第22話 狂【くりーむ】
承太郎、ジョセフ、花京院が館の中へ引きずり込まれてから十分が経過した。
残されたアヴドゥル、ポルナレフ、弥子、イギーは館への突入を決行する。
「ポルナレフ、弥子。突入する前にひとつだけ言っておきたい。」
じっとりとした空気の中、アヴドゥルが言った。
「わたしは、もしこの館の中でお前たちが行方不明になったり、負傷しても助けないつもりでいる…。イギー、お前もだ」
自分の安全を第一に考えろ、とアヴドゥルは続ける。
それにお互い了承の意を示して、三人は固く握手を交わした。
(たぶん、最初に約束を破るのはアヴドゥルさんだろうな…)
五十日にも渡る旅の中で、弥子はアヴドゥルの熱い性格とどこか甘い部分があるところに気がついていた。
仲間が危機に直面したとき、アヴドゥルは敵を仕留めるのではなく、仲間を助けるために動く。そんな場面を何度も見てきて、彼がそういう人だと知っている。
なんとなく嫌な予感がして、弥子は自分の胸がざわつくのを感じた。
▼▲▼▲▼
アヴドゥルが放った生物探知機の炎と、イギーの鼻、弥子の魔界の凝視虫イビルフライデーで周囲を警戒しながら進む。
ジョセフたちを探しに下へと向かった先で、隠れていたスタンド使いを一人倒した。それにより、館にかけられていた幻覚が消える。
そこでふと、アヴドゥルは自身が触れていた壁に刻まれた文字に気づく。アヴドゥルの歩みが止まったことに気づいた弥子も、その文字を目にした。
『うしろをふり向いた時 おまえらは 死ぬ』
「………っ、『城壁の苔イビルサラウンダー』! 『醜い姿見イビルリフレクター』!」
後ろを振り向かずに、弥子は魔界の凝視虫イビルフライデーを解除し、城壁の苔イビルサラウンダーでアヴドゥルを絡め取ってポルナレフの方向に投げ飛ばした。それもすぐに解除し、自身は醜い姿見イビルリフレクターで防御する。
直感だった。
三人に前方の警戒を任せて、弥子は後方を中心に全体を魔界の凝視虫イビルフライデーで監視していた。その目には何も写ってはいなかった。しかし、何かがいると思った。
その直感は、当たりだった。
パリン、と弥子を覆う鏡が割れる。
「ヤコッ! お、おまえ…!」
「動くな、ポルナレフ! 敵はまだ近くにいる!」
動揺するポルナレフをいさめるアヴドゥル。しかし彼もまた、動揺を隠せずにいた。イギーは突然現れた敵に怯えつつも、今はまだ見えるその姿を注視している。
そして弥子は、
「………っ、……ごふっ…」
削られたかのように裂かれた腹部をかばって、壁に寄りかかって立っていた。口からゴボリと血があふれる。
その顔は青ざめており、立っているのがやっとの状態だった。
「このクリームの襲撃に気づくとは……桂木弥子…やはり侮れない……アヴドゥルでもポルナレフでもなく、貴様を先に狙うべきだったか…」
弥子の腹をえぐった敵スタンドは、上半身と腕だけの奇妙な形をしていた。
そのスタンドの口から、男が顔を出す。
「このヴァニラ・アイスの暗黒空間にばらまいてやる」
敵スタンドは弥子へと照準を変えて、襲いかかろうとした。
「銀の戦車シルバーチャリオッツ!」
それをポルナレフが素早い剣戟で防ぐ。銀の戦車シルバーチャリオッツは建物の壁を破壊し、それに合わせて敵スタンドもどこかへと消えてしまった。
「手応えはあったが…や…殺ってねーッ。あっという間に小さくなって空間に消えやがったッ!」
「桂木、大丈夫か! 今そちらに…」
「だめ…こないで……」
弥子に駆け寄ろうとするアヴドゥルを、弥子本人が止めた。
その直後、弥子とアヴドゥルの直線上の床がえぐられる。
それだけでは終わらず、弥子の周囲の床や壁が次々と削られていく。
「ヤベェッ、ヤコ!」
「ダメだポルナレフ! いま桂木のほうへ向かったら、我々が危ないッ!」
「じゃあどうしろってんだ!」
