真実を映す鏡 1
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白い化け物は一瞬にして消えていた。
何で? この人は一体何者? と思ったのもつかの間、そういえば……と私は目を閉じた。
自身の中の記憶を探る。頭の中でギュルギュルと場面が展開していく。
化け物と目の前の人物が対峙しているところまでは分かるが、その後が分からない。いつの間にか化け物が消えている。
いや、まだまだ。
私はさらに自身の記憶に深く潜っていく。
目の前の人物が腰に差してある刀を抜いた。それから一気に化け物に向かって斬りつける。
……。
…………?
斬りつけたという事は……命の恩人?
私は目を開けて目の前の人物を見る。白い羽織と、長い黒髪が風に揺れている。
「あのー……」
声をかける。だが目の前の人物は振り返る様子はない。
「あのー」
今度は羽織の袖を軽く引っ張ってみる。と、やっと相手はこちらを振り返った。
「わぁ!」
思わず声を上げてしまった。
キリッとした目元に高い鼻。白い肌。中世的で品のある顔立ち。それなのに一目見て男性だと分かる。
男性なのに美しいというのは、こういう人を言うのか。
「なんだ、その変な声は」
わっ。
声も低くて、妙に艶めかしい。
…………って、そうではなくて。
「あの。助けて、くれたんですよね。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる。と、相手は目を丸くした。
「兄には私が
「?」
私が首を傾げているからか、相手は「いや」と目を伏せてからこちらを見た。
「礼を言う必要はない。虚を斬ることが我等――――死神の役目だ」
「死神……」
世間一般の死神のイメージとかけ離れている。大きな鎌を構えて、黒いフードを着ているイメージだけど。今、「死神」と名乗った人物は黒い着物と白い羽織を着て、日本刀を腰に差している。
死神さんはふと私から目を離して、周囲を見渡す。
「……ここは病院か」
「あ、はい。昔から体が弱くて。あ、だから。死神さんのことも見えるんだと思います」
「なるほど」
死神さんは一つ頷くと、再度私を見る。
「体は大事にした方がいい――――」
そう言った死神さんの目が揺らいでいる。表情もどこか暗い。
大事な人を失ったのだろうか……――。
物凄く気になったが。さすがに聞けなかった。
そうこうしているうちに、死神さんは私に背を向け、この場を去ろうしている。
「ちょ、ちょっと!」
何故か離れがたくて、私は咄嗟に腕をグッと掴んだ。
「なんだ」
「いや、その……。また、会えますか」
「……さぁな。任務による」
「そんなぁ。嘘でも会えるって言って下さいよ。ほらっ」
「…………」
死神さんは顔をしかめる。
そんなに嫌がらなくても。
私がむぅと口を尖らせ拗ねていると、死神さんは大きくため息を吐き「分かった」と一言。
「会えるよう努力はする」
「! ほんとですか」
「ああ」
その言葉に一気に気分が良くなる。顔がにやけてしまうのが抑えられない。
にやけ顔のまま、私は左手の小指を立てた。
「約束ですよ、死神さん」
「“死神”ではない。“朽木白哉”だ」
「……私は神崎紫乃です。よろしく、白哉」
「…………いきなり呼び捨てか」
白哉の小指が私の小指に絡まる。
「白哉も私のことを『紫乃』って。呼び捨てにしてもいいんですよ」
白哉は呆れたようにため息を吐くと、今度こそ私に背を向けた。
「またな……“紫乃”」
「っ! うん、またね。“白哉”」
そう言うと、強い風とともに桜の花びらが舞い散る。軽く目を閉じて再び開けた時には、白哉の姿はいなくなっていた――――。