第11話 車【うんめい】
ベナレスで女帝エンプレスを倒したジョースター一行だったが、ジョセフが殺人の容疑をかけられたため、パキスタンまで車での移動の旅を余儀なくされた。
どうにか手配できたのは四人乗りの車だったため、一番小柄な弥子は後ろの荷台のスペースに座っている。
「すまんな、桂木。一人だけ狭いところに座らせて」
「大丈夫ですよ、ジョースターさん。荷台に乗るのは慣れてるので」
「それもどうなんだ…」
貴様は胸だけでなく全てが小さいのだな、と余計な一言が降ってこないことがちょっとだけ寂しいと感じた。あくまでもちょっとだけ。
物理的な狭さに弥子が一人懐かしさを感じていると、ポルナレフが荒い運転で前の車を追い抜く。
「おいポルナレフッ! 運転が荒っぽいぞッ!」
「へへへへ! さすが四輪駆動よのォーっ。荒れ地でもへっちゃらさっ!」
楽しそうに運転するポルナレフに、事故を起こさないかヒヤヒヤするジョセフ。
「……しかし、インドとももうお別れですね」
花京院の言葉に、車内はしんみりとした空気になった。
「俺はもう一度インドへ戻ってくるぜ。アヴドゥルの墓をきちっと作りにな」
固い意思を持ったポルナレフの言葉に、皆思うところがあるのか、黙って聞いていた。すると、ポルナレフが急ブレーキを踏み、車内にいた全員が前に倒れこみそうになる。
「どうした! ポルナレフッ」
「言ったばかりじゃろ! 事故は困るってッ! よそ見してたのかッ!?」
「ち…ちがうぜ……。見ろよ、あそこに立ってやがるッ! し、信じられねえッ!」
見ると目の前に、あの家出少女がヒッチハイクをしていた。
「アンちゃん!」
「…やれやれだぜ」
▼▲▼▲▼
「だってあたし女の子なのよ。もう少したてばブラジャーだってするしさ。男の子のために爪だってみがくわ! そんな年頃になって世界を放浪するなんてみっともないでしょ。今しかないのよ、今しか! 家出して世界中を見て回るのは…!」
後部座席でジョセフと承太郎の間に座ったアンは旅をする理由をぐちぐちと話していた。
「そんなことないと思うけど」
誰も聞いてないと思われていた中、荷台スペースにいた弥子が何気なく返す。
「私はこの年になって初めて一人で海外旅行をしたけど、これっきりにはしたくはないかな。この旅が終わっても、もっといろんなところに行きたい。いろんなものを見たい。女の子の旅は今しかないなんて、限定してたら寂しすぎるよ」
「…そ、そうよね! 女の子だってたくさん旅をしてもいいのよね!」
どこかうれしそうに破顔したアンが言った。
「でも、世界を見て回るのはできれば大人になってからのほうがいいかな」
「どうしてよ」
「危険なことが多いから」
今度は不満げな表情のアンに、弥子は静かな声で諭すように話す。
「旅行者をだまそうとする人も、暴力を振るう人も、…私たちみたいに目には見えない力を使う人もいる。…女の人は男の人に比べると弱いけど、子どもはそれ以上に弱いの。だから、大人になってから」
だめかな?と困ったように聞く弥子に、アンはすねたようにそっぽを向いた。
「あんただって、大人じゃないじゃん」
「ふふ、まあね。実際ジョースターさんたちに会うまでは一人旅してたんだけど、ちょっと怖い人に会っちゃって。やっぱり私にはまだ早かったみたい」
ふうん、とアンが生返事をすると、車の後方からクラクションが聞こえた。先ほど追いこした車が急かすように迫っていた。
ポルナレフが道を譲ると、その車は再び低速で走り始めた。追っ手のスタンド使いでは?という疑惑が一行の脳裏を掠める中、その車の運転席の窓が開いて先に行くようにとハンドサインを送ってきた。
ポルナレフが再び追いこそうとすると、対向車線にトラックが迫っていた。危うくぶつかりそうなところを承太郎が星の白金スタープラチナで回避する。承太郎たちの車は破損しながらも無事に着地したが、トラックは一部がひしゃげて炎を上げていた。
相手の車はすでに走り去ってしまっていた。その正体が追っ手のスタンド使いなのか、それとも悪質な運転手だったのかは分からずじまいだ。
なんとか無事に動く車に乗って、一行は街道の茶屋で休憩することにした。
店主がおすすめしたサトウキビジュースを一口飲んで気に入った弥子は、手持ちの水筒にいっぱい入れてもらえないか交渉を始めた。
そんな中、弥子以外の全員が茶屋の近くに先ほどの車が駐車していることに気づいた。車内には誰もおらず、茶屋には一行の他に三人の男がいた。そのどれが運転手か割り出すため、承太郎、ジョセフ、ポルナレフは、その三人をそれぞれ殴り始めた。
