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第8話 黄【せっせい】

 承太郎、花京院、弥子、アンの四人は、インドへ向かうための移動手段の手配をしに、シンガポールの町を歩いていた。

「アンちゃん、私と手をつながない?」
「子供扱いかよっ」
「えー、いいじゃん女の子同士なんだし」

 そう言って弥子は少し強引にアンと手をつなぐ。

「シンガポールって暑いねえ。ねえ、あそこの建物の日陰でちょっと涼まない?」
「ホテルから出て五分も経ってねーぜ。とっとと列車の切符を買って戻ったほうが早い」
「いーじゃんいーじゃん。花京院くんもそうしたほうがいいって思うよね?」
「あ、ああ。そうだな」

 弥子が花京院の顔をのぞきこむと、花京院は少し戸惑ったような表情で言った。

「よし、じゃあ行こう!」
「待ちな、桂木」

 道を逸れようとする弥子の肩を、承太郎がつかむ。

「おめー、様子がおかしいぜ。何かあったのか」
「…べつに。なんでもないよ」

 その笑顔はいつもより強張ったものだったが、承太郎は「…そうか」と言って手を離した。


▼▲▼▲▼


「それで、こんな裏路地に来て何がしてーんだ」

 アンと手をつないだままの弥子が先導する形で、人気の無い裏路地に着いた四人。裏路地の先はT字路になっており、そのさらに先には川が流れていた。
 承太郎の言葉に、弥子はアンを背にかばってから答えた。

「この中に偽物がいるんだよ。一般人が通る町中で戦いたくはないからね」
「なに!? 偽物だと!?」
「どういうことだ!」
「どうもこうもないよ。偽物はあなただよ。花京院くんに成り代わった誰かさん!」

 弥子が指差した先にいたのは花京院だった。

「か、花京院さんが、偽物!?」
「桂木、なぜそう言い切れる?」
「簡単だよ。今朝、花京院くんが指を切ったみたいだから絆創膏を貼ってあげたの。でも今、花京院くんの手には絆創膏なんてない」
「あ、ああ。剥がしたんだよ、絆創膏は。ちょっと痒くなってしまったもので…」

 その言葉を聞いた弥子は、スタンドを出現させながら言った。

「ごめんね、ウソついた。ホントは花京院くんに絆創膏なんてあげてないの、私」
「えっ!」
「ということは…」
「うん。引っかかったね、偽物さん!」

 承太郎が素手で花京院(偽)に殴りかかる。すると、花京院(偽)の顔の皮膚が引き裂かれ、血が飛び散った。

「なぜ気づいたぁ? まだ成り代わってから数分も経ってないってのによぉ」

 あごが外れたまま、花京院(偽)はしゃべり続ける。

「なんとなく」
「なんとなくぅ?」
「うん。何度も見てきたから。あなたみたいに、いろんな人の姿を取れる人は」
「ほーう。そうか……。つまり俺の能力が、二番煎じだと…そう言いてえのかッ!」

 花京院(偽)の顔が弾けて弥子に飛びかかる。

「『毒入り消毒液イビルキャンセラー!』」

 弥子のスタンドの口から謎の液体が噴出され、花京院(偽)から放たれた黄色い粘液を相殺する。

「ほう。女の割になかなかやるようだ…」

 せせら笑うように弥子を評価したその男の顔は、花京院とは全く別物の人物、つまり敵の本当の顔へと変化していた。

「俺のスタンドは『節制』のカード、イエローテンパランス! そしてこれが俺の本体のハンサム顔だ…桂木弥子、お前は回避できたが承太郎の手にはついてしまったなあ。俺のスタンドが」
「どういうこと!?」

 見ると確かに、承太郎の右手小指に敵スタンドから放たれた黄色い粘液がついていた。

「言っておく! それに触ると左手の指にも食らいつくぜ。じわじわ食うスタンド! 食えば食うほど大きくなるんだ。絶対に取れん!」

 承太郎は星の白金スタープラチナで攻撃しようとするが、そのこぶしごと粘液に包み込まれた。

「JOJO! 弥子さん、JOJOの手が!」
「アンちゃん、ホテルまで戻れる? できればジョースターさんかアヴドゥルさんにこのことを伝えて」
「う、うん!」

 ホテルまでの道を引き返そうとするアンを攻撃しようとした黄色の節制イエローテンパランスーー本体名:ラバーソールーーだったが、再び弥子のスタンド攻撃に防がれてしまった。しかし先ほどと違い、粘液は周囲に飛び散って地面や壁、そして承太郎の服にもひっついた。

