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第22話 狂【くりーむ】

 倒壊した石壁の破片と埃と泥にまみれるなか、弥子はスタンドを出現させた。
 かつての相棒と同じ姿をしたスタンド。その揺れる金髪にぶら下がる三角形の髪飾りを弥子は躊躇なく口にした。
 ガリッと噛み砕く音が聞こえる。
 ほんの少しだけ、力が戻ったような感覚。

(…私はまだ…戦える…)

 髪飾りをもうひとつ噛み砕いて、弥子は何とか起き上がった。一度消費したら二度と復活しない回復道具を、一度に二個使った。そのおかげか、腹部より流れる血は収まっていた。

(向こうも、まだ…生きてる)

 自身のスタンドより生まれ出た泥人形の内部に潜む悪意を、弥子は感じ取っていた。それはつまり、敵のスタンド使いはまだゴーレムの体内に囚われたままということだ。

(今、私と敵が生き残っているのは、『国を喰う土地イビルマッド』が私たちを囲んでいるから。もしスタンドを解除すれば、私も敵も生き埋めになる?……いや、相手は石でできた壁や床を削り取りながら進むスタンド。すぐに脱出できるだろうし……ううん、だめ。自分を犠牲にしてでも、刺し違えてでも倒そうなんて、思っちゃだめ。…辛い思いをするのは、残された人たちなんだから)

 弥子の脳裏に、めった刺しにされた前世の父が、頼りになる刑事の笑顔が、年の離れた友人が謝る姿が、次々とよみがえる。

(あんな思いを、私の大切な人たちにさせてたまるもんですか。なんとしてでも生きて帰らなきゃ!……でも、どうやってここを切り抜けたらいいんだろう)

 こんなとき、アイツだったら…と弥子は隣に立つ自身のスタンドを見ながら、かつての相棒だったらどうするかと考えた。

(ネウロなら、こんなとき…推測を立てる。次に敵が何をしてくるのかを。それには、情報が必要だ。魔界の凝視虫イビルフライデーも異次元の侵略者イビルスクリプトも地獄の地獄耳イビルバタフライも…本来は暗殺用の無気力な幻灯機イビルブラインドでさえ、ネウロは情報や証拠を集めるために使っていた)

 そして弥子は思い出す。あの短い戦闘のやり取りで、敵スタンドにどんな特徴があったのかを。その過程で、ふと疑問を抱いた。

(……そういえば、あの敵スタンド…、なんで私たちの前に姿を現したんだろう。見えない状態のままのほうが、私たちの隙を突けるのに)

 ここで重要なのは、スタンドはいつ姿を現したのか。

(最初は何も見えなかった。不意を突かれる直前に、スタンドの姿が見えた。私たちに話しかけるときに、本体も姿を見せた。…待って、それって本当に話しかけるため? 他に何か目的があるはず…)

 考えている間にも、敵スタンドが徐々に近づいてくるのを感じる。
 『国を喰う土地イビルマッド』は現在、半径二十メートルほどの大きさとなった。その巨体は館の地下だけでなく、近くの土地も巻き込んで範囲を広げている。しかしその稼働領域も、使用時間も、限界に近づいていた。
 その限界を、弥子は『国を喰う土地イビルマッド』の稼働領域を狭めることで延長させた。
 弥子が生き埋めにならないためには、『国を喰う土地イビルマッド』を発動し続けなければならない。そのため、解除はできない。
 故に弥子は、『国を喰う土地イビルマッド』を発動したまま敵と戦わなければならない。『魔界777ツ能力』も『魔帝7ツ兵器』も、同時に発動できるのはそれぞれひとつずつ。その上スタンドパワーもだいぶ減ってしまった。手持ちのカードが残り少ない状態で、けれど弥子には勝機があった。

(…もしかしたら、倒す必要なんてないのかもしれない)

 顔を上げた弥子の目には、確信の黒が宿っていた。
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