきた。
「な!」
「ほら図星」
「そりゃ、まあ、いい子だし。ちょっと変わっているけれど」
「俺は、いいと思うね。もっと、仲良くなれたら、千尋も楽しいだろうし。友達でもなんでも、なってみれば?」
「ものすごい年が離れすぎていて、犯罪のにおいしかしないじゃないか。彼とぼく」
「新崎がいいって思えば、犯罪じゃないって」
へへっと守谷が笑う。
「それで、新崎は千尋のこと、大好きだから、もっと仲良くなってやってくれ」
ぺこりと新崎を真似て守谷が頭をさげた。
「――と言ってもねぇ、やっぱり、ほら、ぼくとは違う世界の人間だし」
「おふたりとも、何を話されているんですか?」
ぎょっとして振り返ると、片付け終わった新崎がそこにいた。
「今日は千尋も俺たちと一緒にリビング雑魚寝しないかって誘っていたんだけどなぁ」
守谷がないことをあったように言う。
「え? ぼくが?」
「うわ、千尋先生と!」
「修学旅行気分が味わえていいと思うんだが。ちーちゃんと枕投げするの、何年ぶりかな?」
「いや、それはしないからな」
「いいですね、枕投げ」
新崎がくいついた。
「ストレス発散になりそうで」
「ストレスって、新崎くん、ストレスあるの?」
「いえ、いまとても幸せなので特にないですが、千尋さん、今日も遅くまで大変だっただろうし、一緒に発散しませんか」
「ストレスないんかい、新崎」
「守谷さん、あ、いや、千尋さんに迷惑かけてしまってそれはとても申し訳なくは思っていますが」
「新崎くん、その申し訳なさとやらを枕に変えて発散でもするかい?」
と、口に出していて千尋は自分で自分の言ったことにぎょっと驚いた。
「あ、ああ、いや、きみさえよければで」
ペースが、乱れる。ちゃんと大人の距離をとりたかったのに、枕投げなんてする予定じゃなかったのに、なんでこんなふうに首を突っ込んでしまったのか。千尋の提案に新崎は微笑んだ。やる気になって腕まくりする。――結局、枕投げが開催されることになった。
「いざ、新崎迅人、参ります! 鬼は外!」
ぼふっと音を立てて枕が飛んできた。千尋の胸元にちょうど飛び込んできたそれをうまくキャッチする。
「では千尋崇彦も参ります。福は内!」
守谷めがけて投げた枕は守谷に届かずに彼の足元に落ちてしまった。しかし、彼は腹をかかえたまま、落ちている枕を拾おうとしない。
「なに笑ってんだ、守谷」
千尋がむっとして問うと、守谷が言った。
「それ、節分。枕投げじゃない」
「え、そうなの、見様見真似でやってみたんだけど」
「すみません、千尋さん、俺、次こそはパーフェクトに決めてみせます」
「鬼は外で、福は内じゃないと、悪いものは外へ、いいことは内へでちょうどいいと思ったんだけどな」
「ですよね、千尋さん」
「いやいや、なんでふたりして息ぴったりなの? ついでに、年の数だけ豆を食べたりするわけ?」
「守谷とぼくは豆の数がたいへんだから、新崎くん手伝ってくれる?」
「わかりました。千尋さんのお腹が豆だらけにならないよう、俺がかわりに千尋さんのぶんまで食べますから! 任せてください」
「守谷のも、助けてあげてほしいな」
「もちろんです!」
「ちーちゃんも新崎も、完全に節分の話してんな」
「修学旅行気分だね、新崎くん」
「はい! ついでに、恋バナして、怖い話しながら寝ませんか」
「こ、恋バナ……!」
ぎょっと千尋は半歩後ろに下がった。
「苦手ですか?」
「あ、いや、違うんだ、ぼくはほら、職業柄、そういう恋愛ものの漫画を担当しているから、ここは、負けられないね」
「なんで、ちーちゃん変なところで意地はってるんだよ」
「わかりました。俺も、千尋さんに負けないようとっておきの背筋が凍るくらい怖い恋バナを拾うします」
「新崎も怪談と恋バナがごっちゃになっているぞ」
「そこまでいうのなら、守谷から、スタートしてくれ」
「俺、怪談話せばいいの? 恋バナすればいいの? どっちだよ」
「俺個人の考えですが、寝る前なので、怖くて寝れなくなっては困るので、ふたつは混ぜて中和させたほうがいいと思います」
「それはぼくもそう思う。新崎くんに賛成」
「いやだから! 怪談と恋バナ混ぜるってどういうことよ!」
守谷のつっこみに、千尋と新崎はお互いに顔を見合わせた。
「た、確かに!どうします、千尋さん。混ぜるな危険ですよ、これは! どっちの話をしましょうか」
千尋は、うーんと悩みはじめた。守谷が冷静になってつぶやく。
「……もう俺、帰っていいか?」
「守谷、おうち、雨漏れしてんじゃなくて?」
千尋が守谷に尋ねた。
「いやん、そうなの。……にしても」
守谷がにやりと笑った。
「ふたりにはお手上げだ」
