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第9話 吊【つられたおとこ】

 シンガポールから列車や船で移動を続けた一行は、インドのカルカッタに到着していた。が、そこは、

「ねえ…恵んでくれよォバクシーシ」
「ねえ…お金ちょうだいよぉバクシーシ」
「毒消しいらない? お腹壊さないよ」
「イレズミほらない? きれいね」
「ホテル紹介するよ」
「ドルチェンジレートいいね」
「ハロー友だち。ハシシ・マリワナ安いよ」
「女の子紹介するよ。ベリィヤングね」
「バクシーシ」
「バクシーシ」
「バクシーシ」

 はっきり言ってカオスだった。
 着いて早々に牛のフンを踏んでしまったポルナレフと、財布をすられた花京院。ジョセフがタクシーに乗ろうとすると、牛がどくまでタクシーを出せないと言う。

「…ア、アヴドゥル。これがインドか?」
「ね。いい国でしょう。これだからいいんですよ、これが!」

 そんな中、アヴドゥルは一人、楽しそうに笑った。


▼▲▼▲▼


「要は慣れですよ。慣れればこの国の懐の深さがわかります」
「なかなか気に入った。いい所だぜ」
「マジか承太郎! マジに言ってんの? おまえ」

 昼食を取るため、一行はカルカッタのレストランで休憩を取っていた。

「確かに最初は驚いたけど、いいところだね! チャーイもおいしいし!」
「桂木、それ何杯目だ?」
「まだ四十三杯だよ」
「よく入るな、まったく」

 談笑する中、ポルナレフが席を立ってトイレに行った。カルチャーショックを受けながら手を洗っていると、鏡の中に妙な影が映っていることに気づく。
 影は、鏡に映った窓から店内に入り込んでくる。しかし振り向いても、そこには誰もいない。再び鏡を見ると、鏡の中で影がポルナレフを攻撃しようとしていた。
 ポルナレフは鏡をスタンドで割り、敵スタンドの本体を探すために外に出た。しかし外は喧騒で賑わっており、本体を見つけることはかなわなかった。

「どうした、ポルナレフ」
「何事だ!?」

 騒ぎに気づいた五人も店の外に出る。

「ついに、奴が来たぜ! 鏡を使うというスタンド使いが来たッ」

 弥子は、ポルナレフが復讐者の目をしていることに気づいた。
 煮えたぎるように熱くて、ギラギラとした光を帯びているのに、氷のような冷たさも感じる。
 弥子は以前、この目を見たことがある。怒りと悲しみ、無力感と期待感、そして孤独を混ぜた、暗い瞳。
 だからだろうか。どうしても重ねてしまって。
 アヴドゥルとポルナレフが言い争っている間、弥子は何も言えずに、ただ立っていることしかできなかった。
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