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第13話 繋【こいびと】

 ホル・ホースにジープを盗られてしまい、馬車で移動することになったジョースター一行。
 馬車には、敵であるエンヤ婆も乗っていた。DIOのスタンドについて聞き出すためである。
 そして戦いの連続で疲労した弥子もまた、エンヤ婆同様馬車の中で眠っていた。
 カラチに着き、ジョセフがケバブ屋で値段交渉を終え、振り向くと、エンヤ婆が目を覚ましていた。エンヤ婆は顔から汗を拭きだし、目を見開き、がたがたと震えながら叫ぶ。

「わしは! 何もしゃべっておらぬぞッ! このエンヤがDIO様のスタンドの秘密をしゃべるとでも思っていたのかッ!」

 そう叫んだ途端、エンヤ婆の目や口や鼻から触手のようなものがうねうねと這い出てきた。

「なぜ貴様がこのわしを殺しにくるーーーッ!」

 エンヤ婆の頭は触手で引き裂かれ、辺りに鮮血が踊った。
 そしてその血は、隣で眠っていた弥子にも飛びかかった。

「ん…」

 寝起きでぼーっとする弥子の目の前で、触手が躍り出た。それを見た弥子は目をまん丸にして、馬車から飛び降りる。

「私の名はダン……鋼入りのスティーリーダン。スタンドは恋人ラバーズのカードの暗示。君たちにもこのエンヤ婆のようになっていただきます」


▼▲▼▲▼


 エンヤ婆を攻撃したのは、DIOの肉の芽だった。
 ジョセフが最期にDIOについて教えろとエンヤ婆に詰め寄ったが、それでも彼女がDIOについて口を割ることはなかった。
 仲間であるはずのエンヤ婆に手を下したダンを承太郎たち四人が囲むが、囲まれた本人は余裕の表情でくつろいでいる。

「おいタコ! カッコつけて余裕こいたふりすんじゃねえ。てめーがかかってこなくてもやるぜ」
「どうぞ。だが君たちはこの鋼入りのスティーリーダンに指一本さわることはできない」

 その言葉を聞いた承太郎は躊躇なく星の白金スタープラチナで殴りかかった。予想と反してスティーリーダンはあっけなく殴り飛ばされた。

「ぐっ、」
「なに!?」

 それと同時に、弥子が何かに殴り飛ばされたかのように吹っ飛んだ。

「どっ…どうしたヤコ! こいつと同じように飛んだぞ!」
「このバカが……まだ説明は途中だ。もう少しで貴様は仲間を殺すところだった…」
「貴様、恋人ラバーズのカードのスタンドとか言ったな…一体、なんだそれは!?」
「……成る程。なにやら頭の中に妙なものが入り込んでいると思えば……それが貴様のスタンド能力とやらか」

 先ほどからずっと黙っていた弥子が口を開いた。しかし、その口調は常にはないものだった。

「桂木…?」
「ほう。気づいていたか。DIO様が警戒するほどのことはある。一番最初に始末しろと私に命令するほどのことはな」

 弥子の普段との差違を知らないダンが続ける。

「私のスタンドは体内に入り込むスタンド! さっきエンヤ婆が死ぬ瞬間、耳からあなたの脳の奥に潜り込んでいった!」

 ダンの体を傷つければ、弥子の中のスタンドが暴れ出し、同じところを傷つける。その上肉の芽を持って入ったので、時間が経てば内面から食い破られてしまう。
 そう説明したダンの余裕綽々といった表情に、承太郎が苛立った様子でダンの胸倉をつかんだ。

「承太郎落ち着けッ! バカはよせッ!」
「いいや。こいつに痛みを感じる間を与えず、瞬間に殺してみせるぜ」
「ぐ…」

 しかし承太郎につかみ上げられるダンの感触が弥子にも伝わっているようで、弥子がうめき声を上げる。

「はやまるなッ! 承太郎! こいつの能力はすでに見たろう! 仲間を殺す気かッ!」
「ほ…本当にやりかねねーヤツだからな」

 スタンドの腕を出した承太郎に、花京院とポルナレフが止めに入る。その隙を突いてダンは近くにあった岩で承太郎の腹を殴った。

「俺をなめるな。桂木弥子が死んだらその次は、貴様の脳に恋人ラバーズを滑り込ませて殺すッ!」

 続いてダンは承太郎の頭を岩で殴る。承太郎は腕でガードしたが、その表情は苦悶に満ちていた。



「まあ、凡人にできることはここまでか…」
「ん?」
「!」

 スタンド攻撃を仕掛けられた当人でありながらそれまで静観を貫いていた弥子が、おもむろに口を開く。

「しかし、…ふむ、おもしろい能力だ。自分の体と相手の体を連動させる…とは。応用すれば拷問に仕えるかもしれんな」
「話を聞いていなかったのか? 桂木弥子、貴様はもうすぐ俺のスタンドで死ぬと」
「聞いてはいた。まあ、凡人の凡人による凡人のための説明が長すぎて、途中飽きてしまったがな。凡人なら凡人らしく、地べたを這いずり回っていればいいものを…」
「…そうか、もう一度俺の説明を聞きたいようだな?」

