第23話 時【せかい】
「触れれば発射される法皇ハイエロファントの結界は、すでにお前の周り半径二十メートル! お前の動きも、世界ザ・ワールドの動きも、手に取るように探知できるッ!」
五人は二手に分かれてDIOを挟み撃ちにしようとしていた。前方に花京院・ジョセフ・アヴドゥル。DIOの背後からは承太郎とポルナレフ。
そして花京院はDIOのスタンド能力を暴くため、法皇の緑ハイエロファント・グリーンの触脚で罠を張っていた。
「くらえッ! DIOッ! 半径二十メートルのエメラルド・スプラッシュをッ!」
DIOに向かって宝石のごとききらめきが襲いかかる。
しかし、DIOが『世界ザ・ワールド』の力で時を止めたことで、全ての翠玉が空中で止まった。
「これが…『世界ザ・ワールド』だ。もっとも、『時間の止まっている』お前には見えもせず、感じもしないだろうがな…」
時計の針が刻む音も、倒壊する塔の崩れる音も、対面する花京院の呼吸音すら聞こえない。無音の世界。DIO以外の声が響かない、DIOだけの『世界』が構築されていた。
「死ねィッ! 花京院ッ!」
DIOが世界ザ・ワールドの拳で花京院の腹を貫こうとする。
しかし次の瞬間、世界ザ・ワールドの手首が切り落とされた。
「何ィッ!」
とっさに飛び退く。世界ザ・ワールドの手首は確かになくなっている。同時に、DIOの手首も切り落とされていた。
地面に落ちる前につかんだ自身の手をくっつけながら、DIOは花京院を見た。
(花京院は動いてはいない…。そもそも、この静止の世界で動けるハズがない…。なぜだ、いや、誰だ!? 何者かが止まったときの中で動いているッ! このDIOと同じように!)
周囲を警戒するDIOを嘲笑うかのように、DIOの右足首が切り落とされた。今度は左足の膝を切られる。
「何者だ!? どうやって攻撃を仕掛けている!?」
胴を、肩を、耳を、体のあちこちを次々と切られていく。しかし、誰がどのように攻撃しているのか、DIOには見当もつかなかった。
(これではまるで、我が世界ザ・ワールドのようではないか…!)
止まった世界の中で、別の誰かがさらに自分の時を止めているような感覚。その感覚に、DIOは激しい怒りを抱いた。
(くそっ、時間切れか…)
自身が止められる許容時間を過ぎてしまい、DIOは花京院を仕留めることもできず、バラバラの体をつなぎ合わせきることもできず、時は動き出した。
「えっ!?」
「な、なに!? いつのまに!?」
ほんの一瞬で、位置も状態も変わってしまったDIOを見て、三人は驚愕した。
「ちっ、ここは一旦退くか…」
再び世界ザ・ワールドを発動させようとしたDIOだったが、
「ガゥウ(愚者ザ・フール)!」
近くの建物の壁が砂と共に崩れ落ち、イギーが飛び出してきた。愚者ザ・フールで身を隠していたのだ。
「イギー!」
「イギー、何故ここに…! 桂木は…」
「私もいるよ」
近くの物陰から、弥子が現れる。弥子とイギーはずっと窺っていたのだ。DIOに不意打ちを食らわせる、その一瞬の隙を。
「桂木弥子……そうか、貴様だな…貴様の能力だな…。我が世界ザ・ワールドと同じく、時を止める能力を持っているな」
「時を…止める…!?」
「そうか、だから法皇ハイエロファントの触脚が同時に切られていたのかッ!」
「貴様らには聞いていないッ! どうなのだ、桂木弥子ッ」
「ううん。時を止めるなんてだいそれたこと、私にはできないよ」
「…なんだと」
弥子は静かに首を振った。
「『魔帝7ツ兵器』…『二次元の刃イビルメタル』。「斬る」という過程はなくて「斬った」という結果だけが残る。コイツの一番強い能力だよ……欠点も多いけどね」
自身のスタンドを指し示して、弥子は自嘲の笑みを浮かべた。
欠点が多いという言葉通り、彼女のスタンドも、彼女自身も、枯れた植物のように髪から水分が抜け、まるで干からびた大地のように顔にヒビが入った。
