第18話 水【げぶしん】
ついにエジプトへと上陸したジョースター一行は、その広大な砂漠地帯で、とある助っ人を連れて来たSPW財団のヘリコプターを待っていた。
少し性格に問題がある、「愚者ザ・フール」のカードの暗示をもつスタンド使いーージョセフはその助っ人をそう評した。
「敵でなくてよかったって思うぞ。お前には勝てん」
“fool”の単語に笑いをこぼすポルナレフをアヴドゥルがいさめる。
(アヴドゥルさんがそこまで言うなんて……どんな人なんだろう)
ヘリコプターが着陸し、SPW財団員の男が二人降りてくる。どうやらスタンド使いの助っ人はその二人ではなく、後部座席にいるらしい。しかし後部座席にはブランケットがあるだけで、誰もいない。
調子に乗ったポルナレフが座席を乱暴に叩いて挑発すると、ブランケットから一匹の犬が飛び出してきた。そのボストンテリアはポルナレフの髪の毛をめちゃくちゃにした挙げ句、彼の顔の上で屁をこいた。
ずいぶんいたずら好きな犬のようだ。
「このド畜生ッ! こらしめてやるッ!」
銀の戦車シルバーチャリオッツを出したポルナレフが攻撃しようとすると、その犬、イギーも自身のスタンドを出して応戦した。
イギーのスタンド、愚者ザ・フールは砂のスタンド。物理攻撃は効かないらしく、チャリオッツの攻撃をものともしない。
強力な助っ人ではあるが、人に懐かないどころかプライドが高く、かなり厄介なスタンド使いのようだ。
アヴドゥルがイギーの好物であるコーヒーガムで気を引いている間に、皆で荷物を移動させた。
▼▲▼▲▼
記念写真を撮ったり情報交換をして、一行は再び車で移動をはじめる。しかし後部座席はイギーに占拠されてしまっていた。
「なんで俺らはダメで、ヤコはいいんだよッ」
唯一イギーに威嚇されず、後部座席に座ることを許された弥子が苦笑いする。
「なんでだろ…。美味しそうな匂いでもするのかなあ?」
「懐いているわけでもないようですしね……。そういえば、犬や猫は男性より女性の声を好むと聞いたことがありますが」
「だが、SPW財団の女性財団員にも懐くことはなかったぞ。しかし桂木に対しては、懐いてはいないが拒絶もしていない…。なんの違いがあるんだ?」
「ヤコー、そいつどーにかしてくれよ」
「うーん…でもあまり構い過ぎると私も唸られちゃうんだよね…」
「フンッ」
と、ジョセフが急ブレーキを踏む。
先ほど世話になったばかりのSPW財団のヘリコプターが墜落していたのだ。
パイロットの一人はすでに死んでいた。死因は溺死だった。
(砂漠の中で、溺死………?)
それは、明らかな『謎』だった。そして今の弥子にとって、『謎』とはスタンドによって引き起こされるものである。
「もしかして、スタンド攻撃…!?」
「お、おい…もう一人はここにいる! 生きてるぞ!」
もう一人のパイロットは、かなり衰弱していたが生きていた。しかし「水が襲ってくる」という言葉と共に殺されてしまった。水筒から出てきた水のスタンドによって、頭を引きずり込まれて。
▼▲▼▲▼
「ポルナレフ、水筒を攻撃しろ」
敵の本体が見つからず、焦れた花京院がポルナレフに言う。
どちらが攻撃するか、口論になりかけた二人の傍に、水のスタンドがすでに忍び寄っていた。
手の形をした水のスタンドが、花京院の目を攻撃する。
「花京院がやられたッ! 花京院が目をッ」
叫んだポルナレフにも敵スタンドが攻撃をしかけようとした。そのとき、先ほど殺されたSPW財団員の腕時計が鳴る。敵スタンドはその腕時計を攻撃した。
敵のスタンド使いは、音で探知して攻撃している。
そのことに気づいた一行は車の上に乗って攻撃をやり過ごした。しかし今度は車のタイヤが引きずり込まれてしまう。
皆外に放り出されてしまい、落ちた場所から一歩も動けずにいた。その中でアヴドゥルが腕輪を一定間隔で投げ、敵スタンドを誘い込もうとする。
(……断面への投擲イビルジャベリン)
アヴドゥルの近くにいた弥子が自身のスタンドの腕を巨大な刃物へ変形させ、迎え撃つ準備をする。
腕輪の近くに、うすらと水溜まりができる。
魔術師の赤マジシャンズレッドが攻撃をしかけた。
倒れたのは、アヴドゥルだった。
敵スタンドがアヴドゥルの喉元に迫る。
そのとき、何を思ったのか承太郎が走り出した。
敵スタンドはアヴドゥルを攻撃するのをやめ、その代わり砂に潜って承太郎を追いかけはじめる。
(アヴドゥルさんは殺されずにすんだ……けど、今度は承太郎くんが危ない…!)