 怒りを宿した目で、ダンが弥子を睨む。
 そして足を振り上げ、近くの壁に自分の足を叩きつけた。ビリビリとした振動が弥子にも伝わってくる。

「…………」

 しかし先ほどと違い、弥子は眉をしかめただけで、痛がる声ひとつ上げなかった。

「お、おい、どうしたんだよヤコ。なんかいつもと違うぜ」

 訝しむようにポルナレフが訊ねる。
 普段とあまりにも異なるその雰囲気に、皆が違和感を抱いていた。
 しかしポルナレフの問いには答えず、弥子はおもむろにダンに近づいた。その傍らにスタンドを出現させながら。

「何をしている? 貴様自身のスタンドで攻撃しても、貴様は死ぬんだぞ? 分かっているのか?」
「そうじゃ、危険な真似は止めなさい!」
「なに、攻撃するわけではない。少し遊ぶだけだ」

 そう言って弥子は、似合わないほどに凶悪な笑みを浮かべた。

「き、きさま、本当に何をするつもりだ」

 得体の知れない恐怖に、ダンは一歩後ずさる。
 しかし時すでに遅く、ダンは弥子のスタンドの射程距離に入ってしまっていた。

「魔界777ツ能力…拷問音器「妖謡・救」イビルデスオペレッタ」

 弥子のスタンドがダンの体を押さえつけ、その耳に巻き貝のようなものを差し込んだ。
 その瞬間、

「な、なんだ……やめろ、なに言ってやがる…!」

 ダンが周りをきょろきょろと見ながら、ぶつぶつと呟き始めた。

「うぅ、うるさい、だまれだまれだまれ、おれにいうな、だまれ」

 頭を抱えながら耳を掻きむしるという常軌を逸した行動を始めたダン。
 あまりの変貌ぶりに、ポルナレフは警戒を忘れて思わず一歩下がる。

「お、おい、様子がおかしいぞ」
「桂木、てめー何をした」

 承太郎が弥子の肩をつかむ。それに対し、弥子は平然として言った。

「なに、大したことではない。救いを求める声を一生叫び続ける巻き貝を耳に差し込んだだけだ。今、奴の脳内にはあらゆる声が響いていることだろう。無論、我が輩には聞こえんがな。巻き貝が差し込まれた感触があるだけだ」

 そう、つまり今ダンの耳には、
 『助けて』『タスケテ』『どうか…』『たすけてェ』『おねがい』『だれか』『たすけて』『なんで』『どうして』『たすけてくれないの』
 といった感じで、救いを求める声が老若男女、さらにあらゆる言語で矢継ぎ早に聴こえているのである。
 声が途切れることはなく、また全てを聞き取ることも理解することもできない。声を発する相手が見えるわけでもない。
 ただただ、耳元で救いを求められ続ける。
 いつまで続くのかは、…わからない。

「なんでそんなこと…」
「? スタンドというのは精神エネルギーの塊なのだろう? ならば精神を崩してやればスタンドを解除するはずだ」
「一理あるが…」
「…本当は拷問楽器「妖謡・魔」イビルストリンガーを使用したかったが、それだとヤコの体にも影響が出る。奴隷のために拷問を我慢するとは我が輩は何とよい主人か…」
「おいまて、それだとまるでてめえが桂木じゃねえみたいじゃねえか」
「そうだ、あれがあったではないか」
「聞けよ、人の話」

 弥子はふらつきながら自身の耳を引き千切ろうとしているダンを捕まえ、その両目にスタンドの指を一本ずつ向けた。スタンドの指は小さい機械のように変形している。

「魔界777ツ能力…卑焼け線照射器イビルロウビーム」

 その指から小さな光が走り、ダンの両目を貫いた。

「……? ひ、ひいっ、なんだおまえら! やめろ、なにもってやがる、やめろ!」

 今度は周囲に怯え始めたダンを見て、承太郎は「今度は何をした」と聞いた。

「網膜に映像を焼き付けただけだ。ヤコの最近の記憶の中に、ゾンビに迫られる、というものがあったのでな。それを利用した」
「あー、つまり、今やつは…」
「『助けて』と無数の声が響く中で、ゾンビに囲われる映像を見ている、というわけだ」
「……一生、というわけではないのでしょう?」
「さあな、このスタンドとやらの効果がどの程度なのかまでは知らん。ヤコは使えることは知っていても、好んで使うことはなかったようだからな」

 もはや戦闘とも呼べない状況の中、とうとうダンが泡を吹いて気絶した。
 恋人ラバーズは弥子の体内から消え、残った肉の芽はジョセフが波紋で消滅させた。
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