「無茶なっ、承太郎! やめろ! ジョースターさん、あなたまでッ! やりすぎです!」
「そうだよ! もう、子どもの教育に悪いでしょ!」
花京院と弥子が止めようとすると、例の車が走り始めた。運転手はその三人ではなかったのだ。
一行は再び車に乗ってその車を追ったが、見失ってしまう。吊り橋手前まで来たとき、例の車が後ろから突進して承太郎たちが乗る車を突き落とそうとした。
とうとう車が崖から落ちかけたとき、花京院が法皇の緑ハイエロファントグリーンを伸ばし、ワイヤーで例の車とつないだ。
「フン! やるな…花京院。ところでお前、相撲好きか?」
そう言って承太郎は星の白金スタープラチナでワイヤーを引っぱった。
「とくに土俵際の駆け引きを! 手に汗握るよなあッ!」
その勢いで、一行の乗る車は地面に着地する。
「ええ…相撲大好きですよ。だけど承太郎、相撲じゃあ拳で殴るのは反則ですね」
その言葉通り、星の白金スタープラチナに殴られた例の車は崖の下へと落ちていった。
「しかしスタンドらしき攻撃は全然なかったところを見ると、やはり頭のおかしい変質者だったらしいな」
「ああ…どっちにしろこの高さ…もう助かりっこねーぜ。ま…自業自得というヤツだが」
「こうでもしないと私たちが落ちていたとはいえ…後味悪いなあ」
「…でもどうしてかしら? この一本道をあたしたちの先に走ってたのに、なぜかいつの間にか後ろに回っていたわ。…不思議なの」
『少しも…不思議じゃあ…ないな…』
アンが首を傾げた次の瞬間、車のラジオからこんな言葉が聞こえた。
「ラジオだ! ランクルのラジオから声が出たように聞こえたぜッ!」
ラジオはしばらくのノイズ音の後、確かな言葉を発し始めた。
『【車輪ホウィール・オブ】…【運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン】……【スタンド】!! だからできたのだッ! ジョースター!』
「わしの名を言ったぞ! わしの名を知っていると言うことは! スタンド使いの追っ手!」
「どこから電波を流しているんだ。まさか今落ちていった車じゃあないだろうな」
「バカな。メチャクチャのはずだぜ」
「いや、車自体がスタンドの可能性があるぜ。ベトナム沖でオランウータンが操る船それ自体のスタンド『力ストレングス』と出会ったが、その同類ということは多いにありうる」
承太郎の言葉に、皆はっとする。
そのとき、どこからか地鳴りが鳴り響いた。
そしてすぐに、地面の下から先ほど突き落としたはずの車が地中を掘り進めて登ってきた。
その車は、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンは、自身のぐちゃぐちゃに壊れた車体を生き物のように直し、攻撃的なフォルムへと姿を変えた。
「力比べをやりたいというわけか…」
承太郎が拳を構えたとき、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの車体から何か得体の知れないものが飛ばされた。同時に承太郎の体から血が吹き出る。
「承太郎!」
よろける承太郎を花京院とポルナレフが抱えて逃げようとするが、二人の体からも突然血が噴き出した。
運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの攻撃から避難するため、岩と岩の隙間に逃げ込もうとするも、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンは周囲の岩壁を破壊しながらこちらに進んでくる。
「また飛ばしてくるぞッ」
「私に任せて! 『醜い姿見イビルリフレクター』!」
弥子のスタンド、イルミネイト・スルー・ロンリネスの周囲に複数の鏡面が浮かび上がる。その直後に運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの見えない弾丸により、幾枚かの鏡が割れる。
「やっぱり見えない……、でも、確実に何かが撃たれてる!」
「上だ! 岩を登るんだ!」
一同は岩の上に登って難を逃れようとするが、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンはタイヤにスパイクを生やし、岩壁を登ってきた。
「やれやれだ、やり合うしかなさそうだな。みんな下がってろ」
承太郎が言う。
「奴はここに登り上がる時…車の腹を見せる。そこでひとつ、奴とパワー比べをしてやるぜ。……桂木」
「うん、防御は任せて」