「拒食のイビル……!」
弥子が自身のスタンドの能力を発動しようとしたとき、承太郎が寝そべっていたイギーを拾い上げて、あろうことか立ち止まった。
迫り来る敵スタンド。
イギーは自身のスタンド「愚者ザ・フール」で宙に浮き、逃れようとする。
承太郎もイギーに捕まり、空中に浮くことで攻撃を回避した。
▼▲▼▲▼
「もはやこの戦い、承太郎に任せるしかない」
ジョセフの言葉に、ポルナレフと弥子は無言で頷いた。
音で位置を見抜く敵。砂に潜り姿を隠す敵スタンド。見えぬ本体。
残された彼らにできることは、負傷した味方の傷を応急手当することだけだ。
「だがよ、花京院とアヴドゥルの怪我は大丈夫なのか? アヴドゥルは首筋を、花京院は目をやられてるぜ」
「わしの波紋と桂木のスタンド能力を使って回復させるしかあるまい。桂木、手伝ってくれ」
「はい」
ジョセフの言葉に、弥子は自身のスタンドを隣に浮かび上がらせた。
「回復って…ジョースターさんの波紋は知ってるが、お前もできんのか? 何で今までやらなかったんだよ」
「効率が悪すぎるんだよ。完全回復するには数日間動かないでじっとしてなきゃいけないの。短時間じゃたいして回復できないし」
「じゃが、今は緊急事態だ。ほんの少しでも二人の傷を癒やさなければ…桂木、お前は花京院を頼む」
「わかりました、ジョースターさん。…治癒の失速イビルストール」
弥子のスタンド、イルミネイト・スルー・ロンリネスが極彩色の羽に包まれた腕の中からストールを取り出し、それを花京院の首元に巻いた。
「……そんだけ?」
「うん、これだけ」
「治ってるように見えねえけど」
「言ったでしょ。完全回復するには長期間必要なの」
「…その間、お前何してんの?」
「何もできないよ。本人の回復力をほんのちょっと増進させるだけだから」
「……だいぶ使いづらいな、お前の回復能力」
「だから今まで使わなかったの。戦闘中に使ったって意味ないし」
なんとも言えない反応をするポルナレフに対し、弥子は淡々と返す。
「ポルナレフ。お前は車のほうを何とかしてくれ」
「はいよ。ジョースターさん」
ジョセフの指示に、ポルナレフは砂に埋もれかかっている車を修復にかかった。
(承太郎くん……)
承太郎が本体を倒し次第、負傷した二人を病院に運ばなければいけない。
でももし承太郎が、逆に倒されてしまったら?
