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第18話 水【げぶしん】

 車を走らせ、ジョースター一行はアスワンの病院へと向かった。アヴドゥルと花京院を医者に任せて、残りの四人は休憩するため町を歩いていた。
 道中、承太郎によりもたらされた「エジプト9栄神」という新たな追っ手の情報に、ジョセフは周囲を警戒しているようだった。
 適当に入った店でコーラを人数分(+弥子用に五本)注文したが、冷蔵庫が壊れているためコーラは冷えていなかった。代わりに紅茶を頼んだが、イギーが乱入したことにより飲みそびれてしまう。

「弥子、少し付き合え」
「? うん」

 直接歩いて病院に行くという承太郎が、弥子を呼び止めた。
 歩きながら、承太郎は先日のンドゥールとの戦いについて話した。
 ンドゥールが、自分の死を選んででもDIOの情報を守ろうとしたことも。

「弥子……オメーはDIOに会ったと言ったな…。DIOというのは、どんな男だ? なぜそいつは人を狂信的に惹きつけると思う?」
「…………」

 人を狂信的に惹きつける。
 その言葉を聞いた弥子の脳裏に、二人の人物が浮かび上がった。

 一人は歌を愛するがあまりに大切な友人を二人殺した女性のこと。
 彼女による殺人が公表された後も、彼女の人気がなくなることはなかった。むしろ、刑務所に入って、自身の罪を見つめ直した後のほうが、彼女のファンは増加した。彼女が本当の「ひとりきり」になり、彼女の歌が進化したからだ。

 もう一人は、人間として進化した新たな種、その頂点に立った男のこと。
 彼は邪悪を煮詰めたような男だった。しかし彼には、多くの部下がついていた。ささいなミスで、いやミスをしなくとも彼の気まぐれか何かで、簡単に、無慈悲に、残酷に、殺されてしまうと言うのに。

 この二人は、考え方も生き方も好きなものも人の殺し方でさえまったく異なるのに、信仰とさえ言えるほどの求心力を持っていた点で似ている。
 歌を愛して、罪を償い、生きた彼女。
 自身の進化のみを許容し、人を殺すことをなんとも思わず、とある魔人との縄張り争いに負けて死んだ男。
 その二人を思い出しながら、弥子は口を開いた。

「DIOと話したのは短い時間だったから、私の直感みたいなものしか言えないけど…」
「ああ、それで構わない」
「うん……私ね、今までも人を狂信的に惹きつける人を見てきたんだ。それで、なんとなくだけど共通点みたいなものがあるんじゃないかなって…」

 不安げに話す弥子の言葉を、承太郎は無言で待った。

「まず、優しそうな人。心の中でどんな歪んだ想いや強い野望を持っていても、その人自身はとても優しそうなの。近しい人を殺されても、窮地に陥っても、誰かを殺したときだって、微笑みを絶やさないでいられる人。自分が何をしても、この人の優位は崩れないんじゃないかって。もしこの人に嫌われたら、自分に原因があるんじゃないかって。この人の微笑みが崩れたら、何かよくないことが起こるんじゃないかって。そう思わせるくらいに優しそうな人」

 ぽつり、ぽつりと、自分の中の言葉を探しながら話す弥子。

「それから他の人には無い、その人特有のなにか…強みを持ってること。神がかってるような、同じ人間だとは思えないような、そんななにか。絶対にこの人にはかなわない。対立するよりむしろ、賛同したほうが自分に得があると思えるほどの、強いなにか」

 持論でしかない弥子の話を、承太郎は静かに聞いていた。

「最後に、この人と自分との間に共通点があると人に思わせること。親近感、って言ってもいいかもしれない。この人と自分は同じ境遇を持ってる、似通った力や能力を持ってる、似たような考え方をしている、この人と自分はわかり合える。でも、自分よりこの人のほうが優れてる。…そのことに気づいたら、その人の力になりたい。支えたいって、思っちゃうの。孤独感を持ってる人や、違和感を抱えて生きている人ならなおさら、そう思うんだって」
「…つまり、DIOもその特徴を持っていると?」
「うーん……まだはっきりとは言えない。でも、信仰の対象になるような人を思い浮かべると、そんな感じの人が多いなーって思って…」

 弥子の話を聞いて、承太郎はしばらく考え込んだ。
 病院までの道を、二人は無言で歩き続ける。

「…承太郎くん、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「どうして私に聞いたの? 花京院くんやポルナレフさん、アヴドゥルさんだってDIOと会ったことがあるし、どんな人がどんな人を惹きつけるか、とかは年長者のジョースターさんのほうが知ってると思うけど…」
「オメーはよく人を見てるだろ。仲間も敵も、スタンドに関係ない奴でも。相手の中身を観察するその洞察力……けっこう評価してんだぜ」
「そっ…か。照れるなー、承太郎くんにそう言ってもらえるなんて」

 笑いながら言う弥子の顔は、少し赤くなっていた。


 その後合流したジョセフとポルナレフと話が食い違ったりしたが、アヴドゥルが退院するまではとくに敵に襲われることもなく過ごした。
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