第15話 夢【しにがみ】
墜落したセスナから荷物を運び出す際に、弥子は後部座席のシートに血が滴っているのに気がついた。
(ここ、花京院くんが座ってたとこだよね。墜落したときに怪我でもしたのかな?)
荷物をあらかた運び出して、弥子はうなだれている花京院に歩み寄った。
「花京院くん、もしかして怪我してない? シートに血がついていたけど…」
「えっ…本当だ。腕に切り傷がついている…、…いつの間に」
うなされたときにでもどこかに引っかけたんだろうか。そう続けようとした花京院の目に飛び込んできたのは、腕に刻まれたアルファベット。
「なんだ…? 傷が文字になっているぞ……『BABY』、『STAND』…」
「これって…」
「僕の筆跡だ…! 覚えていないッ! 自分で傷をつけたのか!?」
「BABY…」
弥子が赤ん坊を見ると、赤ん坊は睨むようにこちらを、花京院を見ていた。
そして弥子と目があった途端、目をそらした。確信する。あの赤ん坊は普通ではないと。
弥子が花京院から話を詳しく聞こうとすると、花京院は赤ん坊をつかみ上げた。
「ちょっ、花京院くん…」
弥子が止めに入ろうとすると、赤ん坊が泣き出し、花京院はジョセフから叱責を受けてしまう。
赤ん坊はそれを見て、嘲笑うような表情を浮かべていた。
▼▲▼▲▼
砂漠でたき火を囲んでの食事。以前までは襲撃に備えつつも楽しく過ごしていた。けれど今夜は、どこか不穏な空気が漂っている。
花京院のそばに座って普段よりは控えめに食事をしていた弥子は、赤ん坊の様子を見張っていた。
(…もし、あの赤ん坊がスタンド使いだったとして、…私達を敵だと認識しているとして…、どうみんなに伝えればいいんだろう)
仮にスタンド使いだったとしても赤ん坊が人を殺そうとするはずなんてない、とみんなは思うのだろう。普通はそうだ。赤ん坊にそんな知能はない。
しかし弥子は知っている。想像を絶する悪意を持つ一族、『新しい血族』。かつてその頂点に立っていたシックスという男は、生まれたばかりのころ、同じ新生児室にいた他の赤ん坊全ての頸動脈を掻き切るという事件を起こしていた。
一歳に満たずとも、悪意を持って他人を殺せる赤ん坊はいる。そのことを知っているからこそ、弥子はあの赤ん坊がスタンド使いであり敵であると確信したのだ。
ふと、ミルクの美味しそうな匂いがして顔を上げる。見ると、ジョセフが赤ん坊のためのベビーフードを作っていた。
(おいしそう…)
甘い匂いにつられて、弥子は赤ん坊から視線を外してしまう。
「ジョースターさん、ポルナレフッ。今のを見ましたかッ! やはりこの赤ん坊普通じゃあないッ!」
突然、花京院が声を上げた。
「今、サソリを殺したんですッ」
「花京院ちょっと待て、何を言っとるんだ?」
赤ん坊がサソリを殺したと、花京院が言う。しかし赤ん坊のカゴの中にはサソリの死骸などなかった。
「………弥子ちゃん、君も見ていただろう?」
「…ごめん、花京院くん。さっき赤ん坊から目を離していて…」
申し訳なさそうに言う弥子を、花京院は責めることはできなかった。
▼▲▼▲▼
「見てください、この腕の傷をッ。この文字を! これは警告なんですッ!」
自分の腕の文字を見せて、この赤ん坊は敵だと主張する花京院。しかしそれを見て信じる者はいなかった。
「みんな、花京院くんの傷は…「ハイエロファントグリーン!」…花京院くん!」
弥子の声を遮り、強硬手段を取ろうとした花京院を、ポルナレフが当て身を食らわせて気絶させる。
「彼のことは明日の朝考えよう。寝るぞ」
「ジョースターさん、花京院くんの腕の傷は…」
「無理にかばわなくていいぜ、ヤコ。分かってるから」
なだめるようにポルナレフに言われて、弥子は仕方なく口を閉ざす。
今どんなに言葉を尽くそうとも、それが三人に届くことはないだろう。
(花京院くんは夢で襲ってくるスタンドだって言ってた。ポルナレフさんもセスナの中でうなされてた。寝たら攻撃を受ける。どうしたらいいの…?)
いっそずっと寝ずに見張っていようか。いや、それだと赤ん坊は警戒して攻撃を仕掛けてこないだろう。そうすると明日になってもみんなは赤ん坊を疑わないはず。そしてまた夜になって寝ずの番をする? いや、そんなことを続けてもすぐに限界が来るはずだ。そうこうしているうちに他のスタンド使いが襲ってこないとも限らないし、私まで精神が不安定になっていると疑われそう。
弥子が対応を決めあぐねていると、花京院の影のなかにキラリと光るものが見えた。
(……?)
そっと近づいて花京院の足元を、目をこらして観察する。花京院の影の中に、法皇の緑ハイエロファントグリーンの触脚がわずかに見えた。
(もしかして、スタンドを出したままなら夢の中でも反撃できる…!?)