(……考えちゃだめだ)
信じよう。
大丈夫。承太郎くんなら。
▼▲▼▲▼
ポルナレフが車の修復を終わらせ、二人の手当ても一段落した。承太郎の元へ車を走らせると、すでに戦いは終わっていた。立っていたのは、承太郎だった。
「承太郎くん! よかった、勝ったんだ……」
駆け寄った弥子は、承太郎の後ろに立つ金属製の杖に気づいた。
その杖は、小さな砂の丘に刺さって立っていた。まるで小さな墓標のように。
「自害しやがった……DIOの情報を渡さないためにな」
どこか複雑そうな表情の承太郎が言う。車に乗り込んでからも、承太郎は無言のままだった。
少し性格に問題がある、「愚者ザ・フール」のカードの暗示をもつスタンド使いーージョセフはその助っ人をそう評した。
「敵でなくてよかったって思うぞ。お前には勝てん」
“fool”の単語に笑いをこぼすポルナレフをアヴドゥルがいさめる。
(アヴドゥルさんがそこまで言うなんて……どんな人なんだろう)
ヘリコプターが着陸し、SPW財団員の男が二人降りてくる。どうやらスタンド使いの助っ人はその二人ではなく、後部座席にいるらしい。しかし後部座席にはブランケットがあるだけで、誰もいない。
調子に乗ったポルナレフが座席を乱暴に叩いて挑発すると、ブランケットから一匹の犬が飛び出してきた。そのボストンテリアはポルナレフの髪の毛をめちゃくちゃにした挙げ句、彼の顔の上で屁をこいた。
ずいぶんいたずら好きな犬のようだ。
「このド畜生ッ! こらしめてやるッ!」
銀の戦車シルバーチャリオッツを出したポルナレフが攻撃しようとすると、その犬、イギーも自身のスタンドを出して応戦した。
イギーのスタンド、愚者ザ・フールは砂のスタンド。物理攻撃は効かないらしく、チャリオッツの攻撃をものともしない。
強力な助っ人ではあるが、人に懐かないどころかプライドが高く、かなり厄介なスタンド使いのようだ。
アヴドゥルがイギーの好物であるコーヒーガムで気を引いている間に、皆で荷物を移動させた。
▼▲▼▲▼
記念写真を撮ったり情報交換をして、一行は再び車で移動をはじめる。しかし後部座席はイギーに占拠されてしまっていた。
「なんで俺らはダメで、ヤコはいいんだよッ」
唯一イギーに威嚇されず、後部座席に座ることを許された弥子が苦笑いする。
「なんでだろ…。美味しそうな匂いでもするのかなあ?」
「懐いているわけでもないようですしね……。そういえば、犬や猫は男性より女性の声を好むと聞いたことがありますが」
「だが、SPW財団の女性財団員にも懐くことはなかったぞ。しかし桂木に対しては、懐いてはいないが拒絶もしていない…。なんの違いがあるんだ?」
「ヤコー、そいつどーにかしてくれよ」
「うーん…でもあまり構い過ぎると私も唸られちゃうんだよね…」
「フンッ」
と、ジョセフが急ブレーキを踏む。
先ほど世話になったばかりのSPW財団のヘリコプターが墜落していたのだ。
パイロットの一人はすでに死んでいた。死因は溺死だった。
(砂漠の中で、溺死………?)
それは、明らかな『謎』だった。そして今の弥子にとって、『謎』とはスタンドによって引き起こされるものである。
「もしかして、スタンド攻撃…!?」
「お、おい…もう一人はここにいる! 生きてるぞ!」
もう一人のパイロットは、かなり衰弱していたが生きていた。しかし「水が襲ってくる」という言葉と共に殺されてしまった。水筒から出てきた水のスタンドによって、頭を引きずり込まれて。
▼▲▼▲▼
「ポルナレフ、水筒を攻撃しろ」
敵の本体が見つからず、焦れた花京院がポルナレフに言う。
どちらが攻撃するか、口論になりかけた二人の傍に、水のスタンドがすでに忍び寄っていた。
手の形をした水のスタンドが、花京院の目を攻撃する。
「花京院がやられたッ! 花京院が目をッ」
叫んだポルナレフにも敵スタンドが攻撃をしかけようとした。そのとき、先ほど殺されたSPW財団員の腕時計が鳴る。敵スタンドはその腕時計を攻撃した。
敵のスタンド使いは、音で探知して攻撃している。
そのことに気づいた一行は車の上に乗って攻撃をやり過ごした。しかし今度は車のタイヤが引きずり込まれてしまう。
皆外に放り出されてしまい、落ちた場所から一歩も動けずにいた。その中でアヴドゥルが腕輪を一定間隔で投げ、敵スタンドを誘い込もうとする。
(……断面への投擲イビルジャベリン)
アヴドゥルの近くにいた弥子が自身のスタンドの腕を巨大な刃物へ変形させ、迎え撃つ準備をする。
腕輪の近くに、うすらと水溜まりができる。
魔術師の赤マジシャンズレッドが攻撃をしかけた。
倒れたのは、アヴドゥルだった。
敵スタンドがアヴドゥルの喉元に迫る。
そのとき、何を思ったのか承太郎が走り出した。
敵スタンドはアヴドゥルを攻撃するのをやめ、その代わり砂に潜って承太郎を追いかけはじめる。
(アヴドゥルさんは殺されずにすんだ……けど、今度は承太郎くんが危ない…!)