そして彼女のスタンドの最強ランクの能力を使ってもなお、不死身であるDIOを倒すには至らなかった。
「…でも、やっぱりちがうなぁ」
「違うだと? 何の話だ」
「DIOってさ、私の相棒に似てる気がしてたんだよね。でも、会って話してみたら全然ちがった」
「ほう。まるで私を理解しているかのような言い分じゃあないか」
不機嫌そうに話しながらも、DIOは拾い集めた自身の腕やら足やらを修復していた。
そして弥子とDIOが話している間に、花京院とイギー、ジョセフとアヴドゥルがそれぞれペアを組み、DIOの隙を窺う。
「DIOのこと、最初は化け物だって思った。人間じゃないって。でも、今話してみて思った。あなたは人間だよ、DIO。あなたはどうしようもなく、人間。人間はね、スタンドなんてなくても、時に超人的な力を手に入れる。音楽を愛するあまりに、声だけで人を気絶させるまでに至った人。自分の正体を忘れた代わりに、他人に成り代わる力を得た人。想像を絶するほどの悪意に満ちていて、金属と同化して自分を兵器にした人。でも、結局みんな人間だったんだ。欲望と謎に満ちて、自分という個の存在を証明するために、人を殺さずにはいられない人たち」
懐かしそうに、穏やかな声で、いっそ愛おしそうに、弥子は語る。
だって彼女は愛しているから。
謎をつくる人間という種族を。謎であふれた世界を。
「…何が言いたい」
「人として生まれたら、人として死ぬしかないんだよ。たとえ人間をやめても、不老不死になっても、最後には人間として死ぬの」
「知ったような口をきくんじゃあない!」
世界ザ・ワールドが弥子に襲いかかる。花京院とイギーが止めようとしたが、時を止めたDIOはいとも簡単に躱した。そして時が動き出し、その拳が弥子に届くかといったとき、
「オラァ!」
星の白金スタープラチナが世界ザ・ワールドを殴り返した。
「承太郎! ポルナレフ!」
「よう、待たせたな」
「おいおい。大丈夫かよ、ヤコ。ふらっふらだぜ」
貧血でふらつく弥子を引き寄せて助けたのは銀の戦車シルバーチャリオッツだ。
戦いは佳境。それにもかかわらず、弥子は固い金属の腕に安心感を覚える。
「さあて、もう逃げられんぞ、DIO」
ジョセフがDIOの終わりを告げた。
「フッ、フフフフハハハハハハ」
全員に囲まれる中、DIOは高笑いをした。
忌々しいと呪詛を振りまくような、邪悪な嗤いだった。
「調子に乗るなよ、ジョセフ・ジョースター。まったく、貴様らジョースターの血統というのは、我が運命という路上に転がる、犬のクソのようにジャマな存在だ。だが頂点に立つのは、このDIOただひとりだ!」
「本当に、そうなの?」
「ム?」
高らかに宣言するDIOに、弥子が疑問を投げかける。
「あなたは自分以外の何者も頂点に立ってはいけない、何者も自分と歩んではいけない。そう思ってる。思いこもうとしている。でも、DIO。あなたには本当は、別に欲しいものがある。無理矢理奪おうとして、手に入らなかったもの。壊してでも手に入れて、けれど自分の思うようにはいかなかったもの」
「……黙れ」
「あなたが本当に、本当にほしかったのは、一番だとか、生物の頂点とかじゃなくて…」
「黙れと言っている!」
怒りの叫びを上げて、DIOは世界ザ・ワールドで攻撃をしかけた。
さも自分はわかっていますと理解したように振る舞う様に苛立ちを感じたのは事実だ。
けれど一瞬、かつて肩を組んで笑い合っていた星が脳裏をかすめたのも、また事実だ。
「星の白金スタープラチナ!」
「銀の戦車シルバーチャリオッツ!」
DIOの攻撃を、再び承太郎とポルナレフが迎え撃つ。
「承太郎、ポルナレフ! 奴の能力は時間を止めることだ! 奴は静止したときの中で動くことができる!」
「無駄だ! 分かったところで、我が世界ザ・ワールドの支配から逃れることはできん!」
各々のスタンドが戦闘態勢をとる。