「承太郎くん!」
「ちっ、こうなれば、アヴドゥルとジョースターが来る前にケリをつけねーとな…。まあいい。すでに承太郎は終わっているんだからなぁ」

 粘液は見た目とは裏腹にかなり強力で、星の白金スタープラチナの力でもイルミネイト・スルー・ロンリネスの断面への投擲イビルジャベリンでも引きちぎることはできなかった。
 それならば、と承太郎は星の白金スタープラチナで近くの水道管に取り付けてあった鉄パイプを引きちぎり、ラバーソールに攻撃した。しかしそれすらも粘液に阻まれてしまい、鉄パイプが届くことはなかった。

(…どうしよう。どうやって倒したら…)

「やれやれだ。こいつぁマジに弱点のねーやつだ。全く最強かもしれん。恐ろしいヤツだ」
「ようやく認めたか!」
「だがな、空条家…いやジョースター家には伝統的な戦いの発想法があってな。…ひとつだけ残された戦法があったぜ」
「なにィ~?」
「どうするの? 承太郎くん」
「それは!『逃げる』!」

 そう言って承太郎は周囲の建物の壁を破壊して粘液の一部から逃れた。そしてその勢いのまま、後方に広がる川に飛び込んだ。

「食われてる最中だぞこのタコッ! 俺のスタンドに捕まって離れることはできん!」

 その言葉通り、ラバーソールは承太郎にくっついたスタンドと共に川に飛び込んだ。

「逃げると言っても水の中にだぜ!」

 そして二人はしばらく水中に沈んでいたが、呼吸ができなくて苦しくなったラバーソールが先に顔を出した。それも、自身のガードを外した状態で。

「息を吸うためにスタンドのガードを開いたな。絡みついたスタンドがいくら無敵だろーと本体をやっつけりゃあスタンドも死んじまうだろーさ」
「あっ」

 そうして承太郎は黄色の節制イエローテンパランスを素手で殴りつけた。


▼▲▼▲▼


 自慢の顔を何発か殴られた後に命乞いを始めたラバーソールは、仲間のスタンド使いの中に、ポルナレフの妹の仇がいると話し始めた。

「……『鏡』だ。『鏡』を使うらしい。実際見てねーがポルナレフは勝てねーだろう。死ぬぜ。………今気づいたが、承太郎……ヒヒヒ。幸運の女神はまだ俺についていたようだぜ」

 話し終えた後、ラバーソールは何かに気づいた様子で笑い始めた。

「そこんとこの排水口だがザリガニがたくさんいるだろう。よく見てみな」

 その排水口から、黄色い粘液がにじみ出してきた。陸に乗り上がったラバーソールは、川の近くにあるマンホールから粘液を伸ばしていたのだ。
 再び粘液が承太郎を襲おうとした、その時、

「『魔界の凝視虫イビルフライデー』、『城壁の苔イビルサラウンダー』」

 マンホールの蓋が外れ、ラバーソールはマンホールの中に引きずり込まれた。

「な、なんだ!? 何が起きた!?」
「簡単だよ。魔界の凝視虫イビルフライデーでマンホールの蓋とかネジとか外して、城壁の苔イビルサラウンダーであなたの足を引っぱったの」

 マンホールから三メートルほど先の場所に、弥子が立っていた。

(桂木弥子! 忘れていたぜ、コイツのことを!)
「…だ、だが、見えずともスタンドで承太郎を捕らえさえすれば…!」

 再び自身のスタンドを動かそうとするラバーソールだったが、何かに邪魔されるような感覚があり、スタンドを伸ばすことができなかった。

「無理だよ。魔界の凝視虫イビルフライデーと城壁の苔イビルサラウンダーで排水口までの道をがっちり塞いじゃったから。…それと」
「そ、それと……?」
「他の下水道とかマンホールとかの道も塞いだり、ちょっと機械をいじくったりしてきた。だからそろそろ来ると思うよ」
「な、なにが……っっっっっ!?」

 ドドドドド、と水流が押し寄せる音が響き、次の瞬間、とてつもない量の水がラバーソールに襲いかかった。
 ラバーソールは水圧によって高く打ち上げられ、そして勢いよく落下した。

「……ぐ……ぇ……」
「よかった。かろうじて息はしてるね。救急車呼んでおこっか」
「…てめーだけは敵に回したくねーぜ」

 川から上がった承太郎が、ため息を吐きながらそう言った。
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