助けに行きたいのに、行けない。敵スタンドの攻撃を防ぎながら弥子のもとへと向かう方法がない。二人が手をこまねいている間にも、隣の部屋や上下の階が見えるほどに、弥子の周囲が削られていく。やがて弥子が立っている床でさえヒビが入って、今にも崩れ落ちそうになった。
「……イギー?」
「…ぁぎっ?」
かぼそい声で、弥子は震えたまま何もできずにいるイギーを呼んだ。
イギーは弥子を見捨てるつもりだった。敵が弥子を攻撃している間に逃げ出してしまおうと、そう考えていた。今までの自分なら迷わず見捨てていただろう。しかしイギーはなぜか、逃げることもできず、かといって弥子を救うこともできず、弥子が追い詰められていくのを見ていることしかできなかった。
そして弥子は、イギーの葛藤を見抜いていた。
「…ポルナレフさんとアヴドゥルさんのこと、……よろしくね…?」
「い、ぎぃ?」
笑顔で託した弥子から、イギーは目をそらせなかった。
そうこうしているうちに、弥子の背後に敵スタンドが姿を現した。
「…『魔帝7ツ兵器』…『国を喰う土地イビルマッド』」
それと同時に、弥子の隣に立ったスタンドの足元から、土の塊が這い出てくる。それは一つ目の巨人のような出で立ちをしたゴーレムだった。その大きさは優に三メートルを超え、ゴボリゴボリと体積を増やし続けている。
ゴーレムは襲い来る敵スタンドを、本体の弥子ごと飲み込み、下の階へと落ちていった。
「ヤコオォーッ!」
「桂木!!……っな、イギー!?」
弥子を助けようとする二人を意思を持った砂が引き止める。イギーの愚者ザ・フールだ。
彼らがいる場所はすでに倒壊を始めている。別の部屋に行かなければ、彼らも無事ではすまないだろう。
「ポルナレフッ、今は退くんだ!」
「だがっ、ヤコが下に!」
「わたしは言ったはずだ! 自分の安全を第一に考えろと!」
「あぎぃっ」
なおも残ろうとするポルナレフを、イギーの愚者ザ・フールが引っぱる。
ボロボロと床が崩れ落ちる。
三人は階段を駆け上がるほかなかった。
残されたアヴドゥル、ポルナレフ、弥子、イギーは館への突入を決行する。
「ポルナレフ、弥子。突入する前にひとつだけ言っておきたい。」
じっとりとした空気の中、アヴドゥルが言った。
「わたしは、もしこの館の中でお前たちが行方不明になったり、負傷しても助けないつもりでいる…。イギー、お前もだ」
自分の安全を第一に考えろ、とアヴドゥルは続ける。
それにお互い了承の意を示して、三人は固く握手を交わした。
(たぶん、最初に約束を破るのはアヴドゥルさんだろうな…)
五十日にも渡る旅の中で、弥子はアヴドゥルの熱い性格とどこか甘い部分があるところに気がついていた。
仲間が危機に直面したとき、アヴドゥルは敵を仕留めるのではなく、仲間を助けるために動く。そんな場面を何度も見てきて、彼がそういう人だと知っている。
なんとなく嫌な予感がして、弥子は自分の胸がざわつくのを感じた。
▼▲▼▲▼
アヴドゥルが放った生物探知機の炎と、イギーの鼻、弥子の魔界の凝視虫イビルフライデーで周囲を警戒しながら進む。
ジョセフたちを探しに下へと向かった先で、隠れていたスタンド使いを一人倒した。それにより、館にかけられていた幻覚が消える。
そこでふと、アヴドゥルは自身が触れていた壁に刻まれた文字に気づく。アヴドゥルの歩みが止まったことに気づいた弥子も、その文字を目にした。
『うしろをふり向いた時 おまえらは 死ぬ』
「………っ、『城壁の苔イビルサラウンダー』! 『醜い姿見イビルリフレクター』!」
後ろを振り向かずに、弥子は魔界の凝視虫イビルフライデーを解除し、城壁の苔イビルサラウンダーでアヴドゥルを絡め取ってポルナレフの方向に投げ飛ばした。それもすぐに解除し、自身は醜い姿見イビルリフレクターで防御する。
直感だった。