今、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
五人は二手に分かれてDIOを挟み撃ちにしようとしていた。前方に花京院・ジョセフ・アヴドゥル。DIOの背後からは承太郎とポルナレフ。
そして花京院はDIOのスタンド能力を暴くため、法皇の緑ハイエロファント・グリーンの触脚で罠を張っていた。
「くらえッ! DIOッ! 半径二十メートルのエメラルド・スプラッシュをッ!」
DIOに向かって宝石のごとききらめきが襲いかかる。
しかし、DIOが『世界ザ・ワールド』の力で時を止めたことで、全ての翠玉が空中で止まった。
「これが…『世界ザ・ワールド』だ。もっとも、『時間の止まっている』お前には見えもせず、感じもしないだろうがな…」
時計の針が刻む音も、倒壊する塔の崩れる音も、対面する花京院の呼吸音すら聞こえない。無音の世界。DIO以外の声が響かない、DIOだけの『世界』が構築されていた。
「死ねィッ! 花京院ッ!」
DIOが世界ザ・ワールドの拳で花京院の腹を貫こうとする。
しかし次の瞬間、世界ザ・ワールドの手首が切り落とされた。
「何ィッ!」
とっさに飛び退く。世界ザ・ワールドの手首は確かになくなっている。同時に、DIOの手首も切り落とされていた。
地面に落ちる前につかんだ自身の手をくっつけながら、DIOは花京院を見た。
(花京院は動いてはいない…。そもそも、この静止の世界で動けるハズがない…。なぜだ、いや、誰だ!? 何者かが止まったときの中で動いているッ! このDIOと同じように!)
周囲を警戒するDIOを嘲笑うかのように、DIOの右足首が切り落とされた。今度は左足の膝を切られる。
「何者だ!? どうやって攻撃を仕掛けている!?」
胴を、肩を、耳を、体のあちこちを次々と切られていく。しかし、誰がどのように攻撃しているのか、DIOには見当もつかなかった。
(これではまるで、我が世界ザ・ワールドのようではないか…!)
止まった世界の中で、別の誰かがさらに自分の時を止めているような感覚。その感覚に、DIOは激しい怒りを抱いた。
(くそっ、時間切れか…)
自身が止められる許容時間を過ぎてしまい、DIOは花京院を仕留めることもできず、バラバラの体をつなぎ合わせきることもできず、時は動き出した。
「えっ!?」
「な、なに!? いつのまに!?」
ほんの一瞬で、位置も状態も変わってしまったDIOを見て、三人は驚愕した。
「ちっ、ここは一旦退くか…」
再び世界ザ・ワールドを発動させようとしたDIOだったが、
「ガゥウ(愚者ザ・フール)!」
近くの建物の壁が砂と共に崩れ落ち、イギーが飛び出してきた。愚者ザ・フールで身を隠していたのだ。
「イギー!」
「イギー、何故ここに…! 桂木は…」
「私もいるよ」
近くの物陰から、弥子が現れる。弥子とイギーはずっと窺っていたのだ。DIOに不意打ちを食らわせる、その一瞬の隙を。
「桂木弥子……そうか、貴様だな…貴様の能力だな…。我が世界ザ・ワールドと同じく、時を止める能力を持っているな」
「時を…止める…!?」
「そうか、だから法皇ハイエロファントの触脚が同時に切られていたのかッ!」
「貴様らには聞いていないッ! どうなのだ、桂木弥子ッ」
「ううん。時を止めるなんてだいそれたこと、私にはできないよ」
「…なんだと」
弥子は静かに首を振った。
「『魔帝7ツ兵器』…『二次元の刃イビルメタル』。「斬る」という過程はなくて「斬った」という結果だけが残る。コイツの一番強い能力だよ……欠点も多いけどね」
自身のスタンドを指し示して、弥子は自嘲の笑みを浮かべた。
欠点が多いという言葉通り、彼女のスタンドも、彼女自身も、枯れた植物のように髪から水分が抜け、まるで干からびた大地のように顔にヒビが入った。
そして彼女のスタンドの最強ランクの能力を使ってもなお、不死身であるDIOを倒すには至らなかった。