「拒食のイビル……!」
弥子が自身のスタンドの能力を発動しようとしたとき、承太郎が寝そべっていたイギーを拾い上げて、あろうことか立ち止まった。
迫り来る敵スタンド。
イギーは自身のスタンド「愚者ザ・フール」で宙に浮き、逃れようとする。
承太郎もイギーに捕まり、空中に浮くことで攻撃を回避した。
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「もはやこの戦い、承太郎に任せるしかない」
ジョセフの言葉に、ポルナレフと弥子は無言で頷いた。
音で位置を見抜く敵。砂に潜り姿を隠す敵スタンド。見えぬ本体。
残された彼らにできることは、負傷した味方の傷を応急手当することだけだ。
「だがよ、花京院とアヴドゥルの怪我は大丈夫なのか? アヴドゥルは首筋を、花京院は目をやられてるぜ」
「わしの波紋と桂木のスタンド能力を使って回復させるしかあるまい。桂木、手伝ってくれ」
「はい」
ジョセフの言葉に、弥子は自身のスタンドを隣に浮かび上がらせた。
「回復って…ジョースターさんの波紋は知ってるが、お前もできんのか? 何で今までやらなかったんだよ」
「効率が悪すぎるんだよ。完全回復するには数日間動かないでじっとしてなきゃいけないの。短時間じゃたいして回復できないし」
「じゃが、今は緊急事態だ。ほんの少しでも二人の傷を癒やさなければ…桂木、お前は花京院を頼む」
「わかりました、ジョースターさん。…治癒の失速イビルストール」
弥子のスタンド、イルミネイト・スルー・ロンリネスが極彩色の羽に包まれた腕の中からストールを取り出し、それを花京院の首元に巻いた。
「……そんだけ?」
「うん、これだけ」
「治ってるように見えねえけど」
「言ったでしょ。完全回復するには長期間必要なの」
「…その間、お前何してんの?」
「何もできないよ。本人の回復力をほんのちょっと増進させるだけだから」
「……だいぶ使いづらいな、お前の回復能力」
「だから今まで使わなかったの。戦闘中に使ったって意味ないし」
なんとも言えない反応をするポルナレフに対し、弥子は淡々と返す。
「ポルナレフ。お前は車のほうを何とかしてくれ」
「はいよ。ジョースターさん」
ジョセフの指示に、ポルナレフは砂に埋もれかかっている車を修復にかかった。
(承太郎くん……)
承太郎が本体を倒し次第、負傷した二人を病院に運ばなければいけない。
でももし承太郎が、逆に倒されてしまったら?
(……考えちゃだめだ)
信じよう。
大丈夫。承太郎くんなら。
▼▲▼▲▼
ポルナレフが車の修復を終わらせ、二人の手当ても一段落した。承太郎の元へ車を走らせると、すでに戦いは終わっていた。立っていたのは、承太郎だった。
「承太郎くん! よかった、勝ったんだ……」
駆け寄った弥子は、承太郎の後ろに立つ金属製の杖に気づいた。
その杖は、小さな砂の丘に刺さって立っていた。まるで小さな墓標のように。
「自害しやがった……DIOの情報を渡さないためにな」
どこか複雑そうな表情の承太郎が言う。車に乗り込んでからも、承太郎は無言のままだった。