三人に前方の警戒を任せて、弥子は後方を中心に全体を魔界の凝視虫イビルフライデーで監視していた。その目には何も写ってはいなかった。しかし、何かがいると思った。
その直感は、当たりだった。
パリン、と弥子を覆う鏡が割れる。
「ヤコッ! お、おまえ…!」
「動くな、ポルナレフ! 敵はまだ近くにいる!」
動揺するポルナレフをいさめるアヴドゥル。しかし彼もまた、動揺を隠せずにいた。イギーは突然現れた敵に怯えつつも、今はまだ見えるその姿を注視している。
そして弥子は、
「………っ、……ごふっ…」
削られたかのように裂かれた腹部をかばって、壁に寄りかかって立っていた。口からゴボリと血があふれる。
その顔は青ざめており、立っているのがやっとの状態だった。
「このクリームの襲撃に気づくとは……桂木弥子…やはり侮れない……アヴドゥルでもポルナレフでもなく、貴様を先に狙うべきだったか…」
弥子の腹をえぐった敵スタンドは、上半身と腕だけの奇妙な形をしていた。
そのスタンドの口から、男が顔を出す。
「このヴァニラ・アイスの暗黒空間にばらまいてやる」
敵スタンドは弥子へと照準を変えて、襲いかかろうとした。
「銀の戦車シルバーチャリオッツ!」
それをポルナレフが素早い剣戟で防ぐ。銀の戦車シルバーチャリオッツは建物の壁を破壊し、それに合わせて敵スタンドもどこかへと消えてしまった。
「手応えはあったが…や…殺ってねーッ。あっという間に小さくなって空間に消えやがったッ!」
「桂木、大丈夫か! 今そちらに…」
「だめ…こないで……」
弥子に駆け寄ろうとするアヴドゥルを、弥子本人が止めた。
その直後、弥子とアヴドゥルの直線上の床がえぐられる。
それだけでは終わらず、弥子の周囲の床や壁が次々と削られていく。
「ヤベェッ、ヤコ!」
「ダメだポルナレフ! いま桂木のほうへ向かったら、我々が危ないッ!」
「じゃあどうしろってんだ!」
助けに行きたいのに、行けない。敵スタンドの攻撃を防ぎながら弥子のもとへと向かう方法がない。二人が手をこまねいている間にも、隣の部屋や上下の階が見えるほどに、弥子の周囲が削られていく。やがて弥子が立っている床でさえヒビが入って、今にも崩れ落ちそうになった。
「……イギー?」
「…ぁぎっ?」
かぼそい声で、弥子は震えたまま何もできずにいるイギーを呼んだ。
イギーは弥子を見捨てるつもりだった。敵が弥子を攻撃している間に逃げ出してしまおうと、そう考えていた。今までの自分なら迷わず見捨てていただろう。しかしイギーはなぜか、逃げることもできず、かといって弥子を救うこともできず、弥子が追い詰められていくのを見ていることしかできなかった。
そして弥子は、イギーの葛藤を見抜いていた。
「…ポルナレフさんとアヴドゥルさんのこと、……よろしくね…?」
「い、ぎぃ?」
笑顔で託した弥子から、イギーは目をそらせなかった。
そうこうしているうちに、弥子の背後に敵スタンドが姿を現した。
「…『魔帝7ツ兵器』…『国を喰う土地イビルマッド』」
それと同時に、弥子の隣に立ったスタンドの足元から、土の塊が這い出てくる。それは一つ目の巨人のような出で立ちをしたゴーレムだった。その大きさは優に三メートルを超え、ゴボリゴボリと体積を増やし続けている。
ゴーレムは襲い来る敵スタンドを、本体の弥子ごと飲み込み、下の階へと落ちていった。
「ヤコオォーッ!」
「桂木!!……っな、イギー!?」
弥子を助けようとする二人を意思を持った砂が引き止める。イギーの愚者ザ・フールだ。
彼らがいる場所はすでに倒壊を始めている。別の部屋に行かなければ、彼らも無事ではすまないだろう。
「ポルナレフッ、今は退くんだ!」
「だがっ、ヤコが下に!」
「わたしは言ったはずだ! 自分の安全を第一に考えろと!」
「あぎぃっ」
なおも残ろうとするポルナレフを、イギーの愚者ザ・フールが引っぱる。
ボロボロと床が崩れ落ちる。
三人は階段を駆け上がるほかなかった。