承太郎の一歩後ろで、自身のスタンドと並んだ弥子が言った。
それから間もなく、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンが姿を現した。承太郎が攻撃を仕掛けようとした、その瞬間。
「元気がいいねえ承太郎くん。ン~~~実に元気だ! だがシブくないねえ~。冷静じゃあないんじゃあないのか…? まだ自分たちの体がなにか臭っているのに気づかないのかッ!」
「はっ。そういえばさっきからガソリンの臭いがするが!」
「俺たちの体だッ! 俺たちの体がガソリン臭いぞ!」
運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンが飛ばしていたのはガソリンだった。超高圧で少量ずつ弾丸のように発射し攻撃していた。そして運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンは火花を承太郎に向かって放とうとする。
「気づいたか、しかしもう遅いッ! 電気系統で………、…え? ぎゃあああああッ」
しかしそれは未遂に終わり、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの中から悲鳴が響き渡る。そして地面から巨大な樹木が生えてきて、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの車体をギリギリと締めつけ始めた。
「な、なんだ!? ヤツはいきなりどうしたんだ!?」
「…『イルミネイト・スルー・ロンリネス』…『朽ちる世界樹イビルツリー』。うまくいってよかった…」
「まさか…桂木、お前か!」
「うん。私のスタンド能力のひとつだよ…。…格好つけたかったけど、発動するのにけっこう疲れたから、あとよろしく…」
「マジかよヤコ!」
「ちょっ、大丈夫かい弥子ちゃん」
ふらりと倒れこみそうになる弥子を支える花京院たちと、
「やれやれだ、助かったぜ。あとは任せな」
太い木の幹に縛られて動けなくなった運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンにオラオラッシュを決める承太郎。
こうして第三部が完結することもなく、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン戦は幕を閉じたのだった。
どうにか手配できたのは四人乗りの車だったため、一番小柄な弥子は後ろの荷台のスペースに座っている。
「すまんな、桂木。一人だけ狭いところに座らせて」
「大丈夫ですよ、ジョースターさん。荷台に乗るのは慣れてるので」
「それもどうなんだ…」
貴様は胸だけでなく全てが小さいのだな、と余計な一言が降ってこないことがちょっとだけ寂しいと感じた。あくまでもちょっとだけ。
物理的な狭さに弥子が一人懐かしさを感じていると、ポルナレフが荒い運転で前の車を追い抜く。
「おいポルナレフッ! 運転が荒っぽいぞッ!」
「へへへへ! さすが四輪駆動よのォーっ。荒れ地でもへっちゃらさっ!」
楽しそうに運転するポルナレフに、事故を起こさないかヒヤヒヤするジョセフ。
「……しかし、インドとももうお別れですね」
花京院の言葉に、車内はしんみりとした空気になった。
「俺はもう一度インドへ戻ってくるぜ。アヴドゥルの墓をきちっと作りにな」
固い意思を持ったポルナレフの言葉に、皆思うところがあるのか、黙って聞いていた。すると、ポルナレフが急ブレーキを踏み、車内にいた全員が前に倒れこみそうになる。
「どうした! ポルナレフッ」
「言ったばかりじゃろ! 事故は困るってッ! よそ見してたのかッ!?」
「ち…ちがうぜ……。見ろよ、あそこに立ってやがるッ! し、信じられねえッ!」
見ると目の前に、あの家出少女がヒッチハイクをしていた。
「アンちゃん!」
「…やれやれだぜ」
▼▲▼▲▼
「だってあたし女の子なのよ。もう少したてばブラジャーだってするしさ。男の子のために爪だってみがくわ! そんな年頃になって世界を放浪するなんてみっともないでしょ。今しかないのよ、今しか! 家出して世界中を見て回るのは…!」
後部座席でジョセフと承太郎の間に座ったアンは旅をする理由をぐちぐちと話していた。
「そんなことないと思うけど」
誰も聞いてないと思われていた中、荷台スペースにいた弥子が何気なく返す。
「私はこの年になって初めて一人で海外旅行をしたけど、これっきりにはしたくはないかな。この旅が終わっても、もっといろんなところに行きたい。いろんなものを見たい。女の子の旅は今しかないなんて、限定してたら寂しすぎるよ」