ありうる。スタンドに対抗できるのはスタンドだけだ。
「…………」
ちらりと赤ん坊を見る。赤ん坊はすやすやと眠っていた。
それを見た弥子は、自身の影にそっとスタンドを潜り込ませて、寝袋に入って眠った。
(ここ、花京院くんが座ってたとこだよね。墜落したときに怪我でもしたのかな?)
荷物をあらかた運び出して、弥子はうなだれている花京院に歩み寄った。
「花京院くん、もしかして怪我してない? シートに血がついていたけど…」
「えっ…本当だ。腕に切り傷がついている…、…いつの間に」
うなされたときにでもどこかに引っかけたんだろうか。そう続けようとした花京院の目に飛び込んできたのは、腕に刻まれたアルファベット。
「なんだ…? 傷が文字になっているぞ……『BABY』、『STAND』…」
「これって…」
「僕の筆跡だ…! 覚えていないッ! 自分で傷をつけたのか!?」
「BABY…」
弥子が赤ん坊を見ると、赤ん坊は睨むようにこちらを、花京院を見ていた。
そして弥子と目があった途端、目をそらした。確信する。あの赤ん坊は普通ではないと。
弥子が花京院から話を詳しく聞こうとすると、花京院は赤ん坊をつかみ上げた。
「ちょっ、花京院くん…」
弥子が止めに入ろうとすると、赤ん坊が泣き出し、花京院はジョセフから叱責を受けてしまう。
赤ん坊はそれを見て、嘲笑うような表情を浮かべていた。
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砂漠でたき火を囲んでの食事。以前までは襲撃に備えつつも楽しく過ごしていた。けれど今夜は、どこか不穏な空気が漂っている。
花京院のそばに座って普段よりは控えめに食事をしていた弥子は、赤ん坊の様子を見張っていた。
(…もし、あの赤ん坊がスタンド使いだったとして、…私達を敵だと認識しているとして…、どうみんなに伝えればいいんだろう)
仮にスタンド使いだったとしても赤ん坊が人を殺そうとするはずなんてない、とみんなは思うのだろう。普通はそうだ。赤ん坊にそんな知能はない。
しかし弥子は知っている。想像を絶する悪意を持つ一族、『新しい血族』。かつてその頂点に立っていたシックスという男は、生まれたばかりのころ、同じ新生児室にいた他の赤ん坊全ての頸動脈を掻き切るという事件を起こしていた。
一歳に満たずとも、悪意を持って他人を殺せる赤ん坊はいる。そのことを知っているからこそ、弥子はあの赤ん坊がスタンド使いであり敵であると確信したのだ。
ふと、ミルクの美味しそうな匂いがして顔を上げる。見ると、ジョセフが赤ん坊のためのベビーフードを作っていた。
(おいしそう…)
甘い匂いにつられて、弥子は赤ん坊から視線を外してしまう。
「ジョースターさん、ポルナレフッ。今のを見ましたかッ! やはりこの赤ん坊普通じゃあないッ!」
突然、花京院が声を上げた。
「今、サソリを殺したんですッ」
「花京院ちょっと待て、何を言っとるんだ?」
赤ん坊がサソリを殺したと、花京院が言う。しかし赤ん坊のカゴの中にはサソリの死骸などなかった。
「………弥子ちゃん、君も見ていただろう?」
「…ごめん、花京院くん。さっき赤ん坊から目を離していて…」
申し訳なさそうに言う弥子を、花京院は責めることはできなかった。
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「見てください、この腕の傷をッ。この文字を! これは警告なんですッ!」
自分の腕の文字を見せて、この赤ん坊は敵だと主張する花京院。しかしそれを見て信じる者はいなかった。
「みんな、花京院くんの傷は…「ハイエロファントグリーン!」…花京院くん!」
弥子の声を遮り、強硬手段を取ろうとした花京院を、ポルナレフが当て身を食らわせて気絶させる。
「彼のことは明日の朝考えよう。寝るぞ」
「ジョースターさん、花京院くんの腕の傷は…」
「無理にかばわなくていいぜ、ヤコ。分かってるから」
なだめるようにポルナレフに言われて、弥子は仕方なく口を閉ざす。
今どんなに言葉を尽くそうとも、それが三人に届くことはないだろう。
(花京院くんは夢で襲ってくるスタンドだって言ってた。ポルナレフさんもセスナの中でうなされてた。寝たら攻撃を受ける。どうしたらいいの…?)
いっそずっと寝ずに見張っていようか。いや、それだと赤ん坊は警戒して攻撃を仕掛けてこないだろう。そうすると明日になってもみんなは赤ん坊を疑わないはず。そしてまた夜になって寝ずの番をする? いや、そんなことを続けてもすぐに限界が来るはずだ。そうこうしているうちに他のスタンド使いが襲ってこないとも限らないし、私まで精神が不安定になっていると疑われそう。
弥子が対応を決めあぐねていると、花京院の影のなかにキラリと光るものが見えた。
(……?)
そっと近づいて花京院の足元を、目をこらして観察する。花京院の影の中に、法皇の緑ハイエロファントグリーンの触脚がわずかに見えた。
(もしかして、スタンドを出したままなら夢の中でも反撃できる…!?)
ありうる。スタンドに対抗できるのはスタンドだけだ。
「…………」
ちらりと赤ん坊を見る。赤ん坊はすやすやと眠っていた。
それを見た弥子は、自身の影にそっとスタンドを潜り込ませて、寝袋に入って眠った。
