このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第22話 狂【くりーむ】

 ヴァニラ・アイスは自身のスタンドを表に出したままにして、泥と瓦礫を削り取りながら進んでいた。脱出するためではない。こうなった元凶である桂木弥子を見つけて殺すためだ。

(館の周囲の土地はこのような柔らかい粘土質の土壌ではなかったはず…。つまりこれは桂木弥子のスタンド能力。この泥の中を進み続ければ、奴の元にいずれはたどり着けるはずだ)

 そして桂木弥子を始末した後は、アヴドゥル、ポルナレフ、イギーも速やかに殺さなければならない。そのため桂木弥子の死を確認したら、さっさと地上に上がる必要がある。
 桂木弥子の居場所を特定するため、そして殺したか否かを判別するために、ヴァニラ・アイスは自身のスタンドの口から顔を出し続ける必要があった。

(そういえば、ダービーが桂木弥子の魂を欲しがっていたが、…奴はすでに敗北している。…何より、DIO様の命を脅かす者は全て抹消せねばならない)

 改めて自身の殺意を確かめて進み続けると、急に泥が後退していくのが見て取れた。ヴァニラ・アイスを覆う土が、元の乾いた土壌に戻る。

(……? なんのつもりだ、桂木弥子? まあいい。後退していくということは、回収することと同義。泥を追っていけば奴の居場所に辿り着けるというわけだ)

 ヴァニラ・アイスが地中を進むと、泥の壁に覆われた、開けた場所に出た。そこには工具を模した骸骨姿の兵士たちが立ちふさがっていた。ヴァニラ・アイスは知らぬことだが、それは『拒食の工兵隊イビルカーペンター』という名の、弥子のスタンド能力だった。

(これは桂木弥子のスタンドか? それとも別の奴の…? いや、ジョースター共のスタンドの報告にはこんなものはなかった。やはりこれは桂木弥子、貴様のスタンドか…!)

 スタンドの姿を消して、ヴァニラ・アイスは『拒食の工兵隊イビルカーペンター』を、周囲の泥壁ごとえぐり取る。
 ある程度姿を隠したままスタンドで削り取った後、ヴァニラ・アイスは確認のためにスタンドを現した。ほとんどの兵士はその機能を失っていたが、その中で一等大きな兵士が鋸を振り下ろした。今度はそれを、姿を消さずにえぐる。

「…やっぱり…そうなんだ……」

 そのとき、ヴァニラ・アイスの耳に桂木弥子の声が届いた。

「どこにいるッ!? 桂木弥子ッ!」

 声が聞こえた辺りを削り取る。見つからない。

「相手を仕留めるとき、あなたは必ず暗黒空間から姿を現す。暗黒空間の中からでは、あなたは周囲の様子を確認できないから」
「それがどうしたというのだァッ! 姿を隠そうと隠すまいと、キサマなど簡単に始末してくれるッ!」

 スタンドに隠れることもせずに攻撃を繰り返すヴァニラ・アイス。すると、彼がえぐっていた泥壁の先に、弥子の姿が見えた。

「思い知れッ! 桂木弥子ォッ!」
「その油断が命取りなんだよ」

 自身の前にある泥の壁を解除して、弥子が姿を現す。隣に立つスタンドの手には、顔と手足がついた、奇妙な球体の物体があった。
 その謎の物体が、まばゆい光を放つ。

「くっ…」

 その光に、ヴァニラ・アイスの動きが一瞬止まったが、すぐに目の前の人物をえぐり殺そうとした。
 しかし、彼のスタンドは軽く相手に突進しただけで、『削り取る』能力が何故か作動しなかった。

「どっ…どういうことだ…なぜ…」
「『魔界777ツ能力』…『透け透けの鎧イビルサーフェイサー』。あなたのスタンドごと、あなたをコーティングしたの。ネウロのと違って、半永久的に保てるわけじゃないんだけどね。せいぜい一時間が限界かな」

 見ると、先ほど弥子のスタンドが持っていた奇妙な物体に、ヴァニラ・アイスのスタンドが接着した形になっていた。

「…なるほど。動けなくなった私にとどめを刺すつもりか」
「ううん。殺さないよ。私、人を殺さないって決めてるの」
「………は? キサマ、ふざけているのか?……では、私をこのまま生き埋めにするつもりか」
「それだと、コーティングが溶けたらまた私たちを襲うでしょ」
「当然だ! DIO様に仇なす者どもを、逃がしてなるものかァッ!」
「だよね…。…じゃあ、一緒に地上まで行こっか」

 よいしょっと、というかけ声と共に、弥子はスタンドでヴァニラ・アイスを持ち上げた。

「地上だと? 何のつもりだ!」
「その様子だと、まだ気づいていないんだね。自分がもう人間じゃないことに」
「なんだと?」
「ここは圧迫された土の中。いくらスタンドの中に潜んでるって言っても、酸素がなければ動き続けることはできない。私は『国を喰う土地イビルマッド』で事前に酸素を確保できたし、『泥の指輪イビルディバーシー』である程度回復もした。けれどあなたにはそれがない。その理由はひとつ。あなたがもう人間じゃないから」

 そこで話を区切って、弥子は『国を喰う土地イビルマッド』で地上まで上がった。
 ヴァニラ・アイスが人間ではないかもしれないと気づいた時点で、弥子は地上付近でヴァニラ・アイスを待ち構えることにした。そうすることで、たとえ自分が敗北しても、地下から脱出したときに日光を浴びて死ぬだろうと考えたからだ。
 数秒後、ヴァニラ・アイスを連れた弥子は地上へと顔を出した。外はまだ充分に明るかった。ゾンビを消滅させるには、充分に。

「おのれぇ…せっかくDIO様から血をいただいたというのに……キサマなんぞにィィィィーッ」

 断末魔を残して、ヴァニラ・アイスは消滅した。
 弥子はそれを、黙って見ていた。

「はやく…みんなのところに戻らないと…」

 ふらつく足取りで、弥子は再び館へと歩を進める。
 しかし血を流しすぎたのか、ずるりと地面に倒れこみ、そのまま意識を失った。
3/5ページ
スキ