「…そ、そうよね! 女の子だってたくさん旅をしてもいいのよね!」
どこかうれしそうに破顔したアンが言った。
「でも、世界を見て回るのはできれば大人になってからのほうがいいかな」
「どうしてよ」
「危険なことが多いから」
今度は不満げな表情のアンに、弥子は静かな声で諭すように話す。
「旅行者をだまそうとする人も、暴力を振るう人も、…私たちみたいに目には見えない力を使う人もいる。…女の人は男の人に比べると弱いけど、子どもはそれ以上に弱いの。だから、大人になってから」
だめかな?と困ったように聞く弥子に、アンはすねたようにそっぽを向いた。
「あんただって、大人じゃないじゃん」
「ふふ、まあね。実際ジョースターさんたちに会うまでは一人旅してたんだけど、ちょっと怖い人に会っちゃって。やっぱり私にはまだ早かったみたい」
ふうん、とアンが生返事をすると、車の後方からクラクションが聞こえた。先ほど追いこした車が急かすように迫っていた。
ポルナレフが道を譲ると、その車は再び低速で走り始めた。追っ手のスタンド使いでは?という疑惑が一行の脳裏を掠める中、その車の運転席の窓が開いて先に行くようにとハンドサインを送ってきた。
ポルナレフが再び追いこそうとすると、対向車線にトラックが迫っていた。危うくぶつかりそうなところを承太郎が星の白金スタープラチナで回避する。承太郎たちの車は破損しながらも無事に着地したが、トラックは一部がひしゃげて炎を上げていた。
相手の車はすでに走り去ってしまっていた。その正体が追っ手のスタンド使いなのか、それとも悪質な運転手だったのかは分からずじまいだ。
なんとか無事に動く車に乗って、一行は街道の茶屋で休憩することにした。
店主がおすすめしたサトウキビジュースを一口飲んで気に入った弥子は、手持ちの水筒にいっぱい入れてもらえないか交渉を始めた。
そんな中、弥子以外の全員が茶屋の近くに先ほどの車が駐車していることに気づいた。車内には誰もおらず、茶屋には一行の他に三人の男がいた。そのどれが運転手か割り出すため、承太郎、ジョセフ、ポルナレフは、その三人をそれぞれ殴り始めた。
「無茶なっ、承太郎! やめろ! ジョースターさん、あなたまでッ! やりすぎです!」
「そうだよ! もう、子どもの教育に悪いでしょ!」
花京院と弥子が止めようとすると、例の車が走り始めた。運転手はその三人ではなかったのだ。
一行は再び車に乗ってその車を追ったが、見失ってしまう。吊り橋手前まで来たとき、例の車が後ろから突進して承太郎たちが乗る車を突き落とそうとした。
とうとう車が崖から落ちかけたとき、花京院が法皇の緑ハイエロファントグリーンを伸ばし、ワイヤーで例の車とつないだ。
「フン! やるな…花京院。ところでお前、相撲好きか?」
そう言って承太郎は星の白金スタープラチナでワイヤーを引っぱった。
「とくに土俵際の駆け引きを! 手に汗握るよなあッ!」
その勢いで、一行の乗る車は地面に着地する。
「ええ…相撲大好きですよ。だけど承太郎、相撲じゃあ拳で殴るのは反則ですね」
その言葉通り、星の白金スタープラチナに殴られた例の車は崖の下へと落ちていった。
「しかしスタンドらしき攻撃は全然なかったところを見ると、やはり頭のおかしい変質者だったらしいな」
「ああ…どっちにしろこの高さ…もう助かりっこねーぜ。ま…自業自得というヤツだが」
「こうでもしないと私たちが落ちていたとはいえ…後味悪いなあ」
「…でもどうしてかしら? この一本道をあたしたちの先に走ってたのに、なぜかいつの間にか後ろに回っていたわ。…不思議なの」
『少しも…不思議じゃあ…ないな…』
アンが首を傾げた次の瞬間、車のラジオからこんな言葉が聞こえた。
「ラジオだ! ランクルのラジオから声が出たように聞こえたぜッ!」
ラジオはしばらくのノイズ音の後、確かな言葉を発し始めた。
『【車輪ホウィール・オブ】…【運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン】……【スタンド】!! だからできたのだッ! ジョースター!』
「わしの名を言ったぞ! わしの名を知っていると言うことは! スタンド使いの追っ手!」
「どこから電波を流しているんだ。まさか今落ちていった車じゃあないだろうな」
「バカな。メチャクチャのはずだぜ」
「いや、車自体がスタンドの可能性があるぜ。ベトナム沖でオランウータンが操る船それ自体のスタンド『力ストレングス』と出会ったが、その同類ということは多いにありうる」