「…でも、やっぱりちがうなぁ」
「違うだと? 何の話だ」
「DIOってさ、私の相棒に似てる気がしてたんだよね。でも、会って話してみたら全然ちがった」
「ほう。まるで私を理解しているかのような言い分じゃあないか」
不機嫌そうに話しながらも、DIOは拾い集めた自身の腕やら足やらを修復していた。
そして弥子とDIOが話している間に、花京院とイギー、ジョセフとアヴドゥルがそれぞれペアを組み、DIOの隙を窺う。
「DIOのこと、最初は化け物だって思った。人間じゃないって。でも、今話してみて思った。あなたは人間だよ、DIO。あなたはどうしようもなく、人間。人間はね、スタンドなんてなくても、時に超人的な力を手に入れる。音楽を愛するあまりに、声だけで人を気絶させるまでに至った人。自分の正体を忘れた代わりに、他人に成り代わる力を得た人。想像を絶するほどの悪意に満ちていて、金属と同化して自分を兵器にした人。でも、結局みんな人間だったんだ。欲望と謎に満ちて、自分という個の存在を証明するために、人を殺さずにはいられない人たち」
懐かしそうに、穏やかな声で、いっそ愛おしそうに、弥子は語る。
だって彼女は愛しているから。
謎をつくる人間という種族を。謎であふれた世界を。
「…何が言いたい」
「人として生まれたら、人として死ぬしかないんだよ。たとえ人間をやめても、不老不死になっても、最後には人間として死ぬの」
「知ったような口をきくんじゃあない!」
世界ザ・ワールドが弥子に襲いかかる。花京院とイギーが止めようとしたが、時を止めたDIOはいとも簡単に躱した。そして時が動き出し、その拳が弥子に届くかといったとき、
「オラァ!」
星の白金スタープラチナが世界ザ・ワールドを殴り返した。
「承太郎! ポルナレフ!」
「よう、待たせたな」
「おいおい。大丈夫かよ、ヤコ。ふらっふらだぜ」
貧血でふらつく弥子を引き寄せて助けたのは銀の戦車シルバーチャリオッツだ。
戦いは佳境。それにもかかわらず、弥子は固い金属の腕に安心感を覚える。
「さあて、もう逃げられんぞ、DIO」
ジョセフがDIOの終わりを告げた。
「フッ、フフフフハハハハハハ」
全員に囲まれる中、DIOは高笑いをした。
忌々しいと呪詛を振りまくような、邪悪な嗤いだった。
「調子に乗るなよ、ジョセフ・ジョースター。まったく、貴様らジョースターの血統というのは、我が運命という路上に転がる、犬のクソのようにジャマな存在だ。だが頂点に立つのは、このDIOただひとりだ!」
「本当に、そうなの?」
「ム?」
高らかに宣言するDIOに、弥子が疑問を投げかける。
「あなたは自分以外の何者も頂点に立ってはいけない、何者も自分と歩んではいけない。そう思ってる。思いこもうとしている。でも、DIO。あなたには本当は、別に欲しいものがある。無理矢理奪おうとして、手に入らなかったもの。壊してでも手に入れて、けれど自分の思うようにはいかなかったもの」
「……黙れ」
「あなたが本当に、本当にほしかったのは、一番だとか、生物の頂点とかじゃなくて…」
「黙れと言っている!」
怒りの叫びを上げて、DIOは世界ザ・ワールドで攻撃をしかけた。
さも自分はわかっていますと理解したように振る舞う様に苛立ちを感じたのは事実だ。
けれど一瞬、かつて肩を組んで笑い合っていた星が脳裏をかすめたのも、また事実だ。
「星の白金スタープラチナ!」
「銀の戦車シルバーチャリオッツ!」
DIOの攻撃を、再び承太郎とポルナレフが迎え撃つ。
「承太郎、ポルナレフ! 奴の能力は時間を止めることだ! 奴は静止したときの中で動くことができる!」
「無駄だ! 分かったところで、我が世界ザ・ワールドの支配から逃れることはできん!」
各々のスタンドが戦闘態勢をとる。
今、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