承太郎の言葉に、皆はっとする。
そのとき、どこからか地鳴りが鳴り響いた。
そしてすぐに、地面の下から先ほど突き落としたはずの車が地中を掘り進めて登ってきた。
その車は、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンは、自身のぐちゃぐちゃに壊れた車体を生き物のように直し、攻撃的なフォルムへと姿を変えた。
「力比べをやりたいというわけか…」
承太郎が拳を構えたとき、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの車体から何か得体の知れないものが飛ばされた。同時に承太郎の体から血が吹き出る。
「承太郎!」
よろける承太郎を花京院とポルナレフが抱えて逃げようとするが、二人の体からも突然血が噴き出した。
運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの攻撃から避難するため、岩と岩の隙間に逃げ込もうとするも、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンは周囲の岩壁を破壊しながらこちらに進んでくる。
「また飛ばしてくるぞッ」
「私に任せて! 『醜い姿見イビルリフレクター』!」
弥子のスタンド、イルミネイト・スルー・ロンリネスの周囲に複数の鏡面が浮かび上がる。その直後に運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの見えない弾丸により、幾枚かの鏡が割れる。
「やっぱり見えない……、でも、確実に何かが撃たれてる!」
「上だ! 岩を登るんだ!」
一同は岩の上に登って難を逃れようとするが、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンはタイヤにスパイクを生やし、岩壁を登ってきた。
「やれやれだ、やり合うしかなさそうだな。みんな下がってろ」
承太郎が言う。
「奴はここに登り上がる時…車の腹を見せる。そこでひとつ、奴とパワー比べをしてやるぜ。……桂木」
「うん、防御は任せて」
承太郎の一歩後ろで、自身のスタンドと並んだ弥子が言った。
それから間もなく、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンが姿を現した。承太郎が攻撃を仕掛けようとした、その瞬間。
「元気がいいねえ承太郎くん。ン~~~実に元気だ! だがシブくないねえ~。冷静じゃあないんじゃあないのか…? まだ自分たちの体がなにか臭っているのに気づかないのかッ!」
「はっ。そういえばさっきからガソリンの臭いがするが!」
「俺たちの体だッ! 俺たちの体がガソリン臭いぞ!」
運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンが飛ばしていたのはガソリンだった。超高圧で少量ずつ弾丸のように発射し攻撃していた。そして運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンは火花を承太郎に向かって放とうとする。
「気づいたか、しかしもう遅いッ! 電気系統で………、…え? ぎゃあああああッ」
しかしそれは未遂に終わり、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの中から悲鳴が響き渡る。そして地面から巨大な樹木が生えてきて、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンの車体をギリギリと締めつけ始めた。
「な、なんだ!? ヤツはいきなりどうしたんだ!?」
「…『イルミネイト・スルー・ロンリネス』…『朽ちる世界樹イビルツリー』。うまくいってよかった…」
「まさか…桂木、お前か!」
「うん。私のスタンド能力のひとつだよ…。…格好つけたかったけど、発動するのにけっこう疲れたから、あとよろしく…」
「マジかよヤコ!」
「ちょっ、大丈夫かい弥子ちゃん」
ふらりと倒れこみそうになる弥子を支える花京院たちと、
「やれやれだ、助かったぜ。あとは任せな」
太い木の幹に縛られて動けなくなった運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュンにオラオラッシュを決める承太郎。
こうして第三部が完結することもなく、運命の車輪ホウィール・オブ・フォーチュン戦は幕を閉じたのだった。
